この主人公はなんてあだ名で呼んでやろうか……
「ーーーふぅ……何度観ても慣れんな」
意識が現実へと帰って来るのを感じながらさっきまで観ていた光景ーーー顔も写真でしか知らない母親の最後の感想を口にする。中指を立てて自害、そして盛大な自爆だった。流石は俺の母親、やっぱりキチガイだった。
母の死から17年経った。赤ん坊で当時の事を何も知らなかった俺だが立派に成長し、育て親であるオヤジから当時の事を聞き、そして
まぁ、
理由はどうであれ、漣の一族は俺を残して全滅した。双子の姉であった
ーーー故に、報復を。復讐を誓う。
殺したのだから殺されたとしても文句は言えない。死に際に何やら喚いている事もあるのだが、
その時は精々、笑いながら死んでやろう。母さんのやっていた様に殺した相手に向かって中指を立てながら唾を吐き捨てるのも悪くは無い。
今度〝
1人は少し目つきの悪い白髪の少女。山を駆け回っていたのか泥だらけだが息は一切乱れておらず、汗1つかいていない。もう1人は山に入るのに相応しく無いスーツ姿の女性。彼女もまた少女と同じ様に息を乱れさせず、しかもスーツに汚れ1つ付けずにこの場所まで来ていた。
「ーーーししょ〜、お客様を連れて来たぞです」
「おう、ありがとうな
白髪の少女ーーー新城火乃香に礼を言いながらその場から立ち上がる。彼女はオヤジと一緒に世界旅行をしている途中で潰した〝
「えっと、覚えがないから初対面だとは思うけどどちら様ですかね?」
「ーーー私は
「……あぁ、そう言う事」
スーツの女性ーーー新宮寺黒乃という名前に聞き覚えがあり、破軍学園の名称を聞いて何のためにここに来たのか大体想像がついた。長い話になる、そう考えて俺は彼女に1つ提案をすることした。
「話が長くなりそうですし、お茶でも出しますから家に来ます?」
文曲、貪狼、巨門、禄存、廉貞、武曲、そして破軍。北斗七星を構成する名前を持った学園は魔導騎士制度と呼ばれる国際魔導騎士連盟が定めた制度の許可を受けた学園である。〝
〝
「……む、このお茶なかなか美味いな」
「で、問題起こして無期限の停学喰らった俺に何の様ですかね?」
「まぁそう急かすな」
急かすなと言われてもこちらとしては死活問題だ。前までの理事長の判断では停学処分が妥当だと下されていたが、彼女が理事長になった事で俺は退学する事になるかもしれないから。別に能力の使用許可くらいしか目的は無い。その気になればそんなものは必要ないのだが、火乃香の今後を考えれば免許が無くてはならない。出来る事ならばオヤジの卒業した破軍学園を卒業したいと思っている。
「言っておくが別に新城の事を退学させようと思っている訳ではないぞ。寧ろその逆だ。無期限の停学処分、その取り消しを伝えに来た」
「へぇ……つまり、俺に破軍学園に戻って来いと?」
「あぁ、出席日数の関係で1年生からになるがな」
それに関しては特にしていない。入学してから停学を喰らうまでは一月も関わらなかったので寧ろ嬉しいくらいだ。しかし、そうなると1つだけ疑問が湧いてくる。
彼女はどうして無期限の停学処分を喰らった問題児の俺を破軍に連れ戻そうとしているのか。
「俺の事は知っているだろうにそれで良いんですか?」
「私は破軍学園を立て直す為に理事長に就任してな。知っていると思うが破軍は近年他校に比べて良いところが無い。年に一度、魔導騎士連盟が許可を与えた7校合同で主催し、一番強い学生騎士を決める武の祭典の〝七星剣武祭〟でも負け続きだ」
「そこら辺に関しては去年までの教師たちの自業自得の気がしますけどね」
今年からどうかは知らないが、去年までの教師たちは一部を除いてほとんどが腐っていた。家名や伐刀者ランクで優劣を決めて実力を見ていない。それは教師たちだけでは無くて生徒たちにも言えて、低ランクの者が高ランクの者に虐められているなど珍しくも無い話だった。
