英雄伝説 時幻の軌跡   作:にこにこみ

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76話 RF

目的地は地下にあるコントロールルーム。 一行はさらに下に進みながら通路を進んでいくと……その行く手をノルティア兵が立ち塞がる。 が、レトとシャロンの前には意味のない防衛だった。

 

レトが特攻で兵隊の陣形を崩し、漏れたのをシャロンが絡め取っていく。

 

「これでよし」

 

「お見事です、レト様」

 

「さすがね。 内戦が落ち着いたらRFに来てはもらえないかしら? 導力ネットにも精通しているようだし、ボディーガードとしても優秀……いいポジションで待遇するわよ?」

 

「あ、あはは……考えておきます」

 

こんな事態でもサラッとスカウトをする胆力に感心しながらも苦笑いをするレト。

 

それからも進んで行き、コントロールルームがある地下に辿り着く。

 

「このフロアの方にコントロールルームがあるわ。 急ぎましょう」

 

「………………」

 

「……? 2人とも、どうかしたの?」

 

「会長、お下がりに」

 

「誰かいますね」

 

2人はこのフロアに入って直ぐに気付く。 通路の奥の方の電灯が消えており、先が見えなかった。 すると……暗闇の奥からコツコツと、足音が聞こえてきた。

 

武器を構え、待ち構える。 数秒で人影の輪郭が見え始め……次第に光に照らされて現れたのは……

 

「……あなたは確かVII組の……」

 

青く長い髪を後頭部で纏めてポニーテールにし、同じく青い大剣を両手で持ちながら歩いてくる少女だった。 それはどこからどう見てもラウラ……しかし、その表情は影に落とされてよく見えなかった。

 

「ラウラ様? もしかしてレト様を追い——」

 

「2人とも、下がって!」

 

次の瞬間……ラウラは飛び上がると同時に大剣を掲げ、レト達に向かって振り下ろしてきた。 反応したレトは槍の棒を構え、振り下ろされた大剣を受け止める。

 

これには銃口を向けられてもどこ吹く風のように流したイリーナでも、さすがに驚きを隠せなかった。 大剣を弾き返すと、レトは静かに説明する。

 

「彼女達は結社によって生み出された人間……アルゼイド家の遺伝子を使われたようで、ラウラに似ているのもその影響です」

 

「まさか、そんな事が……」

 

「同じ遺伝子によって生まれる人間……いわば彼女のコピーということね」

 

『——そういうことだ』

 

その言葉を肯定するように、突然ノイズがかかった声が聞こえてきた。 声の発生源を見破ったレトはその方向に向かって即座に銃を撃つ。

 

銃弾は奥の柱に着弾。 すると、柱から出てきたのは目がついている黒い球体……どちらかといえば黒い目玉が浮いており、レト達を見下ろしていた。

 

「何あれ」

 

「どうやら遠隔で動く監視カメラのようなものかと。 それに複合音声……あなたは一体何者でしょうか?」

 

『フフ、名乗ってもいいのだが、まだ時期ではない。 まあ、あなた達とは因縁浅はかならぬ関係……とだけは言っておこう』

 

「何ですって……?」

 

そう言いながら目玉はイリーナとシャロンの方を見る。 イリーナは少し苛立ちを覚えながら片眉を釣り上げる。

 

と、今度は背後からラウラがもう1人現れ、イリーナとシャロンは再び驚愕する。

 

「これは……!」

 

「僕が知る限り彼女達は7人います……けど、今はこれ以上は出てこないと思います」

 

ここは地下の密閉空間。 人数が多いほど動きは制限され、それに加えラウラの使う大剣はそれなりに場所を取る。 この先、増える事は先ずはないと考えても問題ないだろう。

 

『はあああああっ!!』

 

地裂斬——大剣を振り下ろす事で衝撃が前後から迫ってくる。

 

「シャロンさん!」

 

「承知しました!」

 

戦術リンクを繋いでいるためそのやり取りだけで会話が成立する。 レトはアークスを駆動し、その間にシャロンはイリーナを庇う。

 

「ラ・クレスト!」

 

衝撃が直撃する瞬間、アーツが発動。 3人に身体中を包むように防御の膜が覆い、衝撃から身を守る。

 

「会長」

 

「分かっているわ。 気をつけなさい、2人とも」

 

イリーナは近くにあった部屋に入り、戦いの場から離れる。 それを確認したシャロンは鋼糸を飛ばし、2人の大剣に絡める。

 

『……………………』

 

「くっ……!」

 

しかし、想像以上に力が強く。 無表情で立つラウラ達と違いシャロンは苦悶の表情を見せる。

 

レトは槍を担ぎ投擲、足を狙い飛び……跳躍して回避される。 避けられるもそのおかげで踏ん張りが消え、シャロンは鋼糸を引きもう1人のラウラにぶつけた。

 

「………………」

 

表情を変えないまま受け身を取るラウラ達。 そして大剣を振り回し走ってくる。 以前より太刀筋は鋭くなっているが、それでもレトとシャロンは見切り、次々と避けながら後退して行く。 そして……

