英雄伝説 時幻の軌跡   作:にこにこみ

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以外にこの作品を見てくれる人がいて驚きました。 メインに書いている方がもう一個の作品の方ですからちょっと複雑ですが……

ともかく、もう一方の作品が一区切りついたので今後定期的に書いていきます。


9話 森林の主と氷の乙女

 

 

レト達は薄暗いルナリア自然公園を進み(途中、レトが風景を写真に収めながらも)。 しばらくすると、進行方向から話し声が聞こえてきた。 こんな街の喧騒から離れた静かな場所なので、より聞こえやすかった。

 

(いた……!)

 

(うーん、4人かぁ……荷物もあるようだし、現行犯逮捕にはなりそうだけど……)

 

(そうだね……って、レト、それなに?)

 

窃盗犯に見えないよう隠れ、聞こえないように声を潜めながらエリオットは隣にいたレトを見た。 彼は丸い筒に目を当て、それを通して窃盗犯を見ていた。

 

(ーー冒険7つの道具の一つ、望遠鏡。 これがあれば遠く離れた場所でもよく見える)

 

(じ、地味だね……)

 

エリオットは正直な感想を述べるも、レトは気にせず窃盗犯を観察する。

 

(7つの道具って言うけど……ブーメランも含めて残りの5つは何よ?)

 

(それは秘密)

 

(ふむ、私が知るのは鉤爪ロープと1つだな。 実はその1つは私が持っているのだがな)

 

(そうなのか? けど、それじゃあ7つの道具って言うのか?)

 

(はあ、まあいいわ。 気を取り直して……行くわよ?)

 

弓矢を構えるアリサの言葉に、全員無言で頷いた。 そして陰から出て……

 

「そこまでだ!!」

 

突入と同時にリインが叫び、窃盗犯の前に飛び出した。 突然の事に、窃盗犯は驚きを見せた。

 

「てめえらは昨日の……!?」

 

「ちゃ、ちゃんと門には鍵をかけたはずなのに……」

 

「まさか突破してきたのか!?」

 

「うむ、その通りだ」

 

「盗まれたものはちゃんとあるみたいですし……」

 

「この場合、現行犯逮捕が認められる状況なのかしら?」

 

「まあ、認められないなら……これを見せるだけだけど」

 

レトは導力カメラを取り出し、今し方撮られた窃盗犯4人と盗品が写っている画像を彼らに見えるようにみせた。

 

「くっ……」

 

「ここ最近になって画像も物的証拠として認められています。 大人しく投降してください」

 

言い逃れが出来ないとわかり、窃盗犯達は歪んだ表情をするが……銃を取り出し構えた。

 

「ハッ、やっちまうぞ!」

 

「所詮はガキ共だ! 痛い目に合わせてやれ!」

 

「お前らをここで潰せば問題ない!」

 

「覚悟してもらおうかッ!」

 

窃盗犯は意気揚々に銃を突き付けるが……レト達はあまり動揺していなかった。

 

「それは此方の台詞だな」

 

「見たところ……大した訓練も受けてなさそうだし……」

 

「アークスの戦術リンクを使えば……」

 

「この程度なら、簡単に制圧できるわ!」

 

「ああ、行くぞ!」

 

開始と同時に窃盗犯達は銃を乱射した。 特に狙いも付けず、4人での一斉射撃で方が着くと考えたのかだろう。

 

だが、レト達は発砲と同時にその場から離れて銃撃を避け。 アリサが牽制として矢を窃盗犯達の間を通過させた。

 

「うおっ!?」

 

「ちっ……」

 

それだけで彼らは動揺し、銃撃は止む。 その一瞬でレトとラウラは一気に距離を詰める。 レトは中央を突破し、槍を大きく振り回してアリサが開けた穴を広げ……

 

「はあっ!」

 

「ぐあっ!?」

 

ラウラが振り抜いた大剣が銃を破壊し、そのまま男を吹き飛ばした。

 

「このガキが!!」

 

「ーークロノドライブ!」

 

「せいっ!」

 

エリオットの補助によってリィンは加速し、一瞬で男がレトに向けられた銃を真っ二つに斬り裂き、峰打ちで制圧した。

 

それにより残りの2人の動揺は広がり……背後に回ったレトとアリサによってアッサリと制圧された。 やはり窃盗犯達の練度は低く、そこまで時間はかからなかった。

 

「弱ッ……」

 

「やれやれ、口ほどにもない連中だ」

 

