英雄伝説 時幻の軌跡   作:にこにこみ

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タグにオリキャラを追加しました。

よくオリキャラは不評になりがちですが、変にならないように頑張ってみます。

よく考えればラウラズが出てきた時点でタグに載せるべきでしたね。


97話 アインヘリアル小要塞

ミハイル少佐の案内で学院の裏手に向かい……そこで巨大な鉄の立方体のような建造物と対面した。

 

「わああっ……! すごい、設計図で見た以上だよ……!」

 

(相変わらずだなぁ……)

 

立方体の建造物を見て金髪の少女は感激し、そんな反応を見ていたレトは苦笑する。 そして心の中で(さて……)と言いながら首を回して背後を見る。

 

ソフィーは何か閃いたようで、メモ帳に羽根ペンを走らせ。 紺色髪の少年は先程、オーレリアに目覚めの一撃をもらい、仕切りに頭の上をさすっていた。 夜色の髪の少女は呆然と建造物を見上げている。

 

「現在、戦術科と主計科はそれぞれ入学オリエンテーションを行なっているが……VII組・特務科には入学時の実力テストとしてこの小要塞を攻略してもらう」

 

ミハイル少佐がレトとリィン、そして6名の新入生に対してそのような指示を出す。

 

「………………」

 

「こ、攻略……?」

 

「何やらせる気なんだ?」

 

「そもそもこの建物は一体……」

 

何故自分たちだけこの様な事をやらせるのか、この建物は何なのか……彼らの疑問は多かった。 その一つを少し面倒そうに、軽くシュミット博士が説明を始める。

 

「アインヘリアル小要塞——第IIと合わせて建設させた実験用の特殊訓練実施設だ。 内部は導力機構による可変式で、難易度の設定も思うがまま——敵性対象として、()()()()も多数放たれている」

 

「な……!?」

 

「ま、魔獣——冗談でしょ!?」

 

「へぇ?」

 

(素材を採りにいくのが楽になるかも)

 

魔獣が放たれている事に驚きを見せる者もいれば、好奇心が出てくる者や別方面の考え方をしている者も出てくる。

 

「……なるほど。 《VII組》、そして《特務科》。 思わせぶりなその名を実感させる入学オリエンテーションですか。 新米教官の実力テストを兼ねた」

 

「フッ、話が早くて助かる。 と言っても、かつて君たちがいた《VII組》とは別物と思うことだ。 教官である君たちが率いることで目的を達成する特務小隊——そういった表現が妥当だろう」

 

「なるほど……それで」

 

納得したリィンは隣にいた銀髪の少女に視線を向けると、視線に気付いた少女は露骨に顔を逸らす。

 

「ま、何にせよ。 これがVII組の始まりと言うなら、特に断る理由もありません。 思惑が何であれ、ね」

 

「あまり勘繰らない方がいい」

 

にべもなく返すミハイル少佐に、レトはそれ以上聞かない体を示すように肩をすくめる。

 

「ちょ、ちょっと待ってください!」

 

すると、そこでピンク髪の少女が申し出てきた。

 

「黙ってついてきたら勝手なことをペラペラと……そんな事を……ううん、こんなクラスに所属するなんて一言も聞いていませんよ!?」

 

「適性と選抜の結果だ。 クロフォード候補生。 不満ならば荷物をまとめて軍警学校に戻っても構わんが?」

 

「まあ、こんなクラスでもあんなクラスでも、全員がどのクラスに所属するなんて知らないはずだよな?」

 

「くっ……」

 

紺色髪の少年が正論を言い、ピンク髪の少女は悔しそうな顔をして黙ってしまう。

 

「……納得はしていませんが、状況は理解しました。 それで、自分たちはどうすれば?」

 

「全員で攻略するのですか?」

 

「ああ——クロフォード、ヴァンダール、オライオン……以下3名はシュバルツァーと。 リーニエ、ウォン、エルメス……以下3名はイルビスと隊を組み、小要塞内部に入りしばし待機」

 

そう説明しながらミハイル少佐はリィンとレトにそれぞれ4つのマスタークォーツを渡した。

 

「その間、各自情報交換と、両教官には候補生にアークスIIの指南をしてもらいたい」

 

「——了解しました」

 

「了解です」

 

「フン、これでようやく稼働テストが出来るか」

 

少し待ち遠しかったのだろう、シュミット博士は何時ものごとく、怒ってはいないだろうが怒鳴り声のような声を上げる。

 

「グズグズするな、弟子候補! 10分で準備してもらうぞ!」

 

「は、はいっ!」

 

さっさと行ってしまうシュミット博士を、少女は駆け足で慌てて追いかけるのだった。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

アインヘリアル小要塞内はほぼ全てが金属で作られおり、微かに駆動音と振動が、この要塞が現代的だと思わされる。

 

