英雄伝説 時幻の軌跡   作:にこにこみ

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閃4のWebCM第2、11秒辺りに出るヴァリマール、リィンと新VII組の場面。 なんかヴァリマールデカすぎない? 通常はリィンの身長で膝あたりだったのに、CMじゃあくるぶしまで……ガ◯ダムサイズじゃん。


62話 防衛戦

《蒼の深淵》により映し出された帝都の光景……帝都上空にその姿を現した巨大な銀の飛行艇……貴族派達が秘密裏に開発した空中飛行戦艦——貴族連合軍・旗艦《パンダグリュエル》。 紅の方舟《グロリアス》と同サイズの戦艦である。

 

帝都市民たちがあまりの光景に言葉を失う中、グロリアス艦底のハッチが開き……数体の人型の兵器が降ろされた。 機甲兵と呼ばれるそれは、第一機甲師団の面々だけでなく、その光景を見ていた市民が自分の目を疑うような機動で戦車部隊に接近していく。

 

冷静に砲撃するも……先頭を走る二機の機甲兵はまるで人間が投げられた石を避けるように軽々と回避し、手にした槍で戦車の装甲を貫いた。 次々と降下してくる機甲兵達は帝都の散って残りの戦車部隊を次々と潰し制圧していく。

 

「あ、あの兵器は……」

 

その光景をバンクール大通りにある建物の屋上で見ていたクレア大尉は言葉を失う。 その顔を見た《C》……クロウは両手を上げながら口を開いた。

 

「貴族連合に取り込まれた『ラインフォルト第五開発部』が完成させた人型人形兵器——古の機体を元に、大量の鋼鉄から組み上げられた現代の騎士。 通称《機甲兵(パンツァーゾルダ)》ってやつだ」

 

「そ、そんなものを……」

 

クレアは宰相が討たれた事と機甲兵を前に動揺している、それを見たクロウは一歩下がるが……

 

「動かないで——!」

 

その一歩を見逃さず銃を突き付ける。 だが、クロウは銃を突き付けられていても不敵に笑う。

 

「そいつは出来ないな。 バルフレイム宮は《西風》に任せるとして——俺は俺は俺なりのケジメを付ける必要があるんでね!」

 

「! しまった……!」

 

クロウは動揺するクレア大尉の隙を突いて屋上から飛び降りる。慌てて追いかけようとするも……

 

「あ——」

 

『——じゃあな。 氷の乙女(アイスメイデン)殿』

 

クロウは他とは全く違う、蒼い機甲兵らしき兵器に乗り込んで空中に浮かんでいた。 他の機甲兵とは違う……まるで旧校舎の最奥で鎮座している灰色の人形に近い。 蒼い騎士はクロウの声を発すると、どこかへ飛翔していた。

 

その頃、帝都のドライケルス広場では壊滅した第一機甲師団の戦車の残骸を踏みつける形で停止した二機の機甲兵から二人の男が姿を現す。

 

「はー、呆気ないモンやな。 コイツらが大した代物なんは認めるけど……帝国を守る機甲師団があないに弱くてええんか?」

 

「……これからが本番だろう。 全土に展開する正規軍は多い。 いずれ、対機甲兵の戦術も組み立ててくるはずだ」

 

レグラムに訪れたカイエン公を護衛をしていた2人の男……黒いジャケットの左胸には緑色の風切り鳥のシンボルが刻まれていた。

 

「ハハ、確かにな。 喰い下がってきそうなんは第三、四、七って所か。 で、ウチのお姫様はどっちに付くんやろな?」

 

「全てはフィー次第……団長もそうお望みだろう」

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

ドライケルス広場での映像を最後に歌声が途切れる……ラジオの前に現れていた光りが消える。 何もかもが予想外の事態に、レト達は立ちすくむしかない。

 

「今見えたのは………本当の事なの?」

 

「……ええ、間違いありません。 《深淵の魔女》と呼ばれる私の“身内”の得意技……特定のイメージを唄声に乗せて遠くに届ける事ができます」

 

「《深淵の魔女》……」

 

「……ミスティさんが、か。それよりもこの状況は……」

 

