煌魔城——
城の上層付近で、全てを消し去るような焔を放ち、変貌した劫炎……《火焔魔人》マクバーンが圧倒的な力をリィン達に見せていた。
「か、火焔魔人……」
「これは……人の手で倒せるとは……」
「くっ……ここまでだったなんて!」
(ダメだ……このままじゃ全滅——)
「どうしたどうしたぁ!! 俺をもっと熱くしてみろっ!!」
「あ——」
考える暇もなく、マクバーンから高密度な火球が放たれる。 避けられない……そう覚悟した瞬間……天井にヒビが走る。
「うわあああっ!!」
「な、なんだ!」
天井が割れ、両者の間に落下、火球を踏み潰した。 影の乱入と火球の衝撃で城は揺れ爆煙が舞い上がる。
「い、一体何が……」
「あ、あれって……」
「あのシルエット……まさか騎神か!」
「まさか……!」
爆煙に浮かび上がる人型の影。 次第に煙が晴れると……そこには緋い騎神がいた。 しかし従来の形とは異なり、背にはクリアレッドの蝶の翼、腰には同色のマントの形をした焔が揺らめき、鬣は背中に届くくらいまで短くなりながら薄く赤に染まり首の辺りで装甲のようなバレッタで纏められている。
全体的に突起物も、特に肩付近の突起物が無くなりスマートな形となっている。
「テ、テスタ=ロッサ……なの?」
「あの翼……以前、ケルディックで暴走していた時に出ていた……」
「という事は、また暴走しているのか!?」
「いいえ、アレはそんなもんじゃないわ! アレはもう——完全な第2形態よ!」
「レト……レトなのか!」
姿形は違えど、あれが緋の騎神である事と、起動者がレトである事は間違いようがない。 だが、ラウラが声をかけるもレトは無言のままマクバーンと睨み合っている。
「っていうか、煌魔城を突き破ってるんですけど!?」
「元のバルフレイム宮に戻ったら……どうなっているんだろうな?」
「そんな心配は後にしなさい」
「へぇ……?」
マクバーンは観察するような目でテスタ=ロッサを見つめる。 既にリィン達は眼中にないようだ。
「いいねぇ……ゾクゾクさせるじゃねえか。 お前になら俺が倒せるんじゃねえのか?」
すると右手を前に突き出し……空間を突き破り中から一振りの歪な形をした紫の片刃の剣を取り出した。 あの剣が現れた瞬間、レトの持つケルンバイターが鼓動を示す。
「な——」
「け、剣……?」
「あれは……あの子の剣と同じ!」
「《魔剣アングバール》……そこにいる小僧がもつ《ケルンバイター》の対となる剣だ。 クク、俺との相性が良すぎるせいか、こんな風になっちまうけどな……」
手に持つ柄からマクバーンの力を送り込み、アングバールは一瞬で黒く染まりマクバーンと同等の力を放ち出す。
「ぐうっ……!」
「黒き焔……!?」
「………………」
無言で一連を見ていたレトは左手を突き出し、その手に新たなに誕生した剣を掴む。
刀身は緋く剣先から柄まで白い二重螺旋が描かれており、柄頭は拳くらいの大きさの輪っかがある長大な剣を……緋の騎神の力と白い鉱石、そして概念兵器によって作り出された新たなる剣……《霊剣レーヴァティン》——テスタ=ロッサがその左手で握りしめる。
「へぇ……中々面白いことするじゃねえか。 どうやらケルンバイターの力も巡らせているようだ」
不敵な笑みを浮かべながらマクバーンはアングバールから放たれる黒い焔を膨れ上げさせながら構える。
「今更レーヴェの阿呆の後釜なんざどうでもいい。 来な——レミスルト」
「———ああああああっ!!」
絶叫とともにレーヴァティンを振り上げ……一瞬でマクバーンの前に移動し、両手で振り下ろした。
「……いいねぇ……いいじゃねえか!!」
レトの一太刀をアングバールで受け止めたマクバーンは、続けて剣を弾き返し黒焔を斬撃として放つ。
至近距離から放たれた斬撃に、レトは身を反らせて避け……そのまま倒れるように片手をついてバク転しながらマクバーンを蹴り上げる。
斬って、避け、受け止め、鍔迫り合い……一連の流れを繰り返すだけでも余波で広場の支柱が砕け、壁が崩れ、床が裂ける。
「ひえええっ……!」
「なんという颶風だ……!」
「き、近代兵器どころじゃないんですけど……!」
「もはや常人が立ち入るのは許されない戦い…………レト……」
余波による風を受けながら戦慄を覚えるリィン達。 そこで両者は互いに距離を取り、その際にリィンの元に近寄ったレトは振り返らず呼びかける。
「行って、皆!」
「レト!」
「必ず追いかける。 後から来ると思うヴィクターさんにコレ押し付けるから!」
「コレとは言い草だな!」
「イタイっ!!」
