英雄伝説 時幻の軌跡   作:にこにこみ

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71話 再邂逅

12月13日——

 

時間がかかってしまったが当初の目的である武器を手に入れたレト。 行きのルートは危険なため、大きく迂回しリベール方面へ、そこから帝国に入るのに丸3日かかってしまった。

 

「そろそろ帝国に入るよー」

 

「やれやれ、疲れたぜ」

 

「仕方ないとはいえ、やっとですか……」

 

「ナァー」

 

帝国を離れて1週間程、共和国は悪化の一途をたどっていたが、こちらの内戦はどうなっているのかは分からない状況である。

 

「さてと、帝国に入ったのはいいけど……ここから北部に行くには大きく迂回しないと絶対に見つかるよなぁ」

 

「とりあえず、補給のために一旦レグラム辺りに船を下ろした方がいいだろう」

 

「そうですね。 レグラムで1度帰った事を連絡したいですし。 と、何ならレグラムで契約満了でもいいですよ? ユミルに行くより安全ですし、リベールに帰るのも楽です」

 

「バッカやろー、そんな事しちゃーカプア特急便の名前に泥塗る事になるわ」

 

「乗りかかった船は最後まで乗るもんだぜ」

 

「そうだぞ。 レグラムで降りようがユミルで降りようが、ウチらに取っては大差ないんだよね」

 

「皆さん……」

 

本当にいい人達だと感謝するレト。

 

「…………ん?」

 

と、そこでレトは何か感じ取り、扉を開けて甲板に出た。 目を閉じて意識を集中、進行方向より北西から大きな力の波動を感じ取れた。

 

(この感じ……前にも。 1つはNo.I、もう1つ、これは……リィン?)

 

気になり深く考え込むレト。 思考から抜けるとアークスを取り出し、力が感じる方向を見据えながら船内のジョゼットに連絡を入れた。

 

「ジョゼットさん、進路を少しラマール州本面に寄せて、高度を上げてください」

 

『え、何だって?』

 

『オメェ、今からレグラムに向かうんじゃなかったのか?』

 

「少し変な予感がするんです。 お願いします」

 

漠然とした理由だが根拠のない話でもない、ジョゼット達はそれを2年前でのリベールで分かっていた。

 

「キール兄」

 

「……わぁったよ」

 

『ありがとうございます』

 

山猫号は進路を西寄りに変えた。 数分後、イストミア大森林上空に差しかかろうとした時……遥か真下に白銀の戦艦が視界の中に映った。

 

「な、何だありゃぁ!?」

 

「もしかして帝都を占領した時に現れたという……!」

 

「貴族連合が所有するパンタグリュエル……あ! あれって!」

 

レトは真下を覗き込むとリィンとクロウが戦っているのが見えた。 一緒にアルフィンと、結社や西風の旅団も。 その時、観戦していたマクバーンが顔を上げた。 レトは一瞬、その視線が重なった気がした。

 

「っ……山猫号を気付かれないようにあの戦艦の上にお願いします」

 

悪寒を感じながら身を引き、アークスを耳に当ててそう指示する。

 

「よし、全速前進!」

 

「おいおいマジかよ!?」

 

「ここまで来たら一連托生だね!」

 

山猫号は最速で前進、パンタグリュエルの上に移動。 到着するとレトは甲板の縁に立ち、パンタグリュエルを見下ろした。

 

「ナァ」

 

「よし、僕が降りたらこの空域を離脱してください!」

 

「あ、おい!」

 

止める間も無くレトは前のめりに倒れ……パンタグリュエルに向かって落下した。

 

「この高さから躊躇なく飛び降りやがった……」

 

「相変わらずぶっ飛んでいるやつだなぁ」

 

「はは、そう所だけ、オリヴィエに似ているんだよね、あの子」

 

レトの行動に呆れるしかないカプア一家、そのまま進路を変えこの空域から離脱する。

 

そして落下中のレトは強風で目を細めながら左手を目の前にかざした。

 

「出でよ——ケルンバイター!!」

 

黄金の魔剣を出現させてその柄を握り、上段に構えて大きく振りかぶり……

 

「来い——アングバール!」

 

「おおおおおっ!!」

 

顔を上げたマクバーンはニヤリと笑っており、黒き魔剣を出現させると同時に振り下ろされてきたケルンバイターを受け止めた。

 

その衝撃で艦は一瞬沈み、強風が巻き起こる。

 

「くっ……!」

 

「きゃあっ!!」

 

「な、なんですの!?」

 