ミスティの招待が魔女だった事よりも、エマがその事実を知っている事よりも……レト達はたった今この国が内戦状態に陥ったことを悟った。

 

「……まるで夢でも見ているような心地だが……」

 

「だが……間違いなく現実だろう」

 

ここまで非現実的な光景を見せられては夢だと思っても仕方ない……そんな中、サラ教官が導力ラジオを切って静かに状況を整理する。

 

「ま、その事についてはとりあえず置いときましょう。 問題は宰相が狙撃されて——帝都が占領されたことだわ」

 

「そ、そうだった……!」

 

「まさか、今頃父さんも……」

 

「くっ……(もしかして女学院も……?)」

 

「(アルフィン……)恐らくこの事態を招いたのはクロスベルに投入された帝国軍師団が壊滅したから……プライドが高いから負けっぱなしじゃいられず次々と師団を送り込んでは返り討ちされ……それで帝国軍が混乱している隙に貴族派の連合軍が帝都を電撃占領……結社の手の平の上で遊ばれているようだよ」

 

エリオットとマキアスが帝都に居るはずの家族の身を心配し、リィンも女学院居るはずのエリゼを想い唇を噛みしめ。 レトもアルフィンの身を案じるも冷静に状況を把握する

 

「……あの巨大な飛行艇に《機甲兵》という兵器……用意したのは間違いなく《貴族派》というわけか……」

 

「……わたしの身内もあの映像に映っていた。 ずっと行方がわからなかったのにこんなタイミングで……」

 

「フィー……」

 

「以前すれ違ったあの男達か……」

 

「最強の猟兵団《西風の旅団》……《帝国解放戦線》と同じように貴族派に雇われているみたいね。 そして——」

 

言葉を切り、サラ教官はチラリとミリアムに視線を向ける。

 

「やっぱり《C》の正体は睨んだ通りだったみたいだねー。 なんか蒼くて凄そうなのに乗ってっちゃたけど」

 

「クロウ、どうして……」

 

「………………」

 

(結社の幻炎計画……2年経った今、始まるというの?)

 

貴族派や帝国解放戦線の裏には結社の存在がある。 それはクロスベルを牛耳っているクロイスも同じ……と、その時……サラ教官のアークスが着信音を鳴らした。

 

「はい、こちらバレスタイン——ナイトハルト教官、これから緊急会議ですか?」

 

どうやら先程の出来事と関係があるようで、サラ教官はしばらく黙って話を聞き……驚愕の表情で叫んだ。

 

「——なんですって!? 当然、あたしも手伝います! ええ、ええ……それでは正門前で。 少し出かけてくるわ。 君達は絶対に学院から出るんじゃないわよ」

 

それだけを言い残し、サラ教官は扉を開け放ち駆け足で教室を後にした。

 

「な、なんだったんだ……」

 

「どうやら尋常ではない出来事があったようだが……」

 

「も、もう十分すぎるほど尋常じゃないと思うんだけど……」

 

「………………」

 

「ん?」

 

と、そこでガイウスとレトが何かを感じ取り、窓を開けて放つ。 そこへフィーも近寄り全身で風を感じ取る……

 

「ガイウス……どうした?」

 

「……西の方から何かが近づいてきている」

 

「……装甲車数台。 この駆動音は……あの人形兵器も来てるね」

 

「どうやらこの学院を押さえるようだね。 この学院には重要人物が多いし、保護するか人質にするか……どっちもかもね」

 

「クッ、ふざけるな……!」

 

「狙いはどうあれ、あのような暴挙を認められるものか……!」

 

「も、もしかして教官達、それを喰い止めるために……?」

 

「……相手は主力戦車すら凌駕できるほどの新兵器だ。 いくら教官達が強いとはいえ、限界があるだろう。 俺達の力がどこまで通用するかわからないが——」

 

リィンは振り返ってレト達と向き合い、拳を突き出した。

 

「皆、せめて助太刀くらいはさせてもらわないか……!?」

 

「もちろん。 やるっきゃないよね!」

 