話に気を取られていた隙にマクバーンに懐に入られ、跳躍と同時にかち上げられるように顎を蹴り上げられた。
再び激戦が繰り広げられる中、サラ教官が先導する。
「皆、今のうちに奥まで駆け抜けるわよ!」
『はい……!』
「レト……どうか無事で……」
レトがマクバーンを引き付けている内に反対側から回り込んで昇降機に辿り着き、上層へと登る。 ラウラはレトから託されたカンテラを抱きしめながら、最後までレトの事を見つめていた。
昇降機が天井に消えた事を確認したレトは、レーヴァティンを握る手を強く力を込める。
「オラッ!!」
「てりゃあっ!!」
お互い剣を振るっては弾かれ、振るっては弾かれを繰り返し、型はあるもののほぼ力任せに剣を振るっている。
「そこっ!」
先に抜け出したのはレト。 足元からレーヴァティンと同じ形状の焔の剣を飛び出させ、マクバーンに距離を取らせる。
だが、距離を取ると言ってもせいぜい人間を相手にしている時に取るレベルの距離……その程度ならテスタ=ロッサは一歩で距離を詰めれる。
「せいっ!」
「おっと」
一歩踏み出し、マクバーンとの距離を詰めると同時に薙ぎ払い。 マクバーンは跳躍してよけ、同時に繰り出された拳をアングバールで受け止めた。
「そらよ!」
その状態のままマクバーンは足踏みをし、テスタ=ロッサを取り囲むように火柱が立ち上る。 動けないレトにマクバーンはもう一度距離を置き、連続で黒焔の斬撃を繰り出す。
「させるか!」
『展開』
テスタ=ロッサを取り囲むように6つの焔の剣を作り出して回転、火柱と斬撃を搔き消す。 次いで逆手に持ち替え蹲るように構え、刀身に霊力を込める。
「せいせいっ、せりゃあ!」
逆手のまま斬り上げるように三度、斬撃を飛ばす。
「オラよっ!」
マクバーンも同様に三度剣を振るい、最後に斬り上げと同時にアングバールを真上に放り投げ、空いた両手に黒焔が集まり球となる。
「オラオラオラオラッ!!」
マクバーンは作っては投げ、作っては投げを繰り返して無数の火球を投擲してくる。 数は増えているがそれでも一つ一つの威力は落ちておらず、一つでも当たれば大きなダメージを負うだろう。
「てりゃああ!!」
回避行動を取りながら手の中でレーヴァティンを回転させて飛来してくる火球を防ぐ。 そしてマクバーンは撃ち止め、落ちて来たアングバールをキャッチし……
「なっ!?」
直線的な軌道ばかりだった火球。 それが左右から挟み込むような曲線を描いた軌道で2つの火球がテスタ=ロッサに迫って来た。
「にゃろう!」
スラスターを噴射させながら跳躍、一瞬で飛び上がり、足元で火球同士が衝突して爆発を起こす。
しかし、飛び上がった先に、既にマクバーンがおり……踏み潰すように蹴落とされてしまう。 レーヴァティンが手から弾き飛ばされてしまう。
「終わりだぁ!!」
「させるかぁ!!」
脳天に振り下ろされるようとするアングバール……それを寸での所、両手で左右から挟み込み、ギリギリの所で受け止めた。
「この程度で——っ!?」
「うおおおりゃああああああっ!!」
テスタ=ロッサの剣は受け止めたが、操縦席から飛び出て来たレトの剣までは受け切れず、レトの剣がマクバーンを斬り飛ばした。
手痛い一撃を受けたマクバーンは大きく吹き飛ばされ、膝をついた。
「……クク……なるほど。 奇策に奇策を重ねた訳か。だが……」
マクバーンは何事もなかったかのようにスクッと立ち上がった。 胸の傷からは煙が上がり、焼いて傷口を塞いでいる。
マクバーンは視線をレトの左手にやる。 その手には銃剣が握られている。
「惜しかったなあ。 もしその剣がケルンバイターだったら俺も少しは危なかった」
「……確かに、ケルンバイターは今、テスタ=ロッサに使っている。 でも、これでいいんだ……僕の出番はこれで終わり」
「あぁ?」
「——ここからは、私が引き受けよう」
ヒラリと、テスタ=ロッサの前に人影が飛び降りて来た。 立ち上がると大剣を抜き、一振りして構える。
「後はよろしくお願いします、ヴィクターさん」
その人物はヴィクター・S・アルゼイド。 《光の剣匠》の異名を持つ剣豪、火焔魔人ともまともに戦える帝国でも一二を争う達人である。
「……《光の剣匠》……そうか、アンタもいたか。 だがいいのか? そいつと共闘して俺を倒す手もあるんだぜ?」
「頂上で予定があるのでお断りします」
「そういう事だ。僭越ながら……このヴィクター・S・アルゼイドが貴殿の相手をいたそう」
大剣に闘気を纏わせ、いつもは片手で構えるのに対し今は両手で構える。 それだけ、マクバーンは尋常ならざす相手なのだろう。