「派手な登場するなぁ」

 

「お久しぶりです、ね!」

 

突然の出来事に驚く中……魔剣同士が弾かれ、受け身を取りながらレトはリィンの前に降り立った。

 

「やあリィン、1週間振りだね。 アルフィンも久しぶり」

 

「レ、レトなのか!」

 

「あ、兄様(あにさま)!!」

 

リィンとアルフィンはレトの登場に驚きながらも無事だった事を安心する。 と、そこで周りの人がレトの姿を認識する。

 

「あのボン、確かレグラムですれ違った……」

 

「——VII組最後の1人、レト・イルビス。 本名はレミスルト・ライゼ・アルノール、秘匿されている皇族にして緋の起動者、暫定的に結社のNo.IIにも属している人物です」

 

「ほ、ホンマかいなそれ!?」

 

「……流石の俺も驚愕する他ないな」

 

銀髪の少女の淡々とした説明に西風の2人は驚きを隠せない。 そんな中、怪盗紳士が仰々しく前に出た。

 

「やあ久しぶりだ、我がライバルの弟君よ。 息災でなによりだ」

 

「そ。 それよりも……クーさんも久しぶりだね。 元気そうにしているようだね」

 

「まぁな。 たっく、どんな登場の仕方だっての、相変わらず常識外れな奴だ」

 

ブルブランの挨拶を素っ気なく返し、レトはクロウの方を向く。 その時、レトとマクバーンが持つ2振りの魔剣が輝き出し、共鳴を始めた。

 

「っ……」

 

「お前のケルンバイターと俺のアングバールは《外の理》で作られた2対の剣、いわば兄弟剣……こうなるのも当然といえば当然だ」

 

そう言いながらマクバーンはアングバールを異空間に納めた。 どうやら相手にする気は無いらしく、リィンとアルフィンがいるため、その気にさせないようにレトもケルンバイターを納め、槍を抜いた。

 

「さてと、ここでお前が出てくるのは予想外だったが……1人で全員を相手にする気か?」

 

「ここに来たのは共和国帰りに寄り道したら偶然に鉢合わせしただけだけど……今の僕は、なんか負ける気がしないんだよね」

 

次の瞬間、11人のレトが周囲を取り囲んだ。 合計12人のレトに囲まれたデュバリィ達は武器を抜き、身構えて警戒する。

 

「おお……!?」

 

「な、なんて数の分け身!」

 

「……危険度、最高ランクに移行します」

 

「こりゃ本腰入れなあかんな」

 

「ふふ、久々に血沸くというものだ」

 

「…………! おい……!」

 

一触即発。 お互いが動けない状態が続いた時……遠くから甲高い飛行音と共に赤い飛行船がパンタグリュエルの頭上を通過した。

 

「あ、紅い翼——」

 

「お……」

 

次の瞬間、レト達に影が指した。 パンタグリュエルに降り立ったのは4人の人物……

 

「あ……!」

 

「サラ教官、皆さん……!」

 

「お待たせ、リィン!」

 

「って、おいレトまでいんのかよ」

 

「共和国にお出かけになっていると聞いてましたが……」

 

現れたのはサラ、トヴァル、クレア、シャロンだった。流石に人口密度が増えたため、戦闘の支障になると考えレトは分け身を消した。

 

そこへ、またカレイジャスが頭上を通過し……今度はヴィクター・S・アルゼイドがこの艦に降り立った。

 

「あ……」

 

「アルゼイドのおじさま……!」

 

「ヴィクターさんも来たんだ」

 

「フフ、リィン共々久しぶりだな、レト。 アルフィン殿下もご無事で何よりでした」

 

「くっ……《光の剣匠》まで……」

 

彼を見て苦悶の表情を見せるデュバリィ。 だな、マクバーンは獲物を見つけたような目をしてヴィクターのことを見る。

 

「へえ……アンタ。 強いな、この上なく」

 

「そなたの方こそ。 結社最強の《火焔魔人》……かの《鋼の聖女》に匹敵すると噂されるだけはある」

 

「クク……さて、光の剣匠もいいが、剣帝の小僧の方も悪くない。 どっちを取ろうか迷うが……」

 

『悪いが、トリは我々が頂かせてもらうよ……!』

 

「む……」

 

降り掛かった声と共に、残りのVII組のメンバーと、オリヴァルトがエマの転移で甲板の上に現れた。

 

「皆……!」

 

「リィン、大丈夫!?」

 

