英雄伝説 時幻の軌跡   作:にこにこみ

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66話 灰の騎神

12月1日——

 

「(ゴクゴク)……ふう……」

 

現在、喉を潤しているレトはウルスラ病院を出て北西に向かい、ノックス樹海の中を進んでいた。

 

レトが今目指しているのはガレリア要塞。 普通なら街道沿いに進んで行くのが一番なのだが、今クロスベルは結界に包まれており通り抜ける事は出来ずこうして樹海を横断していた。

 

この樹海を通っているのはそれもあるが、もう一つの理由は……

 

『がれりあ要塞マデ残リ2000あーじゅ。 コノママ進メバ1時間半デ樹海ヲ抜ケラレルデショウ』

 

この、緋の騎神である。 こんな目立つのがいては堂々と街道を通れるはずもない。 それが無くともいまのクロスベルには3機の神機の存在がある。 本来の力を有しているのならいざ知らず、半分以下の力しかないテスタ=ロッサにはとても対抗出来なかった。

 

「そう……後10分休んだ後出発しよう。 霊力(マナ)はまだ平気だよね?」

 

『コマメナ休息デ霊力ノ残存量ハ90%、稼動ニ支障ハナイ』

 

「クァ〜……」

 

膝の上で欠伸をするルーシェの背を撫でながら、レトは先程狩った猪肉を焼いていた。

 

島サバイバルの次は森サバイバル。 皇族とは思えないくらい逞しく生きているレトである。

 

「モグモグ……あともう一踏ん張りだね」

 

肉を食べてスタミナを回復させ、食べ終えて火の始末を済ませたレトはテスタ=ロッサの前に向かうと光になって吸い込まれ……テスタ=ロッサに搭乗した。

 

目を光らせ起動したテスタ=ロッサは立ち上がり、樹海内を進んで行く。 レトはこうしてリハビリとトレーニングを兼ねてテスタ=ロッサに乗り移動し、先を考えて効率良くことを進めていた。

 

「……お」

 

テスタ=ロッサの予想通り1時間半で樹海を抜け西クロスベル街道に出た。 そこから西に向かいベルガード門に到着した。

 

「さて、どうやって向こう側に行こうかな……」

 

レト1人ならともかく、目立つ色をしているテスタ=ロッサに乗っていては隠密行動は出来ない。

 

「ナァー」

 

「ん? 何、ルーシェ?」

 

「ナァ」

 

ルーシェの視線の先には大陸横断鉄道の線路があった。 確かに今は列車が運行停止中で、鉄道を通れば気付かれずに帝国に侵入できるかもしれない。

 

そうと決まればレトは線路上に降り、コソコソとベルガード門内に侵入した。

 

「誰もいない、かな?」

 

『生体反応感知……上部ニ複数ノ反応ヲ示スガ付近ニ生体反応ハナシ』

 

独り言の呟きをテスタ=ロッサは答えてくれ、なるべく音を立て無いやようにしながらベルガード門内を進んで行く。 巨体ゆえ、躓く事も出来ない……樹海で慣れてきた操縦で峡谷にかかる橋を通り抜け……

 

「こ、これは……」

 

鉄道の上には導力車が通るための道があるため、それが陰になって気付かれないが……その先の線路が無かった。

 

「あの白い神機の空間消滅の所為か……飛び越える事は簡単だけど、確実に気付かれるし……」

 

存在がバレると後々面倒な事になる。 そうして考えた策は……

 

「よっ」

 

ドカーンッ!!

 

ベルガード門の少し先で何が爆発した。 その影響でベルガード門からサイレンの音が鳴り響き、警備隊が出動した。 その隙にテスタ=ロッサは峡谷を飛び越えてガレリア要塞に入った。

 

「上手くいったね」

 

レトは1度テスタ=ロッサから降り、持っていたダイナマイトをベルガード門とクロスベルの中間に当たる街道の隅に置き、アークスによる遠隔操作で爆発させた。

 

そしてガレリア要塞のトンネル内に入ったレトはテスタ=ロッサを降り、辺りを確認するため地上に上がり、くり抜かれたアイスクリームのような窪みから要塞内を伺った。

 

「ふむ……?」

 

遠くてよく見えないが、反対側の入り口で戦闘が行われているようだ。 形式は2対5……2人組の方は恐ろしく強い上に連携が取れており、アークスの戦術リンクを使う5人組と対等以上に渡り合っている。

