12月9日——
「でっきたー!」
錬金釜から取り出して手甲をソフィーは嬉しそうに掲げた。
レトがソフィーを指導し始めて数日、今では堰き止められていた川が決壊するように、ソフィーはメキメキと腕を上げ、今では装飾具の錬金まで出来るようになっていた。
「うわぁ……今までのより良い出来だよ!」
「同じレシピでもやり方次第で出来栄えは大きく変化する。 これは他のことでも言える事で……料理しかり、勉強しかり、剣しかり。 同じ目的、動作でも過程が変われば結果も変わる。 基本は創意工夫、覚えておくといいよ」
「創意工夫……ですか。 はい、分かりました!」
勢いに乗り再び錬金術を始めるソフィー。 と、アトリエの扉が開き、ジョゼットが入ってきた。
「ジョゼットさん、街の様子はどうですか?」
「かなり殺気立っていたよ。 クロスベルの流れで共和国は反移民主義によるテロが激化している傾向になってたし……共和国政府が東方人街に手を伸ばす事は無いと思うけど、あんまり時間がないと思う」
「そう、ですか……」
確かにこの数日でソフィーの腕はメキメキと上がっている。 だが、内戦が本格化するまで……と言われれば、恐らくは間に合わないだろう。
「とはいえ、このままソフィーを放り出して行くわけにも行かないですし……ギリギリまで待ちますよ」
「そう……ここまで乗りかかった船だし、最後まで付き合うよ。 帝国の状況が変化したらまた教えに来るから」
「ありがとうございます、ジョゼットさん」
こんな危険な事に付き合ってくれたジョゼットとカプアー特急便の人達に、レトは感謝の念しか出なかった。
気を取り直し、レトはソフィーの指導を再開する。 錬金術は知識と理解も大事だが、それ以上に感覚も重要になってくる。
「そういえば……ソフィーが錬金術を始めたきっかけってなに? 僕は星見の塔で見つけた古文書からだけど、ちょっと気になってね」
釜の中をかき混ぜる中、唐突にレトがそんな質問をしてきた。 ソフィーは驚きながらもかき混ぜる手を止めずに答える。
「きっかけ? きっかけですかぁ……うーん、やっぱりおばあちゃんですね」
「確か凄い錬金術師だって聞いたけど……」
「はい。 おばあちゃんの前の代から表向きは薬剤師と称した錬金術師が始まって……そしておばあちゃんは薬を作って、街の皆に頼られていたんです。 街の人がアトリエにお礼を言いに来たりしてて。 それを見て、ああ、いいなぁって。 私もおばあちゃんみたいに、錬金術で人を助けられたらいいなぁ、って思ったんです。 それで、せがんで錬金術を教えてもらったんですよ」
「なるほど……凄い人だったんだね」
「はい! だから、おばあちゃんがきっかけであり目標であるんです! いつかおばあちゃんみたいな錬金術師になって、たくさんの人を助けるんです!」
そこでソフィーは「まぁ」といい、照れ臭そうに頭をかいた。
「そうなるにはまだまだ力不足ですけどね、あはは……」
「はは、そうだね。 でも、いい目標だと僕は思うよ。 ソフィーなら、きっとおばあさんのようになれる……いや、超えられるよ」
「レトさん……! はい、先ずは目先の目標、ゼムリア武器の再錬成、頑張ります!」
それからも授業は続き、昼頃にはひと段落ついたので休憩がてら2人は昼食をとった。
「はー、美味しかったー。 先生は錬金術だけじゃなくて料理もお上手なんですね」
「旅をしていたからね。 自然と身についたんだよ」
「そうなんですか。 それにしても……こんなに楽しい食事は久しぶりです」
そう言いながらソフィーは少し悲しそうな顔をする。
「おばあさんが一緒とは聞いたけど、ご両親は?」
「早くに2人とも。 おばあちゃんも2年前に亡くしてしまって……」
「あ……ごめん、辛いこと事を聞いちゃったね」
「いえ、私も湿っぽいことを言ってすみません。 それに、今は寂しくないんです。 先生やジョゼットさん達が来てくれて、このアトリエも賑やかになりました。 街の人達も親切ですけど、こっちの方が暖かいんです」
