修羅の願うは英雄譚   作:鎌鼬

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模擬戦・2

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

 

持てる全ての力を出し尽くしたステラは、その一撃で齎された結果を肩で息をしながら眺めていた。〝天壌焼き焦がす竜王の焔(カルサリティオ・サラマンドラ)〟の射線上には、正確にはさっきまで一輝のいた場所には何も残っていない。本来ならば訓練場の壁を破壊してなお止まらぬほどの破壊力を持っていたはずなのだが被害はリング上だけに留まっていて観客席は無傷のままだった。

 

 

勝ったと、ステラは勝利を確信した。一輝の姿は見えないものの確かな手応えは感じた。殺してしまったかもしれないのだが〝伐刀者(ブレイザー)〟の戦闘では例え模擬戦だろうとそういう出来事なと日常茶飯事。寧ろ、あのまま一輝が茨の道を歩み続けることの方がステラに取っては辛かった。

 

 

「はぁ……ふぅ……」

 

 

息を整えてステラは視線を観客席に座る不知火へと向ける。観客たちはステラの〝天壌焼き焦がす竜王の焔(カルサリティオ・サラマンドラ)〟で危険を感じたのか誰も残っておらず、観客席には不知火たちしか残っていない。炎を使った幻影を用いて服の中に入っている寧音のことは隠しているが、自分の姿は隠していない。だから不知火の姿をステラは見つける事が出来た。

 

 

「アタシが勝ったわ。次は貴方よ」

 

「ふむ、俺と戦いたいと言いたいのか?」

 

「その通りよ」

 

 

ステラ・ヴァーミリオンは強くなるために祖国から日本へと留学して来た。愛国心はあり、ヴァーミリオン皇国を守りたいと心の底から思っている。しかし、あの国では自分の事を〝天才〟という色眼鏡で見る者たちが殆ど。あの中にいれば本当に自分がそうでは無いかと思ってしまい、自身の成長の妨げになると考えて母親と結託してステラの事を溺愛している国王を一時的に監獄に収容、その隙に日本に来たのだ。

 

 

そんな彼女からしてみれば不知火という人間は待ち望んでいた存在に他ならない。理事長室で加減していたとはいえ〝妃竜の息吹(ドラゴンブレス)〟を纏った大剣の一撃を片手で容易く掴み、3000度という高温を温いの一言で済ませた。恐らくは本気で戦っても敵わない実力者なのだろうと考えていた。

 

 

それでもステラは挑む。敗北や失敗は己の糧になる事を知っているから。例え千回負けようとも、千一回勝てば良い。自分が強くなるために、ステラは格上である不知火に挑もうとしていた。

 

 

「……成る程、荒削りの原石だがその輝きは一級品。しかも自分からより輝こうと欲する意欲もあるか」

 

 

その宣戦布告を受けて不知火は冷静にステラ・ヴァーミリオンという人間を評価した。まだ発展途中でありながらその実力は疑うまでもなく一級品。今は自分たちのような外れた存在には届かないものの、その心を忘れずに強さを求めて研鑽を積み重ねれば間違いなくその領域に届くと。

 

 

懐からタバコを取り出し、指の先に火を灯してタバコに火を付ける。一吸い目を深く吸い込み、紫煙を吐き出しながら不知火はその宣戦布告に言葉を返す。

 

 

「ーーー()()

 

「なーーー」

 

 

それはステラからの挑戦を断る物だった。何故、どうして、自分が弱いからかと混乱するステラに向けて、疑問の言葉を出すよりも先に不知火は違うと口にした。

 

 

「別にお前の意思を無下にするわけじゃ無い。強くあろうと、強くなりたいと願い欲して進む姿は実に俺好みだからな。いつもなら喜んで二つ返事で肯定していただろうけど……()()()()()

 

「何よ?まだ終わってないと言いたいわけ?こんな状態で?」

 

 

ステラの指差した先にあるのは煌々と燃え盛る〝天壌焼き焦がす竜王の焔(カルサリティオ・サラマンドラ)〟の残り火。直撃した手応えはあったのだ。自分と同じAランクの〝伐刀者(ブレイザー)〟や防御に秀でた能力ならばまだ戦闘可能かもしれないと考えられたのだが一輝のランクはF。生存の可能性なんて奇跡でも起こらなければあり得ない。

 

 

「いいや、()()()()()()()()()()()()

 

 

それを不知火は否定する。奇跡などという御都合主義を信じているのでは無い。不知火が信じているのは黒鉄一輝という人間。確かにステラの一撃は一輝を殺すのには十分過ぎる威力を誇っていた。しかし、俺の信じた人間があれで終わるはずが無いと信じている。