「まあ、サラ教官の武術訓練に比べたらね」

 

「あはは、それ言えてるかも」

 

比較する対象もそこまで出来た人間ではないが……レト達は戦闘面では学ぶ事も多い事だけは分かっていた。

 

「ーー勝負はあった。 投稿して、大市の人達にきちんと謝罪してもらうぞ」

 

「そちらの盗難品も全て回収させてもらうわ」

 

「それと“誰”に頼まれたかも話してもらう必要がありそうだな?」

 

「さっきの会話の内容だと領邦軍ではなさそうだし……そこんところの背景、洗いざらい、ね」

 

レトは脅し気味に言うが、窃盗犯はまだ抵抗を見せる。 往生際悪く、口を割ろうとしない窃盗犯達を連行しようとした時……

 

………………ーー♪

 

「……?」

 

「今のは……」

 

エリオットとレトが何かを感じ取り、周囲を見回した。

 

「……エリオット、どうかしたのか?」

 

「なんか、笛みたいな音が聞こえた気がして……」

 

「僕も聞こえた。 方角はーー」

 

グアアアア……!!

 

レトが気になる方角を指差した時……突然、その方角から獣の咆哮が鳴り響いた。 急な事でレトは何事かと動揺するが……断続的に、しかし段々と大きくなる地鳴りによって気を取り戻し身構える。

 

「な、なんだよ今のは!?」

 

「何が……近付いてきてるの……!」

 

リィン達が驚いているように、窃盗犯達も驚倒している。 リィンが音の発生している方向に意識を向ける。地面を揺らし、木々を押し倒して現れたのは……

 

ガアァアーーーッッ!!

 

巨大なヒヒの魔獣……グルノージャ。 不自然に、この自然公園で出会ったどの魔獣よりも殺気立っており、明確な敵意をレト達に向けている。

 

「うわぁ……大きいなぁ……記念に一枚」

 

「あなたはこんな状況でもマイペースね!?」

 

「それがレトだ。 慣れるがよい」

 

グルノージャを前にし、レトは導力カメラを構えて写真を撮る。 それをラウラは諦めた顔をしてスルーする。

 

「さて、この自然公園のヌシといったところか……ーーどうする、リィン?」

 

ラウラの問いに、リィンは腰を抜かして地べたに座っている窃盗犯達を見やる。

 

自分達が先に制圧してしまった事もあるが、完全にグルノージャに怯えてしまっている。 退却しようにも彼らを見捨てる事は出来ず、かといってこの魔獣を前に彼らを連れて逃げ切れる保証はない……

 

「さすがに彼らを放り出すわけにもいかない……皆、なんとか撃退するぞ!!」

 

リィンは決断し、太刀に手を添えた。

 

「承知……!」

 

「わ、分かったわ……!」

 

「写真には収めた……行くよ!」

 

「女神様……どうかご加護を……!」

 

先導してリィンが太刀を抜くと、他のメンバーも武器を再び手に取る。

 

リィンとラウラが左翼、右翼に展開しての前衛、レトはその中間地点の中衛、アリサとエリオットは窃盗犯の護衛を含めて後衛という陣形を組んだ。

 

戦術リンクを発動し。 リィンとアリサ、レトとラウラにそれぞれリンクの光に繋がれる。

 

リィンとラウラは飛び出し、左右からグルノージャに接近する。 ほぼ同時に刃を振るうが……その硬い腕に防がれ、弾かれてしまう。

 

「やっ!!」

 

「アークス駆動……!」

 

横に移動しながら連続で矢を放ち、気を引きつけている隙にエリオットはオーブメントを駆動させる。

 

グルノージャがアリサの元に向かおうとすると……それを見計らってリィンとラウラが再び攻撃し、続いてレトが飛び出した。

 

「疾ッ!!」

 

一瞬で三段突き、そこから続けて跳躍……一回転して腕を斬りつけながら背後に回った。

 

「ーーハイドロカノン!」

 

アーツが発動し、強烈な激流が大砲のように発射された。 激流はグルノージャの腹部に直撃し、大きな強打を与えた。

 

だがグルノージャは鬱陶しそうに腕を振り、リィン達を振り払おうとする。 そして振られた腕がラウラに向けられ、回避が間に合わないと思った時……

 

「やらせない!」

 

レトがラウラ前に出て来て、槍を盾にしてグルノージャの一撃を受け止めた。 その重い一撃に少しよろめくが……その間にもグルノージャは迫って来る。

 

「させるか!」

 

