英雄伝説 時幻の軌跡   作:にこにこみ

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閃3に続くためのオリジナル回。 先を考えれば追加しない方がいいんですが……それでも突っ込みたい。


68話 東へ

12月4日——

 

「う〜ん……」

 

早朝、レトはテスタ=ロッサの操縦席に座りながら腕を組み頭を悩ませながら唸っていた。

 

「剣が4、槍が3、弓が2……今後を考える心許ないなぁ」

 

テスタ=ロッサが保有する武器を並べてそう呟く。 専用の武器すらないヴァリマールよりはマシだが、それでも自分の形に会ってない武器になると話は別である。

 

前回は誤魔化しが効いたが、これから戦いが激しくなるに連れて僅かな誤差が命取りになる。 レトはそうなる前に何とかこの問題を解決しようとしていたが……何にも思い浮かばなかった。

 

「やっぱり一から作るしかないのかな?」

 

『ソウナレバ大量ノぜむりあすとーんが必要ニナル。 ソレハ灰ノ武器ヲ作ル時ニモ必要ダロウ』

 

「霊窟から精製されるゼムリアストーンには限りがあるし、僕がそれを採るとリィンの分が無くなる……となれば、この武器を錬金術で作り直すしかないかな?」

 

学院にいた時に実験的に趣味感覚でやっていた昔の魔導師が残した技術……錬金術。 物質を再構成して新たな物質を作る錬金術ならばこの問題を解決ができる。 しかし……

 

「そこまでの技術がない上、このデッカいのをどうやって錬成すればいいのやら……」

 

結局、その場で思いついただけの話であった。 考え込みながらレトはテスタ=ロッサから降りる。

 

「皆と相談してみるよ。 テスタ=ロッサはいつでも動けるように準備だけはしておいて」

 

『承知シタ』

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

渓谷から戻ってきたレトは明日の準備を進めているリィン達に会いに、シュバルツァー男爵邸に向かった。

 

「ただいま」

 

「レト、どこに行ってたんだ?」

 

「ちょっとテスタ=ロッサと相談しに渓谷にね。それで実は皆に相談があって……」

 

帰って早々、レトは武器を調達……というより作り直すため東方に向かうと伝えた。

 

「というわけなんだ」

 

「そうか……」

 

「今すぐにじゃないといけないの? 皆揃ってからでも……」

 

「それだと遅すぎるんだ。 はっきり言って今のテスタ=ロッサは弱い、操縦は何とかなるが戦いにおいて武器の良し悪しはかなり違う……せめてそれくらいは埋めておかないと話にならないからね」

 

それはヴァリマールにも言える事だが、テスタ=ロッサの方が深刻のようだ。 並みの相手ならともかく、騎神の相手は務まらないだろう。

 

「……なら仕方ないね」

 

「他のメンバーを探すのは僕達に任せたまえ」

 

「頑張ってね、レト!」

 

「うん。 なるべく早く戻れるように頑張るよ」

 

「それはいいけど……アンタ、どうやって東の方へ行く気よ? そもそもこんな状況で」

 

セレーヌの言い分はもっともだ。 今の状況では騎神は愚か人一人だって国を越える事は難しいだろう。

 

「確かに。 帝国が内戦中の上、クロスベルは独立、ガルバードだって穏やかな状態じゃないだろうし」

 

「騎神を共に連れて行くならさらに難しくなると思われます。 騎神と機甲兵の存在はまだ周知されていないとはいえ、一見すれば帝国の新兵器と思われても可笑しくはないでしょう」

 

「大丈夫、足はあります。 そこの所はなんとかやり繰りして行きますので」

 

その後、レトはクレアと東方に向かうプランを立て相談し……日が暮れた頃に話がまとまり、人行き着こうとレトは男爵邸から出た。

 

「さて……」

 

少し歩き温室園の前でレトはアークスを取り出して番号を入力し耳に当てた。 数回のコールの後、通信が繋がった。

 

「——もしもし。 少し協力してもらいたい事があるのですが……」

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

12月5日——

 

「いやさぁ。 届け物以外でも相談も受け付けているから気軽に連絡して来なー、って言ったけどさぁ……何もこの状況でなんて物を運ばせる気なんだい?」

 

朝、テスタ=ロッサ達がのいる渓谷道の奥には迷彩柄の小型飛空艇《山猫I号》が着陸していた。 レトは東に向かうための足をカプア特急便に依頼し……国間の危険がある中、こうして来てもらえたのだ。

 

そして軽く後悔しながら、ジョゼットは陽の光に反射して輝く灰色と緋色、2体の巨人を見上げながらボヤく。

 

「すみません。 当てがカプア特急便しかなくて……」

 

「ウチは運送業であってどっかの交通機関、じゃ……」

 

ジョゼットは愚痴を言おうとしたが、そこで何か思いついたようで、顎に手を当ててブツブツと考え込み始めた。

 

「……いやまてよ、お客の目的地まで運んでその距離の分だけミラをもらう。 導力バスと違って高価格になるかもしれないけど需要はある。 リベールの定期船のような旅客運送業……人1人に対して飛行船は割りに合わないけど導力車くらいなら……(ブツブツ)」

 

「? あの、ジョゼットさん?」

 

「あ、ああ……ごめんごめん。 しかし、レトが噂に聞く機甲兵を持っていたなんてね。 船底に引っ掛ける形になるけどいいかい?」

 

「はい、それでお願いします。 それで、運送料の方は……」

 