 

しかし、アークスを持っている人物は限られている。 もしかしたらと思い隠れながら進んで行くと……

 

「あ!」

 

相手はレグラムですれ違った西風の旅団の2人組、そしてもう片方は……リィン、エリオット、マキアス、フィーと同じくレグラムで会った遊撃士のトヴァルだった。

 

「良かった……皆、無事だったんだね」

 

「ナァ〜」

 

リィン達の無事に安心していると……突然、大きな拡声器の声が響いてきた。 顔を上げると、間道方面から10機の機甲兵が現れていた。

 

「おっと、マズイ」

 

リィンに灰の騎神がいるとはいえ流石に多勢に無勢、レトは物陰から飛び出し……黄金の剣《ケルンバイター》の柄を掴みながら振り抜き、リィンに向かって剣を振ろうと機甲兵の右腕を斬り落とした。

 

『なっ!?』

 

『だ、誰だ!』

 

『い、今のはまさか……』

 

「やあリィン、久しぶり。 元気そうだね」

 

「レト!?」

 

突然の登場と再会に驚く中、レトはあっけらかんな顔をしながら手をヒラヒラと振る。

 

「エリオットにフィー、マキアスも元気そうで良かった。 まさかこんな所で再会するなんてね」

 

『それより今までどこにいたんだ!? ヴァリマールでも反応が追えなかったからてっきり……』

 

「国外にいたからね。 そりゃ追えないよ。 積もる話はあるけど、それよりも先ずは彼らを片付ける、よっと……!」

 

話しながらレトは落ちた腕が持つ機甲兵用のブレードを蹴り上げ、ヴァリマールは落ちてきたブレードを掴んだ。

 

「ほら、行くよ!」

 

『……ああ、もちろんだ!』

 

ヴァリマールを駆るリィンはブレードを構え飛び出した。 隊長機を加えた5機をリィンが相手をし、残りの5機はレトが対応する。

 

『はあっ!』

 

「よっと……」

 

『くっ……ちょこまかと!』

 

前回での機甲兵との戦闘で生身の人間であるが故の機動力を生かしレトは5機を翻弄する。 しかもレトにはケルンバイターがある、腕を落とされた事実を知る搭乗者はやられる可能性もあると分かっており、攻めあぐねいていた。

 

「うーん、このまま戦ってもいいけど……あまりためにならないなぁ」

 

後退しながらそう感じ、レトはケルンバイターを納め、左手を空にかざした。

 

「じゃ、ここは剣ではなく……騎神の経験値を稼がせてもらうよ。 出でよ——緋の騎神《テスタ=ロッサ》!」

 

その名を叫び、次の瞬間……レトが足場にして立つ倉庫が突き破られた。

 

「うわぁ!?」

 

「な、なんだっ!」

 

「シャー!」

 

一同が驚愕し砂煙が舞い、煙の中から現れたのは……長く白い髪のようなたてがみが特徴な緋い身体をした巨人、緋の騎神《テスタ=ロッサ》だった。

 

『あ、緋い騎神……』

 

『あれって……まさか帝都の地下に封印されているはずの紅蓮の魔人!?』

 

実は降りた後、そのまま線路上を歩かせ、倉庫を挟んだリィン達の反対側に控えさせていた。 後は倉庫を突き破って出てくるだけだった。

 

呆然と緋い騎神を見る中、レトは先程のリィンと同じように光に包まれてテスタ=ロッサの胸に吸い込まれ。

 

操縦席に転移したレトは素早く設定を済ませると、テスタ=ロッサが保有している武器の中から比較的ケルンバイターと似た形状の片刃の剣を異空間から引き抜いた。

 

『さあ、かかっておいで』

 

『っ……』

 

『ひ、怯むな! 1機増えた所で数では我らが有利、数で押せ!!』

 

新たな騎神の登場に貴族連合の機甲兵は怯むが、指揮官が奮い立たせ5機のドラッケンがテスタ=ロッサに得物を向ける。

 

『長物はランスしかないし、今回は剣で行こう』

 

『了解シタ』

 

『ナァー!』

 

左手に持つ剣の具合を確認しながらレトはリィンの隣まで歩み寄り、剣を構える。

 

『リィン、戦術リンクだよ! 多分行けると思う!』

 