すかさずリィンが紅葉切りを繰り出し、グルノージャの動きを遅らせ……

 

「はああ……!」

 

「皆……元気を出して!」

 

アリサがアークスを駆動し、エリオットが魔導杖を地面に突き立て、前に出ていた3人が優しい光に包まれた。 すると少しずつだが傷が治り始めた。

 

「ありがとう!」

 

「そなたに感謝を!」

 

「助かったよ!」

 

感謝の言葉を言いながらリィンとラウラは動き出し、グルノージャの攻撃を躱す。

 

「ゴルドスフィア!」

 

アリサの空のアーツが発動、グルノージャの周囲をまわるようにいくつも金色の球体が飛び交い……グルノージャに向かって飛来、直撃した。 するとグルノージャは目を擦る動作を取った。 ゴルドスフィアの副次的な効果で視界が見えなくなったようだ。

 

「今よ!」

 

「アルゼイドが秘剣……とくと見よ!」

 

それを狙い、ラウラが大剣を片手で持ち、もう片方の手で刀身に手を添え……光の刃により刀身が伸びる。 そして一気に距離を詰め……

 

「奥義・洸刃乱舞!!」

 

光を纏った大剣を大きく振りかぶり、グルノージャを何度も斬りつける。 そして最後の回転切りを真正面から受け、大きくのけぞる。

 

グルノージャは痛みの咆哮を上げながらも踏ん張り、自身の皮膚を固く硬化させながら再びレトに襲いかかる。

 

「ひとーつ!」

 

振られた右腕を跳躍して避け、落下と同時に斬りつけて数え……

 

「ふたーつ!」

 

回り込み、前に出るのと同時に左腕を斬りつけた。 すると、グルノージャは大きく口を開け……

 

グオオオオオオ!!

 

「ぐう……!」

 

「な、なんて音量だ……!」

 

まるで死を響かせるような咆哮。 それを体で示すかのように、背後の窃盗犯4人は揃って気絶していた。

 

「全く……情けないわね!」

 

「騒れるよりは良かろう」

 

続けて空気を震わせる雄叫びを上げながらグルノージャは右腕を振り上げ……耳を抑えていたレトに拳を振り下ろし、地面が凹んで土煙が舞い上がる。

 

「レト!!」

 

「そんな……」

 

「………………」

 

リィン達は最悪の事態を想像したが、ラウラだけが静かに見守っていた。 少しずつ土煙が晴れて行くと……

 

「っ……!」

 

槍を両手で持ち、グルノージャの拳を棒で受け止め、踏ん張りながら耐えている無傷なレトがいた。

 

「嘘っ!?」

 

「ーーはっ!!」

 

エリオットは思わず声を上げ、レトは一呼吸で拳を押し返した。 だが、グルノージャはレトに狙いをつけ続けて両腕を振るう。

 

「やっ! ほっ!」

 

それをレトは身を屈めたり、跳躍して躱す。 だがグルノージャは両腕を合わせ、拳を振り下ろす。 それをレトはバク転して避け、身を翻して走り出した。 グルノージャは手を握りしめ、ハンマーのように何度もレトを潰そうとするが……その度にレトは軽やかに躱し、舞い上がった岩を足場にして距離を取る。

 

「! あの目……」

 

背を向けて走りながら首を後ろに回してグルノージャの顔を見る。 その瞳には理性はなく、ただ本能で暴れているように見えるが……何者かがここに誘導したようにもレトは感じ取った。

 

グアアアアァァァァ!!

 

「ふっ……!」

 

槍を巧みに回し構えを取り、咆哮を上げながら突撃してきたグルノージャの顔の側面に突きを入れ、そして跳躍した勢いでそのまま頭上を飛び越え……その一撃により体勢を崩したグルノージャは顔面から地面に突っ込んだ。

 

「今だ!」

 

「クロノブレイク!」

 

「ーー焔よ……我が剣に集え!」

 

エリオットの時のアーツによってグルノージャのスピードは落ち。 その隙にリィンは刀身に手を添え……焔を纏わせる。 距離を詰め、二撃放った後太刀を両手で持ち上段に構え……

 

「ーー斬ッ!!!」

 

裂帛の気合いで振り下ろし、右肩から左脇腹へと容赦なく斬りつけられその軌跡が焔で描かれる。

 

八葉一刀流・焔ノ太刀

 

初伝クラスでは高い威力を誇る型。 グルノージャは最後に大きな断末魔の悲鳴をあげてゆっくり崩れ落ち……セピスとなって消えていった。

 

