10月24日——
学院祭2日目……今日はVII組の身内が何名か来ており、これは失敗出来ないと少し緊張が増していた。
講堂で演奏に使う楽器などのチェックが終わった後、VII組の面々は学院祭に訪れたそれぞれの家族の元に向かう中……レトは屋上で寝ていた。
「………………」
丸まっているルーシェを腹の上に乗せながらボーッとただ空の一点だけを見つめている。 考えている事はもちろん先日、旧校舎の最奥に現れた灰色の巨人について……帝国の歴史を紐解けばあれは伝説に伝わる騎士の伝承の一端だと思われる。
(けど、やっぱりおかしい……前々から思ってたけど、200年前の獅子戦役……騎神についての記録が全くない。 人伝でも全く伝わって無いのもおかしい……)
大昔でも、現代でも今の技術を超越した存在……記録に残さないにしても、人に与える衝撃は計り知れない。 とても忘れられる出来事ではないはずなのに……それは皇族の中でも伝わらず、細々と曖昧にしか今まで伝わらなかった。
「……しっかし、遅いなぁ」
皇族であるから仕方ないとはいえ、他のメンバーが家族と学院祭を楽しむ中、1人でいるのは少し寂しい……また仲間外れにされた気分になる。
「……何してるの、レト?」
「フィー?」
と、そこでレトの顔に影がかかった。 フィーが太陽を背にレトの顔を覗き込んでいたからだ。
「ラウラが呼んでいるよ。 怒らせるとメンドイから早く行こ」
「あ、うん」
「(クァ)………」
ルーシェをベンチに置き、レトはフィーに引きつられて屋上を後にした。
◆ ◆ ◆
ラウラとアルゼイド卿、クラウスと合流したレトとフィーは学院祭を楽しんだ。 ラウラも最初は親の前ではしゃぐの恥ずかしそうだったが、次第になれて思うままに楽しみ……あっという間に午後を迎えた。
「ふぅ、流石に疲れたかな」
「うん。 少しはしゃぎ過ぎたようだな」
「……疲れた」
先程まで乗馬部主催のレースで勝負していたため、レト達3人はグッタリとグランド前のベンチに座り込んでいた。
「フフ、良き仲間と巡り会え、充実した学院生活を送れているようで安心した」
アルゼイド卿は娘の成長が本当に喜ばしいようで、嬉しそうに笑う。
その時……正門の方が少し騒ついているのをレトとフィーが感じ取った。
「? なんか騒がしいね」
「正門からだね」
気になって正門に向かうと……そこにはクレア大尉達、鉄道憲兵隊を護衛に引き連れたオリヴァルト殿下と、その妹のアルフィン殿下、リィンとエリゼが居た。
当然と言えば当然だが、皇族の登場で学院生はもちろん、来客までオリヴァルトとアルフィンに視線を集めていた。
「うーん、騒がれるとは思ってたけど……これじゃあ会いに行けないね」
「何を躊躇している。 家族と会うのに理由も何もなかろう?」
「いや、我が家の家族事情知っているよね? 僕が皇族だってバレたらマズイんだって」
「ふむ、なら私がともに行こう。 それなら波風立たずに済むだろう」
「ありがとうございます。 子爵閣下」
アルゼイド卿の提案を受け、アルゼイド卿に引きつられるように正門に向かいオリヴァルト達の前に出た。 と、そこでアルフィンがレトを視界に捉え……
「あ! あに——」
「ああー! アルフィン! 久しぶりだねー!」
呼ばれる前に、大声でかき消すようにレトがアルフィンを呼びかける。 さらにレトは唇に人差し指を当てながらアルフィンに目配せし、察したアルフィンは無言で頷く。
「やあ、愛しの我が弟よ。 元気にしてたかい?」
「あなたはもっと隠そうとしないのか?」
「
「うん。 それは兄妹揃ってだね」
アルゼイド卿に手伝ってもらった事に意味が無くなってしまい、レトは溜息をついて額を押さえる。
「そういえばセドリックは? あの子も来ると思ってたけど……」
「セドリックは他の予定が重なってしまってね。 兄様に会えないと、とてもガッカリしてましたよ」
「満面の笑みを浮かべながら言うんじゃありません」