「そっか」
「ナァ」
食後の紅茶を口にし、ソフィーは頰を押さえながら微笑む。
その後、レトは錬金術をよく知るため錬金術師の歴史をソフィーから教えてもらった。
「錬金術師が誕生したのは暗黒時代以前、本格的な活動を始めたのは幻の至宝が自身の意志で消滅してから……それから300年後、今から900年前に星見の塔が建てられ活動が加速。 その頃から錬金術師の間で争いがあったんです」
本棚から……ではなく、床に積み上げられた本の山を崩し、歴史書を取り出してテーブルに広げた。
そこには過去の錬金術師の活動記録が記載されていた。
「ある一派……ここでは過激派と言っておきます。 彼らは消えた幻の至宝を再現しようとありとあらゆる手段、それこそ非道の数々を繰り返しました。 そしてそれに反対した一派……穏健派、つまり私の祖先は説得虚しく、逃げるように東へ。 東方の今も続く龍脈の枯渇をなんとかしようしたのは方便なんです。 落ち延びるための理由ならなんでもよかったんです」
「あの日記にはそんな理由が……」
「方便とは言っても実際になんとかしようとしたそうですよ。 でも、強大な力の前になんの対抗も出来ず……500年前を最後に枯渇を遅らせる事を成功した以降、手を引きました」
災害の前に、ほんの僅かな人の力では無力。 枯渇を遅らせただけでも上々なのだろう。
「私の一族は穏健派の率いていたリーニエ家……元々、リーニエ家は
「っ!? クロイス、家?」
話が変わった瞬間、その名を聞き驚愕するレト。 ソフィーは不思議に思いながらもそのまま語り続ける。
「えっと……その後、リーニエ家は志を賛同する錬金術師はクロイス家率いる一派と袂を分かち、この地に落ち延びたのです」
クロイス家……レトはその名前に聞き覚えがあった。 その名は、通商会議で一気に名が知れ渡った人物……ディーター・クロイス。
(IBCの総裁にして、クロスベル独立を宣言した市長。 偶然にクロイスという名前が重なった? ……いや、星見の塔、錬金術発祥の地はクロスベル。 否定できない、何か裏があるはずだけど……クロイス家が錬金術の家系だったと仮定しても、一体何をする気なんだ……)
思考を巡らせ、答えを探す。 そのレトの険しい表情を見たソフィーは心配の声をかける。
「あ、あのぉ……先生?」
「あ、ああ、ごめん。 それで続きは?」
「後は最初にお話した通り、この地を訪れた錬金術師の家系は徐々に衰退の一途を辿り、今に至るんです」
話は終わり、テーブルに広げられていた歴史書を閉じた。
気になる点はいくつかあったが、特にレトはクロイス家について深く考え込んだ。 だがいくら考えても答えが出るわけでもなく、思考をやめた。
「それで、明日決行するんですか? その……武器の再錬成を」
「今のソフィーの腕なら出来るはずだよ。 ただ、少し手法は変わるけど」
「手法が、変わる?」
「僕達が今勉強しているのは釜を使った錬金術。 でもテスタ=ロッサの武器を錬成するとなると今の釜じゃはいる訳もないし、釜を用意したらどんな大きさになるのやら……」
「それこそ騎神と同じ大きさになりますね……」
「だから今回は“錬成陣”を使おうと思う」
そう言いテーブルの上に1枚の紙を出した。 そこには逆三角形の幾何学模様が描かれた円が描かれていた。
レトはここ数日の間にアトリエ内にあった錬金術に関する書物を読み漁っており。 一通りの内容は頭の中に入れていた。
「地脈の上に錬成陣を描いてその上に武器を置く。 錬金術を始めて武器を分解、再構成する。 まあ、地脈の力を使う錬金術は……どちらかといえば“錬丹術”って言われているね」
「うーん、原理は分かりますが、出来るのでしょうか……そんな高度な錬金術を」
「大丈夫。 釜と陣の違いはあるけど、やり方は同じだから」
レトは席から立ち上がり、窓際まで歩き丘の上から見える街を見ながら口を開いた。
「明日、この地で龍脈が集中している場所……南の洞窟で再錬成を行う」