「す、凄い場所に来ちゃったみたいだけど……」

 

「だが、この上ないタイミングだったようだな」

 

と、そこで彼らはレトがここにいることに気付き驚いた。

 

「ヤッホー、皆元気してたー?」

 

「え……」

 

「レ、レト!?」

 

「おいおいおい、何でこんな所にいるんだ!?」

 

「ナァ」

 

「あんたも元気そうね」

 

「ついさっきカルバードから帰ってきてね。 ちょっと寄り道したらこの場面にぶつかったんだよ」

 

「……積もる話はあるが、それは後回しにしよう」

 

「お兄様……!」

 

「アルフィン、元気そうで何よりだ。 レトもあれ以来、流石の私も心配したよ」

 

「まあ、流石に無茶が過ぎたとは思っているよ」

 

「はは……」

 

唐突に彼らに笑い声がかけられた。 その方を向くと、クロウが堪えるように笑っていた。

 

「クロウさん……」

 

「直接顔を合わせるのはひと月半ぶりか」

 

「あはは。 なんか元気そーだね」

 

「ああ、おかげさまでな。 しかし揃いも揃って……どう収拾付けるつもりだよ?」

 

「うーん、そうなのよね」

 

この場で相対している戦略は五分五分、今はその拮抗により睨み合って膠着状態に陥っている。

 

「ふむ、どうせだったらこのままパーティと洒落込むのはどうだい?」

 

「ハハ、それもまた一興」

 

「うふふ、素敵ですわね」

 

「やー、こういうノリは嫌いやないなぁ」

 

「久しぶりにシャロンさんの紅茶も飲みたいし、それも悪くないかな」

 

「ああもう、なんでこんなに緊張感がないんですのっ!?」

 

「……グダグダですね」

 

一触即発ではあるも戦える雰囲気ではなかった。 その時、この場に鳥の鳴き声が静か響いた。 辺り見回すと、甲板の街灯の上に蒼い鳥……グリアノスが止まっていた。

 

「あ……」

 

「来たわね」

 

「グリアノス! ……ヴィータ姉さん!」

 

次の瞬間、グリアノスの真上が揺らめき……魔女ヴィータ・クロチルダの姿が映し出された。

 

『フフ……また会ったわね、エマ。 魔女としてはまだまだ未熟だけど、先ほどの転移術は見事だったわ』

 

エマを褒めながら辺りを見回すヴィータ。 どうやらこの場を収めようとしに来たらしい。

 

『皆、お疲れさま。 思うところはあるでしょうが今回については譲りましょう。 カイエン公のお叱りはこちらの方で受けておくわ』

 

「……姉さん……」

 

「くっ……納得行きませんけど……」

 

「依頼者の意向なら是非もない」

 

「ま、元からやりあう気は無かったし」

 

相手側は武器を納め、それを見たリィン達も武器を納めた。 そしてヴァリマールの拘束を解き、互いに向かい合うように甲板の両側に寄った。

 

リィンとクロウは騎神に乗り込み、関係のある者が一言二言話し合った後、クロウがオルディーネのダブルセイバーを抜き、リィンに刃を突きつけた。

 

『——余計な世話ついでに忠告だ。そろそろ“得物”もなんとかしろ。 お前の《八葉一刀流》——刀抜きで真価を発揮できんのか?』

 

『あ……』

 

『武装でばいすノ選択ハ重要——起動者トノ相性ニヨッテ戦闘効率ガ飛躍的ニ上昇スル』

 

「あー、そうだ。リィンに、共和国土産を持ってきてたんだ」

 

『え……』

 

パチンと、レトは指を鳴らすと……ヴァリマールの足元が揺らぎ、異空間から緋い太刀が出てきた。

 

「うわぁ!?」

 

「こ、これは……?」

 

「テスタ=ロッサの武器を崩して作った太刀だよ。 僕も武器で困っていたけど、それはリィンも同じ。 だからついでに作っておいたよ」

 

ヴァリマールが差し出された太刀を手に取り、構えを取った。 軽く握るだけだったが、問題はないようだ。

 

『よし、悪くないな。 すまない、俺のために、大事な武器を崩してまで』

 

「いいっていいって。 余っただけだし、それにその太刀は素人が作った急造品、後でちゃんと作った方がいいからね」

 

『たっく……俺の忠告が空振りじゃねえか。 ホント、お前は常識外れだよ』

 

「いや〜、それほどでもー」

 

『褒めてねえよ!』

 

『フフ……緋の騎神を駆る剣帝、これは面白くなりそうね』

 