「姫様。 あまりレト様をからかわないでください」
「ふふ、ならあなたのお兄様をからかってもいいのかしら?」
「姫様!」
おふざけをする姫をしかる付き人、毎度お馴染みの光景にレトとリィンは少しだけ緊張が解れる。
「それじゃあ僕達はステージがあるので、これにて失礼します」
「オリヴァルト殿下、エリゼをよろしくお願いします」
「ふふ、任せてくれ。 しっかりとエスコートしよう」
「よろしくお願い致します」
「父上、また後ほど」
「うむ。 日頃の成果を見せてみるがよい」
「……じゃ、また後で」
オリヴァルト達と別れ、レト達は講堂に入っていった。
◆ ◆ ◆
「……凄かったな……Ⅰ組の劇……」
I組の劇を見終わった後の第一声がそれだった。 緊張もミスもなく、相当練習を積み重ねた結果を目の当たりにし、完璧な仕上がりと言ってもいいだろう。
「ええ……気合の入れ方が違っていたわね……」
「フン……まあ悪くなかったとだけは言っておこう」
「し、しかし正直、自信が無くなってきたな……」
劇やステージにおいて公演する順番とはとても重要で、先に公演したI組の印象を残したまま次にVII組が公演する……いかにI組の劇に勝てるかが重要になるだろう。
また固まってしまった緊張。 サラ教官の激励を背に舞台側の控え室に向かった。
「リィン君達、失礼するね?」
本番の数分前……控え室にトワ会長とジョルジュが入ってきた。
「なんだ、陣中見舞いか?」
「はは、似たようなもんかな」
「えへへ……サプライズ込みだけど」
「——失礼するよ」
「え……」
「へ」
聞き覚えのあるハスキーボイス。 入って来たのは紺色のドレスを着たスレンダーな女性……と、思いきやアンゼリカだった。
「フフ、ギリギリ間に合ったかな? パトリック君達の舞台を見逃したのは残念だったが」
「ア、アンゼリカさん!?」
「先輩……来てくれたんですか!」
「なんとか来れたんだ」
「しかしなんつーか……お前、そんなに美人だったか?」
クロウの疑問も当然、ライダースーツの印象が強く疑問を禁じ得なかった。
「フフ、私としてはスーツの方が好みなんだが……学院生に行くために少しばかり父と取引してね」
「見合いを何件か受ける事になった、と」
「流石レト君、察しがいいね。 これは、それ用のドレスというわけさ」
「たしかに礼儀には適っている装いでしょうが……」
「アンゼリカさんが着るとちょっと迫力があり過ぎますね。 並みの相手が霞みそうなくらいに」
事実、それを狙っているのだろう。 予想通り、真面目に見合いをする気はさらさら無さそうで、しかもログナー公爵もそれを承知していそうだ。
「ふふっ、でもとっても素敵です」
「なんの、君達の艶姿に比べたらさすがに負けるというものさ」
いうや否やアンゼリカはアリサとエマを抱きしめて頬擦りを始めた。
「きゃっ……」
「ア、アンゼリカさん!」
「ん~やっぱり女の子はいいねぇ。 実家に帰ってからずっとむさ苦しい父の顔ばかり見て来たから癒されることこの上ないよ〜」
「……やれやれ」
「こ、こいつ……全然変わってねえ……」
「あ、あはは……」
「でも、これでこそアンちゃんだよね」
次にフィーとミリアムに抱き着くアンゼリカを横目にトワ会長はいつもの4人組に戻ったのが嬉しいようにニコニコと笑う。
「そういえばレト、確か皇子殿下と姫殿下も来ているんだっけ?」
「うん、来てるよ。 このステージを楽しみにしてるんだってさ」
「こ、皇族の方々が……一気に緊張して来たぞ……」
「ヘマをして方々のお目汚しをしたら、御家潰してで済むだろうな?」
「いや、そんな事よりむしろ嬉々して乱入してくると思う」
「そ、そうなんだ……」
「はは。 それじゃあオリヴァルト殿下の出番を作らないように頑張らないとな」
学院での出し物であるがゆえそこまでレベルを求める必要がないが、皇族がご覧になるとなるとそれなりに緊張するだろう。
