修羅の願うは英雄譚   作:鎌鼬

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「おい、誰かいたか?」

 

「いいや、誰も見ていない。もう全員集め終わったんだろうよ」

 

 

一流のブランドとして知られているトゥワレは見るも無残な状態になっていた。客に見せるためにトゥワレの服を着飾っていたマネキンは倒れて砕け、一着で数万もするはずの服はグチャグチャのままに床に放り投げられている。

 

 

それを気にすることなく歩くのは黒の戦闘服とガスマスクに身を包んだ2人の男。アサルトライフルを構えたまま店内を捜索した結果を報告しあい、唯一閉じられている試着室に目を向ける。

 

 

「あとはここだけだな」

 

「俺が開けるから頼んだ」

 

 

それに声ではなく行動で肯定し、1人は試着室のカーテンに手を掛け、もう1人はアサルトライフルを構えて試着室の正面に立つ。そしてカーテンを勢いよく開いてーーーそこには誰も居なかった。

 

 

「……クリアだ」

 

「了解。さっさとビショウさんの所に戻ろうぜ」

 

「そうだな」

 

 

誰も居ないと分かりながらも2人は周囲を警戒しながら小走りでトゥワレから立ち去った。それを見て、周囲に人の気配が存在しないことを確認し、()()()()寧音と共に床に降りる。

 

 

「見事なまでにテロだな。しかもあの装備は〝解放軍(リベリオン)〟ときたもんだ……不知火、頼むから落ち着いてくれよな?」

 

「分かってるよ。流石の〝解放軍(リベリオン)〟絶対殺すマンの俺でも被害を出したいわけじゃ無いからな」

 

 

何かが起きたと判断した瞬間に俺は寧音と一緒に天井に張り付き、事が落ち着くのを待っていた。〝伐刀者(ブレイザー)〟である俺たちがすぐに動けば、少なくともこの階層の安全くらいは確保出来ただろう。しかしそれだとここ以外の階層を見捨てる事になる。それに下手人たちの行動からあいつらは殺す事を目的にしていないと分かった。それならば人を一箇所に纏めて貰った方がこちらとしてもやり易くなる。

 

 

本音を言えば下手人が〝解放軍(リベリオン)〟だと分かった瞬間に奴らを殺してやりたかったのだが、それでは要らない被害が出てしまう。

 

 

「で、外部との連絡は出来たか?」

 

「全然ダメだ、妨害でもされてんのか通じねえよ。幸いな事に中にいる奴になら連絡は取れるけどな」

 

 

外部との連絡を断つことは定石と言えば定石、在り来たりの手段なのだが実際にされると厄介だ。寧音が言うには内部にいる者同士ならば連絡は取れるらしいが……と、考えたその時に珠雫が遊びに行くと言っていたことを思い出した。このショッピングモールは学園の近くにあることからよく破軍の学生が利用している。もしかすると珠雫たちもここにいるのでは無いかと期待をしてアドレス帳にあった一輝と珠雫のメールアドレスにメールを送る。

 

 

するとすぐに一輝からメールが返ってきた。内容を確認すれば、有栖院と共に男子トイレに隠れているらしい。〝男たちの失楽園※R15〟の存在を知っているので一輝の貞操が心配になってしまう。そして珠雫からもメールが返ってきた。珠雫の方はヴァーミリオンと共に人質の中にいるようで、変換されていない平仮名だけの文面でフードコートにいることを知らせていた。

 

 

「おっとこいつは僥倖だな。どうやら一輝と珠雫がここにいるらしい。一輝は男子トイレに隠れてて、珠雫はヴァーミリオンと一緒に人質に紛れてフードコートにいるってよ」

 

「黒坊にステラちゃんがいるならどうとでも出来そうだな。どうせこの規模なら〝解放軍(リベリオン)〟の使徒は1人だけで後は真人間だろーしな」

 

 

解放軍(リベリオン)〟は〝伐刀者(ブレイザー)〟至上主義を掲げているがだからと言って〝伐刀者(ブレイザー)〟のみで構成された組織では無い。〝伐刀者(ブレイザー)〟至上主義に賛同した非伐刀者が大半で、今回の規模ならば〝解放軍(リベリオン)〟の〝伐刀者(ブレイザー)〟は1人か2人が良いところだ。ヴァーミリオンはともかく一輝と寧音がいるのなら簡単に対処出来る規模でしか無い。

 

 

「それじゃあ、ここ任せても良いか?」

 

「良いけどどこに行くのさ?」

 