『騎神同士の戦術リンク!?』

 

思いがけない提案に驚くも、アークスを持っているのなら使うべき戦術リンク……数の不利を打開するためには必要な力、リィンはその提案を受け入れレトと戦術リンクを組もうとするが……

 

『おうっ!?』

 

『うわっ!? な、何が起こったんだ……』

 

リンクが繋がったと思いきや直ぐに切れてしまった。 ユーシスとマキアス、ラウラとフィーのような感じではなく、まるで耐え切れずに切れたような……

 

『——無理っぽいね。 よし、普通にやろう!』

 

しかし、騎神同士の戦術リンクが繋げないとわかるや否やレトは駆け出し、剣を薙ぎ払い……剣を持つドラッケンに受け止められた。

 

『あり?』

 

『な、なんだ……灰色のと比べて思ったよりパワーがないぞ』

 

ヴァリマールと比べ想像以上にパワーが無いことに驚きつつも剣を押し返され、レトは軽々と弾かれてしまった。

 

『うわっと……! そ、そうだった……半分に分けたから全スペックが半分になってたんだ』

 

『大丈夫か!』

 

『大丈夫……と言いたげ、今のテスタ=ロッサはそこのドラッケンと同スペックだと思っていいよ。 かなり弱体化してるから』

 

『騎神が機甲兵と同義って……もしかして、封印されているのに今ここにいる理由かしら?』

 

セリーヌはテスタ=ロッサの余りの弱さを不審に思い、それがここにいる理由と予測する。

 

「……苦戦しているね」

 

「あれって苦戦って言うのか? どっちかと言えば助っ人に来たのに逆に足引っ張っているようにしか見えないんだが」

 

「ど、どうしよう……」

 

「くっ、僕達も何か出来ることがあれば……」

 

と、その時、フィー達3人の身体が淡い青い光を放ち始めた。 その光はリィンとレトに反応を示している。

 

「……なにこれ?」

 

「これは……アークスが共鳴しているのか……?」

 

「よく分からないけど……この力があれば2人を援護出来る!」

 

「よし、やるぞ!」

 

フィーはレトに意識を向け、左手でアークスを持ち右手をテスタ=ロッサにかざした。

 

「そこ、ゲイルレイド!」

 

『! ……はあっ!』

 

『なっ——うおおおおぉ!?』

 

突然アーツが発動したのに驚きながらも標的を決め、魔法が発動すると……竜巻のような強烈な風の斬撃がドラッケンの装甲に傷を刻んでいく。

 

「……スゴ」

 

『普通のアーツと比べ物にならない威力だよ』

 

『っ……緋い騎士人形を狙え! 何故かは知らんが、奴の方が弱い!』

 

『はっ!』

 

先程の攻防でテスタ=ロッサを性能を知った隊長は支持を出し。

 

リィンと戦っていた2機のドラッケンがレトの方に向かった。 させまいとリィンは追いかけようとするも、残りの3機に道を阻まれてしまう。

 

『し、しまった……!』

 

「レト!」

 

『はああっ!!』

 

『……ふぅ……』

 

襲いかかってくるドラッケン達に対し、レトは息を吐いて脱力し。 そしてテスタ=ロッサに向かって銃弾と剣が迫った時……

 

『!?』

 

『なっ!?』

 

『——刹那刃!!』

 

『ぐうっ!』

 

全ての攻撃を最低限の動きで紙一重で避け。 刹那の間、とはいかないものの。 流れるように剣を舞わせ、全8機のドラッケンに一撃を喰らわせた。

 

『ふむふむ……思い通りに動かせるけど完全に再現できる訳でもない。 段々とわかって来たかな?』

 

足を振り肩を回したりしながら具合を確かめ、次第にテスタ=ロッサの動きが洗練されていく。

 

『おまたせリィン、もう足手まといにはならないよ!』

 

『ああ、行くぞ!』

 

「よし、僕も……エコーズビート!」

 

攻撃に転じる2機の騎神を音符が包み込み、徐々に装甲の傷が回復していく。 エリオットが援護で発動した戦技だ。

 

『ありがとう、エリオット』

 

『助かった……結構ヤバかったんだよねぇ』

 

いくら慣れたといえ、それまでのダメージは負っていた。 傷が直り、レトはエリオットに向けて手を軽く上げてお礼を言う。

 