やがていつもの言い争いを終えたアンゼリカ達はレト達の方に振り向いて頷いた。
「——君達のステージ、楽しませてもらうよ。 だが、気負う必要はない。 今の君達を——VII組の全てをステージにぶつければいいさ」
「ああ、楽しんでくるといい」
「頑張ってね、皆!」
『はいっ……!』
2年生の先輩たちに見送られ、レト達はステージに駆け上がる。 全ての準備が終わり、アナウンス席に着いたトワ会長の放送を合図……ステージの幕が開いた。
◆ ◆ ◆
ステージが終わり夕方……VII組のメンバーは教室の席で燃え尽きたよに意気消沈していた。
結果だけを見れば、ステージは成功したと言える。 ミスもなく1曲目、2局目の盛り上がりも良かったし、アンコールにも答えた……やり切ったと言えるだろう。
「ステージ……成功でいいのよね……?」
「一応、盛り上がっていたのは確かのようだが……」
「フン……観客席のことまで気にしている余裕などあるものか……」
「フフ……それがプロの役者や演奏家との違いであろうな……」
「まあ、終わった後にクヨクヨしても意味ないよ。 結果が何にせよ、やれるだけやったんだし、悔いはないよ」
「ああ、そうだな」
練習の成果を出しきり、これで終わりと思うと寂しい気もしながらVII組の皆はスッキリした表情をしている。
と、そこで教室の扉が開き……パトリックが入って来た。
「フン、だらしないな」
「パトリック……」
「……なんだ、君か……」
「なんかよう?」
何故ここに来たのかは分からないが……パトリックひVII組のダラけた姿を見て、呆れた表情をやれやれとして首を振るう。
「全く、これだからVII組の連中は……いくら疲れたとはいえ、あまりにもダラけすぎだろう」
「フン……余計なお世話だ」
「ふふ、ステージの熱が引くまではしばし容赦してもらいたい」
「それより……I組の舞台も凄かったな」
「うんうん……まさかあそこまで本格的だとは思わなかったよ……」
「ふふっ、フェリスもまさにハマリ役って感じだったし……」
「とても楽しませてもらった」
「そ、そうか……まあ僕達の実力をもってすれば当然といえば当然の反応だが……——って、嫌味か!」
(あー、もしかして……)
何のことか分からないが、パトリックの悔しそうな表情を見てレトは察した。
「と、とにかく! 君達がそんな調子でいたら僕達の立場がないだろう! とにかくシャキッとしたまえ!」
「……?」
「おっと、ひょっとして貰っちまったか……?」
次いでクロウが何か察したようで指摘すると……図星らしくパトリックは悔しそうな表情になる。 その後、褒め言葉か罵りたいのかわらかない言葉だけを並べ、去っていった。
「なにあれー……?」
「うーん……嫌味を言いに来ただけじゃなさそうだが……」
「負けて悔しいんだよ、きっと」
「あ、じゃあ……!」
「君達、やったわね!」
今度はサラ教官が扉を開け放つや否やそう言いながら教室に入り。 同行していたトワ会長達も教室に入って来た。
「教室、先輩達も……」
「どうかしたんですか……?」
「アンタ達ねぇ……すっかり忘れてるんじゃない?」
呆れるサラ教官。 意図が読めずレト達の疑問に答えるようにジョルジュが説明した。
「来場者のアンケートによる学院祭の各出し物への投票……事前に聞いているはずだろう?」
「あ……」
「……それがあったか……」
「すっかり忘れてましたね……」
「じゃあ、パトリックが悔しがっていたのって……」
「在校生、一般来場者からの投票を集計し終わったよ。 どこもかなり健闘していたが、最終的にはI組とVII組に絞れてね」
「投票数1512票! VII組のステージが見事一位に輝きましたー!」
トワ会長の発表で、疲れたVII組メンバーの顔に笑みが浮かぶ。
「あ……」
「……そうか……」
「フッ……」
「オイオイ、反応薄いじゃねーか。 もっとヒャッホウとか小躍りしてもいいんだぜ?」
「じゃあ踊って」
バンバンバン!
