修羅の願うは英雄譚   作:鎌鼬

12 / 41
鍋パーティー

 

 

「ハイ、乾杯ぁい」

 

「乾杯ぁい!!」

 

「乾杯です」

 

「えぇ……いや……えぇ……」

 

 

黒鉄君とヴァーミリオンさんとの模擬戦は〝一刀修羅〟という隠し球を持っていた黒鉄君の勝利で終わった。Aランクを圧倒する剣術に、最低の能力だと言われている身体能力倍加を別次元と呼べるような位にまで昇華させた伐刀絶技(ノウブルアーツ)。天賦の才能を持つヴァーミリオンさんとは違う、無能であるか故に持ち得た狂気としか言えない努力の果てにヴァーミリオンさんを倒した彼に、新城君以外にもあんな人間がいるのかと呆気に取られ、そしてもしかしたら父を上回るかもしれない程の剣の腕前を持っている事に興奮し、気が付けば夕食時になっていた。

 

 

何時もは食堂で食べるので今日もそうしようかと思っていたが、新城君が親睦会のつもりで自分が作りたいと申し出たのだ。断る理由も無いのでその申し出に了解し、彼が作った鍋を新城君と彼の妹である火乃香ちゃんと一緒に食べるつもりだった。

 

 

「ん、どうしたんだ綾辻?早く食わないと食べられてしまうぞ?今丁度いい具合になってるんだ……あぁ待て火乃香、肉だけじゃなくて野菜も食べろ。おいこら合法ロリ、てめえは酒ばっかり行くのを止めろ。タダでさえ未成年飲酒の絵面なのに理事長に飲ませる酒が無くなるだろうが。ついでに俺の皿に白滝ばかりを放り込むのは止めろ」

 

「いや、自然な流れで座ってる西京先生に驚いてね……って待って、新宮寺理事長も来るの?」

 

 

鍋を食べる為に出した折り畳みテーブルを、さっき上げた2人以外に西京先生が座っている事に呆気に取られてしまっていた。しかも当たり前のように理事長まで呼んでいたらしい。よく見ればテーブルは一人分空けられていて、そのスペースには伏せられた椀とコップ、箸が置かれている。

 

 

「固い事言うなって不知火〜。ほら、絢瀬ちゃんだってなんて言ったら良いのか分からない顔してるぜ?」

 

「それは見た目未成年の合法ロリが平然と飲酒してるからだろ?」

 

「いや、当たり前のように西京先生がいる事と理事長を呼んでる事なんだけど……」

 

「あぁ、折角飯食うんだったら大勢で賑やかに食った方が楽しいだろ?だから呼んだ。事後承諾になって悪かったな」

 

「……うん、そう言えば新城君はそんな人だったね」

 

 

彼との付き合いは彼が乱闘騒ぎを起こした時に知り合ってほんの数日程度だが、それでも新城君という人間を知るのには十分過ぎる時間だった。

 

 

彼は良くも悪くも自分本位な人間なのだ。多少は他人を気遣う事も出来るのだが、それでも最終的には自分の価値観や物差しによって物事を判断して行動に移す。それが一般的な価値観から見れば善であろうが悪であろうが、彼は()()()()()()()()()()()()()。それをしてどんな結果になろうとも、彼は満足気にしてその結果を受け入れるだけだ。去年の乱闘騒ぎで学校から停学を言い渡された時だって、彼はやらかしたと落ち込むだけで学校に文句一つ言わずにそれを受け入れていた。

 

 

「はぁ……新城君、ボクにもお酒頂戴」

 

「酒なら一通り揃えてあるから色々あるぞ。何が良い?」

 

「甘いの」

 

「ほい、カクテル。あぁ、明日から頼まれてた事するから飲み過ぎるなよ。例え二日酔いだろうが無理矢理やるから」

 

「ん?今ヤルって言った?」

 

「言ってねえよ!!良い加減にしろよこの色ボケロリータ!!」

 

 

やんわりと注意されたが、それでもお酒に逃げたい気分だったので渡されたカクテルの缶のプルタブを開けて中身を飲む。新城君と同室になり、ボクの頼みを聞いてくれるので長い付き合いになるのは分かりきっている。

 

 

だから彼の行動に慣れるまでの間、こうしてお酒に逃げてもバチは当たらないはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、飲み過ぎたか」

 

「うん、普通に飲み過ぎだよ」

 

「お前が美味い酒ばかりを持って来たのが悪い」

 

 

鍋パーティーを始めてからしばらくして理事長が合流し、そこから本格的な飲み会が始まった。理事長が来る前から日本酒を水のように飲んでいた寧音は一番早くに潰れ、酒は飲んでいなかったが就寝時間が来た事で火乃香が2番目に寝落ちした。強い酒は飲まずに度数の低いカクテルばかりを飲んでいた綾辻は3番目に寝落ちしたのだが、酒に慣れていなかったのか2本目辺りから目が据わっていたのが少しだけ怖かった。

 

 

俺は加減を心得ているので時折お茶などで休みを入れながら飲んでいたのだが、理事長はほぼノンストップで飲み続けていた。酔っているのか僅かに顔を赤らめているのだが、彼女の周りに転がっている酒瓶や空き缶の量からしてそれだけで済むはずが無いのだが。

 

 

「それにしても綾辻とも知り合いだったとはな、意外と交友関係はあったのだな」

 

「クソみたいな風潮が蔓延ってるこんなとこでも頑張ってる奴はいたらしくてな。向こうから声をかけられて友人になったんだよ。後もう1人親友がいるんだけど、そいつは明日にでも声をかけたら良いな」

