翌朝、4月25日ーー
朝早くに起きてケルディック産地の新鮮な食材を使った朝食を頂き、女将マッゴットから本日の特別実習の依頼が入った封筒をもらった。
依頼は2つで、さらに必須ではなかった事にレト達は少し驚いた。
「元締めが気を使ってくれたのかな?」
「午後にはここを発つし、そうかもしれない」
「恐らくそうだろうな。 それでは行くとしようか」
「そ、そうね」
「今日は必須なものはなかったし……」
「…………?」
ラウラが実習開始を切り出した。それに対してどうしてかアリサとエリオットの2人は焦っていた。
「ーーラウラ。 昨日は済まなかった」
「……あ」
「リィン」
「へぇ……」
そこでリィンが一歩前に出てラウラに謝罪をした。 謝る理由は昨日の事だろう。
「……何の事だ? そなた自身の問題ゆえ、私に謝る必要はないと言ったはずだが……?」
「いやーーそうじゃない。 謝ったのは“剣の道”を軽んじる言葉を言ったことだ」
昨晩リィンなりに考え、謝罪した。 少し驚きながらもラウラは黙って聞いた。
「『ただの初伝止まり』なんて考えてみれば失礼な言葉だ……老師にも、八葉一刀流にも。 “剣の道”そのものに対しても。 それを軽んじたことだけはせめて謝らせて欲しいんだ」
「…………ーー1つ抜けている」
ラウラは自分自身を軽んじた事にも謝罪を求めた。 それにリィンは少し驚きながらも謝罪をした。
「ーーリィン。 そなた、“剣の道”は好きか?」
「……好きとか嫌いとかもうそういった感じじゃないな。 あるのが当たり前で……自分の一部みたいなものだから」
「ならばよい。 私も同じだ」
(“剣の道”……か)
2人の会話を聞き、レトは独り自身の左手を見る。 そしてため息をついて元に戻した。 と、そこでここで働いているルイセが慌てて風見亭に入ってきた。 どうやら大市の屋台に盗難があったらしい。
レト達は気になり、実習を始める前に大市に寄ることにした。 大市に向かうと……あの2人の商人がまた言い争っていた。 どうやら両名とも盗難にあった模様……だが今回のは怒りの度合いが高く、両名とも相手が犯人と言い、元締めが仲裁に入っても今にでも殴り合いになりそうな雰囲気だ。
「ーー待った!!」
流血沙汰に発展する前にリィンが横槍を入れた。
「おお、お前さん達……」
「ま、また君達か!?」
「ええい、口出しするな! 屋台の仇を討つんだ!」
「仇って……」
そう言われ2人の屋台を見ると……どちらの屋台も酷く荒らされており、商品が空っぽになっていた。 レトは正面にあった屋台に近付き、腰を下ろして地面に手を這わせた。
(……1……2……奥の屋台に続く道に2人が並んで走って往復した後もある。 4人か……)
「ーーそこまでだ」
いつの間にか喧嘩が悪化していた時……このタイミングを見合わせたように領邦軍が現れた。
そして……ろくに捜査せず商人の2人を逮捕するという強引な暴挙に出た。 脅すように商人に言い、2人は渋々引き下がった。
「こ、こんなの滅茶苦茶だよ!?」
「あれが領邦軍のやり方というわけか……」
オットー元締めは商人に呼びかけ、壊れた屋台の片付けを行い。 レト達もそれを手伝い、遅れながらもその日の大市は開かれた。
その後元締め宅に呼ばれ、この状況が続くと聞いて……リィンがこの事件の捜査を志願した。 元締めは渋んだが、これも特別実習の沿線上と言い。 結果的に了承を得た。
「ーーさて、何から始めるかだけど……まずは大市で聞き込みをしようと思う」
「そうね。 なんとか最終列車までには何とかしないと」
「被害者の商人の2人にも話を聞かないとね」
「………………」
「レト、何か気づいたのか?」
元締め宅前で話し合う中、今まで口を閉ざして考え込んでいたレトにラウラが話しかけた。
「あ、うん。 なんとなく事の真相に目星がついただけだよ」
「へぇー……って、えええっ!?」
「驚いた、もう真相に気付いたのか?」
「憶測だけどね」
「まあ、レトの推理はよく当たる。 それで何度も危機を救われた……まずはレト、話してみせよ」
「……そうだね。 まずは順序を追って話そうか。 まず大市から被害者2人から物品を盗難した犯人の目的は?」
「それは……その盗んだ物品なんじゃないのかな?」
「それで得をするのは?」
「……その犯人と……領邦軍、もといアルバレア領主か」
「その2つの点を結びつける要因は今はない……では次、犯人の侵入、脱出経路及び潜伏先だ」
「うーん、やっぱり東か西の街道かしら? 深夜の犯行なら当然鉄道は動いていないし……けど身を隠せる場所は……」
「2つの屋台全ての荷物だ。 複数人いるに違いない。 だが潜伏先は……」
「ーー1ヶ所だけあるな。 ルナリア自然公園……あそこなら距離的にも可能だ」
ラウラの答えにレトは頷く。
「そして、その自然公園は最近管理者を変えられた、州の決定によって」
「あ! そこでさっきの関係が結びつく!」
「そういう事。 後は目撃情報が欲しいけど……心当たりが1人いる」
「酔い潰れていた前管理者か。 どうやら昨日からあの場所にいたらしい……もしかしたら不審者を目撃しているかもしれん」