「おわっ!? とっ! おわああ!!」
レトは銃剣を抜き振り向かずに背面射撃でクロウを席から転ばせ、足元に撃つ事で踊らせるように翻弄させる。
「はいはい、血が出そうな踊りはそこまでしなさい」
「……まあ、振り返ってみればどこが一位になってもおかしくはなかったな」
「ええ。 どの出し物もとても楽しめたわ」
「——さて、ちょっとは復活しなさい。 まさか“後夜祭”まであるのを忘れたわけじゃないでしょうね?」
「そ、そうだった」
「素で忘れてたかも」
「士官学院祭を締めくくる学院生と関係者の打ち上げ……」
「たしか篝火をたいて……ダンスとかもあるんだっけ?」
「えへへ、皆の家族や知り合いも待ってるよー」
「篝火の準備も終わっているから、ボチボチ向かうといい」
「よし——これで今日は終わりだ。 なんとか気力を振り絞ってグラウンドに向かおう……!」
「ええ」
「あはは、打ち上げだー!」
鈍くなっている体を動かして席を立ち、後夜祭が行われるグラウンドに向かった。
「あ、そうだ。 皆で集合写真を撮らない?」
と、本校舎を出た辺りで唐突にレトが提案して来た。
「集合写真?」
「そ、思い出に一枚……どうかな?」
「うん! いいアイディアだよ!」
「ええ、日が暮れる前に撮っちゃいましょう」
「ふむ……それなら……」
そうと決まり集合写真を撮ろうと本校舎前の階段の上に並ぶ中……アンゼリカは忽然と姿を消した。
順番としては前の段、左からサラ教官、フィー、アリサ、リィン、エリオット、ミリアム、クロウ、トワ、ジョルジュと並び。
後ろの段には左からユーシス、マキアス、ラウラ、レト、どこか嫌そうに抱えられているセリーヌとエマ、ガイウスとなっている。
「よいしょっと……そういえばアンゼリカ先輩は?」
「あれ? アンちゃーん、どこー?」
「——お呼びかい? 愛しのトワ」
「わっ!?」
トワに呼ばれて出てきたアンゼリカ。 しかし、その装いはいつものライダースーツに戻っていた。
「ど、どこから持ってきたんですか……」
「せっかくの集合写真だ。 ここは決めとかないとね」
「んじゃ俺も」
クロウは紅いブレザーを脱ぐと、またもやどこからかトワ会長と同じ平民クラスの緑のブレザーに着替えた。
「なんでクロウも着替えたんだ?」
「いいからいいから。 ほら、サッサと撮ろうぜレト。 他の奴ら待たせたら悪いからな」
「はーい」
「——ニャ」
高さを合わせた三脚に導力カメラをセットし、頭に落ちてきたルーシェを受け止めながらレトはタイマーをセットしてラウラとエマの間に入り込んだ。
「リィン、笑顔でね!」
「ああ! ほら、アリサも」
「ちょ、ちょっと! ええっ!?」
リィンとエリオットが肩を組み、右隣にいたアリサと肩を組もうとするが流石に恥ずかしがられ……手を取るだけにしたがアリサは頰を赤く染める。
「ほら、君もこの時くらい笑いたまえ」
「ええい、鬱陶しい」
「うーん、こんな感じかしら?」
「………………ぶい」
マキアスも釣られてユーシスと肩を組もうとするも鬱陶しがられ。 ガッツポーズを決めるサラ教官をチラ見しながらフィーも右手でVサインを作る。
「イェーイ!」
「わっ! ちょっとクロウ君!」
「オメェらホントちっこいなぁ」
クロウは両手でVサインを作ってはしゃぐミリアムとトワの頭に手を乗せ、トワは子ども扱いされていると怒るもあまり迫力はなかった。
