修羅の願うは英雄譚   作:鎌鼬

10 / 41
模擬戦

 

 

「ではーーー試合開始(LET's GO AHEAD)!!」

 

 

「ハァァァァァァァァァーーー!!」

 

 

黒乃の開始の合図と共にステラは叫びながら一気に駆け寄り、炎を纏った大剣を振り下ろす。一見すれば力任せに叩きつけられる一撃だが一輝の目はその一撃に鋭さを見出し、受け止めるのでは無くて後方に下がって回避する事を選ぶ。

 

 

結果、その選択は正解だった。リングに叩きつけられた一撃で第三訓練場()()()()()()()()

 

 

原因は言うまでも無くステラの一撃。あの時の一撃を躱すのではなくて受け止める事を選択していれば砕けたリングの代わりに一輝の腕がもげていただろう。

 

 

「良い目をしてるじゃない。受け止めてたらただじゃ済まなかったわよ」

 

「生憎と、目には自信があるものでね」

 

 

一輝は自分の能力を正しく理解している。一年前までは自分の事を過小評価し過ぎていた彼なのだが、()()()()()()()()その考えを改める事にしたのだ。〝伐刀者(ブレイザー)〟としてのスペックは全てステラに劣っている。なら、()()()()()()()()()()

 

 

「ーーー」

 

 

一輝の目がステラを捉える。一挙一動、呼吸すら逃さぬと向けられる視線にステラは気がつかない。ステラは確かに〝伐刀者(ブレイザー)〟としては優秀なのだろう。しかし実戦の経験が少ないことに一輝は気付いていた。もしも彼女が多くの経験を積んでいれば先の一撃で終わらせるはずがない。そこからさらに繋げて即座に終わらせていたはずなのだ。だが彼女はそこで手を止めてしまった。油断、慢心……恐らくはステラ本人ですら気がついていないであろう心の隙を一輝の目は見逃さない。

 

 

「フーーー」

 

 

ステラの足元に不自然に魔力が集まり、爆ぜた。まるでブースターでも着けているかのような加速で開かれていた距離を一瞬で詰めて大剣を振るう。一閃一閃が炎の軌跡を描きながら一輝を襲う。大剣という重量のある武器であるはずなのに、ステラはまるでそれを棒切れの如く振るう。

 

 

その剣戟から逃げられないと悟った一輝は〝陰鉄〟で防ぐ事しか出来ない。訓練場に響き渡る鋼と鋼のぶつかり合う音。ステラの伐刀絶技(ノウブルアーツ)妃竜の息吹(ドラゴンブレス)〟の威光で一輝の身体は大剣が触れてもいないのにその余波だけで焼かれていく。

 

 

それは予想されていた展開。Fランク(無能)Aランク(天才)には敵わないという、()()()()()。だから観客席にいる生徒たちはステラの舞のように美しく振るわれる皇室剣技(インペリアルアーツ)に歓声を上げ、後ろに後退しながら防ぐだけで手一杯の一輝を嘲笑う。

 

 

しかし、ステラは違っていた。この展開は彼女にとってはあり得ない事なのだから。

 

 

「どういうことよ……!?」

 

 

ステラの振るう剣は相手を押し潰す剣だ。初撃で見せたようにリングを粉砕する程の威力を持ってして相手を防御ごと押し潰す一撃。だというのに、一輝はその全てを()()()()()()()。確かに受けに回る事で手一杯のように見えるのだがステラの剣の全てに反応し、遅れる事なくその全てを防いでいるのだ。

 

 

額に冷たい汗が浮かびながら、それでもステラは手を止めない。そして何度目かになる大剣の切り上げ、その時になってようやく彼女は何故一輝が防げているのかに気付いた。

 

 

一輝は受け止めていなかった。〝陰鉄〟で大剣を受け、完成には受け切らずに大剣の衝撃を利用して後ろに下がっている。ステラの攻撃で下がっているのでは無くて、ステラの攻撃を利用して下がっていた。

 

 

ここにきてステラはようやく一輝が技量で自分に優っていることに気がつく。いかに鋭く、強く打ち込もうとも一輝はそれを柔らかく受け流して滑るようにしてステラの間合いから逃げていく。どんな強風が吹き荒れようとも柳の枝が折れることが無いように、糠に釘を打っても無駄なように、ステラの剣は一輝には届かない。それを否定しようと更に力を込めて打ち込んでも結果は変わらない。ステラが攻め続けて押しているように見えながらも、その実は一輝がステラの攻撃をすべて封殺している。

 

 

「逃げるのだけは上手いのねッ!!」

 

 