◆ ◆ ◆
12月10日——
予定通り今日、テスタ=ロッサの武器を再錬成するため、レトとソフィーは東方人街から南にある洞窟に川沿いを歩いていた。
「そういえば先生、どうやってこの地の龍脈を調べたんですか?」
「テスタ=ロッサに頼んでね。 彼もいい練習になったって言ってたし一石二鳥だったね」
「ナァ……」
そうしているうちに洞窟に到着した。 道の真ん中には川が流れており、水食により自然で出来た洞窟だとわかる。
「この先には魔獣が多数存在する。 と、そうだ、今まで聞いてこなかったけど、ソフィーは戦えるのか?」
「はい。 薬に使う材料は自給してたのである程度には。 たまに魔獣から獲れる爪や牙、内臓も薬に使う機会もありますし」
そう言いながら取り出したのは、1冊の本だった。 特殊な本のようで、分厚く装飾が施されている。
「本? 魔導書か何かなのかな?」
「はい、錬金術で作った魔導書です。 この本には七耀の力が込められていて、直ぐに
(なるほど。
魔導杖、魔導銃など珍しい武器も増えてきたが、また不思議な得物が出た物だと胸の中でレトは思った。
「と、戦術オーブメントは?」
「あ、はい。 これです」
ポケットに手を入れ、差し出されたソフィーの手に乗っていたのは手の平に収まるくらいの大きさのオーブメントだった。
「これって新型オーブメント……いや、第5世代であるアークスも出ているから新型でいいのかな?」
「あの、これじゃあダメなのですか?」
「ううん、問題ないよ」
そもそも戦術オーブメント自体、個人で持てる物でもない。
オーブメントの性能に差があり戦術リンクが使えないが、そこはレトがフォローするようだ。
「ナァー」
「おっと。 それじゃあ行こう。 目的地は恐らく最奥……気を抜かずに行くとしよう」
「が、頑張ります……!」
緊張しているが自身を奮い立たせ、2人は洞窟の中に入った。
中は陽の光が届かないので当然暗く、レトのカンテラで辺りを照らしながら前に進む。 洞窟内には川が流れる音と2人の歩く音しか聞こえず……突然、数十匹のコウモリ型の魔獣が襲いかかってきた。
「き、来たぁ!」
「構えて、ソフィー!」
レトは槍を冷静に抜き、ソフィーも多少慌てながらも本を開き構える。
位置取りは当然レトが前衛、ソフィーが後衛となり。 念のためソフィーにルーシェを預け、レトは駆け出した。
「はっ!」
刹那の間に突きを何回も繰り出し、1匹に対して両翼と腹、三度突き倒して行く。 が、レト実力を見るため1、2匹程度討ち漏らし、ソフィーの方に向かわせた。
「えいっ……!」
迫って来た事に驚くも本を構える。 素人ではないものの、慣れてはいないようだ。 ソフィーは左手に本を抱え、右手を振るい魔力の刃を作り飛ばし。 1匹の翼を切り裂いたが、もう一体は外してしまった。
「きゃ……」
「よっと」
襲いかかろうとしたコウモリを背後から槍が貫き、セピスとなって消滅した。 他のコウモリは既に倒したらしく、レトは座り込むソフィーに手を貸した。
「大丈夫?」
「はぁはぁ……い、いつもの魔獣と同じくらいなのに、場所が変わるだけでこんなにも違うなんて……」
「明るい場所ばかり戦って来たんだね。 周りが見えないと結構精神も削られるから早く慣れた方がいいよ。 んー、こんな事なら錬金術だけじゃなくって戦い方も教えた方が良かったかな?」
「ス、スパルタァ〜……」
「ほら立った立った。 習うより慣れろ、今この場で頭と身体で覚えてもらうからね」
「うえぇ〜……」
錬金術なら嬉々として教えを請おうとするのに、どうやらそれ以外だと苦に感じるソフィーだった。
それからも戦闘が始まる度にソフィーに魔獣を流し、最奥に到着する頃にはある程度慣れ、スムーズに攻撃や防御などが出来るようになっていた。
「そろそろ到着する頃だろうね、ここいらで休憩しよう」
「は、はい……」
魔獣に見つからぬよう隅により、一息ついた。 携帯食料を苦い顔をして食べるソフィーを見て、レトは思っていたことを話した。