「はあっはあっ……」

 

「と、とんでもなかったわね……」

 

「……さ、さすがにもうダメかと思ったよ……」

 

リィンとアリサとエリオットは膝を落として荒い呼吸を上げているが……レトとラウラは一呼吸で息を整え、スクッと立ち上がった。

 

「ふう……だが、なんとか撃退できたようだ」

 

「よ、よく動けるわね……」

 

「まあ、それなりに鍛えているからね」

 

「それよりもリイン。 今し方見せたのは?」

 

レトとラウラはリィン達と違って強いのだろうと思っているが……この程度の差はすぐに埋まるとも思っていた。

 

そしてラウラは先ほどの焔ノ太刀について問いかけ、リィンは立ち上がりながら質問に答える。

 

「ああ……修行の賜物さ。 今まで実戦ではロクに使えなかったんだが……何とかコツを掴めたみたいだ」

 

「そうか……」

 

「成長、嬉しく思うよ」

 

「ありがとう、皆のおかげだ。 それにあの魔獣も、誰一人欠けていても倒すことはできなかったはずだ……だから、これ勝利は俺達A班の成果だ」

 

「……えへへ……」

 

「ふふっ……そうね」

 

「皆の成果か……」

 

「頑張った甲斐があったね」

 

互いに勝利を喜び合う。 だがその勝利の余韻に浸り続ける訳にもいかず……本来の目的である窃盗犯達の事を連れて行こうとした時……

 

「ーー貴様ら、何をしている!」

 

「え……!?」

 

「こ、これって……」

 

「……面倒な者たちが駆け付けて来たようだな」

 

「やれやれ……」

 

息つく暇もなく、この場に駆け付けて来たのは領邦軍の兵士達。 今朝にも見た隊長を筆頭とした兵士達はレト達の姿を確認すると……まるでレト達が窃盗を働いた犯人かのように囲った。

 

「……全く……これはどういうつもりなのですか?」

 

「何故、そこの彼らではなく我らを取り囲む……?」

 

レトとラウラははわろんの言葉を投げかけるも、ただ一蹴されてまともに聞いてはくれなかった。 そして捕らえられている筈の窃盗犯達はニヤニヤと勝ち誇ったかのような笑みを浮かべている。

 

(……明らかにグルじゃないか。 だから……だから僕は帝国が……!!)

 

「レト、抑えるがよい。 殺気が漏れているぞ」

 

ハッとなり、レトは胸に渦巻いていた物を抑えるが……レトの殺気で気圧されていた兵士達は一斉にレトに銃口を向ける。

 

「て、抵抗する気か!?」

 

「……何のことでしょう? 僕はただ立っていただけです」

 

「くっ……ふざけた真似を!」

 

正論を言うが、それが気に喰わなかったのか1人が銃のグリップでレトの頭を強く打ち付けた。

 

「グッ……」

 

「レト!」

 

「貴様……!」

 

「ラウラ、落ち着きなさい……!」

 

「ーー無駄な抵抗はやめるがいい」

 

頭を殴られ、レトは膝をつく。 エリオットは心配で声を上げ、ラウラは怒りを露わにして大剣に手を添えるも……アリサが手で制する。 それを見た領邦軍の隊長は一歩前に出る。

 

「確かに、商品もあるようだが彼らがやった証拠はなかろう。 可能性があるとすれば……“君達”の仕業ということもあり得るのではないか?」

 

「ええっ!?」

 

「……そこまで我らを愚弄するか」

 

「本気でそんな事がまかり通るとでも……?」

 

ラウラとリインは反論するが、そこまで強くはしなかった。 何故なら揺るぎない証拠はレトのカメラに収められているからだ。 ここは大人しくして、信頼できる人物にこの証拠を渡す時を待とうとする。

 

「そ、そいつがカメラを……」

 

「ーーおい。 お前が持っている導力カメラをこちらに寄越せ」

 

「くっ……!」

 

だが、それは目覚めてしまった窃盗犯の1人の呟きで暴かれてしまった。 兵士の1人が倒れているレトに近付き、腕を掴んで無理矢理立ち上がらせる。

 

「ーーその無粋な手を退けろ!」

 

とうとう耐えきれなくなったのか、ラウラはレトを掴む兵士を押し払う。 そして再び大剣に手をかけようとすると……

 

「ラウラ……それ以上はダメだよ。 僕は大丈夫だから」

 