 

「…………っ!?」

 

「…………?」

 

時が止められたかのように動きが止まった。 よく見ると彼女達の身体中が糸によってキツく巻かれていた。 脱出しようともがくが、逆に肌に食い込み傷ついていく。

 

「押さえておきます。 あまり持ちそうにありませんが」

 

「意識を落とします。 そのままで……」

 

気絶させるため歩み寄ろうとした時……突如、ラウラ達の身に纏うように青いエネルギーが放出された。 次の瞬間……鋼糸が切れる音が聞こえたと同時に一気に距離を詰められ、レト達は防御するも吹き飛ばされてしまった。

 

「こ、この力は……」

 

「いきなり力が……オーブメントでも、導力魔法による強化でもない、まるで導力そのものが……」

 

ある意味、リィンの鬼の力と似て非なるものだ。 力が増すという点は同じ、しかし鬼と称すような禍々しさは感じられない。 暴走の可能性はありそうだが……

 

「…………! 傷が……!」

 

力任せに引きちぎるたせいで出来てしまったシャロンの鋼糸による深い切傷。 それが時間が巻き戻るように傷口が塞がっていく。 急速な回復で全身の傷が塞がり、服に切れ込みが残るだけとなった。

 

「一体彼女達は何を……」

 

「分かりません。けど、かなり危ないと思います……お互いに」

 

リィンと同様にあのような力は己の身も滅ぼしかねない諸刃の剣……あの力という両刃がいつ、誰に向けられるのかはわからない。

 

『はああっ!!』

 

「ぐううっ……!」

 

横に並んで振り下ろされた大剣を棒で受け止め、余りの力に驚愕しながら後ろに倒れこむように受け流し……1人を巴投げの要領で後ろに投げ飛ばす。

 

「……っ!?」

 

そして……もう1人のラウラが吹き飛ばされてたラウラに引っ張られるように飛んでいく。 目視では見えにくいが……2人を繋ぐように胴体に鋼糸が巻かれていた。

 

「——レト様!」

 

「せいっ!!」

 

両手を交差させ、ラウラ同士を引き寄せ合い……その隙にレトが頭上に回り込み、石突きで2人の後頭部を強く強打させ、昏倒させた。 荒っぽいやり方だが手段を選んでいる暇もなかった。

 

ラウラ達を見下ろすと、あの青い光が消えていた。

 

「ふぅ……」

 

「凄まじい力でしたね」

 

自身の手の平を見るシャロン。 その手は僅かに震えている。 かなり力を酷使したようだ。

 

「さて、何とかこの子達を説得して、人としての生活を送れるよう……」

 

「レト様!」

 

「うわっ!?」

 

突然、シャロンがレトを掴んで一緒に倒れ……頭上を何か鋭い物が通過する。 一瞬で切り替えたレトはその場から飛び退き、顔を上げる。 そこにいたのは……またラウラだった。

 

「残りのラウラ達!」

 

『——とても有意義な戦いだった。 お陰でいいデータが取れた』

 

彼女達の上に降り立ったのはあと黒い目玉……目玉は『さて』と言い、倒れているラウラ達を見下ろす。 すると目玉が何度かフラッシュし出す。 どうやら彼女達を調べているようだ。

 

『ふむ……結社からデータを収集するよう頼まれていたが、中々面白い人種だ。 ここまで導力との感応率が高いとは……結社め、《光の剣匠》の力ではなく《アルゼイドの血》が目的だったのか』

 

「何……?」

 

『——《戦乙女(ヴァルキュリア)》……《黄昏》とは何ら関係もないが、とても興味が唆られる。 これならば結社の思惑に乗るのも悪くない』

 

独り言のようにどんどん話が進んで行き、ラウラ達の足元に光り輝く陣が展開すると……転移して消えてしまった。 すると今度はレトを方を向く。

 

「消えた……」

 

『どうやら君達《VII組》は天命とも言うべき星の下に集まっているようだ。 歴史の中で、現代社会の中で縁がある』

 

「それどう言う意味……」

 

『フフ……さて、どうなんだろうな?』

 

答える事なく目玉は高速で回転を始め……アガートラムが消えるような音を立てて消えてしまった。

 

後に残されたレトは思わせぶりな単語を頭の中で反復し、答えが出ない事に悩まされていた。

 

「はあぁ……アルゼイドを侮辱するような行為でもいっぱいなのに、色んな事を言いたい放題言って……」

 

「どうやら結社と関わりのある、結社とは別の組織のようね」

 

イリーナも気にはなっているようだが、スッパリと切り替えて踵を返した。

 

「遅れたわ、早くコントロールルームに向かいましょう」

 

「……はい、会長」

 

スタスタと歩いていくイリーナの後をシャロンも続いて行く。

 

「ナァ……」

 

戦乙女(ヴァルキュリア)……どこかで……)

 

