翌日、4月1日——
「ここがリーヴス……」
帝都のホテル(本人は実家や宿屋でもよかったが、ソフィーが気後れしたため間をとって。 それでソフィーは部屋に入る時もカチコチに緊張していた)で一泊した後、朝早くの列車で帝都西の近郊にあるリーヴスに到着した。
ソフィーは新しい紺色の第II分校の制服の上に、さらにいつも着ている紺色のコートを羽織っている。
(あの人たちが手放なさざれるえなかった街、か……とても良い街なのに)
「のどかな町だねー」
「ワン!」
素直な感想を述べるソフィーにヘイスが一鳴きして応える。
レトはある事情を知るため、少し悲しい気分になるが……同時にトリスタと比べればライノの木の数は少ないが、どことなく似た箇所もあるため、この街にどこか懐かしさを感じ、感傷に浸る。
街の奥には真新しい建物もあり、レトたちはそこに用があった。
「それじゃあ僕は教員の集まりに向かうから、ソフィーは荷物を寮に置いてきたら校庭に。 あの子がいたらよろしく伝えておいて」
「分っかりました!」
ソフィーはリュックを背負い直し、駆け足で寮に向かった。 レトも続いて目的の場所に向かおうとすると……視界の隅に見覚えのある小さな背丈の少女が映った。
「……あれ? トワ会長?」
「え……? もしかして……レト、君?」
半疑のまま恐る恐るその名を呼びと……振り返ったのは、白い教官服を着たトワ・ハーシェルだった。
「やっぱりトワ会長だ。 久しぶりですね」
「本当だよー! カルバードに行ったって聞いてから殆ど音沙汰なしで……心配したんだからね!」
「うーん、色々あって定期的な連絡が出来なくなってしまいましたからね。 まあこうしてまた会えたからいいじゃないですか」
「もう……」
あまり悪びれる気がないレトにトワは膨れっ面になる。
「その格好から察するに、トワ会長もこの先の新設校に?」
「あはは、もう私は会長じゃないよ。 レト君の言う通り、この先にある第IIの、って……あれ? ならレト君ももしかして?」
「ええ、まあ。 色々と理由や役職を付けて、なんとか」
あははと頭をかきながら笑うとレト。 するとトワはレトを見た後、辺りをキョロキョロと見回す。
「そういえばルーシェちゃんは? 姿が見えないけど……」
「ルーシェは今は離宮にいます。 近々ここに来る予定ですけど」
「わぁ、本当? 久しぶりにあのモフモフを楽しみたいなぁ」
「——レト!」
と、そこへ駅からレトを呼ぶ青年の声が聞こえて来た。 振り返ると、そこには2人と似た白い教官服を着ている黒髪の青年が立っていた。
「……もしかして……」
「や、リィン」
彼を見てソワソワし出すトワ。 レトが彼の名を呼ぶと、パアッと笑顔になる。
「わぁ、やっぱりリィン君だ!」
「え……もしかして、トワ会長ですか!?」
トワはとてとてとリィンに近寄り、ジロジロと彼の身体を見回す、ら
「はぁ〜っ……大人っぽくなったねぇ! 見違えちゃったっよー」
「お久しぶりです。 トワ会長は……あまりお変わりないようで、少し安心しました」
「むっ……それどう言う意味かなぁ?」
トワは少しだけ膨れっ面になる。 さらにリィンはまくし立てるようにレトに詰め寄る。
「それとレト! 今まで何の連絡もなかったのに、いきなり帰って来たと思ったら——」
「あー、はいはい。 こっちにも事情があったの」
レトはリィンのお叱りから顔を背けて、明後日の方向を向く。
「はぁ、詳しいことは後で聞くとして、レト……もしかして、トワ会長も?」
「そうらしいよ。 でもその話はまた後で……そろそろ時間だし、歩きながら話そうか」
この後の予定もあるため、3人はリーヴスの街を歩きながら久しぶりに言葉を交わす。
「はあ……まさか会長も同じ就職先だったなんて」
「ふふっ、ごめんね。 わたしの方は知ってたけど。 でも、リィン君の方だってある程度は聞いてると思ってたよ。 むしろレト君の方が不意打ちで驚いちゃったくらい」
「いえ、卒業の前後に色々とゴタゴタがありまして……」