苛立ちを隠さずに、それでいて恐れを隠すようにステラは一閃と共に叫んだ。そう、ステラは一輝に得体の知れない恐怖を感じていた。一輝のやっていることは受け切らずにステラの攻撃を利用して後ろに下がるという事。言うのは容易いが行うのは至難の技である。僅かでも力加減を、受ける角度を、タイミングを間違えれば一輝はその瞬間に粉砕されるか斬り伏せられるかのどちらかか待ち受けている綱渡り、それを一輝は顔色一つ変えずに平然とやってのけているのだから。

 

 

「なら、攻めようかーーー」

 

 

無言だった一輝がそう呟くのと同時に攻勢に転じた。それは紛う事なき自殺行為。いくら一輝がステラに技量で勝ろうとも圧倒的な攻撃力を有する重戦車の相手が出来るはずがない。

 

 

しかし、彼はその不可能を踏破する。

 

 

「く、ぅッ!?」

 

 

一輝が振るう日本刀を防ぐステラが徐々に後退しているのだ。基本スペックはステラの方が優っている以上、一輝の方が力が強いと言うことはあり得ない。すなわち、それ以外の要因でステラは押されているのだ。その理由をステラは即座に看破する。

 

 

一輝が振るう剣戟、その途中途中に自身が使っていたはずの皇室剣技(インペリアルアーツ)が見え隠れしている。反撃しようと力を込めた瞬間、それよりも先に一輝の日本刀が撃ち込まれてその反撃は封殺される。まるで未来予知を思わせる行動と自身が使っていたはずの皇室剣技(インペリアルアーツ)を取り入れた剣戟、それらがステラに焦りを与えて精神的な余裕を奪い去っていく。

 

 

「あり得ない……!!どうしてあなたが皇室剣技(それ)を使えるのよ!?まさか、この試合中にーーー」

 

「ーーーその通りだ。君の剣技、()()()()()()()()()

 

 

問いかけの最中にステラの脳裏に浮かんだ最悪の可能性、それを一輝は誇るのでも嘲笑うのでも無く淡々と肯定した。武術には見稽古というその名の通りに見て習う稽古がある。一輝がやった事を簡単に言えばその見稽古でステラの皇室剣技(インペリアルアーツ)を学んだのだ。しかし、それは説明するまでもなく異常なことである。見稽古は見る事に集中しているから出来る稽古である。間違っても試合中に出来るような事ではないし、ましてやそれと平行して自身の動きに取り入れる事など不可能である。

 

 

それを一輝はやってのけた。一輝は父親から何もするなと言い渡されていない者として扱われるようになったその日から誰からも何も教えられなくなった。黒鉄龍馬に憧れて彼のようになりたいと剣を習おうとしてもそれは変わらなかった。だから出来る事を……見る事を続けた。黒鉄の門弟たちが剣を振るう姿を隠れて観察し、それを脳裏に刻み込んで教材とし、誰にも見つからないように隠れて剣を振るった。そんな事を続けた結果、一輝は大抵の剣術ならば一分も打ち合えばその全てを理解する事が出来るようになったのだ。

 

 

そして一輝は敵の剣術の上位互換となる剣術を作れるようになり、破軍学園に入学したのだがそこで再会した友人である不知火にそんな物真似をして楽しいのか? と問われて自分が剣術を侮辱しているのでは無いかと思うようになった。それからすぐに不知火は停学してしまったのでその後のことは彼は知らないのだが、一輝は自分を改めたのだ。

 

 

そうして出来上がったのがこれだ。相手の剣術を理解し、優れた点を己の剣術の中に取り入れる。一輝だけの剣術〝合成剣技(キメラブレイド)〟。敵対者の剣術が優れていれば優れている程に一輝の剣術は進化し、全てを見通す照魔鏡が如く洞察力にて全てを暴かれているので封殺する事も容易い。

 

 

そして一輝の反撃が始まった。ステラは反撃を試みようとするが一輝により全てを暴かれているのでその動作の起こりから封殺されてしまい防御に回ることしか出来ない。そもそもたった数分の打ち合いでこれまで自分が研鑽を積み重ねてきた剣術を奪われたステラは、冷静を保てる程に精神は成熟していない。ステラが押されている事に観客たちはどよめいているが、一番混乱しているのはステラだ。

 

 

その混乱を一輝の眼は見逃さない。僅かに握りが甘くなった事を見抜いて〝陰鉄〟を振り抜いて大剣を弾き飛ばす。武器を失い無防備になったステラに目掛け、一輝は〝陰鉄〟の刃を振り下ろしーーー不自然な位置で止まった。

 

 

「はぁ……やっぱりこうなるのか」

 

 