新しく設置された山猫I号荷物搬入用のクレーンで山猫号の船底にテスタ=ロッサを引き上げるのを見ながらレトは値段について聞くと、ジョゼットは手を横に振った。

 

「いいっていいって。 君とボクの中だ、初回限定でタダにしてあげるよ」

 

「——おいおい。 そりゃいくらなんでも太っ腹過ぎやしないか?」

 

そこへ2人の元にジョゼットと同じ髪の色をした首にゴーグルを下げている青年と、膨よかな体系の中年の男性が歩いて来た。

 

「おいキール。 誰か出っ腹だって?」

 

「誰もそんな事言ってねえよ! はあ……とにかくだ。 リベールからここに来る途中でもそれなりに危険だったんだ。 そこから共和国、さらに東に向かうなんざ命をかけるようなもんだぞ」

 

「身の安全は僕が確保しますよ。 彼と共に」

 

自分の胸に手を当てながら見上げ、テスタ=ロッサを見ながら言うとキースは首を横に振った。

 

「そこは大して心配してない。 問題はその後だ。 お前を下ろした後、誰が安全にリベールまで帰してくれるんだ?」

 

「そ、それは……」

 

確かにその通りである。 東から無事戻り、レトが帝国に戻ったとしても、彼らの帰り道の安全は誰も保証できない。

 

「おいキール、オメェいつからそんな肝っ玉小さくなったんだ?」

 

「あ、兄貴?」

 

「落ちぶれたとはいえ俺らはカプア男爵家。 皇族の方の手助けをするのは当然だ。 仮にそんな関係がなくたって、レトの小僧個人にもそれなりの借りがある」

 

「気持ちは分からなくもないが本社には部下や新人だっているんだぜ。 俺らに何かあればそいつらの生活だって危なくなる」

 

キールの言いたい事も理解できる。 レトがカプア特急便に依頼しているとはいえ完全に私情が入っており、損得勘定でいえばカプアの方にメリットが無くリスクしかない。

 

「起こちまったら、そりゃその時に考えればいいじゃねえか。 ほれ、行くぞ」

 

「お、おい待てって……はぁ……」

 

止める間も無くドルンは梯子で浮かんでいる飛行艇に乗り込み、その後にジョゼットもついて行った。 残されたキールは大きな溜息を吐いて肩を落とした。

 

「キールさん。 ジョゼットさんやドルンさんはああ言ってますが、皆さんの安全は何とか確保してみせます。 後、報酬については請求していてください。 払うのはいつになるのか分かりませんけど、ラクウェルで稼いでいたので問題ありません」

 

「……黄昏の悪魔(オレンジ)の異名、こっちまで届いていたぜ……とはいえ、この先不安だぜ……」

 

「運送業も大変そうですね」

 

「そうなんだよなぁ。 この前だって、兄貴の人の好さに漬け込んでどこぞのマフィアにノーザンブリア詐欺に巻き込まれてよぉ……」

 

どうやらまたリーヴスが奪われた二の轍を踏みかけたらしい。 キールの気苦労がしれない。

 

「それで東のどこに行くんだ?」

 

「さあ?」

 

「さあって……まさか当てがないのか!?」

 

「昔に組織と袂を分かって東へと向かった錬金術師……それぐらいしか分かってませんから」

 

星見の塔で盗掘した古文書に記載されていた情報……その情報が正しければ東方には錬金術師がいるはずだが、いる確証が全くなかった。

 

「とりあえず龍来(ロンライ)か首都《イーディス》から南に位置するラングポートの東方人街に向かおうと思います」

 

「ったく……行き当たりばったりかよ」

 

「まあ、それも悪くないかな」

 

昨日、クレア達と顔を付き合わせて考えたが……結局はノープランと言っても過言ではなかった。

 

準備が整った所でレトは甲板に乗り、同じくユミルを出発しようとするリィン達を見下ろす。

 

「それじゃあ皆、行ってくるよ」

 

「気をつけるんだぞ」

 

「VII組の皆が集まってくる頃には帰って来てね」

 

「善処するよ」

 

リィン達に見送られる中、レトを乗せた山猫号は高度を上げ……東へと向かって飛翔した。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

カルバード共和国南部、ラングポート《東方人街》——

 

「さて、続き続き」

 

とある街にある自宅兼アトリエに紅のような色をした艶のある赤目赤髪のショートカットの少女が帰ってきた。

 

「ここで薬草を入れて……少し煮えたら、蒸留水を投入……うん、いい調子……後は、ちょっと混ぜれば……」

 

アトリエ内にあった大きな釜の前に向かい、途中で手を止めていたと思われる作業を再開する。

 

「……あれれ? おかしいな、何この色!? うわわ、臭い! えっ、ちょっと……!」

 

しかし、窯の中が異様な色に変色。 少女が思っていた結果と異なる事態に陥り……最終的には失敗した。

 

この街から少し離れた家に1人の少女が暮らしていた。 亡くなった祖母から教わった術で、表では街の人々を助けるための薬を作るアトリエを営んでおり、裏では己の腕を磨くため勉強勤しんでいるが……その腕前はまだまだのようだった。

 

「うう、また失敗だぁ……はぁ……こんなんじゃ、いつまで経ってもお婆ちゃんみたいになれないし……真理にも、大いなる秘宝(アルス=マグナ)にも届かないよ……」

 

失敗して出来た産物を片付けながら、少女はかなり気落ちした。

 


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