「上からさ、プンプン匂うんだよ……臭い臭い〝解放軍(リベリオン)〟のクソ野郎の匂いがな。多分そいつが通信妨害してる。だからそいつの相手してくるわ」

 

「あ〜……やるのは良いけどせめて喋れる程度に留めてくれよ?殺したら色々と厄介だかんな」

 

「努力する」

 

 

努力をするとは言ったものの、口だけでそうするつもりは無かった。月影さんの指示とは言え暁学園という枠組みで〝解放軍(リベリオン)〟と一緒にされているのでストレスが溜まっているのだ。ここら辺で一度息抜きをしてやらなければ近い内に大爆発を起こす事になる。

 

 

寧音もそのことを分かってくれているのか、軽く忠告をした程度で済ませた。それに殺したら厄介だと言っていたが、それは裏を返せば()()()()()()()()()()()と言っているのと同じだ。死体が見つかる事で殺されたと分かるのなら、死体さえ見つからなければ殺されたと分からない。

 

 

「滾れよーーー〝鬼灯(ほおずき)〟」

 

 

屋上に向かう道中で野太刀型の〝固有霊装(デバイス)〟を展開し、鞘から引き抜く。刀身から唾、そして柄に至るまで黒で塗り潰された野太刀だが、唯一刀身だけには炎のような真紅のラインが刻み込まれていて、それは俺の感情を表しているかのように点滅している。

 

 

屋上に続く扉にたどり着き、邪魔なそれを〝鬼灯〟で切り刻む。イベントがある時には色んなもので埋め尽くされるはずの屋上はその予定が無かったからなのか伽藍堂、そしてそこには黒地に金刺繍の外套、〝解放軍(リベリオン)〟の使徒が着用する法衣を着込んだ男が1人いた。

 

 

「……〝伐刀者(ブレイザー)〟か」

 

「臭えから話すなよ。お前らと話しているだけで吐き気が止まらないんだ……俺が聞きたいのはただ1つ。17年前、漣。この2つに心当たりはあるかどうかだけだ」

 

「あると言ったら、どうする?」

 

「選択肢を3つくれてやるよ。1つ目、素直に喋って死ぬ。2つ目、拷問されて話してから死ぬ。3つ目、意地を張って喋らないで苦しみながら死ぬ」

 

「そこまでして殺したいとは……お前、漣か?」

 

「だとしたら?」

 

「〝暴君〟からの御命令だ。貴様を殺させてもらうーーー私は〝十二使徒(ナンバーズ)〟が1人、〝雷霆〟のヴォルドだ。我が名を覚えて逝け」

 

 

顔を隠していたフードが外され、その下から刈り上げられた金髪で彫りの深い顔が現れる。本当ならば今すぐにでも斬り捨てたいのだが、今のやり取りで実在するかあやふやだった〝暴君〟がいる事が分かった。それに〝十二使徒(ナンバーズ)〟という〝解放軍(ナンバーズ)〟の重鎮クラスならば、17年前に何故あんな事があったのか知っている可能性がある。どうして〝十二使徒(ナンバーズ)〟がここにいるのか分からないが、素直に幸運だと喜ばせて貰おう。

 

 

「……〝解放軍(リベリオン)〟は嫌いだ。正直言って向かい合ってるだけで殺したくなる程にな。だけど、お前の事は嫌いじゃ無い」

 

 

解放軍(リベリオン)〟に所属しているだけで殺したくなるが、だからと言ってそいつの人間性までも否定するわけでは無い。ヴォルドは〝暴君〟に命じられたと言っているがその目には俺を殺してやるという殺意を燃やしている。全力を持って殺してやると叫んでいる。

 

 

「新城不知火だ。二つ名なんて洒落たものは無いから、代わりにこっちを名乗らせてもらう」

 

 

構えを解き、〝鬼灯〟をダラリと下げる。敵を前にして構えを解く事は馬鹿がする事だ。構えるという事はこれからする行動を相手に教えることでもあるのだが、その行動をし易くするという備えでもあるのだから。

 

 

しかし、()()()()()()()()

 

 

構えない事で相手に行動を教えずに、そして構えという備えをしないでその行動を容易く行う。

 

 

「漣不知火だーーー死ね」

 

 

漣の名と死刑先行を告げ、目の前の〝解放軍(リベリオン)〟を殺すために一歩踏み出した。

 

 

 





下で一輝たちがビショウ=サンとイチャコラ(意味深)している間に上で修羅ヌイがヒャッハーしている。新城として戦うよりも先に漣として戦わせると思わなんだよ。


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