『さあ、一気に決めるぞ!』

 

『おおっ!』

 

体力と気力も回復し、2人は剣を構えながら駆け出した。

 

『閃光斬!』

 

『砕破剣!』

 

閃く2連斬と全てを砕く一撃が放たれ、相手ドラッケンは纏めて押し出されて後退し、後ろにいたドラッケンごと薙ぎ倒した。

 

『ぐあっ!』

 

『これ以上好き勝手には……!』

 

『これでとどめだ——豪炎撃!』

 

上段に振り上げだブレードに焔が纏われ、地に振り下ろせば焔が爆ぜ、ドラッケンを吹き飛ばした。

 

『ば、馬鹿なッ……!?』

 

『灰色に緋の騎士人形……ここまでとは……!』

 

『さあ、どうする!? まだやり合うつもりなら相手になるぞ!』

 

『エリオット達の援護もあるし、力加減もだいたい慣れたし……もう遅れはとらないよ』

 

『ぐうっ……』

 

2つの剣を突き付けられ、残りの機甲兵は気圧されて怯み後退りする。

 

『た、隊長……!』

 

『ええい、怯むな! 数の利はまだこちらにある……包囲できさえすれば!』

 

だがまだ諦める訳には行かないようで、対抗しようとレト達も再び剣を構えようとした時……

 

「——そこまでだ!!」

 

『なっ……!』

 

『こ、この声は……』

 

肉声であるのにも関わらず、突然間に割って入るように轟くような豪胆な声が響いて来た。

 

すると、演習場方面から数台の導力戦車が現れた。 砲身が機甲兵に向けられると問答無用で砲撃が開始され、砲弾が命中した機甲兵が火花を散らして膝をつく。

 

『あ……』

 

「と、父さん……!」

 

『第四機甲師団……』

 

正規軍、第四機甲師団……その部隊の導力戦車の先頭には生身で支持を出すのはエリオットと同じ赤毛の男性……オーラフ・クレイグがいた。

 

どうやら横断鉄道方面にも貴族連合が現れていたらしく、そこを片付けてからこの場に駆けつけたようだった。 クレイグ中将は敵の隊長に対して挑発し、頭にきた隊長が増援を呼ぼうとすると……隊長機のシュピーゲル、突然その顔にあるカメラが狙撃され破壊された。

 

『狙撃……!? どこから……』

 

『そこだね』

 

レトにつられ、全員がその方面を見ると……背の高い建物の上で膝を立て、狙撃銃を構えている鉄道憲兵隊の制服を着た女性……

 

「あ、あの人は……」

 

「《氷の乙女(アイスメイデン)》……」

 

クレア・リーヴェルト大尉だった。 どうやら見物していた西風に銃口を向けており、当の2人は打つ手なしと、やれやれ首を振る。

 

「ほなな、フィー! オレらはそろそろ退散させてもらうわ!」

 

「次に会う時までに、せいぜい鍛錬を積むことだ。 ——内戦という焔に煽られ塵と化したくなければ、な」

 

「ゼノ、レオ……」

 

忠告のように最後にそれだけを言い残し、2人はその場から去ってしまった。 残されたフィーはその名を呟くだけで呆然としていた。

 

そして西風が消えたのを見て、隊長が撤退を命じ。 機甲兵団は背を向けて双龍橋に向かって撤退を始めた。

 

「ふう……やったか」

 

「あー、疲れた」

 

戦いが終わり膝を地に付けた2体の騎神。 その胸から光が出るとリィンとセリーヌ、レトとルーシェが出てきた。

 

「よっ、お疲れさん」

 

「はああ、一時はどうなることかと思ったが」

 

「ま、何とかなったわね」

 

「ナァー」

 

一息ついていると、レト達の元にフィー達が駆け寄り労いの言葉をかけてきた。 エリオットは厳格な中将から親バカに切り替わった父親に抱きしめられていた。

 

「それよりもアンタ、普通じゃないとは思っていたけど……どうやって緋の起動者になったのよ?」

 

「……それは知りたいかも」

 

「あはは、落ち着いたらね」

 

「ふふっ……何とかなったみたいですね」

 

と、狙撃地点から降りたクレア大尉がレト達の元に歩いてきた。 マキアス達はそこでようやく狙撃した者がクレア大尉だと驚きながらも確認する。

 