「ちょ、ちょっとセリーヌ。 暴れないで」
「にゃー!」
「ふむ、写真が嫌らしいな」
「黙ってこれだ」
「はは、アンらしいな」
エマの腕の中で暴れるセリーヌをガイウスは微笑ましそうに見て。 アンゼリカはグッと親指を立てながら拳を出しジョルジュは軽くガッツポーズをする。
「ピース! ほらラウラも、ピースだよ!」
「うん。 それが良いだろう」
「ナァー」
レトとラウラはVサインを互いの腕を交差させるように前に出し、レトの頭の上でルーシェが鳴く。 そして、導力カメラから“ピーッ”と音が鳴り……
「にゃー!」
「きゃっ!」
「おっと……」
セリーヌがエマの上から飛び出した瞬間……シャッターが切られた。
◆ ◆ ◆
グラウンドに到着する頃には日は沈み。 グラウンド内に入ると、ちょうど篝火に火つけられ……木で組まれた台から勢いよく火が燃え上がり、学院生達から歓声が上げる。
炎が燃え上がるのを見ていると……グラウンドの反対側にVII組の身内が集まっているのが見え、そこへ向かった。
「兄さん、アルフィン。 まだ残ってたんだ」
「フッ、後夜祭のダンスと聞いて、参加しないわけがないじゃないか」
「——さ、兄様。 先ずは一曲お願いします。 あ、お兄様は帰ってもいいですよ」
「弟も妹が辛辣!」
レトの腕を掴みながらアルフィンは辛口でオリヴァルトを突き放し、オリヴァルトは大袈裟に泣き崩れる。
「はは、せっかくだけどアルフィンは兄さんと踊っておいで。 いくら学院の中とはいえ身分が分からない男と踊る事は根も葉もない噂を呼ぶからね」
「……そんな、兄様……」
「アルフィン」
「……ええ、分かってます。 兄様がわたくし達を突き放すのも心配だからこそ……」
そう言う割には不服そうで、プクーッと頰を膨らませてご立腹のようだった。
「ふぅ……まあいいです。 こんな時ですから、ラウラさんを誘ってはいかがでしょうか?」
「ラウラと? うーん、そうだね。 誘ってみるよ」
「そうですか。 ふぅ、寂しい気もしますが、ラウラさんが義姉になるのもまた魅力的ですわ」
「はいはい、マセた事言わない。 それじゃあ声をかけてくるよ。 兄さん、アルフィンをよろしくね」
「お、おー……任せたまえー……」
任せても良いのか不安になるが、レトはラウラを探しに篝火の周囲を散策した。 と、置いてかれてご立腹なアルフィンは、エリゼから離れていくを見かけた。
「エリゼ」
「姫様……」
「……お互い、寂しいわね……」
「……はい…………って、そんなんじゃありませんから……!」
知らぬ間に離れていってしまう兄に寂しさを共感する妹……
「ラウラ」
「レト……ふふ、ちょうどいい所に来た。 私と踊らないか?」
ラウラを見つけたレト。 ダンスに誘おうとしたが……逆に誘われてしまった。
「え……」
「ふふ、父上もサラ教官も見事なステップでな。 私も体を動かしたくなってしまった」
「そ、そうなんだ……実は僕もラウラに声をかけるつもりだったんだ」
「ほう……」
唐突だったのか、レトがそう言うとラウラは少しだけ頰を染める。
「改めてこっちから誘いたいだけど……いいかな?」
「ふふ、もちろんだ」
2人は自然にお互いの手を取り合い、輪の中に入りダンスを踊り出した。 お互いダンスの経験はあるがラウラはそこまで精通してなく、レトがリードし、次第にラウラもコツを掴み優雅に踊った。