「ここ数日で分かったけど、ソフィーって錬金術以外は無頓着だよね。 掃除も料理も出来ないし、時間にはルーズだし」
「うぐ……調合に集中していると他の事が疎かになっちゃって……」
「僕がスケジュールを組んでなかったらずっと続ける気だったでしょう?」
序盤にレトはソフィーのずぼらな性格に気付き、毎日のスケジュールを組み彼女にそれをこなさせていた。
それにより料理はできなくても、最低限の整理整頓や掃除、食事の時間は何とか守らせる事ができた。
「さて、ここからが本番だよ。
「はい!」
「ナァー!」
レト達は再び洞窟を進み、しばらくして……水が流れる音が鮮明に聞こえてきた。
「ここが……」
「うわぁ……キレー!」
最奥の広間を囲うように泉があり、2人から上部に岩場から噴水のように水が溢れていた。
「川の源泉、ここから流れていたんだね」
「……むむ、強い龍脈の流れを感じます。 ここで間違いなさそうですね」
「よし、なら早速始めよう……と、言いたいけど……」
「へ……」
その時……ズリズリと何かが擦れ移動する音が聞こえてきた。 ソフィーは周囲を見回し、音源を探ると……
——カッ……
「え……」
唐突に上から石が落ち地面を鳴らした。 ソフィーは上を見上げると……丸太のような体躯をし、全身に鋭い鱗を持った大蛇型の魔獣……グーラ・ヒドゥが天井に張り付き、顔をのぞかせレト達を見下ろしていた。
「うわわぁ!?」
「どうやらこの洞窟の主みたいだね。 あれを倒さない限り再錬成は出来ない、討伐するよ」
「や、やるしかない。 あ、でもあの鱗……錬金術に使えるかも!」
戦闘は嫌いだがそれが錬金術に繋がるとやる気を見せるソフィー。 2人は武器を構え、ズルズルと降りてくるグーラ・ヒドゥを警戒する。
「せ、先生! 騎神は呼べないのですか!?」
「こんな閉鎖空間で呼んだらこっちも生き埋めになって出来ないよ! ここは2人でなんとかするよ!」
「は、はい!」
弱くなっているとはいえ、あの大きでこんな狭い場所で戦えば崩落は免れないだろう。 人の身で戦うしかない。
しかし、当然そんな考えはグーラ・ヒドゥには持ち合わせてなく、その巨体をうねらせて2人に迫って来た。
「行くよ、フォースブリッツ!」
ひとりでに魔導書のページが開き、開かれたページに模写されていた魔法陣がソフィーの目の前に展開。
収束して黄緑色の光弾となり、光弾を投げてグーラ・ヒドゥの顔面に直撃し弾けた。 そこで止まらずソフィーはすかさず、アーツの駆動を始めた。
「よっ」
レトは天井まで跳躍して槍を突き刺し、鉄棒で回るように回転。 天井から刃が抜けグーラ・ヒドゥに向かって突撃し……
「でやっ!」
「ストーンハンマー!」
勢いをつけて顔面に回し蹴りを喰らわせ、間髪入れずにソフィーの地のアーツが発動。 頭上から岩石を落下させた。 ただし、1発ではなく10発程、グーラ・ヒドゥに浴びせた。
(そういえばそんな名前だったっけ……)
今の1番弱い地のアーツの名前はニードルショット、少し懐かしいく思いながらレトはグーラ・ヒドゥの横から入り込もうとする。
しかし、グーラ・ヒドゥはとぐろを巻き、その場で回転を始めた。 巨大な巨躯と鋭い鱗により岩を抵抗無く削り取りながら進行してくる。
「おっと……このままだと洞窟が崩れそうだね」
「任せてください! オーラブレイク!」
手をかざした本が輝くとグーラ・ヒドゥの頭上に光が降り注ぎ、上から押さえ込んだ。
「さらに……ペトロスフィア!」
続けてソフィーはかざした手を地面に下ろしアーツを発動、グーラ・ヒドゥの足元が軟化し、回転を抑えた。
「よし、今のうちに……」
レトが仕掛けようとした時、グーラ・ヒドゥはとぐろを更に巻き、バネのように飛び跳ねてぬかるんだ足場と槍を回避した。
「そんなのあり!?」
「おっと……」
驚く間も無く、レトは跳躍から牙を剥き出しながら降下して来たグーラ・ヒドゥの突撃を回避し……