そうと決まればケルディックの西口に向かい、今日も件の男性そこで酔いどれていた。 酔っていたので少し手こずりながらも話を聞き……確証を得られた。
「……決まりだな。 犯人はルナリア自然公園にいる」
「す、凄いね……ろくに情報を集めないで事件の真相を暴いちゃったよ」
「まあ、よく事件とかに関わっていたし。 遺跡の探索と似たようなものだよ」
「改めて思うけど……本当にあなた何者?」
「うーん……考古学者で探検家で……帝国の一般市民?」
「聞いているのはこっちよ……」
レトは質問をケラケラと笑いながらはぐらかし。 その後装備の確認や準備運動がてら今日の実習の依頼を終わらせ。 やり残しがないのを確認しレト達は西ケルディック街道に出て、ルナリア自然公園に向かった。
「ーーあれ? 昨日いた見張りがいないね」
自然公園前に到着すると、昨日いた感じの悪い見張りがいなかった。
「あら? これは……」
「何か見つけたのか?」
アリサは何か落ちているのを見つけ、それを拾い上げた。
「ブレスレット?」
「確か盗難にあった商人の1人がこれと似たようなブレスレットを扱っていたわね」
「ふむ、このような装飾には疎いが、確かに共通点は感じられるな」
「それがここにあるということは……」
「当たりみたいだね。 盗品は確実にここにある」
そうと決まれば自然公園に入ろうとするが……門には不自然に真新しい立派な錠前がかけられていた。
「内側からかけられているね……」
「うんしょっと……ピッキングできればいいんだけど」
「? 何んで準備運動しているのよ?」
リィン達が錠前に頭を悩ませて睨む中、後ろでレトは下半身を重点的にほぐしていた。
「ちょっと門を飛びこえようと……ね!」
一回の跳躍で門の上まで飛び上がり、縁に手をかけて門を乗り越え……スタッと着地した。
「なっ!?」
「なんて身体能力だ……」
「こんなの普通だよ。 もっとヤバいのを見たことあるし」
「た、例えば……?」
レトは鍵穴をガチャガチャといじくり、アリサは恐る恐る聞いてみた。
「頑丈な城門を寸剄で破壊したり、かなりの高さのバルコニーから音もなく飛び降りて姿を眩ますことかな?」
「そ、それ本当に人?」
「さあ? 修羅かもね……」
と、そこでレトは悔しそうな顔をし、鍵穴から身を離した。
「ごめん、やっぱ無理。 新し過ぎるや」
「そうか……なら私がやろう」
緊急事態なので、壊すのもやむなしと考えたラウラは錠前を前に大剣を構えた。
「で、出来るの……!?」
「私の剣ならば何とかーー」
アリサとエリオットが慌てる。 ラウラの腕は確かだが、リィンがラウラの前に出て遮ってしまう。
「ーー俺がやろう。その大剣よりも静かにできるはずだ」
真剣な表情のリィンに、ラウラは何も言わずに引き下がった。
「レトも一応下がっててくれ
「了解」
レトは背を向けて門から離れ……そのまま自然公園の中に入ってしまった。 その数秒後、門の方向から太刀の一閃が響いた。 結果が分かってたようにレトは先に進み、自然公園内にあった精霊信仰の跡に目を止めた。
「………変わりなし、か……」
以前と変わらぬ結果にレトは少しガッカリする。 そこで追いかけてきたラウラ達に叱られながらも自然公園内を進んだ。
「それにしても、犯人はどの辺りにいるんだろう?」
「ヴェスティア大森林には時間的に無理だし……十中八九、ルナリア自然公園の中にいると思うよ」
「ルナリア自然公園を含んだ大森林か……確かにそこは整備されていない場所だ。 盗品を運んでいける場所ではない」
「つまりこの自然公園にいるってわけか」
「そういうこと、っと……お客さんが来たみたい」
話し合いながら進んでいると、中型の魔獣が道を塞いでいた。 レト達は物陰に隠れて武器を取り出し、アークスの戦術リンクを確認しながら魔獣の出方を窺う。
「魔獣か……」
「気配はしない……少し騒いでも問題はなさそうだ」
それぞれ顔を見合わせて頷き……一斉に物陰から出て魔獣に奇襲をかけた。
「やっ!」
「はっ!」
アリサが牽制として矢が肩を射抜き、一瞬でレトは魔獣の前に出て高速で三段突きを放って離脱した。
「地烈斬! やあああっ!!」
大剣を振り下ろし、斬撃を地伝いに飛ばし魔獣の足場を奪い……
「フォルテ!」
「はあああっ!!」
リィンが飛び上がり、エリオットの援護によって力が高められ……落下の勢いを利用した上段からの振り下ろしで魔獣を斬り裂いた。 魔獣が消滅を確認するとレト達はすぐに物陰に隠れ……しばらく静寂が続いた後、物陰から身を出した。
「……どうやら気付かれていないようだね」
「となるとまだ先のようね」
「ああ、気を抜かずに行こう」
その時……どこからか羽音がしてきた、バッと背後を向くと……クワガタ虫のような魔物が凶悪な顎を開きながらエリオットに迫っていた。
「エリオット!」
「あっ!?」
「ーー結べ……蜻蛉切!!」
レトは冷静に、しかし一瞬でエリオットの前に移動し……石突きを待って槍を振り回しそれによって威力を上げ、魔獣を横薙ぎに斬り払った。
「大丈夫?」
「う、うん……ありがとうレト、助かったよ」
地べたに座っていたエリオットに手を貸し、立ち上がらせた。
「さ、先に進もう」
気を取り直し、レト達は暗い森の中を進んだ。
展開が似たり寄ったり……文才が欲しい……