英雄伝説 時幻の軌跡   作:にこにこみ

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7話 月夜の語らい

 

 

レト達は軽く茶菓子をもらいながら元締めの話により、今回起こった騒動の背景にが明らかになった。

 

先ずはオットー元締めが先ほどの2人の商人について、交代であの場所を使うことに決まる事から始まり。 次に実習の依頼を見繕っていた事や……大市の突然な大幅な増税について話してくれた。それにより商人達は躍起になり……度々今回のようないざこざが絶えなくなっていたようだ。 何度も公爵家に陳情に行っては門前払い……これが2ヶ月も続いているらしい。

 

「そういえばさっき大市で聞いたね。 売上税が2倍近くになって。 それ以来、喧嘩が頻発していると」

 

「……そうなると。 やはり許可書の件は意図的な?」

 

「単なる嫌がらせかもしれないわね」

 

「……まあ、そう決め付けるのは早計かもしれないが。 ただ、先ほどの騒動にしても以前なら詰所の兵士達が仲裁にくるはずだったのだが……」

 

「同時期に不干渉になってしまったと」

 

ラウラの問いに元締めは頷く。 そして、陳情を辞めない限りこの状況が続くと今朝方あった詰所の隊長から脅しのように仄めかされた。

 

「そんな……」

 

「……………………」

 

レト達は思わず考え込んでしまう。 それを見た元締めは気にしないでいいと首を振った。 その後明日の実習についての話を持ち出し……元締め宅を後にした。

 

「……なんだか、ちょっと理不尽だよね」

 

広場に出た所でエリオットが先ほどの話を持ち出してきた。

 

「ああ……そうだな」

 

「領地における税を管理するのは貴族の義務であり権利……帝国の制度でそうなっている以上、どうしようもないと思うけど……」

 

「ーー他家のやり方に口を出すつもりはないが。 此度の増税と露骨な嫌がらせはさすがに問題だろう」

 

「アルバレア公爵家当主……傲岸不遜な人とは聞いた事があるけど、噂に違わなさそうかな。 これはユーシスに頼んでも無理そうだね」

 

「一度出した御触れをそう易々と戻すわけはないわね」

 

「そ、そうかぁ〜」

 

「ーーうんうん。 悩んどるみたいね、青少年」

 

その時、背後からサラ教官が声をかけて近寄ってきた。

 

「サラ教官……」

 

「ど、どうしたんですか?」

 

「……もしかして。 今ごろB班の方に向かうんですか?」

 

「まさしくその通り。 そろそろフォローに行かないとマズいことになってるそうでね」

 

レト達は誰のせい……とは言わない事にした。

 

「紡績の町パルムはここからだと距離があるが……」

 

「ま、何とかなるでしょ」

 

そう言い、サラ教官は駅に向かって行った。 B班に行ったのはいいが、こっちも丸投げされたような気もする……

 

色々と腑には落ちない部分は多いが。レト達はもう一度大市を見回ってから風見亭に戻った。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

陽が落ちる前に軽く、大まかに今日のレポートをまとめ上げ。 残りは食後で済ませるとして、今は風見亭の一階で夕食を食べていた。

 

「ふぅ……ごちそうさま。うーん、さすがに野菜とか新鮮で美味しかったねぇ」

 

「ああ、さすがに地の物の料理は違うな」

 

エリオットが満足そうに笑うと、リィンが同意する。

 

「ライ麦を使ったパンも美味しかったね」

 

「うん。 これは明日も気合が入るな」

 

「うーん、こんな楽しみがあるなら特別実習も悪くないけど」

 

地元の食材をふんだんに使った夕食を満喫し、一息ついたところで5人は実習一日目に付いて振り返る。

 

「……本当、僕達VII組ってなんで集められたんだろうね? どうもアークスの適正だけが理由じゃない気がするんだけど」

 

「うん。 それは間違いあるまい。 それだけなら今日のような実習内容にならぬだろうしな」

 

「どうやら私達に色々な経験をさせようとしてるみたいだけど……どんな真意があるのかは現時点ではまだ分からないわね」

 

「……………………」

 

「? レトは何か分かったの?」

 

「! ……いや、少し引っかかっているんだけど。 まだ確証を得ないというか……」

 

声をかけられた事に驚き、レトは手を振って誤魔化した。 その時……考え込んでいたリィンの一言によって、話題はそれぞれの士官学院への志望理由へ移っていった。

 

「ふむーー私の場合は単純だ。 目標としている人物に近づくためといったところか」

 

「目標としている人物?」

 

(そうなると嫁の貰い手が更に無くなるような……)