「しかし……」

 

レトはやんわりと人差し指をラウラの唇に当てて、それ以外の言葉を止めさせた。 ラウラはレトの行動に一気に顔が赤くなるが……レトは隊長に向かって一歩前に進む。

 

「いい加減にしてください。 まだこんな茶番を続ける気ですか? ケルディックでの証言を集めれば僕達が犯人でないことがすぐに分かります。 罪をなすり付けるにしても無理がある……いくら四大名門だろうと領邦軍だろうと、そんな事をすればーー」

 

そこで、レトの言葉は切られる。 隊長の指示で兵士達が銃口を突きつけ、引金に指をかけようとしているからだ。

 

「貴様ら……!」

 

「弁えてもらおうか。 ここは公爵家が収めるクロイツェン州の領内だ。 これ以上学生ごときに引っ掻き回される訳にはいかん。 剣を向けたからには……お前達を容疑者としバリアハート市に送る事にする」

 

「くっ……」

 

「……最悪ね……」

 

隊長は目尻を険しく吊り上げ、片手を上げようとする。 捕らえろとでも言い出しそうな雰囲気に、リィン達の足がジリッと動いた瞬間……

 

「ーーそこまでです」

 

涼しげな、それでいて凛とした声がここまで届いて来た。 次に現れたのは灰色の軍服を纏った4人の隊員だった。

 

「あれは……」

 

「て、鉄道憲兵隊……」

 

(この者達は……)

 

(間違いない……! 《鉄道憲兵隊(T・M・P)》だ!)

 

(帝国正規軍でも最精鋭と言われている……)

 

鉄道憲兵隊……帝国正規軍の最精鋭部隊であり、帝国政府代表ギリアス・オズボーン宰相の肝煎りで設立された部隊。 帝国正規軍の組織であるが、組織としての性格は軍隊というよりどちらかというと警察に近く、活動において同じく宰相肝煎りの組織である帝国軍情報局と高度に連携をとっている。

 

(そして彼女が……)

 

隊員の後から出てきたのは、彼らを従えた水色の髪の女性……氷の乙女の異名を持つ人物、レトは鋭い目付きで彼女を見据える。

 

「ア、氷の乙女(アイス・メイデン)……」

 

「鉄血の子飼いがどうして……」

 

予期せぬ事態なのか、領邦軍の兵士達から動揺の声が上がる。 そんな中、動揺を隠そうとして隊長が前に出る。

 

「……どういうつもりだ? この地は我ら領邦軍が治安維持を行う場所……貴公ら正規軍に介入される謂れはないぞ?」

 

「お言葉ですが、ケルディックは鉄道網の中継地点でもあります。 そこで起きた事件については我々にも捜査権が発生します……その事はご存知ですよね?」

 

「くっ……」

 

帝国の法律を持ち出され、反論できないのか隊長は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。

 

「そして元締めの方達を始め、関係者の証言を取り、状況証拠等も合わせて判断するに……こちらの学生さんたちが犯人である可能性はあり得ません」

 

「……………………」

 

正論で論破され、さらに黙りこむ領邦軍の隊長。 彼は彼女たちが出てきてしまった以上、自分達が窃盗犯とグルなのは知られてしまっているのに気付いている。 つまりこれは交渉ではなく……脅迫なのだ。 隊長は感情を隠しつつ、彼女の言い分を受け入れた。

 

「では、後は我々にお任せください。 盗品の返却も含めて処理させていただきますので」

 

「ぐ……撤収だ!」

 

苛立たしげに部隊を撤収させる。 兵士達は動ながらもそれに従い、窃盗犯は話が違うと、自分達を助けろと喚くが……女性の一声で全員が拘束されてしまった。

 

「……鉄血の狗が……!」

 

領邦軍が撤収する中……隊長が吐き捨てるように呟き、去っていく。 しかし女性はその言葉を全く気にする素振りを見せず、レト達に歩み寄る。

 

(……綺麗な人……)

 

(こ、こんな人が鉄道憲兵隊の……?)