 

 

アルコールを入れたので頭の中に霞がかかったようになり、それまで付けていた敬語が完全に外れてしまっている。目上の人間に対してタメ口という無礼を働いているのだが完全にオフ状態になっているのか、理事長は何も言わずに缶ビールを煽っていた。

 

 

「……なぁ新城。一つ気になっていたことがあるんだが、お前は一体何が気に入らずにあの事件を起こしたんだ?」

 

「理由ならあの時に話したはずだから調べれば分かるはずだけど?」

 

「お前の口から直接聞きたいんだ」

 

 

去年の事件の後の取り調べで一応俺があれを起こした理由については話してあるのだが、理事長は俺の口から聞きたいらしい。断る理由も無いので空になったグラスに日本酒を注ぎ、それで口を湿らせる。

 

 

「ん、中々美味いな……理由なんてたった一つだけだよ。気に入らなかったからだ。努力と怠惰、そのどちらも人間として当たり前の行為だから個人的には前者の方が好きとは言え俺は気にしちゃいない……だけどな、他人の足を引っ張る奴は許せないんだよ」

 

 

俺が入学して来た時の破軍学園は最悪だった。未来を見据え、それに向かって努力している人間はたったの一握り。残りは高い数値の書かれたカタログスペックに満足したり、自分よりも優れた者を見てあれは自分達とは違う人間なんだと諦めたり、自分よりも劣った者を虐げて悦に浸っている者ばかり。当時の理事長がランク至上主義だった事も拍車を掛けていたのだろうが、その時の俺はそんな光景を、ランクが低いからという理由で虐げる自称強者たちを見ているだけで吐き気が止まらなかった。ランクが低い者たちはそのことを理解していて、どうにかしようと足掻いていた。しかし自称強者たちがその努力に唾を吐き掛け、その努力を無意味だと嘲笑い、その努力を無価値だと踏み躙った。自分の意思でその場に留まることを選びながら、前に進もうと足掻いている者たちの足を引っ張る。それが俺は許せなかったのだ。

 

 

だから俺は自称強者たちの性根を叩き直すつもりで全学年の一定ランク以上の生徒たちを挑発し、一輝とヴァーミリオンがやったような模擬戦を行った。中には俺が見つけたマトモな人間が混じっていたがその全てを叩き潰し、その結果俺はやり過ぎだと言うことで無期限の停学処分を受けた。本来ならば退学になってもおかしく無いと思ったのだが、恐らくは当時の理事長が俺に恩を着せる事で手駒にでもしたかったのだろう。もっとも、俺は恩など欠片も感じておらず、理事長は解雇されたのでその企みも無意味なのだが。

 

 

「言葉で言っても分からないのなら手を出すしかないだろう?」

 

「そうして手を出した結果があの乱闘騒ぎか……で、それでどれだけがお前の思惑通りになった?」

 

「さぁな、分からん。だけど今日訓練場に来ていた奴らはダメだな。俺の言った事を、俺のやった事を覚えているはずなのに一輝の事を笑っていた。全く、嘆かわしい事だな」

 

「お前は、全ての人間に黒鉄のようになって欲しいのか?」

 

 

全ての人間が一輝のようになる。成る程、それは俺好みの光景だーーー実に吐き気がする。

 

 

確かに黒鉄一輝は無能でありながら狂気的とも言える努力によりヴァーミリオンを倒すまでに強くなった。その努力は実に好ましいものだが、その努力が()()()()()()()()()()()()。あれは一輝だからこそのものであり、誰もが気軽に手を出していいものでは無い。そんな世界は楽園などではなく、ただのディストピアだ。

 

 

「馬鹿を言うなよ、そんな世界は存在しちゃいけない。俺はただ、少しでも良いから前に進んで欲しいだけだ。昨日の自分に胸を張れるような、そんな自分になって欲しいだけだよ」

 

「……成る程、新城不知火(おまえ)という人間の事を少し分かった気がする」

 

「こんな問答で知られる程に俺は浅い人間じゃないぞ?」

 

「だから少しと付けてるんだ。お前の事を完全に理解出来る人間なんて、私が知る限りでは寧音くらいのものだ」

 

「付き合いが長い上に、向こうから踏み込んでくるから自然と知られるんだよなぁ……」

 

 

寧音との出会いを思い出しながら、俺の膝の上で空いた酒瓶を抱えながら眠る寧音の頭を撫でる。苦手だと口にしているが、俺は彼女の事を嫌っている訳ではない。そもそも嫌っているのなら、襲われるとはいえ身体を許すような事はしない。少なくともそういう事をされても良いと思う程に俺は寧音の事を好いている。

 

 

「だけど俺、惚れてる奴がいるんだけどね」

 

「む、惚れてる相手がいるのに寧音に襲われてるのか?」

 

「襲われてる。その事をちゃんと伝えたのに逆に興奮するっていつもよりも搾り取られた」

 

「まぁ、その、なんだ。元気出せ」

 

「その優しさが辛い」

 

 

嫌いじゃないけどその肉食っぷりを少しでも抑えて欲しい。湧き上がるそんな思いを押し込めるように中身の残っていた酒瓶に口を付け、一気に飲み干した。

 

 

 






親睦深めたかったら飯と酒だよなって事で鍋パーティー。落第騎士だと15歳で成人なので未成年飲酒では無いので問題無い。でもロリ夜叉だけは未成年飲酒の絵面なんだよなぁ。

高評価が来ると作者は悦ぶ。みんなで作者を悦ばせてブヒブヒ言わせ、更新速度を上げさせよう!!


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。