レトは拳を握って突き出されたリィンの拳と突き合わせ、アリサ達もまた同じ気持ちだと拳を突き付けていく。 ここに居る全員、想いは最初から一つだった。

 

VII組は教室から飛び出し、正門前まで一目散に走る。 すると、既にトワ会長とジョルジュによって正門は閉じられていた。

 

「会長、ジョルジュ先輩!」

 

「リ、リィン君達?」

 

「君達、どうして……」

 

と、トワ達はVII組がここに来た疑問をすぐに理解する。

 

「ま、まさか……!」

 

「教官達の助太刀に行くつもりかい!?」

 

「ええ。 そのまさかです」

 

「迫り来る狼藉者を迎え撃たぬのはアルゼイド家の名折れですゆえ」

 

「無理をしない程度に全力で助太刀するつもりです」

 

「それに手は多い方がいいでしょう?」

 

「む、無茶苦茶だよ〜!」

 

いくらVII組とはいえ、彼らの行動は戦争に向かおうとするのと同じ……トワ会長は無茶だと彼らを止めようとする。 同じ意見のジョルジュも止めに入る。

 

「……あの映像は見たがとんでもない兵器みたいだ。 生身の人間が勝てる可能性は限りなく低い……それでもやるつもりかい?」

 

「ええ、俺達がこれからも共に学び、高め合う場所——この士官学院を守る為に!!」

 

「あ……」

 

「……参ったな……君達が来たら止めろって、教官たちに言われたのに……」

 

止めても無駄だと分かると苦笑いしか出来なかった。 そして少し考え込んだ後、トワ会長はVII組メンバー全員の顔を見回した。

 

「……わかったよ。 生徒会長として許可します。 でも、リィン君達はまだ軍人じゃないんだから! 命が危ないと思ったら絶対に、絶対に無理をしないこと……! 逃げるか、相手に投降するか……とにかく死んじゃダメなんだから! ちゃんと約束できますかっ!?」

 

「会長……はい!」

 

「約束します……!」

 

その言葉を聞き遂げ、トワ会長とジョルジュは正門を開いた。 道は開かれ、レト達は正門を越えて無人になったトリスタの街を走る。 やがて駅前に辿り着くと……戦闘音が聞こえて来た。

 

「くっ、この戦闘音は……」

 

「どうやら既に始まっているようだな……!」

 

「西口の方だね……!」

 

「行ってみましょう!」

 

どうやら帝都方面から侵攻をかけているようで、レト達は西トリスタ街道に向かった。 街道に差し掛かると戦闘が見え……教官達は装甲車相手に圧倒していた。

 

その光景を見たレト以外のメンバーは唖然してしまう。

 

「……なにあれ」

 

「あ、圧倒的じゃないか……」

 

「サラ教官はもちろん、他の教官達や学院長達も只者ではないとは分かっていたけど……」

 

(……トマス教官……立ち振る舞いが普通じゃない……)

 

「な、なんだか助太刀する必要もなさそうな気が……」

 

「いや——」

 

「現れたか……」

 

地面から伝わる装甲車が接近するのとは全く違う振動、まるで大地を踏みしめ揺るがすかのように現れたのは……機甲兵。

 

教官達は機甲兵相手に一歩も引かないが、どうしても決め手に欠けていて攻め切れなかった。

 

「——出るか」

 

「ああ、我ら程度では足手まといになるかもしれぬが……」

 

「それでも一体くらいは引き付けられるだろう……!」

 

「皆は後衛にいて。 僕が戦場を撹乱するから、その隙に——」

 

「ふふ……それには及びませんわ」

 

その時、いつの間にか真後ろにシャロンが気配を消しながらいつもと同じ穏やかな笑顔で控えていた。

 

「シャ、シャシャ……シャロンっ!?」

 

「ここはわたくしにお任せを。 サラ様達の突破口、必ずや開いてみせましょう」

 

「へ……」

 

驚く間も無くそれだけ言い残し、シャロンはスカートの裾を掴んでお辞儀をし……レト達を軽々と飛び越えて戦場に飛び込んだ。

 

「……!」

 

「速い……!」

 

「——! ……来たわね!」

 