「僕もその騒ぎの中に入っていましたし……トワ会長もご存知ですよね?」
「……うん、勿論。 わたしがこの街に来たのもそれが理由の一つだったし。 リィン君が同じ道を選んだのは嬉しいサプライズだったけど」
そこでトワは不思議そうな顔をして、レトの方を見る。
「そういえばレト君はどうしてここを選んだの? 色々と複雑な事情があるのは知っているけど……レト君ならそのまま考古学者や帝國学術院の方でも良かったんじゃないのかな?」
「それもありましたが、それだとあまり自由に各地には行きづらい点が多いんですよ。 その点、ここならそれが少なからず解消される……まあ、リィンが誘ってくれ無かったら思いつきませんでしたけど」
「レトの唐突さや突拍子もない行動には慣れたつもりだったが……久しぶりに驚かされたよ」
トワは足を止め、2人の方に向き直る。
「改めてになるけど……リィン君、卒業おめでとう。 多分、それを言いたい人は他にも一杯いると思うけど。 ちょっとだけ、抜け駆けさせてもらうね」
「……会長、ありがとうございます。 いや、もう会長は変ですか。 これからの事もありますし」
「『先輩』でいいんじゃないかな? トワ会長が先に赴任していて、僕たちは新任だし」
「そうだな。 よろしくお願いします、トワ先輩」
「よろしく、トワ先輩」
「ふふっ、よろしくね。 リィン後輩、レト後輩」
3人は改めて自己紹介をし、再び歩き出す。
「トワ先輩。 これから向かう“職場”……実際どういう状態になっているんですか?」
「うん……2人がここを選んだ時に色々なことを言われたと思うんだけど。 多分、思っている以上に難しくて大変な“職場”だと思う」
「そうですか……」
「色々な思惑が、この先に待っている訳ですか」
レトは前を向き軽く顔を上げると、進行方向の少し先に真新しい建物が見えてくる。
「“同僚”の方々とは一通り?」
「うん、もう挨拶して2人が最後になるかな。 これから紹介するけど……その、心を強く持っててね?」
「…………なんだか胃がキリキリしてきそうなんですが」
「何が来てもドンと構えていればいいよ。 予想外なら驚けばいいだけだし」
「……フォローになってないぞ」
レトの楽観的な考えに、リィンは少し溜息をつきながら頭を抑える。
「だ、大丈夫、大丈夫! わたしだって同じ立場なんだから! 同じトールズの卒業生として、力を合わせて乗り越えていこうね!」
「ふう……了解です」
「はい。 ——お、見えてきた」
「あれが……」
目的地の前にたどり着き、足を止めて見上げる。 トールズ士官学院・第II分校……門の左右には青い有角の獅子のエンブレムが飾られている。
「……デザインは違っても、同じ《有角の獅子紋》ですか」
「うん、わたしたちの新たな“職場”の正門……」
するとトワは一歩前に踏み出し、向き直って2人の前に立つと……
「ようこそ、リィン君、レト君。 ここリーヴスに新たに発足する、《トールズ士官学院・第II分校》へ——!」
◆ ◆ ◆
レトとリィンはトワに第II分校の本校舎、軍略会議室まで案内された。
「——よく来たな。 リィン・シュバルツァー君。 そして、
会議室内にはレトたちの同僚となる2人の男性教官が先に待っていた。 1人は軍帽を模した帽子を被っている金髪の男性、もう1人はレトたちの教官服と似た白いジャケットを着た赤髪の青年。
「鉄道憲兵隊所属、ミハイル・アーヴィングだ。 出向という形ではあるが、本分校の主任教官を務める予定だ」
「あ……」
「なるほど」
鉄道憲兵隊……今のところ彼がここにいる詳しい理由は不明だが、あまりこちらに利があるような理由ではないのは確かだろう。
「ハハッ、まさかこんな所で噂の人物にお目にかかれるとはな」
次に赤髪の青年が自己紹介をする。
「ランドルフ・オルランド。 帝国軍・クロスベル方面隊からの出向だ。 《灰の騎士》の名前はあちこちで聞いてるよ、せいぜいお手柔らかに頼むぜ」
「………………」
「レト・イルビス。 訳あってこの度は第II分校で教鞭をとらせて頂く事になりました。 本分校の