 

 

だから、まだ終わりでは無いとーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーそうだ、()()()

 

「ーーー」

 

 

その時、ステラの耳は聞こえるはずのない声を、一輝の声を聞いた。不知火の言葉を肯定する力強い声を聞いた。

 

 

あり得ない、生きているはずが無い。自身の最高の一撃をマトモに食らっているはず、それなのにあり得ないとその声を否定する言葉で脳内を埋め尽くしながらステラは声がした方向に視線を向ける。

 

 

そしてステラは目撃する。〝天壌焼き焦がす竜王の焔(カルサリティオ・サラマンドラ)〟の燃え盛る残り火ーーーそれを搔き分けるようにして二本の足で歩く一輝の姿を。

 

 

「どうしてーーー」

 

 

どうして生きているのか。そんな問いかけをするつもりだったが、それは残り火から出てきた一輝の姿を見て理解させられた。

 

 

一輝の身体から、可視化出来るほどの魔力の光が溢れていることに。

 

 

伐刀者(ブレイザー)〟の魔力が鎧の役割を果たしている。一輝のした事はそれだ。可視化出来るほどの魔力を鎧として扱い、その身を守ったのだ。それだけでは無い。完全に防ぎきれなかったのか一輝の身体の彼方此方には酷い火傷が出来ている。iPS再生槽(カプセル)という四肢や臓器の欠損さえ回復出来る装置か、回復に特化した能力でも無ければ傷跡どころか後遺症が残るほどの重症だと一目で分かる。その重症がーーー何もしていないはずなのに()()()()()()()()()()()。煙が止んだ時、そこにあるのは無傷の身体だけだ。

 

 

「どうして……」

 

 

何が起こっているのか。それが知りたくて出てきた言葉だったが、その答えを知る者は誰もその問いに答えなかった。

 

 

一輝がしている事は至極単純な事、()()()()()()使()()()()()()()。一輝の異能は数ある〝伐刀者(ブレイザー)〟の能力の中でも最低の能力だと評価される身体能力倍加。わざわざそんな能力を持たなくとも魔力を放出することで攻撃力や機動力を上げることが、魔力操作に優れた者ならば能力として持たなくても身体能力を強化することが可能だから。

 

 

故に、一輝は普通の使い方をしていない。

 

一輝は、生物ならば持っているはずの生存本能(リミッター)を意図的に解除している。

 

 

本来人間が全力を出したところで出し切った瞬間に気絶するわけでは無い。そうならないのは生物が本能的に自分を生かそうとする生存本能(リミッター)が存在しているから。だからどれだけ全力を尽くすと決めたところで、本能はそれを許さずに生物としての機能を果たすための力を残している。

 

 

天才と呼ばれる者たちと自分では努力だけでは埋められない差がある事を一輝は理解している。その差を埋めようとするのなら、普通でいられるはずなどない。

 

 

狂気をーーー心を修羅にしなければ、それを覆せるはずが無い。

 

 

だから一輝は修羅になった。意図的に生存本能(リミッター)を解除して本能的に残されていた体力、筋力、魔力を強制的に引き出して活用する愚行。魔力が跳ね上がった事で副作用として得られた驚異的な再生能力。たった一分だけ、言葉通りに全力を尽くす事で全ての能力を数十倍も引き上げる伐刀絶技(ノウブルアーツ)

 

 

「〝一刀修羅〟、それがこの技の名前だ」

 

 

一瞬、瞬きの間に一輝はステラとの距離を詰めて〝陰鉄〟を振るった。ステラの反応速度を超える速度で振るわれた一閃を〝天壌焼き焦がす竜王の焔(カルサリティオ・サラマンドラ)〟を使った事で疲弊しているステラが避けられるはずもなくその身で受ける。そしてステラは呻き声一つこぼす事無く、足元が崩れ落ちるような感覚とともに意識を失った。

 

 

「そこまで!!勝者、黒鉄一輝!!」

 

 

不知火たちを残して誰も居なくなった訓練場にレフリーである黒乃の声が響き渡る。その宣言を聴くものは数人しかおらず、誰も一輝の事を見直そうとする者はいない。

 

 

しかし勝ち得た勝利を噛み締めるように、勝者である一輝は〝陰鉄〟を持たない手を天に掲げた。

 

 

 






当然の事のように〝一刀修羅〟も強化。原作よりも強化倍率を上げて、ついでに回復能力も付属。一分しか戦えないのはそのままだけど、デメリットになりそうに無いんだよなぁ。

一輝が〝まだだ〟した光景を脳内で想像したら思いの外違和感が感じられなかった。原作からして光属性だし、問題無いネ!!


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