不知火とヴォルドの視線が交差する。その瞬間に伽藍堂だった屋上は2人の魔力により異界へと変貌する。それは2人の
そして作り上げられた異界は地獄と呼ぶに相応しい光景が広がっていた。
天には稲光と共に無数に降り注ぐ雷。
地には煌々と紅蓮に燃え盛る業火。
2人の魔力で作り上げられた異界であるが故に、その異界は2人の能力をそのまま内包した世界になる。ヴォルドは〝雷霆〟の二つ名が指し示す通りに電気の異能。不知火は〝
不知火は野太刀を、ヴォルドは〝
不知火は赫怒と殺意に燃えながら、ヴォルドは〝暴君〟から与えられたら使命に燃えながらも冷静だった。殺意による気当たりで互いに互いを牽制しながら、その通りに動けばどうなるのかを脳内でシュミレートする。初手で呆気なく殺される結果があれば、あと一歩のところまで来たところで殺される結果もある。血で血を洗うような世界の住人であるから2人は自身の能力を過大評価せずに、相手の能力を過小評価しない。確実に相手を殺せる瞬間を作り出すための手段を模索し、膠着状態に陥る。
「ーーー止めだ、まどろっこしい」
それを不知火はたった一言で切り捨てて動き出した。自身の異能で彩られた大地を踏みしめてヴォルドに向けて前進する。そんなことをされては動かないという選択肢はヴォルドには存在しない。意識を向かってくる不知火に向け、無差別に降り注いでいた雷全てを不知火1人に向けて落とす。魔力によって再現された雷だが自然現象のそれと変わらない数億Vという電圧を光速で、たった1人に向けられーーー
「
ーーー邪魔だの一言で斬り捨てられた。
「ーーー」
まさかの光景にヴォルドは言葉を失うが即座に正気を取り戻し、再び雷を落とす。しかしそれでさえ前の光景を再現するかのように再び斬り捨てられる結果に終わる。人間では反応する事が許されない、知覚した瞬間にはもう遅い光速をさも当然のように斬り捨てる。
そのカラクリは至って簡単。ただ、光速に反応出来る程に反応速度と身体能力を上げているだけだ。
言葉にすればたったそれだけの事。しかしそれを実現するのは至難の技だ。まず人の身体は動かすと思った瞬間に動くわけではなく若干の間を開けて動く。どれだけ鍛え上げたとしても0.1秒を切ることがないというのが常識だ。それに仮に反応出来きて身体を動かしたとしても、光速を斬り捨てる速度に身体が追いつけない。光の速さに追いつくためには光の速さに至らなければならない。
それを不知火は漣の血と〝
漣の家系は判明しているだけでも1000年以上は続いている家系。当然の事ながら早く反応する為にはどうすれば良いのか考えられていて、それを実現させて子孫に特性として受け継がせている。不知火の反応速度は数値では測れない。動かそうと考えるのと同時に動かせる。肉体面の問題に関しては流石の漣でも解決出来なかったが、それは〝
無論、そんなことをしてタダで済むはずがない。雷という電気の塊を斬った事で不知火の身体は感電し、魔力で補強しているとはいえ光速で動いた事により全身を引き裂かれんばかりの激痛が襲う。常人ならば発狂しかねない激痛を感じながらも不知火は顔色一つ変えることなく歩みを止めない。桁外れた意思力という精神論にてそれを耐える。
「手が足りんな」
絶え間無く降り注ぐ雷を斬り捨てながら不知火はそう言い、左手にもう1本
〝
そして再び始まる雷斬り。一度成功させるだけで絶技と称されてもおかしくないそれを不知火は息をする様に自然に行う。それを不知火は誇る様な事はしない。何故ならそれは、彼にとって当たり前のことをしているだけに過ぎないのだから。雷に焼かれながら、全身を引き裂かれんばかりの苦痛に呻き声一つ溢さずにヴォルドに向けて進む。
「素晴らしいな」
その姿を、常人が見れば異常だと叫ぶ様な不知火の様を見てヴォルドは素直に賞賛した。例え漣の血を引き継いでいたとしても、〝
だが、だからと言って攻撃の手を緩める事はしない。全身全霊、全力で滅殺する事を誓い、行動する。
無差別に降り注いでいた雷が、不知火に向けて落とされていた雷が、全ての雷がヴォルドの前に集う。集束される雷は球体となり、圧縮されて電圧を数十倍にも跳ね上がらせる。
間違いなく自身を殺すことが出来る一撃が放たれる。それを理解してーーー不知火は臆するどころかさらに速度を上げる。二本に増えていた〝鬼灯〟を一本に戻し、ただ真っ直ぐにヴォルドに向かって全力で駆けた。
そして一歩、あと一歩でヴォルドを斬り伏せられる。その距離まで詰めた瞬間ーーー
「神の雷霆はここにありーーー浄滅せよ、
圧縮された雷が指向性を持って解き放たれた。それはもはや雷では無く光線。不知火の反応速度を持ってしても回避する事を許さないタイミングで解き放たれた光線は不知火を飲み込んだ。
「ーーー」
焼く、感電させるなどという生温いものでは無く、消し飛ばす一撃を受けながらも不知火は前進を止めようとしない。前へ、前へ、少しでも前へと破壊の閃光を浴びながらも止まらない。
そしてついに、左腕だけとはいえ破壊の閃光を超えた。しかしそれまでだ。すでに不知火の身体のほとんどは浄滅されていて、そこからの反撃など出来るはずがない。そうヴォルドは考えたがーーー開かれた不知火の手を見てその顔を驚愕に染める。
不知火の掌にあったのは炎の塊。しかし、それはただの炎などでは無い。そもそもだ、前に進む事を良しとする不知火が自身の能力を磨く事をしないわけがない。どうすれば火力が上がるのか考えに考え、身近に存在するある物を真似する事にした。
それは太陽。地球より遥か彼方に存在しながら地球を照らす、核融合を起こす恒星。不知火はそれを目指し、実現させたーーーそう、不知火は炎の異能を成長させ、核融合を起こすことが出来るのだ。
「
炎の塊が一層激しく膨張する。それは現代兵器の水素爆弾と同じ原理。重水素と三重水素の核融合は放射能を発生させないクリーンな虐殺の火が解き放たれた。
修羅ヌイが漣として戦うとカグセライド化するってさ。
誰か総統閣下呼んでこい。