シュミット博士と金髪の少女が奥の管制室で準備を進める中……リィンとレトは二手に分かれ、指定された場所で待機していた。

 

「完全オートマチックな実験施設か……相変わらずやる事が大きいな」

 

「かなり地下にも足を伸ばしているようですね。 加えて、霊脈などにも干渉しているみたいです」

 

「機械の権威っぽいのにオカルトにも詳しいのか? 流石に意味がわからないな」

 

「えーっと……もしかして、皆さんはお知り合いなのですか?」

 

「この子たちを推薦したのは僕だからね」

 

夜色の髪の少女が驚いたような顔をし。 レトは弟子の間に立ち、両手をポンと2人の頭に手を置く。

 

「さて、先ずは自己紹介をしよう。 と言っても、2人は知っているだろうけど、知らない子のためにね——僕はレト・イルビス。 トールズ士官学院・本校出身で、卒業後……考古学者としてカルバード共和国で調査を行っていた。 この分校には縁あって教官を務めさせてもらっている。 もしかしたら色々と知っているとは思うけど、ここでは君たちの教官として接して貰えると助かるよ」

 

「は、はい。 かの《緋色の騎士》の元で指導を受けられるなんて……!」

 

夜色の髪の少女は慌てるように礼をする中、残りの2人は特に無反応だった。

 

「まあ、あたしたちにとってはいつも通りだね」

 

「ああ。 むしろ前以上に密な指導を受けられるかもしれないな」

 

「そうだね。 ……錬金術以外は……」

 

同意をしてからの落ち込みようのソフィーに、レトは苦笑する。

 

「武術・戦術教練の担当、座学は化学・物理を教えることになっている。 《VII組・特務科》の副教官を務めることになるみたいだから、よろしくお願いするよ」

 

「は、はい」

 

「——それじゃあ、次は俺が」

 

次に紺色の髪に燃えるような黄色い眼をした少年が一歩前に出る。

 

「シンラ・ウォン。 カルバード共和国のアンカーヴィル出身だ。 この分校の入学は師匠の……レト教官の推薦で入った。 色々国同士であるとは思うが、そこに一個人が当てはまらない。 そう思っている」

 

その自己紹介に、夜色の髪の少女は思い出した様に顔を上げる。

 

「アンカーヴィル……《陽溜まりのアニエス》の舞台になった街ですね」

 

「あー、やっぱりそれが有名か。 まあ、結構いい街だよ?」

 

なぜ疑問形になったのかが不思議だが、続いてソフィーが元気よく手をあげる。

 

「あたしはソフィー・リーニエって言います! カルバード共和国南部にある煌都ラングポートにある東方人街の出身です! ご先祖様はクロスベル出身みたいだったんですけど、移民で共和国に。 相方のヘイス共々、よろしくお願いしますっ!」

 

「ワン!」

 

ソフィーの自己紹介と同時に、ソフィーのコート下からヘイスが出てきた。

 

「きゃっ! い、犬?」

 

「というかどっから出てきたんだ?」

 

ソフィーは素材の採取を行う際の入れ物が少し(?)変わっており、見た目以上の物が入る……らしい。 そんなことはいざ知らず、ヘイスはちょこんとお座りをする。

 

「お2人とも、カルバード出身なんですね」

 

「まあ、普通は疑われるかもしれないけど……私たちは共和国の政府や軍とは無関係だよ。 シンラが言ったように、国と個人は関係ないんだ。 それが理解出来るのは、とても難しいけど」

 

「そう、ですね……」

 

二大国の現状を考えれば不安になるのも当然だが、

 

「2人の身分は僕が保証している。 あまり安心は出来ないかもしれないが……」

 

「いえ、大丈夫です。 私個人としても、そう言ったいざこざや確執にはあまり興味がありませんし」

 

彼女は気にしてはいないと言っているが、それでも一度、非礼を謝罪するように一礼する。

 

「ルキア・エルメスです。 帝都南部、パルム出身です。 どうぞよろしくお願いします」

 

「パルムの…………あ! 思い出した! 確か2年前の」

 

「はい。 あの時は父共々、大変お世話になりました」

 

ルキアはレトに御礼のお辞儀をする。

 

「あれ、お知り合いだったんですか?」

 

「昔に少しね。 その時に初めて会った以来だから、顔を合わせても分からなかったよ」

 

「髪の色が違ってたので人違いだったら……と心配していましたが、あってすぐに思い出せました。 レト教官は色んな意味で有名ですし」

 

「えーっと、確か……《緋の騎士》とか、《叢雨の剣帝》とか、《奇跡の皇子》とか……そんな肩書きを持ってたんでしたっけ?」

 