レトは少しだけ頭を捻った後……後ろ髪を引かながらも続けてイリーナの後を追いかけた。

 

それからすぐ、RF社の警備や流通を管理しているコントロールルームにたどり着いた。 早速イリーナは権限を使ってセキュリティを解除しようと試みるが……

 

「これは……」

 

警告音と共に画面に表示された《ERROR》の文字。 どうやらアクセス権限は無効にされているようだった。

 

「全く、抜け目がないわね。 シャロン、行けるかしら」

 

「……これは少しばかり時間がかかってしまいますが、何とか」

 

「——貸してください。 やってみます」

 

横から割って入ったレトは導力ノートパソコンを端末に繋ぎ、セキュリティの解除を試みる。

 

難無く解除を進めていくと……最後の壁で躓いてしまった。 ノートパソコンの画面に映し出されたのはコミカルなポムだった。

 

「これは……ゲームかしら?」

 

「これはクロスベルで流行っている導力ネットを使った対戦ゲーム《ポムッと》ですね。 どうやら防壁にこのゲームが組み込まれていて、勝たないとセキュリティが解除できない仕組みになっています」

 

「まあ……」

 

「このやり方、カンパネルラだな……!」

 

怒りを覚えながら何度も矢印キーを押して落ちてくるブロックを操り、このゲームの鍵であるCP(クラフトポイント)を溜める。

 

しかし、その間にコントロールルームの外から複数の足音が聞こえてくる。

 

「増援が来たようです。 私が抑えている間にセキュリティの解除を……」

 

「——ウルグラ!」

 

シャロンの言葉を遮るようにレトがその名を呼ぶと……入り口の前に銀獅子が出現した。 唸りながら威嚇するウルグラを前に兵士は恐怖を覚える。

 

「グルルル……」

 

「なっ、なっ!?」

 

「ひ、怯むな!」

 

「これは……シュミット博士が改修したという人形兵器」

 

「そう、獅子型人形兵器、ライアットセイバー・セカンド。 僕の愛獅子……なのかな?」

 

ユーシスの言うところ愛馬と言いたかったが、そんな単語があるわけもないので疑問文になってしまう。 そんな事を疑問に思いながらもゲームを進める手は止めておらず、時間が経つごとに徐々にブロックの落下スピードが上がっていく。

 

そして……溜まったCPを使って攻撃し、相手陣地をポムで埋め尽くし、レトは勝利した。

 

『アハハ、やるねぇ』

 

「うわイラつく」

 

相手はコンピューターによる操作であったが、あらかじめプログラムされていたカンパネルラの音声に苛立ちを覚えるも最後の壁を突破し……セキュリティを解除、完全に掌握した。

 

続いてここで管理していた人形兵器を停止させる。 すると外で行われていた戦闘が一瞬で止み、勝てぬと踏んだノルティア兵達は撤退して行った。

 

「よくやったわね。 私達も会長室に向かうとしましょう」

 

「はい」

 

「かしこまりました」

 

コントロールルームを出て、停止した人形兵器を素通りしながらエレベーターへ。 そして会長室のあるフロアに向かい、堂々と会長室に入った。 そこでは武器を構えているリィン達がハイデル取締役と思わしき男性と睨み合っていた。

 

「イ、イリーナ会長……!」

 

「母様……シャロン!」

 

「フッ、どうやらそちらも上手くいったようですね?」

 

「ええ、少々手こずったけど、このビルのセキュリティは完全に掌握したわ」

 

「建物内の人形兵器も全て機能を停止させました。 ジ・エンドですわね、ハイデル様❤︎」

 

「シャロンさん、そこはチェック・メイトにしましょうよ……」

 

サラッと笑顔で物騒なことを言うシャロンに戦慄を覚える。 その言葉を皮切りに大いに取り乱すハイデル。 そんな事は御構い無しとイリーナはハイデルの元に歩み寄る。

 

ハイデルは口達者に言い訳をベラベラと並べるが……問答無用とばかりにイリーナは両頬のビンタから流れるように正拳を繰り出し、数秒でハイデルをのしてしまった。 これにはリィン達も驚くしかなかった。

 

「うわお」

 

「す、凄まじいすぎる……」

 

「お見事です、会長」

 

「流石はアリサ君の母上だ、 う〜ん、惚れ惚れするねえ」

 

「はあ、でもこれで……」

 

「……何を呆けているのかしら。 こちらはもう大丈夫よ。 後の事は任せておきなさい。 貴方達のやるべき事はまだ残っているのではなくて?」

 

言われて気付く。 まだ黒竜関でアンゼリカがすべき事が残っている。 それとほぼ同時に……聞きつけたカレイジャスがルーレに、RFビルの真横に飛んできた。

 

「さあ、行くとしようか。 親子喧嘩をしにね!」

 

「ええ、行きましょう!」

 

レト達は真横に着いたカレイジャスの甲板に飛び乗り。 地上で見上げる市民をよそにカレイジャスは北に向かって飛翔した。

 


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