レトは再びテスタ=ロッサに乗り込もうとすると……あ、っと何かを思い出し、ヴィクターに向かって水筒を投げた。
「ではお願いします! あ、アレと長時間いると熱中症やら脱水症になるので水分はこまめに摂ってください」
「すまないな」
「テメエ、本当に言い草だな」
「レーヴェさんを阿呆阿呆言っている人に敬意は払いたくありませんー」
ヴィクターは水筒を受け取りながら礼を言い、ベー、と舌を出してマクバーンに嫌味を言いながらテスタ=ロッサに乗り込んで空を飛び、吹き抜けから上層へと向かった。
「皆、大丈夫かな?」
『心配なら、先を急ぐしかあるまい』
「だね。 飛ばして、テスタ=ロッサ!」
速度を上げ、レトはテスタ=ロッサと初邂逅した場所……《緋の玉座》へと向かった。
◆ ◆ ◆
「——着いた!」
飛び続けてものの数分、レトが駆るテスタ=ロッサは緋の玉座へ辿り着いた。 玉座の間、その前にはリィン達、VII組とヴァリマール。 対面するようにクロウとヴィータ、オルディーネがいた。
「レト!」
「随分と遅い到着だな」
着地すると直ぐにテスタ=ロッサから降り、周囲を確認する。 状況として、どうやら騎神戦でリィンの勝ちで終わった場面に出くわしたようだ。
「あー、もしかしてもう終わっちゃった?」
「見ての通りよ」
「一足遅かったな」
「フフ……こちらとしては有り難かったのだけど」
ヴィータはそういうが、実際にその場にいたとしても2人の間に割って入る気はなかった。
「さてと……」
終わったのならそれもよし、そう思ったレトはリィン達の横を抜けて玉座へと進み……顔を上げ磔にされているテスタ=ロッサの半身を一瞥する。
今ここに、呪われた騎神と七の騎神としての騎神……光と影、陰と陽、相対しながらも同一の緋き騎神が対面した。
「お久しぶりですね、カイエン公。 アルゼイド邸以来でしょうか」
「レ、レミスルト皇子……」
「あ、いたんだ」
「カイエン公……」
「あはは、なんか完全に忘れてたねー」
リィン達は素で忘れていたが、レトにはそんなことは関係なかった。
「リィンとクロウの勝敗も大事だけど、それ以上に僕は家族が大事なんだ。 返してもらうよ、カイエン公……僕の弟のセドリックを」
「おいおい、寂しいねえ」
「まあ、当然よね」
「くっ……ならば、こうするまで……!」
切羽詰まったカイエン公は走り出し、捕らえているセドリックの元まで向かった。
「まさか——」
「おい、やめろ——!」
「っ……」
何をするつもりなのか読めたクロウとヴィータは止めようとするが、カイエン公はやめる気はない。
尋常ならざる気配を感じ取ったレトは飛び出し。 跳躍し一気にセドリックの元に向かおうとすると……突然、目の前に何かが立ち塞がった。
「なっ……」
「レト!」
そこにいたのは……アガートラムと同じ胴体で一ツ目、両腕が三又の爪を持つ灰色の傀儡。 左右から鋭い爪が襲いかかり、レトは押し返されてしまう。
「な、なんだあれは!!」
「アガートラムによく似ているけど……」
「んー、何なんだろうね……」
直ぐに消えてしまった傀儡はミリアムもなんなのか分からなかった。 しかし、それよりもその間にカイエン公はセドリックの元に辿り着き……セドリックを掴むと磔にされている騎神に押し付けた。
「……ああああああああっ……!」
「しまった!」
「セドリック殿下……!」
「貴様、辞めろ——!」
「セドリック!!」
「うあああああああ……!!」
絶叫を上げるセドリックは……ゆっくりと緋の騎神に呑み込まれてしまった。
「……あ——」
「の、呑み込まれちゃった……」
セドリックが緋の騎神に呑み込まれしまった。 すると……脈動を感じた。
「……!」
「こ、これは……」
磔にしている柱が赧く輝き出し、帝都に渦巻いていた霊力が柱に集まっていく。 時間が経つ事に脈動は大きく強くなって行き……
「あ、あれは……」
「くっ、現れてしまったか……」
柱が消え、そこに立っていたのは緋の騎神。 しかし基本的な形状は似ているものの、緑色に輝く四つ目、身体中に張り巡らせている血脈のような緑の線、獣のような鋭い尾に四肢がまるで受肉したような質感を感じさせ、まるで巨人が緋の鎧を纏っているようだ。
そして、レトのテスタ=ロッサが光を放つ緋だとすれば、《紅蓮の魔人》は暗闇を放つ緋……同じ緋の騎神だというのに対極的な存在だ。
「ま、まさか……」
「《緋の騎神》を核に250年前にも現れた……」
「《
——オオオオオォォ!!