リィンが思う所があるのか、無言のまま。 流石にこのままではまずいと思いレトが先に自己紹介をする。
「それとお久しぶりですね、ランドルフさん」
「おう。 まさかお互いにこんな場所で、こんな形で再開する事になるとはな」
「あれ? お2人はお知り合いだったのですか?」
「会ったのは1回だけ、顔見知り程度だがな」
「まあ、忘れられない出会いだったのには違い無さそうですけど——ほら、リィン」
レトは肘でリィンを小突き、気を取り直したリィンが自己紹介を行う。
「リィン・シュバルツァー。 この春、トールズ士官学院の《本校》を卒業したばかりの若輩者です。 よろしくお願いします、ミハイル少佐、ランドルフ中尉も」
「ああ、こちらこそ。 《灰色の騎士》の勇名——共に働けることを光栄に思う。 だが、ここで求められるのは《騎神》による英雄的行為ではない。 教官としての適性と将来性、遠慮なく見極めさせてもらおう」
「……肝に命じます」
「《緋色の騎士》レト・イルビス……君の希望もあり、敬うことはまずない。 シュバルツァー同様、同じ立場で見極めさせてもらう」
「ええ、それで構いません。 ここにいるのはレト・イルビスです。 お間違い無きよう」
ミハイルが求めているのは理想ではなく現実……むしろその方が気楽だとレトは思った。
「と、とにかくこれで《教官》は全員揃いましたね! 少佐、ランドルフ教官も改めてよろしくお願いします!」
「ああ、君には遠慮なく期待させてもらうつもりだ。 卒業時の鉄道憲兵隊の勧誘——蹴ってくれた埋め合わせの意味でもな」
「あ、あはは……ご存知だったんですか」
(意趣返しされる程優秀だからね……共和国でもそこそこ知られてるし)
トワはトールズ本校在学時も《西ゼムリア通商会議》に同行できる程優秀だった。 その方面ではかなり有名なのだろう。
その間、ランドルフがお約束のようにトワの見た目と年齢の違いに驚く中……リィンが室内をもう一度見回す。
「教官が5名……予想通り少ないですね。 このメンバーで一通りのカリキュラムを?」
「ああ、学生数も少ないし、何とかやりくりするしかあるまい。 平時の座学に訓練、それ以外の細々とした業務も行ってもらう。 ……まあ、特別顧問や分校長にも、一部手伝っていただくつもりだが」
「特別顧問……?」
「特別顧問、それに分校長……その方々は、今どちらに?」
「それは……」
その問いに珍しくトワは言葉を濁し、ランディは頭をかきながら苦笑いする。
「いや、なんつーか……帝国ってのは広いというか。 まさかあんな強烈な人間がこの世にいるなんてなぁ」
「へ……」
「あ、あはは……その、驚かないでね? 実は2人とも面識のある方なんだけど……」
「———!? (この僅かに感じる闘気は!)」
「——フフ、待たせたな」
唐突に感じ取れた殺気ともとれる気迫に身を震わせ、同時に会議室の扉が開き……その場にいるだけでも圧を放っているような銀髪の女性と、常時不機嫌そうな老人とが入室した。
「フン……何を腑抜けた顔をしている。 あの内戦以来になるが、私の顔を覚えていないのか? まあ、こちらは一向に構わんが」
老人の名はG・シュミット博士。 帝国随一の頭脳と謳われる導力工学者にしてラッセル博士、ハミルトン博士と並ぶ「三高弟」の一人。 ただし、かなりマッドな性格をしている。
「い、いえ……お久しぶりです、シュミット博士。 ヴァリマールの太刀の製作——あの時は本当にお世話になりました」
「礼は無用と言ったはずだ。 ——特別顧問という肩書きだが、私は自分の研究にしか興味はない。 せいぜい役に立ってもらうぞ」
腕を組みながら利用する気も隠さずそう言い、次にシュミット博士はレトの方を見る。
「それで、お前はいつまでその腑抜け面を続ける気だ?」
「………………」
「レト?」
「……しょ……しょ……」
「ん?」
「——将軍かよおおおおぉーーっ!!」
オーレリアを見て出てきた第一声がそんな言葉だった。 そんなレトの反応を見たオーレリアは苦笑する。