そして、太刀を納めたヴァリマールが飛び立ち、それと同時にエマの転移、甲板から飛び降りて下を通過したカレイジャスに飛び移った。

 

カレイジャスは機関を全開にし、この空域から離脱していった。 が……

 

「おー、こうしてみるとやっぱり速いねー」

 

「——って、何であなたはまだここにいるんですの!?」

 

飛び去って行くカレイジャスを見送るレトに、デュバリィは勿論、他の面々も軽く驚く。

 

また何かするのかと警戒する中。レトはヴィータを見上げる。

 

『まだなんかあんのか?』

 

「つい数時間前まで共和国にいたからね、そこで色々な情報を得たんだよ……《巨いなる一》についてを」

 

『…………!』

 

「……巨いなる一?」

 

「なんやそれ?」

 

その単語に、ヴィータだけが反応を示したの。 それを見たレトは話を続ける。

 

「どうやら数代前のリーニエ家がこの件について調べていたらしい。 騎神が作られた理由、そして帝国に蔓延る“呪い”ついてよく調べられていた。 その上で聞きます、ヴィータさん……あなたは何を始めようとするんですか?」

 

『…………ふふ、大した着眼点ね。 オリヴァルト皇子同様、あなたもさぞ優秀な指し手なんでしょうね』

 

「僕は頭で考えるより、自由に動ける駒の方がまだ楽ですけどね。 それと、チェスより東方の将棋の方が好きです」

 

話は微妙に逸れているが、ヴィータはレトの質問に答えようとする。

 

『そこまで話したのなら答えなくてはならないわね。 私が目指しているのは盟主の意向に添いつつあくまで擬似的なものにする事……とだけは、言っておきましょうか』

 

「なるほど……つまり世界を壊す気はないと?」

 

『ええ』

 

「それを聞いて安心しました……それでは、失礼します」

 

「ナァ〜」

 

「あ!」

 

今度こそレトはパンタグリュエルを飛び降りた。

 

「ふ、流石は我がライバルの弟君、と言った所か」

 

「あなたはそれ以外の褒め言葉はありませんの?」

 

(……レト……イルビス。 あの不埒な人同様、警戒しておきましょう)

 

「おもろいボンやったな」

 

「この短期間でまた腕を上げたようだ。 あの中でもかなり突出しているようだな」

 

「ふぁ……楽しみは後に取っておくとするか。 悪くねぇが、場所が悪ぃし」

 

ゾロゾロと艦内に戻って行く中、クロウはオルディーネから降り、蒼穹のはるか先を見つめた。

 

「さて、役者は揃った。 後はどこまで粘れるか見せてもらおうか……リィン、そしてレト。 いや、《剣帝》レミスルト」

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

「まさかまだあの空域にいたとは思ってもいませんでしたよ」

 

「ガハハ、ホイホイ尻尾巻いて逃げるほど腰抜けじゃねえんでな」

 

「あんなのグロリアスと同じくらいだし、今更ビビることもないし」

 

パンタグリュエルから飛び降り、落下途中でテスタ=ロッサを呼ぼうとした時、どこからともなく山猫号が現れたのだ。 驚きながらも鉤爪ロープで引っ掛けて乗り込み、離脱した訳である。

 

「しかしさっきのが噂のカレイジャスかぁ。 アルセイユ同様、かなり速かったよね」

 

「ウチの山猫号だって負けてねえよ」

 

「いや、張り合わなくても……」

 

そうこうしているうちに、山猫号はクロイツェン州、バリアハート方面に向かっていた。

 

「さてと、それでどうする? ユミルに戻った所で誰もいないんだろ?」

 

「そうですねー……カレイジャスと合流するにもどこにいるのやら。 通信の周波数も知らないですし」

 

「なら予定通り、レグラムに降りるとしよう。 何らかの情報は得られるはずだ」

 

「よっしゃ! そんじゃあ行くとするか!」

 

「ナァ」

 

山猫号は進路をクロイツェン州に変え、数分後にはレグラムのエベル湖に着水、貴族兵がいないことを確認し山猫号を波止場に着かせた。

 

その際、船底にぶら下がっていたテスタ=ロッサは湖に沈むことになったが……ゼムリアの装甲をしているため、錆びる事はないしとそのままにしておいた。

 

「レグラム……なんだか懐かしい気もするね」

 

「——おや、レト様ではありませんか」

 

レグラムに来た船を確認しに来た、アルゼイドの家に使える執事のクラウスが波止場にやって来た。

 