四つ目を光らせ、猛々しく吼える。 そこに騎士の姿はなく、まさしく獣の姿だ。
「! 霊脈を伝って紅蓮の魔王に霊力が……まさか!」
「帝都にいる人々から霊力を絞り立っているわね」
「そ、そんな!?」
「ま、まさか姉さんも……」
「心配しないで。 僕が居なかったのは住民の避難を進めていたから……直接はあっていないけど、アルト通りの避難は完了している」
「そ、そうか……良かった……」
「……!! そうでもなさそう!」
「え……」
突如として、魔王の咆哮から放出される緋い霊圧が襲いかかってきた。 寸での所でケルンバイターを構えたレトが霊圧を斬り裂いたが……大波を斬るが如く、再び襲ってくる。
「エマ……!」
「ッ……!」
咄嗟にヴィータとエマが杖を構え、防御結界を展開し霊圧から全員を守る。 が、2人の苦悶の表状を見るから、あまり長い時間は保たないだろう。
「な、なんて霊圧なの!?」
「っ……このままだと防御結界が……!」
「愚かな……これの出現だけは戒めていたのに……!」
「ローゼリアの婆様の苦労も水の泡だね」
「そ、そんな悠長な!?」
ローゼリアが苦労して試練を作り上げてレトが乗り越えた……その苦労がお互いに報われなかったようだ。
と、そこでクロウはヴィータが何かをしようと示し合わせ、策が決まると立ち上がる。
「っ……クロウ……?」
「策があるのね……!?」
「ああ……俺とヴィータでアイツの隙を作ってみせる」
「隙……作れるの!?」
「出来るならば是非もない!」
「そだね……このままだと全滅するだけっぽいし」
「だが……さすがに時間稼ぎにしかならないぞ!?」
「あれだけの巨体を制するには何か決め手が——」
そこで気付く。ヴァリマール、オルディーネ、そしてテスタ=ロッサの力なら紅蓮の魔王を倒せると。
「そうか……! 3機の騎神がいれば……」
「あれだけの力があれば、ひょっとしたら……!」
「おお、霊力が戻ればこっちのモンだ……! 皇太子が取り込まれた核さえ取り出せば——」
「あのデカブツを何とか出来るってわけだね!」
「ええ……この次元には顕現できなくなるはずです!」
「選択肢はなさそうね……!」
紅蓮の魔王が目覚めてしまった以上、倒して再度封印するか破壊するしかない。 結局、戦うしかなかった。
「判った——それで行こう! クロウ、クロチルダさん! よろしく頼みます!」
「おおよ……!」
「任されましょう。 グリアノス、セリーヌも手伝ってちょうだい」
「ああもう……仕方ないわね!」
グリアノスは二つ返事で了承するように鳴き、セリーヌは仕方ないながらも了承する。
決戦に備え、念入りに準備を整え……準備が整い、全員が武器を構え紅蓮の魔王を見据える。 そして、ヴィータが杖を頭上に掲げる。
「深淵より出でし蒼き息吹よ——」
「……おおおおおおおっ……!」
呪文のような言葉を紡ぐとクロウがダブルセイバーを構え、その刀身に蒼き光が纏われる。
「かの双刃に宿りて緋き焔を切り裂け——!」
「喰らえ——デットリー・クロス!!」
クロウの戦技にヴィータの術が付与され、結界の解除と同時に蒼き十字が緋い霊圧を切り裂きながら突き進み、エンド・オブ・ヴァーミリオンに直撃し霊圧の放出を止めた。
「今だ、皆!!」
「VII組総員——行くぞ!」
『おおっ!!』
道は開けた。 紅蓮の魔王の首を獲るため玉座に続く階段を駆け上がり走り抜け、近付いたその時……空間が歪み、レト達は異空間に飛び込んだ。
霊剣レーヴァティンの見た目はFGOの
なんかその方がカッコいい。