「今はもう将軍ではない。 この身は既に敗軍の将……改めてになるが、晴れて教官になるそなたら全員に名乗らせてもらおう。 オーレリア・ルグィン——これより《トールズ第II分校》の分校長を務めさせてもらう」
オーレリアの自己紹介に、改めてレトとリィンは驚きを超えて呆然としてしまう。
「一体、どれだけこの学院に色んなものを詰め込んでいるのやら」
「……色々な思惑が目で目視できるみたいだ……」
「あ、あはは……」
衝撃的すぎて言葉も出ず、ミハイルが軽く咳をして話を変える。
「——分校長。 そろそろ定刻ですがいかが致しますか?」
「うむ、始めるとしよう。 ハーシェル。 雛鳥たちをグラウンドへ」
「は、はい。 2人とも、後でね」
トワは一足先に会議室を後にする。 それに続き他の面々も出て行く中、リィンとレト、オーレリアがその場に残る。
「えっと……?」
「フフ……これより第IIの新入生全員への入学式を兼ねた挨拶がある」
「そ、そうだったんですか!?」
「んー? そんな連絡はどこにも……」
2人はこの学院の教官を務めるに当たり、送られた資料には日常しか記載されていなかった。 するとオーレリアはしてやったように笑う。
「クク、そなたらには何も伝えず日時だけを指定したからな。 他には、クラス分けと担当生徒との顔合わせもある。 灰と緋の騎士の気骨、せいぜい雛鳥たちに示すがよい」
言いたい事だけをいい、オーレリアも会議室を出て行く。 後に残された2人は少し疲れたように嘆息する。
「難しくて大変な職場……誇張でも何でもなさそうだな」
「こりゃ、生徒たちも癖が強そうかもね。 何だかんだ不安になってきた(まあ、最低でも顔見知りが2人はいるし、少しは楽かも)……って、何やってるの、リィン?」
いつの間かリィンは懐から眼鏡を取り出し、顔に掛けていた。 度は入っていないようで、伊達眼鏡のようだ。
「ああ、変装用の伊達眼鏡だ。 一応、用心して着けてみたんだが……」
「“分かりやすい特徴があれば、人はそちらに引き寄せられる”…………まあ、いいんじゃない?」
リィンの特徴と言えるべき点は黒髪……顔を隠す眼鏡ではあまり意味が無いと思うが、レトは「まあいいか」とスルーした。
◆ ◆ ◆
経費や建設時間の削減のためか、この第II分校には講堂がない。 だが確かに、入学式や文化祭、卒業式と言った行事にしか使わない場所など今のご時世では不用意なのだろうが、レトは少し寂しさを感じてしまう。
そして、23名の生徒がグラウンドに並んでいた。 その様子は三者三様……軽口を言う者、緊張する者、無言で立つ者と色々。 そこへ、本校舎からレトたち教員が歩いてきた。
生徒たちは教員の一部……リィンやレト、オーレリア。 彼らを知る者は驚愕し、騒めきだす。
「あ、さっきの。 それに……わぁ、久しぶりだなぁ。 髪は……染めたのかな? オリビエさんにそっくり」
制服の上にパーカーを着ている金髪の少女はリィンを見てから隣のレトを見ると、嬉しそうに微笑む。
「ククッ……マジかよ」
「ふふっ…………予想外、ですね」
金茶髪の少年とミント髪の少女はリィンとレトを見つけると、苦笑い気味に驚く。
「《灰色の騎士》……それに殿下まで……」
「…………うそ…………」
蒼灰髪の少年は複雑そうな顔をし。 ピンク髪の少女はリィンを見つけると、あり得ないと言うような顔をする。
「……………………」
この中で最年少と思われる銀髪の少女は横目で彼らを一瞥し、すぐに視線を元に戻す。
「あ、先生」
先程、レトと別れたソフィーはレトを見つけ……
「……………………(zzzz)」
その隣に立っていた紺色の髪の少年は……器用に目を開け、立ちながら寝ていた。
「……あの人は……」
夜色の髪の少女はレトを見つけると、思い出すように彼に視線を向ける。
リィンとトワは銀髪の少女を見つけると驚愕する中、レトはソフィーの隣に、もう1人の弟子の姿を見つける。
(あ。 いたいた…………ん? あの子は……)
