修羅の願うは英雄譚   作:鎌鼬

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新たな季節

 

まだ寒い四月の早朝。日課である20キロのランニングを済ませて破軍学園の正門の前に置いておいたスポーツドリンクを口にする。魔力方面の才能が無いので僕が他の〝伐刀者(ブレイザー)〟と戦うためには肉体方面で補うしか無いと普通の人よりも過剰なトレーニングをする事にしているのだ。

 

 

スポーツドリンクで乾いた喉を潤して後ろを振り返れば、そこにはフラフラになりながらもステラが着実にゴールとしていた正門前に近づいていた。世間では彼女の才能ばかりに目が向けられているが、その姿を見れば彼女は才能に頼り切らずに自分を鍛えていた事がよく分かる。

 

 

ただの負けず嫌いだという可能性もあるけど。

 

 

「お疲れ様、3日目にしてようやくゴール出来たね?」

 

「はぁ……!!はぁ……!!」

 

 

労りの言葉を掛けてスポーツドリンクをコップに入れて差し出すと彼女は引っ手繰るようにコップを奪って一気に飲み干した。3日前からステラとは同じ部屋で生活する事になり、僕のトレーニングにも付いて来るようになったのだが、僕のトレーニングは普通では無いと自覚している。

 

 

そのせいか、1日目は途中で倒れた。

 

2日目は半分ほど走ったところで蹲って吐いた。

 

そうして3日目になり、体力は使い果たしているが彼女は僕のトレーニングに付いてきて、見事に完走した。

 

 

一歩も動けないと息を切らせてその場に座っているステラから目を逸らし、正門に立て掛けられた始業式と書かれた看板に視線を向ける。

 

 

「ようやく始業式か……」

 

 

始業式、新たな季節の始まり、それはとても感慨深いものがある。去年は実家からの妨害により、何のチャンスも与えられずに過ごすしか出来なかった。不知火という旧友と再会出来たことは嬉しかったが、彼はあの時の学園の有り様に我慢が出来ずに暴れ、僅か一ヶ月で停学という形で別れる事になった。その時に掛けられた言葉が、僕を気遣って残してくれた()()()()が去年よりも僕を強くしたことは自覚している。だけど、去年は何もする事が許されなかった。

 

 

しかし、今年は違う。破軍学園を立て直すために就任した新宮寺理事長の掲げる完璧な実力主義、徹底した実戦主義の元に全ての生徒に等しくチャンスが与えられる。〝七星剣武祭〟に出場し、これに優勝する。それくらいしなければ僕の憧れた黒鉄龍馬(あの人)のようになれないと考えているし、新宮寺理事長との取引で能力値が低くて卒業が見込めない僕は〝七星剣武祭〟で優勝しなければ破軍学園を卒業する事が出来ない。

 

 

待ち望んでいたチャンスの到来に冷静になろうとしても自然と興奮してしまう。まだまだ未熟だと情けなく思うが、不知火がこれを知ったら善き哉善き哉と笑って肯定するだろう。それに、気分が高揚している理由はそれだけでは無いのだ。

 

 

「はぁ〜……なんだか楽しそうね、イッキ」

 

「そう見える?」

 

「いつもよりも雰囲気が柔らかい感じがするわ」

 

「そっか……実はね、今年から僕の妹が破軍に入学して来るんだよ」

 

「イッキの妹さん?」

 

 

黒鉄珠雫(くろがねしずく)、四年前に僕が実家から飛び出したっきりご無沙汰だった僕の妹。人見知りなのか僕の後ろを小さな歩調で付いてきた、銀髪ツインテールの彼女の姿は今でも思い出せる。泣き虫で、寂しがり屋で、甘えん坊だった彼女は、存在しない者として扱われていた黒鉄の家で唯一僕の事を無下に扱わずに接してくれた人間だった。久し振りに会えるとなると、嬉しくならないはずがない。

 

 

不知火と珠雫を出会わせる事による化学反応が不安なのだが、きっと大丈夫だと信じたい。

 

 

「どうしたの?顔が青くなってるわよ?」

 

「何でもない!!何でもないから……!!」

 

 

無意識の内に想像してしまった未来を全力で消去していると、僕らが走ってきた方角から硬い物がぶつかり合う音が聞こえてきた。小さかった音は断続的に続き、徐々に大きくなっている事から近づいている事を知らせていた。

 

 

そしてーーー木刀を握っている不知火と西京先生が、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

再び遠くなる木刀のぶつかり合う音。2人とも片手で持って無造作に振るっている様に見えながらその一振り一振りが一撃必殺を意識している。いかなる歩法を用いているのか、たった一歩で数十メートルの距離を移動しながら彼らの姿は見えなくなった。

 

 

「天才と強い事はイコールじゃないって思い知らされたわ……」

 

「ステラ、深く考えたら駄目だよ。不知火の事を下手に理解しようと思ったら後悔する事になるから」

 

 

僕らが早朝にランニングをしているように、不知火も西京先生が暇な時にあぁして身体を動かしている。しかし、あれは彼からすれば()()()()()()()()()()()()()()。振るっていた一閃一閃は一撃必殺を意識していたが、どれもが力が込められていなかった。途中途中で遊んでいるかのようにアクロバティックな動きをしていた。

 

 

全く持って規格外、10年に1人の天才騎士だと言われたステラでさえ、彼らと比べれば十把一絡げとして扱われる事になる。天才や無能などという括りなど歯牙にもかけない存在、その内の1人である不知火が〝七星剣武祭〟に出る事を考えればーーー()()()()()()()

 

 

不知火と剣を交わしたのは一度だけ。負けはしなかったが勝ったと言えない結果で終わってしまった。だから、次は勝つと決めた。

 

 

確かに彼は強い。しかし、そんな事を理由に僕の夢を諦められるはずが無い。すでに僕は諦める事を()()()()()。彼に敵わない事が運命だというのなら、その運命を粉砕して進むまでだ。

 

 

「僕が勝つ。〝勝つ〟のは僕だ」

 

 

いずれ訪れるであろう不知火と〝七星剣武祭〟の舞台で対峙する光景を想像しながら、僕は小さく勝利を誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくしてから服が役目を果たすギリギリまでボロボロになっている不知火が西京先生の顔を壁に押し当てながら走って来たのを見て膝から崩れ落ちる事になるのを知らずに。

 

 





やっと入学時期まで到着したぜ。これでようやく原作でもクレイジーっぷりを見せてくれた妹様を登場させられる……どんな魔改造をしてやろうか?

修羅ヌイとロリ夜叉がやっていたのはただのウォーミングアップです。ロリ夜叉が剣を使えるのか疑問に思ったかもしれないけど、南郷のお爺ちゃんに師事していたのなら剣術も使えると思ったから、ここのロリ夜叉は普通に剣が使えるという事で。


評価が沢山来てブヒブヒしてたけど、ちょっと風邪気味だったのでアッサリとした内容になってしまった。ゴメンね、治ったら頑張るからそれまでブヒブヒして待っててくれ。

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