「ねぇ不知火君、何がどうなったら〝
「日頃の行いが良いからじゃないかなぁ?」
「本当にもぉ……」
顔を手で覆いながら涙を流している月影さんの姿を見て笑いながらタバコの灰を灰皿に落とす。ショッピングモールの件は一輝たちの手により無事に解決した。数人ほど精神的に弱っている者たちもいるが、そこはメンタルケアでどうにかなるレベルで済んだらしく、死傷者はゼロという結果に終わった。一輝たちは事情聴取を終わらせてすでに破軍に帰っているが、俺は〝
すでにヴォルドとオル=ゴールのことは話してある。それを聞いて月影さんは泣き出した。
「なんで〝雷霆〟と〝傀儡王〟のオル=ゴールが日本に来てるんだよぉ……」
「観光しに来たんじゃない?あ、お代わり頂戴」
「畏まりました」
グラスの中身が空っぽになっているのに気が付いてお代わりを要求すれば、部屋の隅に立っていたボディービルダー並みの筋肉を付けたメイド服の男性が白い歯を光らせながら二つ返事で新しい酒を注いでくれる。
「それよかさぁ、この冒涜的なインテリアどうにかならないの?見てるだけで精神がガリガリ削れていくんだけど」
「私だってこんな冒涜的なインテリアよりも可憐で可愛らしい女性にメイド服着て欲しいよ?でも〝連盟〟のトップが真性のガチホモ野郎でね、ガチムチの男性のみを秘書、ボディーガードとして側に置く事を日本に要求して、当時の総理がそれを許可してるんだよ。服装も〝連盟〟からの要求だからね?」
「おいおい、完全に布教しに来てるじゃねぇか!!大丈夫かよ……月影さんの貞操」
「大丈夫大丈夫、秘書もボディーガードも既婚者以外は全員去勢させてるから」
「ちなみに私は既婚者ですのでパイプカットはされていません」
キラリと輝く白い歯と左手の薬指に嵌っている指輪を見せ付けながらポージングを決める冒涜的なインテリアを視界から追い出す。
「まぁ、兎も角話すことは話したから帰って良いか?」
「待って、君が連れて来たあの少女の事について話がまだだよ」
「あぁ、あいつな」
オル=ゴールの人形となっていたあの少女は、今は月影さんが信用している医者を呼び出して、別の部屋で検査されている。俺が診た限りでは異常は見つからずに眠っているだけに見えたのだが、専門家の方が詳しく調べられると判断して月影さんに呼び出してもらった。
「〝傀儡王〟に操られていただけというのならこちらで保護する事も吝かでは無いのだが……」
「一度人形にされてるからな。俺が糸を切ってるとは言えど、繋がったっていう事実は残ってる。何かの拍子に、もしくはオル=ゴールが意図的に繋がる話もあり得なくないから俺が預かるのが一番なんだよなぁ……」
オル=ゴールの糸から解放する事には成功しているが、再びオル=ゴールに操られるかもしれない可能性がある。そうなると対〝
折角あの悪趣味な野郎から解放されたのだから拘束されるのは嫌だろう。そうなると俺が預かるのが一番良い。
「そうしてくれるのならばこちらとしては助かるんだけど、良いのかい?てか、君って寮暮らしだろ?」
「そこは、ほら、月影さんの力でなんかこう良い感じに……」
「他力本願か……いや、出来なくは無いけどさ」
「使える者は使わないとな」
俺が預かる意思を持っていて、月影さんがそれを求めているのなら協力するのが筋だ。幸いな事に金銭的には困っていないので、後はどうやって彼女を破軍に連れてくるのかだけだ。
「しょうがないな……じゃあ彼女はどうにかして破軍にいることが出来るようにしておくよ。あ、ついでに暁学園に入れて応援団長でもしてもらおう。もちろんチアコスで」
「月影さん……あんた天才かよ……!!」
「私のお古で良ければメイド服の用意も出来ますよ?」
胸筋を強調するようなポージングを決める冒涜的なインテリアを目撃してしまい、月影さんとアイコンタクトでさっきの光景は無かったことにする為に注がれていた酒を同時に一気飲みする。
するとそのタイミングで月影さんの電話に着信が入った。話している内容は月影さんの物しか聞こえなかったが、それだけでも相手が彼女を診ている医者だということが分かった。