 

(……………………)

 

(彼女が……)

 

女性が正面に立ち、リィン達は改めて彼女の顔を目にする。 とても先ほどの隊長をあしらったような人物には見えないほど綺麗な女性だった。

 

「ふふ、お疲れ様でした。 帝国軍・鉄道憲兵隊所属、クレア・リーヴェルト大尉です。 トールズ士官学院の方々ですね? 調書を取りたいので少々お付き合い願えませんか?」

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

その後、無事にケルディックに戻ったレト達はクレアの下で今回の事件についての調書を取られた。 彼等が解放された時にはもう夕方になっており、長い時間が経過と……実習の終わりを迎え感じていた。

 

「いや、お前さん達には本当に世話になったなら。 盗品も戻ってきたし、トラブルも一通り解決した。 何と礼を言ったらいいのやら」

 

「そんな……俺達も親切でやったことなので気にしないでください」

 

「それに、今回の事件は私達だけじゃなくて、鉄道憲兵隊が動いてくれたおかげで解決できたっていうのもありますし」

 

「いえ、私達はあくまで最後のお手伝いをしただけです。 皆さんが犯人を取り逃していたら介入すら出来なかったでしょうし……その意味で、事件の解決は皆さんの功績だと言えるでしょう」

 

「う、うーん……ちょっと面映ゆいですけど」

 

「……まあ、素直に受け取っておくとしよう」

 

ケルディック駅の前で、5人は列車が来るまでの時間、クレアとオットーの二人とこの地と別れる前に最後の会話をしていた。

 

「……………………」

 

「レトさん。 まだ頭の傷が痛みますか?」

 

「あ、いえ……今後このような事がなくなる事に、少し安心を」

 

今回の事件を踏まえ、今後は憲兵隊の人間がこの地に常駐されるという事になった。 もう領邦軍の我が物顔にされるという事はなくなり。 オットー元締めはそれを聞き一安心した。

 

「ーー調書への協力、ありがとうございました。 お時間を取らせてしまって申し訳ありません」

 

「いえ……気にしないでください」

 

「僕達の方こそ、危ない所を助けていただいてありがとうございます。 刃を突き付け合わずに納める事の難しさ……改めて理解しました」

 

クレア大尉は静かに首を振った。

 

「いえ、余計なお世話だったのかもしれません。 ああいったトラブルも考えての《特別実習》かもしれませんから」

 

「えーー」

 

「ーー流石にそこまで考えられてはいないけどね」

 

クレア大尉の言葉に答えたのは……ちょうど駅から出て来たサラ教官だった。 どうやら今し方到着した列車に乗って来たようだ。

 

「サ、サラ教官」

 

「やれやれ……ようやくのお出ましか」

 

「もしかして、この事件を聞きつけて?」

 

「まあねえ」

 

それならパルムから列車でここまで来るのに時間がかかっただろうが……遅れて到着した事から生徒からの労いの言葉は無かった。 それとどうやらサラ教官とクレア大尉は知り合い……というより何やら因縁がある関係のようだ。

 

「ーーそれでは皆さん。 私達はこれにて失礼します。 今後また困ったことがあれば、我々を呼んでくださいね。 お力になれることも多いと思います」

 

クレア大尉は最後に腕から指の先までまっすぐに伸びた美しい敬礼をし……

 

「特化クラス《VII組》……私も応援させて頂きますね」

 

最後にレト達の今後の激励をもらい、颯爽と立ち去っていった。

 

「な、何ていうか、軍人には見えない人だったね……」

 

「だが、あの身のこなしと優雅なまでの立ち振る舞い……おそらく只者ではないだろう」

 

「噂では、神がかった銃の腕前の持ち主って言われているね」

 

「それに隊員の練度も尋常じゃなかった」

 

「どうやら教官の知り合いみたいですけど……?」

 

「……ま、色々とね」

 

アリサの問いかけに、サラ教官は適当にはぐらかした。

 

「さてと……あたし達もそろそろお暇しましょうか」

 

「了解しました」

 

「ーーあ、その前に夕焼けの中の大市を一枚……」

 

レトは手早く大市を写真に収め、駅前に戻ってきた。 それをリィンとエリオットは苦笑し、アリサとラウラは呆れていた。

 

「それではな。 ヴァンダイクによろしく言っておいてくれ。 お前さんたちも近いんじゃからまた遊びに来るといい。 歓迎させてもらうぞ」

 

「はい、いつか必ずまた来ます」

 

「お世話になりました!」

 

5人はオットーに一礼して、列車へと乗り込む。 列車の中で特別実習の意義について考えつつ……こうして、5人は士官学院に戻り、初めての特別実習は無事に終わるのだった。

 

 




なんでもPS4で第1作目閃の軌跡のリメイク……閃の軌跡改が出るそうですね。 もちろんシステムにも改良が加えられていると思いますが……ストーリーではユミルの帰郷が出ると見た!(懇願)。

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