勝者も敗者も決まらないという結末ーーーそれでも、
2人が衝突する前と変わらぬ屋上の一角が突如として燃え上がる。しかもそれだけでは無く同時に別の場所に紫電が走る。炎と雷、発生する要因など存在しないはずなのに発生したそれらは徐々に規模を大きくし、人の形を作っていく。そして数秒後には炎は不知火に、雷はヴォルドになっていた。不知火は変わらず、ヴォルドは多少消耗した様子を見せているが、2人の肉体はおろか服まで無傷のまま。互いに必殺を向けられたとは到底思えないような状態だった。
2人がした事はごく単純。自分の肉体を自分の能力の属性に変換する事で互いの必殺をやり過ごし、そして肉体を再構築したのだ。
それは狂気じみた行いだった。
炎や水などの属性を持つ者ならば誰しも一度は自分の身体を自分の属性に変換する事を思い付き、無理だと諦める。それを行えるだけの魔力制御であり、ほとんどの者はそれを持つことができずに不可能だと悟る。仮に超一流の魔力制御を以て肉体を分解、そして再構築する式を組んでいたとしても、発動するかどうかは不明。さらに発動したとしても、数十兆の細胞でできている人間の再構成をほんの少しでも誤ればどんな障害が発生するか分かったものではない。いや、障害が発生したとしても人の形をしていればまだマシだろう。最悪の場合、2度と人の姿に戻れない可能性すらあるのだから。それ以前に全身を己の属性に変換するという事は、一時的にとはいえ自分で自分の命を絶つことに等しい行いだ。
それを2人は平然とやってのけた。それをしなけれび自分は死ぬと理解していたから、自分の手で自分を殺す事で相手の必殺をやり過ごす事を決めて、それを成功させたのだ。
「
「そちらこそ中々の物をお持ちのようで。あの一撃は確かにギリシャ神話のゼウスの雷霆に等しい一撃だった」
出てきた言葉に嫌悪は欠片も感じられず、純粋に相手の必殺を賞賛する感情だけが込められている。確かに彼らは殺し合っているが、だからと言って相手の全てを否定したいわけではないのだ。素晴らしいと思ったから素晴らしいと褒めた、極く当たり前の事をしているだけだ。
「だけど、厳しいみたいだな?
しかしそれとこれとは話が別だ。いくら相手の実力を認め、褒め称えたとしても殺意が消え失せるわけではない。不知火の中でのたうち回る赫怒と殺意は一切の陰りを見せずに、脳はヴォルドを殺す手段を考えている。
「そうだな……年は取りたくないものだ。若い頃ならば、お前の全力に付き合えるだけの気力と体力があったのだがな」
「年の所為にするなよ。年を取ってそれまでの戦い方が出来ないのなら、それに合わせた戦い方を考えれば良かっただけの話だ。お前はそれを怠り、その結果疲弊している。要するに、これはお前の怠慢だ」
「手厳しいな。その通りなのだから返す言葉も無いが」
そう言いながらヴォルドは薄く笑うがそれで事態が好転するはずもない。ヴォルドの消耗は変わらず、不知火の殺意も変わらない。このまま戦ったとしても自身が殺されるとヴォルドは客観的に理解していた。
ヴォルドの〝暴君〟に対する忠義は高い。どんな悪逆非道であろうとも、どんな無理難題であろうとも、〝暴君〟からの命令であればヴォルドは必ず成し遂げていた。故にヴォルドは必ず漣不知火を殺す。しかし、今の自分の状態ではそれは不可能。故に、ヴォルドが出した答えは一つ。
「口惜しいが、今回はここまでにさせてもらおう」
それは撤退。予備動作一切無しで後ろに飛び退き、先と同じ様に自分の肉体を雷に変換しようとしている。
「逃すかよ」
「ーーー逃しますよ」
ヴォルドの逃亡を阻止しようと不知火、それを妨害したのは不知火の死角から放たれた大質量の一撃。誰も居なかったはずの空間から突如として現れた下手人のカラクリを能力による転移だと当たりをつけながら、不知火は隕石に匹敵する破壊力を伴ったその一撃を〝鬼灯〟で受け止め、完全には受け止めることが出来ないと判断して自分から吹き飛ぶ事で難を逃れた。