「《鉄道憲兵隊》の……それじゃあ、アンタが」

 

「クレア大尉……どうもお久しぶりです」

 

「ええ……学院祭の夜以来ですね」

 

「そうですね……あれからそんなに時間は経っていないはずなのに、遠くまで来てしまった気がします」

 

「私もそう思います。 積もり話は多そうですがまずは場所を移しましょう。 中将閣下共々、話を聞かせていただきます」

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

ガレリア要塞の司令部は消滅した事により、第四機甲師団は以前の実習で軍事演習を行った演習場に臨時拠点を構えていた。

 

リィン達を交え、レトは今後について機甲師団と鉄道憲兵隊と相談し……VII組全員が集まるまで答えは出さないという事となった。

 

「ふいー、疲れたなー」

 

先程の話でクレア大尉もリィン達に同行することになり、出発の準備を整えるために一旦のその場で解散となり……レト達は司令部から出た。

 

「そういえば、レトは今までどこにいたんだ? ヴァリマールの探知で1人足りなかったからもしやとは思ったが……」

 

「クロウから逃げるために精霊の道を使ってね。 行き先も決めずに使ったからクロスベルに出て、そこで偶然に病院にたどり着いたんだ」

 

「そうだったんだ」

 

「それよりも、何でアンタがあの緋の騎神の起動者になっているのか、教えてもらいたいんだけど?」

 

この1ヶ月間どこにいたことよりも、セリーヌはレトがどうやって緋の騎神の起動者になったのか知りたいようだ。

 

レトは過去の出来事を思い浮かべ、リィン達の前に出ながら語り始めた。

 

「僕がリベールから帰った後、帝都ヘイムダルの地下にある遺跡……《深紅の墓所》に帰らないで真っ直ぐ行ったんだ」

 

レトは手摺に手を置き、ヴァリマールと並んで膝をついているテスタ=ロッサを見る。 そして腰から紅蓮の火を灯しているカンテラを取り出した。

 

「そこで深紅の墓所を攻略するに当たってのキーアイテム《紅のカンテラ》を入手、一層目の遺跡を攻略して次への道標を探しにレグラムへ。 そこでラウラと旅を同行することになったのは言ってたよね?」

 

「うん。 ラウラからもちょっと聞いていたし」

 

「レグラムの遺跡を攻略したらまた深紅の墓所へ。 深紅の墓所はスケールは全然違うけど、トールズ士官学院にある旧校舎と同じ原理で奥に進めたんだ」

 

「同じ原理?」

 

「もしかして、月毎に進める区画が増えていったのか?」

 

「月毎じゃなくて遺跡を攻略したらだけど、それで合っているよ。 一層目、エベル湖、二層目、アイゼンガルド連邦、三層目、ブリオニア島、四層目、イストミア大森林……この順番で遺跡と各地域にある神殿を攻略し、最後にバルフレイム宮最下層で封印されていたテスタ=ロッサと僕とラウラは出会ったんだ」

 

「………………」

 

「なるほど……それでテスタ=ロッサがここにいるわけだね」

 

「まだそれだけでは説明がつかない部分もあるわ。 紅蓮の魔人……緋の騎神は暗黒龍の返り血を浴びて呪われているはずよ。 それなのに何故呪われてないのかしら?」

 

「それが弱体化した理由だよ。 テスタ=ロッサは呪いから逃れるために自身を2つに分けたんだ」

 

「2つに……」

 

「分けたぁ!?」

 

「うん。 竹を割るみたいにパッカーンと」

 

レトは手刀を上から振り下ろし、2つに割るような表現をする。

 

「結果、ここにいるテスタ=ロッサは呪いから逃れ、片割れは今もなお紅魔城で封じられているよ」

 

「な、なるほど」

 

「ただ殆どの武器は片割れに持ってかれてね。 ここにいるテスタ=ロッサの保有する武器は両手で数えるくらいしかないんだ」

 

「千の武器を待つ魔人が形無しね」

 

確かに名前負け……というか、完全に別の存在である。 それもそのはずなのだが……

 

「ま、兎にも角にもテスタ=ロッサは弱くなった。 格付けするなら弱い順に緋、続け灰と蒼と紫は同格くらいで、金と銀……そして黒と言ったくらいかな」

 

「え……」

 

さもしれっと言った言葉にリィン達は一瞬呆けてしまう。 その表情を見たレトは不思議に思う。

 