「アースランス!」
回避と同時にアークスを駆動させ、発動すると地面から槍が飛び出し硬い鱗と皮膚を貫く。
すると、グーラ・ヒドゥが大きく口を開け、大きく息を吸い込んだ。
「! ブレスがくる、ソフィー!」
「はい!」
次の瞬間、グーラ・ヒドゥの口から毒の霧が吐かれた。 その霧が洞窟を満たす前にレトは天井に張り付き、ソフィーは毒霧を風のアーツ、エアリアルで吹き飛ばした。
「ダークマター!」
さらにソフィーによって黒く渦巻く高圧の空間が発生、霧ごとグーラ・ヒドゥを引き寄せ締め付ける。
「ひとーつ!」
その隙を狙いレトが天井を蹴って急降下、グーラ・ヒドゥの目の前に落ちると一回転、槍の穂先が右側の牙を切り落とした。
「ふたーつ!」
痛みに悶えながら尾が振り下ろされ、怒り狂い続けて噛み付かれた所を避ける。 その際、避ける間際に槍を薙ぎ、左側の牙を切り落とした。
グーラ・ヒドゥはさらに怒る。 その時、視界にソフィーが映り込み……身をよじらせ、ソフィーに向かって尾を槍のように勢いよく突き出してきた。
「オーラフィールド!」
咄嗟の攻撃も落ち着いて対処、ソフィーは障壁を展開し尾を防いだ。 さらに数枚の障壁を尾に重ねるように展開させ、動きを抑え込んだ。
「今です!」
「さて、一気に決めるよ!」
ソフィーが攻撃を受けている間にレトは槍を納め、左手を目の前にかざし……
「行くよ——ケルンバイター!!」
「えっ!?」
異界から取り出したケルンバイターを見たソフィーは目を見開くが、レトは一気に畳み掛ける。
「見切る隙も与えない!」
朧月牙——分け身により6人に増えたレトがグーラ・ヒドゥを取り囲み、6方向からほぼ同時に斬りかかった。 斬撃が一点に集まり、弾けて二回グーラ・ヒドゥの身を斬る。
「これで、終わり!」
駄目押しとばかりに真下から潜り込んで槍を投擲し、逆鱗ごと喉を貫いた。 そして、グーラ・ヒドゥは断末魔を上げ、消滅した。
「ふう……」
「凄い……凄い凄い! 外の理で作られた剣だよ! 初めて見た!!」
「おわっと……!?」
一息ついていたら突然、ソフィーはケルンバイターに飛びかかろうとし、レトは刃があり危ないと剣を上にあげてた。
「いきなりどうしたの一体?」
「その剣は外の理に関わっています! 錬金術師達の追い求める領域……
どうやら錬金術師としての火がついたらしく、ケルンバイターに釣られるソフィーはレトの周囲をグルグル回る。
「真理に到達すれば《外の理》に繋がる……おばあちゃんが一番追い求めていた夢なんです!」
「そ、そうなんだ……」
手を伸ばし、ソフィーの額を押さえて止めながら、レトは恐る恐るある質問をした。
「……君は、女神の存在を信じているのかい?」
「——この世界に女神はいません」
「!!」
質問に対し、身を引いてさも当然のように即答するソフィーにレトは驚愕し、続けてソフィーは口を開く。
「死の果てにも女神はいません。 あるのは魂魄となった人の意志……七の至宝の有無が女神の存在を証明しているのかもしれませんが、決して人一人に寄り添う存在ではないでしょう」
(……無邪気な子と思っていたけど……錬金術と関わりがあり、女神の存在を否定する集団《D∴G教団》。 ソフィーは非道、外道では決してないけど……根本は同じなんだ)
過去に袂を分かったとはいえ、彼女達が錬金術師であるのは事実。 狂信的に否定していないのがせめてもの救いだろう。
「さあ、錬成陣を書きましょう。 大きいので一苦労です」
「あ、うん……そうだね」
「………………」
ソフィーが女神を信じているかいないかは今は置いておき、レト達は広間の中心に直径10アージュの円を描き……
「さてと……出でよ——テスタ=ロッサ!」
『承知』
緋の騎神の名を呼び、テスタ=ロッサが転移でこの広間に飛んできた。 レトはテスタ=ロッサに乗り込み、今持っている全ての武器を錬成陣の上に置いた。
「レトさん、イメージしてください。 最も使いやすい形、大きさ、自身が理想とする武器に」