しばらくして踊り終えると2人は篝火から離れ、グラウンドの階段に腰を下ろしまだ踊る生徒たちを見つめていた。
「皆、体力あるねえ」
「ふふ……そういう割には余力を残していると見える。 だが、なかなか楽しかった。 普段、こうして踊ることなど滅多にないことだしな」
「僕も同じようなものだったね。 社交界どころか離宮の外にすら出る事も出来なかったし」
「そうか……お互いによい経験になったか」
そこでレトはハッとなった。 自分の複雑な家庭事情を聞かされて良い気はしないだろう。 慌てて頭を下げて謝罪した。
「ごめん、失言だったね」
「いや、気にするな。 この学院にいると、本当に知らない自分が見えてくる……」
「確かにね……」
「私が士官学院に入ったのは、己の剣のためであり、そなたに誘われたからだ。 そなたとの旅を経て、少しは世間を知ったと思いきや……フィー達と出会い、まだまだ箱入りだと思い知らされ……結果、剣以外にも大切なものを多く手に入れられた。 本当にらこの学院に来てよかった。 ……そなた達に感謝を」
「それはお互い様だよ。 お互いがお互いを守りながら、一緒に歩いていく……ただそれだけのこと。 でも、ラウラが得られたのだとしても……僕が得られたのかよく分からない」
「ほう……?」
視線を上に向け、星々が映る夜空を見上げながらポツリと話し出す。
「僕はただ逃げてただけ。 自分の出自にも、逃げた先のリベールでも突き付けられた現実から逃げて逃げて……でも、後ろからは色んな物が追いかけて来て。 真実を求めてレグラムに行って、ラウラが同行するって言った時……本当は鬱陶しく邪魔だと思っていたさ」
「………………そうだろうな。 当時から、そなたと私の剣の技量には大きな差があった故、そう思われても致し方あるまい……」
「でも……次第に分かりあって行ったよね。 街道を歩いて、魔獣と戦って、地下道を駆け抜けて、隠された神殿を見つけて、罠を避けて謎を解いて先を目指して………そして、剣を交えあって。 少しずつ」
「……うん」
夜空から目を落とし、レトは隣に座るラウラの目を見つめる。
「正道とは言いがたいけど、ラウラとは“剣”という共通点もある。 いくら《剣帝》でもまだまだ道半ば……学ぶ事は山ほどある。 これからの学院生活も、お互いに高め合っていけるといいな」
「ああ……そうだな。 ……そのあたりが、今の時点での落とし所か」
「…………?」
「ふふ……なんでもない」
小声で話したため聞き取れなかったが、ラウラはとてもいい笑顔で首を振り誤魔化した。
「これからもよろしくな、レト。 いや、レミィと呼んでもいいだろうか?」
「はは、だーめ」
「むう……」
「あははは」
頼み事を断られ不貞腐れるラウラに、レトは面白そうに笑った。
その後、レト達は知る事になる。 ガレリア要塞が消滅したことを……
閃2のEDや閃3で出てきたVII組とトワ達の集合写真。 リィンが言うには学院祭の時に撮られたらしいんですが……アンゼリカ先輩がドレスではない事やクロウが以前と同じ平民の緑の制服を着ていた事に疑問を感じました。
ルーレにいたアンゼリカ先輩が学院に到着したのはVII組のステージ開幕直前。 撮影するなら終わった後になり、ちょっと無理矢理合わせる形になった事をご了承ください。