「はい、はい、そうですか。分かりました……不知火君、どうやら件の少女が目を覚ましたらしいからついて来てくれ。あぁ、君は片付けを頼む」
「畏まりました」
「一つ聞きたいんだけど、もしかしてその格好楽しんでる?」
「娘に見せたらパパ可愛いと喜ばれました」
「娘」
「はい、今年で15になる自慢の娘です」
「15歳」
なにやらとんでもない事を話された気がするがそれを理解してはいけないと直感と理性と本能が同時に叫んでいたのでそれに素直に従い、スカートの中を見えそうで見えない角度で尻を向けている冒涜的なインテリアの存在を忘れる事を決意する。
月影さんの案内で辿り着いたのは国会議事堂の地下室。日本の現総理である月影さんが在中するそこは万が一に備えて超一流の医療設備が整えられている。アルコールを吹きかけられて殺菌して地下室に入ると、ヨボヨボで腰が曲がった老人が出迎えてくれた。
「ん?おぉ、月坊か」
「お久しぶりです、先生。夜分遅くに呼び出してしまい申し訳ございません」
「なぁに、患者がいればそこに行くのが医者じゃからな。気にせんでもええよ。ところで、そちらの若いモンは誰じゃ?月坊の子供じゃったか?」
「違いますよ。彼は新城不知火、新城空の義理の息子です。不知火君、彼は
「初めまして、新城不知火です」
「御丁寧にどうも。月坊は先生なんぞ呼ぶが好きに呼んでくれ」
「じゃあ淀爺で。早速なんですけど、彼女の具合はどうですか?」
「あぁ、あのお嬢さんやな……診たんじゃが酷いもんじゃよ」
そう言って淀爺が差し出したのはカルテ。それを受け取ってざっと流し読む。医療の知識はほとんど無いのだが、走り書きされているメモを見れば良く無い状態であるのが分かった。
「あのお嬢さんは一言で言えば寄せ集めじゃな。ベースとなる人間の劣っている部分を切り取って、他の人間の優れている部分を引っ付ける。ざっと調べてみたが、お嬢さんの元々の身体は一割しか残っとらんかったわ。そんな事をすれば当然拒絶反応も出るんじゃが、それは薬を湯水の様に使う事で無理矢理抑えとったらしいの。このままの状態じゃったらあと3年も生きられれば良い方じゃったわい」
「このままの状態だったってことは?」
「もう治してあるぞ?お嬢さんの診察をするのと並行してな。これで真っ当な人生を送れるはずじゃ。問題があるとするなら魂の事じゃが、こればかりは様子見をするしかないのぅ。流石に専門外じゃて」
恐らくは世界中から名医を集めても頭を悩ませるであろう問題を淀爺は診察の片手間に終わらせていた。これだけで彼がどれだけ規格外な存在なのか分かってしまう。
「まぁ、問題は他にもあるんじゃがな」
「他にも?一体なにが?」
「……それは直接見てもらった方が早かろうて」
そう言いながら淀爺は奥の治療室の扉を開ける。すると治療室から人影が俺に向かって飛び掛って来た。悪意や殺意があるのならば俺は例え五感が使えなくても反応が出来るのだが、この人影からはそんなものは微塵も感じられなかったので反応が遅れてしまい、避けられずに押し倒される事になる。
背中から床に倒れて、俺はようやく飛び出して来た人物の姿を視界に納める事が出来た。無造作に伸ばされていた金髪は邪魔だと思われたのか一括りで纏められていて、巫女服から診察の為にか病衣に変わっていたが、オル・ゴールに操られていた少女が俺に馬乗りになっていた。
「よぉ、元気そうだな?」
「あー……あぁ?」
「……先生、もしかして」
「月坊の考えている通りじゃわ。このお嬢さん、
「マジかよ……」
「う?」
あどけない表情でコテンと首を傾げる少女は現在の態勢も相まって眼福なのだが、淀爺から告げられた衝撃の事実に思わず顔を覆い隠してしまった。
淀爺とかいう医療方面限定での超ハイスペック爺登場。これから彼には暁学園の保険医を務めてもらうゾ!!
どうして私の書くヒロインは属性がてんこ盛りになるんだろうか、みんな気になってるよね?
作者の趣味……いや、性癖だよ!!