実戦では強くないのに高ランクだからと言う理由でそいつらは威張り散らし、実戦では強いのに低ランクだからという理由でそいつらは虐げられていた。俺の数少ない友人の1人も低ランクを理由にまともに授業を受ける事が出来ないでいた……学園側がとって付けた様な授業を受けるための最低水準を満たせなかったから。
「その手の屑共は既に一掃してある。私の方針は完全な実力主義、徹底した実戦主義でな、危険だからと言って強い奴を遊ばせるつもりはないのさ。それどころかこんな山奥に押し込めておくよりも手元に置いておいた方が目が届いて安心出来るしな」
「実力主義で実戦主義ねぇ……成る程、俺の役目はカンフル剤だと」
「そうだ。入学一月で
「わざわざそこを強調する意味はあるんですか……」
ともあれ、彼女の目的は理解出来た。俺の事をカンフル剤として扱い、前理事長たちの影響を受けた生徒達の気を引き締めることだろう。良い様に使われている気がするが、俺としても破軍学園に戻れるのなら断る理由は無い。
「分かりましたよ。入学式頃に戻れば良いですか?」
「手続きがあるから出来るだけ早めに来て欲しいな。何か都合が悪いか?」
「実は明日から二、三日は用事があるんですよ。それが終わったら向かいます」
「ししょー、上がったぞです」
丁度話が纏まった頃になって火乃香が風呂場から出て来た。泥だらけになっていたので話している間に風呂に入る様に言っていたのだ。タオルを首にかけた彼女は真っ直ぐに俺の膝の上に乗る。髪は拭き方が甘かったのかまだ水気を残していた。なので首にかけていたタオルを取り、髪を拭くことにする。
「あ、そうだ。こいつを連れて行きたいんですけど良いですかね?」
「そうか、確か保護者は他界したのだったな」
オヤジだが、俺が破軍学園から停学で戻って来る頃に他界している。死因は老衰なのだが、それは俺に自分が持っている剣の全てを伝える為に無理をしたからだ。俺としてはそんな無理はして欲しくなかったのだが、オヤジはその頃既に末期の癌に侵されていて遅かれ早かれの状態だった。それならば満足出来る死に方がしたいと言われれば、止められるわけがない。
俺が破軍学園に戻れば火乃香は1人でこの家に残る事になってしまう。頼れる人間がいない訳ではないのだが、彼女の経歴も考えると近くにいて欲しい。
「……分かった、その件に関してはこちらでどうにかしておくから心配しなくて良い」
「ありがとうございます」
「何の話をしてやがったですか?」
「俺が破軍に戻る事になったから火乃香も一緒に連れて行く事にしたんだよ。ほら、ありがとうって言え」
「あざーす」
「あぁ、どういたしまして」
火乃香が適当に礼を言ったにも関わらず、彼女は微笑ましいものでも見た様に笑っただけだった。どうやら俺という劇薬を投下する事を決めているのに人格者らしい。
友人以外に興味を惹かれる者などいないと考えていたが、彼女がいるのなら破軍に戻るのも悪くはないと考えてしまった。
夕暮れ時になり、彼女が帰ってから俺は1人山を登って中腹にある拓けた場所にまで来ていた。そこにあるのは2つの墓石。姉ちゃんとオヤジが眠っている2人の墓だった。
「よぉ姉ちゃん、オヤジ。今日、破軍の新しい理事長だって人が来て俺の停学解いてくれたんだ。近いうちにまた破軍に戻れるってさ」
墓の前に座ってするのは今日あったことの報告。まともに学校へ通うこと無く死んでしまった姉ちゃんと、停学喰らった事で崩れ落ちていたオヤジに破軍に戻れる事を伝えに来たのだ。
「明日から月影さんに呼ばれてて、それが済んだらそのまま破軍に行く事にしてるからしばらくは来れなくなる。長期の休みの時には戻るから、それまでは待ってくれよ」
2人からの返事なんてあるわけが無い。なので言いたいことだけを言い、満足してここから見える夕暮れを眺める。
出来ることなら、破軍学園に俺がやらかした事により腑抜けた奴が少なくなっている事を望みながら。
俺の数少ない友人の1人が、あの悪環境の中で折れる事なくいる事を願いながら。
灯火ねーさまと新城おじさん、原作が始まる前に死亡。その代わりに目付きの悪いロリが登場。地雷持ち出し、問題無いよね?