下手人の正体は少女だった。金糸の髪は伸ばし放題で、見えているのか怪しくなるようなレベルで顔が隠れているが、ミニスカートに改造されたボロボロの巫女服と胸の双丘で女性と分かった。特徴的なのは手に持つ巨人のナイフのようなサイズの大剣、そして見えている手足に付けられた痛々しい継ぎ接ぎ。
「初めまして、漣。私はオル=ゴール、〝
「はぁ……残念だよ。改造巫女服とかいう趣味は素晴らしいのにそれ以外の趣味が悪い。そいつ、
「えぇ、私自慢の一品です」
作ったというのは言葉通りの意味だ。彼女の身体の継ぎ接ぎと合わせれば、彼女が
「はぁ……そいつを作るために何人犠牲にしたかなんて聞かんぞ。聞いたところで俺がやる事は変わりないからな」
「殺すと?私が対〝
「傲慢じゃねえよ、歴然たる事実だ。本人が出張って来るのなら兎も角、そんな奴を使って来られてもちっとも怖くない。それならヴォルドがそのまま戦ってた方が厄介だった」
自分の事をヴォルドよりも下に見ている。不知火の言葉をそう捉えたオル=ゴールは見くびられた事に憤りを感じ、歯軋りをする。
「ーーーそこまでいうのなら、この人形を容易く倒せるんでしょうね?」
オル=ゴールの糸が少女の魂に干渉して能力を発動させる。〝
この少女が作られたコンセプトは対〝
そんな規格外な少女を前にしても不知火は変わらない。寧ろ呆れたような視線を少女に、正確には少女を操るオル=ゴールに向ける。
「阿保か。人形遣いを相手するのに馬鹿正直に人形とやり合っても意味は無い」
そう言いながら不知火は〝鬼灯〟で虚空を斬った。
「ーーー」
するとどういうカラクリなのかーーー少女が膝をついた。そこには何も無い、何も見えないのだが、不知火の感覚はそこにある物をしかと捉えていた。
「……成る程、糸を切られましたか」
「人形遣いが人形を操るのには糸が必要不可欠。そんなの子供だって分かることだ。なら、その糸を切れば人形を操れなくなるのが道理だ」
少女を操る為の糸を断ち切った。いかに巧妙に存在を隠していようとも、確かにそこにあるのだ。だから少女は崩れ落ちて動かなくなった。唯一残っているのはオル=ゴールとの意識を繋ぐ糸だけ。だからオル=ゴールは不知火と話していられる。
「それで?彼女を殺すのですか?私の思い付きの犠牲になった哀れで可哀想な彼女の事を残酷に殺すのですか?」
「いや、
〝鬼灯〟でオル=ゴールの糸を切った時、魔力を流す事で大雑把にではあるがオル=ゴールの居場所を探っていた。その結果、途中で幾つもの中継地点を経由しながら少なくとも
だから、出来ることは精々
不知火が指を鳴らす。それと同時に少女に残されていた最後の糸が炎上し、遥か彼方へと消えていった。幾つもの中継地点を経由しているとしても、少女とオル=ゴールは間違いなく繋がっている。ならばあの糸を導火線にすれば炎はオル=ゴールの元に辿り着く事になる。糸を燃やした事でオル=ゴールとの会話も出来なくなったが、今頃突然燃えた事に慌てふためいているだろうとその光景を想像して悦に浸りながら倒れようとしている少女を支える。
念のために脈拍や瞳孔を調べてみるが正常、魔力操作の応用で体内に何か仕掛けられていないか探ってみたが異物は見つからなかった。
「どうしようかね、こいつ」
無防備にあどけない表情で眠っている少女を横抱きで抱えながら、不知火はこの少女のこれからに頭を抱えた。
出来る出来ないじゃない、やるんだよぉ!!の精神で妹様が将来やる様なキチガイ技を使うトンデモ野郎がいるらしい。
オル=ゴールとかいうトンデモキチガイ登場。作者の手持ちの原作じゃあまだオル=ゴールは登場していないので口調がおかしいと思う。罵詈雑言は覚悟している。
人形遣いって人間も操れるって原作にあったので、それなら強い人間作ってそれ操ろうぜという精神で巫女服人形少女を登場させた。