「クラウスさん、お久しぶりです。 少し停めさせてもらってもいいですか?」

 

「もちろん構いませぬ。しかし残念ですな……もう少し早くこの地に来ていれば、お嬢様やリィン様とお会いできたのですが」

 

「あ、大丈夫です。 リィンに事情は話しているので。 とりあえず今日一泊したいのですし、宿酒場は空いていますか?」

 

「それならばアルゼイド邸をお使いください。 この内戦の中、あなた方が血を流す中、私はここで主人の帰りを待つしかできぬ身。 これくらいはさせていただきたい」

 

「なら、ご厚意に甘えさせていただきます」

 

本来なら、人として少しくらい遠慮や躊躇した方がいいと思うが、クラウスの言い分も理解しているレトは悩まずに厚意を受け取った。

 

ジョゼット達は明日の出発に備え、山猫号の点検をしてからアルゼイド邸に向かう事となり、一足先にレトはクラウスの案内で邸宅に向かった。

 

「ただいま戻りました」

 

「お帰りなさいませ、クラウス様」

 

「あれ? 君は確か……」

 

「あ……」

 

出迎えたメイドは、以前特別実習で会ったクロエだった。 メイドの格好をしていてレトは少し驚いた。 その反応を見たクラウスは説明を始める。

 

「彼女は3ヶ月前からここで働けせていただています。 他の2名も、武練場の手伝いや門下生のケア、ギルドの受付をしております」

 

「ふぅん……」

 

「な、なによ、じゃなかった……何でしょうか?」

 

「いや、何も」

 

興味がなさそう、しかしフッと笑いながらクロエの横を通り、特別実習で寝泊まりした二階の部屋に入って行った。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

12月14日——

 

昨日、アルゼイド邸でお世話になり、ジョゼット達と相談した結果、レトはカレイジャスに合流する事にし、山猫号を降りることにした。

 

波止場にテスタ=ロッサを上げ、準備が整った山猫号にカプア一家が甲板の上に乗った。

 

「それじゃあ、カプア特急便の皆さん、お世話になりました」

 

「今度は会うときは、普通の依頼をお願いするぜ」

 

「またな、ボウズ」

 

「ボクはエレボニアでの運送も本格的に始めるから、この内戦が終わった後、山猫II号で会いに行くからね」

 

「はい!」

 

「ナァ〜」

 

別れの挨拶をし、船内に入るとすぐに離陸。 山猫号は南へ……リベールに向かって行き、レトは見えなくなるまで見送った。

 

「後で50万くらいで……いや、請求書くるまで待つかな。 さて、先ずはカレイジャスがどこにいるか探さないとね」

 

「ナァー」

 

『——灰色の騎神の反応は検出出来なかった。 恐らくは捜索範囲外、高高度で飛行しているのだろう』

 

と、突然テスタ=ロッサがそんな説明をしながら流暢に喋り出した。

 

「どうしたのテスタ=ロッサ? いつの間にそんな流暢に喋れるようになったの?」

 

『今の我は半身、戦闘では力になれない。 せめて相談相手にはなれようと、記憶データの整理をしていた』

 

「そうなんだ……ありがとう、テスタ=ロッサ。 でもあまり自分を卑下にしないで、テスタ=ロッサがいなきゃ、僕はここまで来れなかったかもしれないんだ」

 

「——おや、レミィじゃないか」

 

「うん?」

 

その時、背後から声をかけられた。 振り返ってみると……そこにはオリヴァルト達がいた。

 

「兄さん、どうしてレグラムに? それに子爵閣下やシャロンさん達も……カレイジャスはどうしたんですか?」

 

「カレイジャスはVII組の、トールズ士官学院に運用を任せた。 ついさっき艦を引き継いで、僕はこれからミュラーと合流するために大陸西部に向かう途中だ」

 

「そのためにエベル湖を渡り、旧道からパルム方面に向かう予定だ」

 

「なるほど……トヴァルさん達もそれぞれ独自に?」

 

「ええ、会長に頼まれていた物を探ろうかと」

 

「私も鉄道憲兵隊と合流して、各地方面を調べてみます」

 

「俺は言わずもがな、ギルド方面を当たってみる」

 

どうやらこの内戦を終わらせようとそれぞれが動き出したようだ。 レトも行動を始めるため、オリヴァルトからカレイジャスの通信周波数を教えてもらった。

 

「カレイジャスに通信するための周波数だ。 これでレミィも合流できるだろう」

 