『うん、分かった』
レトはテスタ=ロッサを操縦し、錬成陣の上に両手を置いた。 そしてソフィーが黄緑色に光る魔力を高めて本を浮かせ、両手を目の前にかざした。
すると、錬成陣がの線が黄緑色に輝きだし、同色の電撃が陣の上に乗る武器から迸る。
「っ……やっぱり大きい分、魔力の消費が……」
『龍脈からの魔力を受け取りつつ、制御に集中するんだ! こっちも形成しつつ、制御を手伝う!』
『……ぜむりあ武器ノ分解ヲ開始、再錬成ニ移行スル』
陣の上にあった9つの武器がバラバラになり、破片が陣の上で飛び交う。 2人は意識を集中させると破片が集まりだし、レトが求める新たな形へと姿を変えて行く。
新たに形造る4つの武器……ケルンバイターと同じ形状の緋い剣。 緋い和槍。 緋い弓。 そして、緋い太刀。 ゆっくりと、しかし確かな形で、形成されていき……錬成陣から光が消えた。
「ぷっ……はあああぁ! 疲れたぁ……」
武器の再錬成を成功させたソフィー。 一気に気が抜けたのか大きく息を吐いて倒れ込んだ。
「錬金釜は時間をかけてじっくりと調合するに対して、錬成陣は一気に手がけるから1秒たりとも気が抜けなくて本当に疲れたよぉ……」
『あらかじめ練習したとはいえ、この大きさも無茶だったかもね』
「ナァ」
そう言いながらレトは新たな剣を手に取り、軽く振るって調子を確かめる。 それを槍、弓と繰り返し、太刀は何もせずに空間に納めた。
「どうでしたか?」
『問題ない、イメージ通りに仕上がったよ。 お疲れ様、ソフィー』
「はい!」
◆ ◆ ◆
休む間も無く洞窟を出たレト達はアトリエに戻り、待っていたジョゼット達に事の次第を報告した。 ジョゼット達はこれでようやく帰れると息を吐き、一安心しながら帰国の準備を始めた。
と、言っても、ここは敵国、念のためにいつでも出られるよう出発の準備は既に終わっており。 後はテスタ=ロッサを吊るすだけだった。
「ありがとう、ソフィー。 おかげで最高の武器が手に入った。 それと付き合ってくれて悪かったね」
「いえ! 引き止めたのは私ですし、この数日間のご指導、ありがとうございました! 自分でも錬金術の腕が上がった事が実感できます!」
「そっか、それならよかった」
「ナァ」
そうこうしているうちに詰め込みが終わって山猫号が離陸し、後はレトが乗り込むだけとなった。 それを見たソフィーは心配そうな顔をしてレトを見る。
「これから、直ぐ帝国に?」
「うん。 かなり時間が経っちゃったし、そろそろ戻らないと大変な事が起きそうだからね。 仲間も心配してそうだし」
「そうですか……あ、あの!」
何か言いたそうにしながら俯くが……意を決し、意気込みながらソフィーは顔を上げた。
「私、いつか帝国に行きます! その時、また会って錬金術を教えてもらえますか?」
少し気圧されつつも驚いたが、レトはフッと笑いながら頷いた。
「分かった、いいよ。 それまでに腕を磨く事は難しいかもしれないけど、せめて教えるために錬金術の勉強をしておくよ」
「はい! お願いしますね、先生!」
別れを済ませ、レトはその場で跳躍、木を蹴ってさらに高く跳び飛んでいた山猫号に飛び乗った。
「よし、最後の荷物も乗ったよ!」
「ホントに人間かよあいつ……」
「よっしゃっ! 山猫I号、帝国に向けて全速前進だ!!」
ドルンの号令で山猫号は発進し、この東方の地に別れを告げた。 西の空に消えて行くのをソフィーは見届け、見えなくなると見上げていた顔を下げた。
「行っちゃった、かぁ……」
ポツリと呟いて踵を返し、アトリエに向かって歩き始める。
「さてと、次に先生と再会するまで腕を磨かないと。 先ずは、そうだなぁ……相談役の助手を作ろうかな?」
錬金術と言われれば、まず最初に思いつくのは手合わせ錬成を使う鋼な錬金術師……
鋼のと英雄伝説って意外にも共通点は多いんですけどね。 “全は一、一は全”という言葉、空の軌跡3rd辺りで出てたと記憶してます。