サラ教官はまるで待っていたかのような口振りをし、シャロンは機甲兵よりも高く飛び上がり……どこからか取り出した鋼糸で一瞬で機甲兵を捕縛した。

 

「おおっ……!」

 

「鋼糸……?」

 

だが、生身ならいざ知らず、鋼の身体と常人を遥かに超える力を持つ機甲兵には効かず……力尽くで鋼糸を引き千切られてしまう。

 

「さすがのパワー……新型エンジンを搭載しているだけはありますわね。 ですが、それならば幾らでも封じようはあるというもの」

 

しかし、シャロンは全く動じない。 右手で腰から歪な形をした短剣を抜き、左手で鋼糸を掴み構える。

 

「縛られ、封じられ、雁字搦めにされる悦び……その甲冑越しに味わわせて差し上げましょうか……?」

 

シャロンは冷たい眼差しを向ける。 対面する機甲兵を操縦する操縦士は背筋に寒気が走る。 もし機甲兵に乗っていなかったら尻尾を巻いて逃げていただろう。

 

「フン……やっと正体を現したわね。 2年前、あたしの足留めをした時以上の技のキレじゃない」

 

隣に来たサラ教官がそう言い、シャロンは元の笑顔を見せながら短剣をしまい服装を整える。

 

「結社《身食らう蛇》に所属する最高位のエージェント……執行者No.IX——《死線》のクルーガー!」

 

「そちらの方は休業中です。 今のわたくしはラインフォルト家の使用人。 彼らの背後に誰がいようとお嬢様の場所を守るだけです」

 

「上等——! これが終わったら、美味しいツマミと一緒に色々話してもらうわよ!」

 

そして再び戦闘が再開された。 シャロンが加わり、教官達は少しずつ機甲兵を押して行く。

 

その戦いぶりは普通のメイドでは無い。 と言っても、シャロンが普通のメイドでは無いのは事は今更だと思う。

 

「えっと……シャロンさんて何者なんだ?」

 

「わ、私の方が知りたいわよ!? 母様は詳しい経歴を知っているみたいだけど……」

 

「やっぱり……執行者だったんだ。 薄々そう思っていたけど……」

 

「へぇ、そうだったんだ。 そう言えばレトも執行者だったよね? No.II——《剣帝》、カッコいいー!」

 

「な……!」

 

まさかレトもシャロンと同じ執行者とは思っても見なく……ラウラ、ミリアム、エマを抜いたメンバーが驚きを露わにする。

 

「ほ、本当なの?」

 

「《剣帝》なのは認めるけど、《身食らう蛇》に属した覚えも執行者になった覚えもないからね」

 

「とはいえ、これで勝機は見えたか。 どうやら導力戦車よりは装甲が薄いようだが……」

 

「あの機動性が厄介ですね……」

 

やはりここは助太刀すべきかと思い、リィン達が得物を抜こうとした時……

 

「これは……」

 

「……微かだけど……」

 

ガイウスとフィーが振り返り、思案顔で東の方向を向いた。

 

「まさか……」

 

「そ、そちらは帝都とは反対側ですが……」

 

「ガーちゃん!」

 

確認するためミリアムがアガートラムを呼び、浮かび上がって遠く見る。

 

「デカブツ3機、近付いてくる! 青いヤツと、緑のヤツだよ!」

 

「フン……随分な念の入りようだな」

 

東西からの挟撃。 教官達はとてもじゃないが手が離せなく、東に回る事は出来ないだろう。このままでは東から攻められトリスタは落とされてしまう。

 

「……やる事は決まったね」

 

「ああ……」

 

全員東の方を向いて得物を抜き……東トリスタ街道に向かって走る。 そして、3機の機甲兵を出迎えた。

 

「——状況開始。 VII組総員、これよりトリスタ東口の防衛を開始する。 まずは先頭の機体を狙うぞ!」

 

『応っ!』

 

『我らの大義を邪魔した報い、せいぜい受けてもらおう…! この機甲兵『ドラッケン』でな!』

 

トリスタを、トールズ士官学院を守る為の戦いが始まった。

 


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