目の前の結果は予想されていた事なので驚愕を見せず、どこか納得した様子で一輝はステラから飛び退いて距離を取った。そう、この結果は分かり切っていた結果だった。〝伐刀者(ブレイザー)〟はその身体に魔力を纏い、その魔力は鎧の役割を果たす。それ故に魔力を纏う〝伐刀者(ブレイザー)〟は魔力の纏った攻撃でなければ倒せない。つま。、一輝の魔力ではステラの魔力を貫けない。だから不自然な位置で止まったのだ。

 

 

「……皮肉な事ね。私が才能だけの人間じゃないって思い知らせるために剣術で挑んだっていうのに、結局は才能に救われるだなんて」

 

 

才能……そう、才能なのだ。総魔力(オーラ)量は生まれた時から決まっており、努力云々で伸ばせるものではないのだ。それは一種の天賦の才と呼べる物。

 

 

「認めてあげる。アタシが貴方に勝てたのはアタシの才能のお陰だって。剣士としてアタシは間違いなく貴方に負けている……だから、〝伐刀者(ブレイザー)〟としてこの試合には勝たせてもらうわ」

 

 

一輝が努力をしてここまで強くなった事を認め、そして自分は一輝に剣で負けた事を認め……しかし、試合には〝伐刀者(ブレイザー)〟として勝つと宣言してステラは最大限の敬意を持って一輝を倒す事を誓う。

 

 

「ーーー蒼天穿て、煉獄の焔」

 

 

ステラが〝妃竜の罪剣(レーヴァテイン)〟を掲げた瞬間、纏っていた炎がその光度と温度を一層猛らせる。そのあり方は炎という枠組みから逸脱し、光の柱。ドームの天井を溶かし貫き、100メートルを超える光の刃と成る。

 

 

「やれやれ、それは人1人を倒すような技ではないだろうに」

 

「それ程までに一輝の事を認めたって事だろ?にしてもド派手なのは良いがまだ荒削りだな。いや、荒削りであそこまで行っている事を褒めるべきか?」

 

「そんな事よりも逃げなくても良いの!?コレって余波だけでも死ねるやつだよね!?」

 

 

観客たちが逃げ惑う観客席の中で不知火たちは平然としていた。絢瀬だけは観客たちのように逃げるべきでは無いのかと焦っている。試合では〝固有霊装(デバイス)〟は幻想形態と呼ばれる人間に対してのみ物理的なダメージを与えず、体力を直接削り取る形態で召喚されていた。しかしそれでも異能にまで制限が掛かっている訳ではない。例え幻想形態だとしても、あの炎は人を焼き殺す事が出来る。

 

 

「馬鹿、ここには俺たちがいるんだぞ?余波どころか直撃が来ても余裕で耐えられる。寧ろここが一番安全だ……おう、働けよロリータ」

 

「一働き一ベッドで」

 

「ゴメン、俺がどうにかするから無しで」

 

「ガッデム」

 

 

不知火と寧音のやり取りで絢瀬は冷静さを取り戻し、不知火の言葉に納得して観客席に座り直す。それでも怖いのか、先よりも不知火に近づいているが。

 

 

「終わりよ。足掻かずに敗北を受け入れなさい」

 

 

光の刃が振り下ろされる間際にステラの口から出た言葉には尊敬と憐れみが込められていた。

 

 

尊敬は一輝の努力を讃えて。 彼ならば魔導騎士以外のどの分野でも成功を収めることが出来ただろうと。

 

 

憐れみは一輝の選んだ道を悲しんで。彼が選んだのはよりにもよって致命的に才能に恵まれなかった魔導騎士の道だから。

 

 

「〝天壌焼き焦がす竜王の焔(カルサリティオ・サラマンドラ)〟ーーー!!」

 

 

絶対的な才能を持って一輝に敗北を与えるべく、終の太刀が振り下ろされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自身に滅びを与える光の剣を前にしても一輝は引かなかった。

 

 

自分に魔導騎士の才能が無いことなど、彼自身が一番理解している。

 

 

それでも、目指すのだ。

 

 

自分が憧れた彼のような……誰かの背中を押してあげられるような人間になりたいから。

 

 

才能を理由に諦めなくても良いんだと、自分と同じ境遇の者たちに知ってほしいから。

 

 

故に一輝は絶対の滅びを前にして一歩も引かずーーー光の剣に飲み込まれた。

 

 

 






戦闘シーンは三人称で。戦闘中にダラダラ喋るのは嫌いじゃないけどあり得ないから、三人称の地の文で説明出来るし。

一輝君、超絶強化。修羅ヌイと関わってる時点で原作通りの強さなんてあり得ないんだよなぁって思いながら〝模倣剣技(ブレイドスティール)〟が凶悪な進化を果たしました。これでよくあるアンチで叩かれるような理由は無くなったな!!

なんかヌルリヌルリとランキングに上がってることに驚きを隠せない。お気に入りが1日で270も増えるってなんなのさ。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。