「ありがとう、兄さん」

 

レトがアークスで周波数を操作する中、オリヴァルト達は波止場で膝をついているテスタ=ロッサを見上げる。

 

「しかし、改めて見ると……畏敬の念すら覚える」

 

「かつて、獅子心皇帝と槍の聖女が協力して帝都地下深くに封印した紅蓮の魔人……これが本来のあるべき姿なのだろう」

 

「何にせよ、貴重な戦力だ。 心強いことこの上ない」

 

「……あの、レミスルト殿下……」

 

「レトでいいですよ、クレアさん」

 

今は軍服を着てないため、レトは大尉を付けずそのままで呼んだ。

 

「レトさん、貴方がこの緋の騎神を駆ると言う事は……」

 

「うん。 身の証を立てるため、ですよ」

 

レトはクレアの言う事を否定せずに肯定する。 オリヴァルトは少し寂しそうな顔をするが、確かに頷いた。

 

「レミィがそうしたいのなら僕は止めるつもりはない。 後悔しないよう、頑張るといい」

 

「もちろん、そのつもりだよ。 学生であり、考古学であり、剣帝でもある……今更、ひとつやふたつ、肩書きが増えたくらいどうって事ないよ」

 

「……そうか」

 

レトはオリヴァルトに背を向け、テスタ=ロッサに乗り込むと立ち上がった。

 

『それじゃあ僕は行きます。 内戦を終わらせるために、自分の道を示すために』

 

「ああ、行くがよい。 己が信じた道を、仲間とともに」

 

『はい!』

 

『ナァー!』

 

「気をつけてな」

 

「また無事な姿でお会いできるのを楽しみにしています」

 

「お嬢様方のこと、どうかよろしくお願いします」

 

テスタ=ロッサは空を見上げながら膝を曲げ……背中のブースターを噴かせながら跳躍し、エベル街道方面に向かって飛翔した。

 

少ししてから連絡を取り、エベル街道上空でカレイジャスと合流、甲板に降り立った。

 

「よっと……」

 

「——レト!!」

 

するとブリッジの下にあった扉が開き、ラウラがいち早く飛び出し、後に続いてリィン達も出てきた。 感動の再会、と思いきや……

 

「この……大馬鹿者!!」

 

「へぶっ!?」

 

そうとはいかなかった。 ラウラはレトの目の前に来るやいなや右手を大きく振りかぶり、大剣を振るように平手打ちをかました。

 

その勢いは強く、甲板の端まで飛ばされてしまった。 あと少しで落ちると冷や汗をかくレトだが、今度は胸倉を掴まれて立ち上がらされた。

 

「よくも私達を謀ったな! あの後、私がどれほど心配したと思っている!!」

 

「いやぁ、あの時は仕方なかったんだよ。 カレイジャスが引きつけていてもしつこくクーさんが狙ってくるし、ラウラを守る為には仕方なかったんだよ。 それにほら、こうしてピンピン生きてるし、結果オーライだよ」

 

「もう二度と……」

 

「え……」

 

ラウラは胸倉を掴んだまま俯き、声を振り絞るように呟く。

 

「もう二度と、同じ事をしないと誓えるか……?」

 

「ええっと……あんまり自信はないけど……」

 

「約束出来るのか!?」

 

「ぐえっ!? で、出来ます出来ます! 誓いますから、確約しますから!!」

 

凄まれながら一歩前に踏み出され、片脚が甲板から出るとレトは慌てて頷き、約束した。

 

それで一応は納得したのか、後ろにレトを投げラウラは早足で艦内に入って行った。

 

「はぁ……」

 

「災難だったな。 だが自業自得だ」

 

「もう少し落ち着きを持った方がいいぞ?」

 

「レトって結構、勝手に独走するからね。 別に間違ってはいないんだけど、その後ろを僕達が着いていけないんだよねえ」

 

「今度から歩幅を合わせるといい。 仲間のために道を切り開くとも大事だが、仲間と共に歩んでいくのもまた大切だ」

 

「……あぁ、うん。 身に染みたよ」

 

「あんたの方でも、もう少し主人をどうにかしなさいよ」

 

「ナァ……」

 

「まあ、俺は人の事は言えないけど……お互いに直せるように頑張るとしよう」

 

VII組男性陣に指摘され、自覚していたのか図星を突かれ、レトは苦笑いしかできなかった。 そして、リィンから手を差し伸ばされ……

 

「お帰り、レト」

 

「ただいま、リィン。 皆も」

 


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