「緋はアイツで、剣帝は……アレを見たらな……」

 

「……そうだね。 まさしく天災というか……」

 

「……何があったのですか……!?」

 

目を逸らしながら言葉を濁しあまり多くを語ろうとしない2人に、ルキアは恐怖を覚える。

 

「コホン。 まあ、一応ある程度知る通り、僕は皇族に属する者だ。 けど、ここにいるのはあくまでも第II分校の教官、レト・イルビスだ。 そこの所は間違えないでおいてね」

 

「はい!」

 

「はいよー」

 

「分かりました」

 

『お、お待たせしました!』

 

自己紹介も終わった丁度その時、天井付近に取り付けられていた拡声器から少女の声が響いてきた。

 

『アインヘル訓練要塞、LV0セッティング完了です! 《アークスII》の準備がまだならお願いします!』

 

(8分30秒……腕を上げたね、ティータ)

 

レトはアークスIIの時計を見ながら彼女の成長を自分の事のように嬉しくなる。

 

「じゃあ早速——みんな、これは入学時に送られて、持ってきているね?」

 

そのままレトは手の平サイズの導力機……戦術オーブメント《アークスII》を3人に見せる。

 

「はい。 あります」

 

「新型オーブメントとはかなり違いますね」

 

「戦術オーブメント——所持者と連動して様々な機能を発揮する端末。 基本は今までの戦術オーブメントと同じ効果を持っているんだけど……このアークスIIには更に追加機能が搭載されている」

 

掻い摘んで説明をし、3人は少し驚きながら手元にあるアークスIIに視線を寄せる。

 

「なるほど……新機能は気になるが、オーブメントと通信機をくっ付けた訳か」

 

「……あ。 このスロットじゃあ今までのクォーツがはめられない。 ううっ、苦労して集めたのに……」

 

「はは。 戦術オーブメントを使う以上、お互いそういう苦労は絶えないだろうね。 けど、それに割りに会うだけの性能は持っている。 次に、君たちにこれを渡しておく」

 

そう言ってレトは先程ミハイル少佐から渡された《マスタークォーツ》を3人に分配した。

 

ソフィーは幻のマスタークォーツ《パンドラ》。

シンラは空のマスタークォーツ《エンブレム》。

ルキアは風のマスタークォーツ《オベロン》。

自身には時のマスタークォーツ《グングニル》を、開いた《アークスII》の下部にあるクォーツ盤の中央のスロットにそれぞれがはめ込んだ。

 

すると、アークスIIと共鳴して4人の身体が青白く淡く光出した。

 

「わわっ!?」

 

「この淡い光は……」

 

「アークスIIと君たちがリンクしたんだ。 これで身体能力が強化されて、アーツも使えるようになる」

 

「変な感覚……けど嫌じゃない。 前のオーブメントより繋がりが強く感じられるような……」

 

『——フン、準備は済んだか』

 

見計らっていたのか、ちょうどアークスIIとの同期が終わった時に不機嫌そうなシュミット博士が声をかけてくる。

 

「シュミット博士。 ええ、いつでも行けます」

 

『ならばとっとと始めるぞ。 LV0のスタート地点はB1、地上に辿り着けばクリアとする』

 

「了解しました。 奥に見えるエレベーターから降りるんですか?」

 

『は、博士……? その赤いレバーって……』

 

レトが奥にあるエレベーターに乗って降りるのかと質問すると……拡声器から少女の困惑した声が聞こえてきた。

 

『ダ、ダメですよ〜! そんなのいきなり使ったら!』

 

『ええい、ラッセルの孫のくせに常識人ぶるんじゃない……!』

 

(その通り……)

 

心外にもレトはシュミット博士の言葉に同意してしまう。

 

『——それでは見せてもらうぞ。 《VII組・特務科》とやら。 この試験区画を、基準値以上でクリアできるかどうかを——!』

 

「もしかして……!」

 

「みんな、足元に気をつけろ!」

 

始まりを知るレトとリィンがシュミット博士がこれからやろうとしている事を察した、次の瞬間……ガコンッと、室内の二箇所で床が斜めに落ちた。

 

「え——」

 

「なっ……!?」

 

「お……」

 

「落し穴!?」

 

「きゃあっ!!」

 

ほんの一瞬の浮遊の後、殆どの生徒が地下に向かって滑り落ちる。

 

「落ち着いて、ゆっくりと流れに身を任せるんだ」

 

滑り落ちる生徒たちをフォローの声をかけながら、レトは上を向き声を上げる。

 

「リィン、気をつけてね!」

 

「ああ、お互いに教官として、生徒たちを導いて行こう!」

 

新米教官として、友人として互いに激励を受け取り、レトはスルスルと坂を滑り落ちて行く。

 


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