その近くに見覚えのある夜色の髪をした少女がおり、レトは誰だか思い出せず首を軽くひねる。
「静粛に! 許可なく囀るな!」
レトたちが生徒たちの前に到着し、ミハイル少佐が生徒たちを静かにさせる。
「これよりトールズ士官学院、《第II分校》の入学式を執り行う!」
第IIの入学式は他には見られない青空の下で行われるが、略式のため式辞と答辞は省略され。 早々とクラス分けが発表される。
《VIII組・戦術科》のランディと、《IX組・主計科》のトワが生徒の名前を読み上げ、呼ばれた生徒が2人の元に向かう。
(戦術科に主計科、か……まあいいか。 となると残るは……)
名前を呼ばれず、残された6名の生徒……ピンク髪と夜色の髪の生徒は困惑して両組をキョロキョロと見る。
「静粛に! これより本分校を預かる分校長からのお言葉がある!」
ミハイル少佐の一声でまた静まる中、残された6名……特に女子生徒2人らクラス分けを発表されないのことにさらに困惑する。
そんな事は当然置いておくオーレリアは「うむ」と答えながら生徒たちの前に出る。
「——第IIの分校長となったオーレリア・ルグィンである。 外国人もいるゆえ、この名を知る者、知らぬ者はそれぞれだろうが、一つだけ確と言える事がある。 薄々気付いている通り、この第II分校は“捨石”だ」
「ふえっ……!?」
「フン……?」
隠す気もないようで第II分校の現状をアッサリと話すオーレリア。 新入生たちかは動揺が広がり、教官陣も予想外の発言に驚愕する。 疑問を答えられる間も無く、オーレリアは続くて口を開く。
「本年度から皇太子を迎え、徹底改革される《トールズ本校》——そこで受け入れられない厄介者や曰く付きをまとめて使い潰すためのな。 そなたらも、そして私を含めた教官陣も同じであろう」
あまりに率直すぎるお言葉に、誰もが言葉も失ってしまう。 しかし、それを否定できる言葉は誰も持っていない。 だが事実であると、一部を除くこの場にいる本人たちが一番よく分かっている。
「ぶ、分校長! それはあまりに——」
「——だが、常在戦場という言葉がある。 平時で得難きその気風を学ぶには絶好の場所であるとも言えるだろう。 自らを高める覚悟無き者は……今、この場を去れ。 教練中に気を緩ませ、女神の元へ行きたくなければな」
この分校のメリットとデメリット、それを包み隠さず話した上で生徒たちに質問を投げかける。 しばしの沈黙……その間、誰も言葉を発さず、ただその場に立ち続けた。 彼らの答えに満足したオーレリアは微笑む。
「フフ——ならば、ようこそ《トールズ士官学院・第II分校》へ! 『若者よ、世の礎たれ——』かのドライケルス帝の言葉をもって、諸君を歓迎させてもらおう!」
波乱に満ちた入学式……始まりと同じように早々と閉会式が終わり、戦術科と主計科の教官と生徒たちが校舎に入って行く中……グラウンドには6名の生徒とリィンとレト、オーレリア、そしてシュミット博士ともう1人の生徒が残された。
「……って、なんか気迫に呑み込まれちゃったけど……」
「ああ……結局のところ、僕たちはどうすれば……」
「……………………」
「ど、どうなるんだろう?」
「…………(zzzz)」
「君には捨石とかそういうのは関係ないんだろうなぁ……」
残された生徒たちが置いてけぼりにされつつある中、ソフィーは羨ましそうに眠る少年の頬を突く。
「……将軍、いえ分校長。 そろそろ“クラス分け”の続きを発表していただけませんか?」
「まあ、こんな置いてけぼりは2年前を思い出しますけど」
「フフ、よかろう」
またしてやったような笑みを浮かべながら、オーレリアはリィンの質問に答える。
「——本分校の編成は、本校のI〜VI組に続く、VII〜IX組の3クラスとなる。 そなたら6名の所属は《VII組・特務科》——担当教官はその者、リィン・シュバルツァー。 補佐として、副教官はレト・イルビスとなる」
以前アンケートを取りましたが……愚問でしたね。 レトもVII組じゃないと、本当の意味でハブられる事になりますし。