「あれ、知らなかったの? 騎神って七騎あるんだよ」

 

「そ、そうなのか!?」

 

「あー……じゃあ、今のなし」

 

「出来るわけないでしょう!!」

 

セリーヌは声を上げて毛を逆立てる。 しかしレトは軽く風に流していると……

 

「——お待たせしました、皆さん」

 

引継ぎと準備を整え、私服に着替えたクレア大尉が歩いてきた。 以外な一面を見せられたマキアスとエリオットはどことなくデレデレしていた。

 

それからクレアを連れ、レト達は2機の騎神の前に向かった。 と、丁度そこへクレイグ中将が鉄道憲兵隊の隊員と第四機甲師団の兵士を連れて来た。

 

クレイグ中将はクレア大尉と部隊のことを、エリオットには音楽の道に進む事を認めた後……レトの方に向き合った。

 

「レミスルト殿下、本当はこの様な手を使いたくありませぬが……」

 

「——うん、分かってる。 それが一番だと僕も納得しているから」

 

「……感謝します」

 

「…………?」

 

(父さん? レトも一体何を……)

 

肝心な言葉が入っていないので2人が何を話しているのか分からないが、リィン達には何か大きな出来事が起こる予感を感じ取った。

 

その後、クレイグ中将達に見送られる中……2機の騎神によって精霊の道を開き、レト達はリィンの故郷であるユミルに飛んだ。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

「——寒っ!?」

 

レト達は雪を踏みしめ、ユミルの地に降り立った。 その開口一番、レトは急速に寒くなった外気によって身を抱きながら声を上げた。

 

「この時期だからな。 高度もあるし、そりゃ寒いだろ」

 

「ナァ〜……」

 

「はいはい、おいでー」

 

寒がるレトの懐に潜り込むルーシェを見て、先程の戦いとは別人だとトヴァルは苦笑気味に思った。

 

「全く……私より毛が多いのに情け無い。 誰かさんにそっくり」

 

「ハハ。 どうやらちゃんと戻ってこれたみたいだな。 ここはユミルの裏手にある渓谷道の終点だ」

 

一瞬で数千セルジュを移動した事に、エリオット達が驚愕する中、クレアは顎に手を当てて考え込んだ。

 

「これが《騎神》の力ですか……あの《蒼の騎神》も同じことが出来るとしたら少々厄介かもしれませんね」

 

「ああー、それは無いと思いますよ。 使える場所も限られていますし、燃料の霊力もかなり使います」

 

「不確定要素も多いし、戦術に組み込むにはあまり向かないんじゃない?」

 

「なるほど」

 

「そりゃ安心した。 いきなり現れちゃたまったもんじゃないからな」

 

レトとセリーヌの説明を聞き、クレアとトヴァルは安堵する。 と、そこで背後にいた2機の騎神が起動音を立てて膝をついた。

 

『霊力ノ残量低下……コレヨリ休眠状態ニ移行スル』

 

『回復予想時間ハ明日ノ早朝……次ノ転移ニハ間ニ合ウダロウ』

 

「そう……2機での転移だったから霊力はそこまで消耗しなかったのね。 それなら次に精霊の道を使っても行動に支障は出ないでしょう」

 

「そっか……お疲れ様」

 

「ありがとう、ヴァリマール。 おかげで皆と合流できた」

 

『礼ニハ及バヌ——《起動者》ヨ』

 

「テスタ=ロッサもお疲れ。 武器の話はまた今度にするね」

 

『今後ノ武器ニツイテモ、灰ト共ニ我モ検討シヨウ』

 

『ソウサセテモラオウ。 必要ナラバ呼ビ起コスガイイ』

 

そして2機の騎神は光を落とし、休眠状態に入った。

 

「しっかし……こうして見ると壮観だねぇ」

 

「灰と蒼に続き緋……騎神は全部で何機あるのでしょうか?」

 

「全部で7機だって。 そうレトが言ってた」

 

「そもそも、騎神とは一体なんなんだ?」

 

「それを説明すると長くなるし、凍えるからまた今度ね」

 

「そうだな。 日が暮れる前に渓谷を降りよう」

 

「ん」

 

今後についてや、気になることも多いが……リィンの先導の元、レト達は渓谷を降りて2ヶ月振りのユミルに向かうのだった。

 


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