 

「…………レト…………?」

 

「……ナンデモアリマセン……」

 

何でこういう時のラウラは鋭いのだろうと、レトは少しばかり戦慄する。 ただ単にラウラがレトに関してだけは鋭いだけかもしれないが……そこでラウラは少し頰を赤らめながら咳払いをする。

 

「コホン。 それでアリサはどうだ?」

 

「そ、そうね……色々あるんだけど“自立”したかったからかな。 ちょっと実家と上手く行ってないのもあるし」

 

「そうなのか……レトはどうなんだ?」

 

アリサの次はレトとなり、少し頭を振ってラウラの軽い気迫を振り切り進路動機を答えた。

 

「僕の場合はほぼ強制かな? 最初は考古学の専門として帝國学術院に入ろうとしたんだけど……父親に半ば強制的にトールズに入れられたんだ」

 

「そ、そうなの……」

 

「帝國学術院って……確かあの帝都で有名な大学か? レトは確かに勉強は出来るとは思うけど……飛び級と言われれば……」

 

「はは、確かに僕の成績はマキアスと委員長より下だけど……考古学専門による推薦でね。 無名だけど、それなりに実績はあるから。 まあ、研究はどこでも出来るし、結局はなし崩しにね……」

 

「へぇ、レトも僕と似たような感じなんだ……僕も元々、士官学院とは全然違う進路を希望してたんだよね」

 

似た進路希望のレトがいた事に、エリオットは親近感を覚えた。

 

「あら、そうなの?」

 

「たしか……音楽系の進路だったか?」

 

「ほう……」

 

「そういえばエリオットはバイオリンをやってたね」

 

「あはは、まあそこまで本気じゃなかったけど……リ、リィンはどうなの?」

 

「俺は……そうだな……」

 

エリオットは自分の話を逸らさせ、誤魔化すように隣にいたリィンに進路について聞いた。 リィンは少し間を置いた後、答えを出した。

 

「“自分”を――見つけるためかもしれない」

 

リィンの答えに、4人は思わず呆けてしまった。

 

「いや、その。 別に大層な話じゃないんだ。 あえて言葉にするならそんな感じというか……」

 

「えへへ。 いいじゃない、カッコよくて。 うーん……“自分”を見つけるかぁ」

 

「ふふ、貴方がそんなロマンチストだったなんて。 ちょっと以外だったわね」

 

「はあ……変なことを口走ったな」

 

暖かい視線に照れくさくなったのかリィンは目を伏せた傍ら、ラウラだけが無言でリィンを見つめていた。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

「やあっ!」

 

「おっと」

 

陽が落ちた街中で、金属同士がぶつかる音が響いた。 レトとラウラは夕食後、風見亭の前で軽い稽古をしていた。

 

「……ラウラ。 少し剣筋が乱れているよ」

 

「………………」

 

「気持ちは分からなくもないけど、自分の考えを押し付ける行為は褒められたものじゃないよ?」

 

「……分かっている。 私は八葉の名だけでリィンの在り方を自分勝手に決めてしまった……まだまだ修行不足とはいえ、自分が恥ずかしい」

 

この稽古が始まる前、ラウラはどうしてリィンが本気を出さないと質問していた。 答えは本気を出さないのではなく、これが全力だと。 その答えにラウラは驚きつつも、気を引き締めとレトと稽古をしていた。

 

「八葉一刀流……カシウスさんがその流派の一門とは知っていたけど。 今思えばリィンと太刀筋が似ていたかも」

 

「カシウス・ブライト。 私と出会う前、レトはリベールで旅をしていたのだな? もしかしてその時に?」

 

「うん。 その時に何度か家族共々お世話にね。 まあ、話は戻すけど……結局は皆、まだまだ未熟者ってわけだね」

 

「……そうだな。 だからこそここにいるのかもしれない。 まだ始まったばかり……気を急ぐ必要はなかろう」

 

「そうそう。 一つ一つ、謎は解いていかないのと同じ」

 

その後気を取り直し、2人はもう少し気の済むーー特にラウラがーーまで斬り結んだ。

 

「ーーそろそろ戻ろう。 レポートをまとめないと寝れないし」

 

「終わったところでレトは夜遅くまで古文書の解読をするだろう。 明日も早い、今日はやめておけ」

 

「あはは、だよねー」

 

ラウラが先に風見亭に入り、レトは続いて行こうとすると……ふと顔を上げ、空を見上げた。

 

「……月が綺麗だなぁ……」

 

残酷な程に……そう後に呟き、宿に入って行った。

 

 


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