英雄伝説 時幻の軌跡   作:にこにこみ

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6話 ケルディックでの特別実習

 

 

「ーーあ!」

 

ケルディックに戻ると……レトは道端で座り込んで酒瓶を煽っている男性を見つけた。 かなり酔っ払っているようで通行人も不審な目で彼を見ていた。 その中には、同情の眼差しも入っている。

 

「う〜ヒック……なんだ、お前は?」

 

「やっぱり前の自然公園の管理者……どうしてこんなことに……」

 

「見た感じ、何の理由もなくさっきの彼らに職を奪われたからヤケになっているわね」

 

「どうする? かわいそうだけど……」

 

「我らにはどうする事も出来ない。 自力で立ち上がれるのを祈ろう」

 

「……うん……」

 

気の毒に思いながらも、レト達は特別実習を優先しその場を離れた。 背後に聞こえる酔っ払った大声を聞き流しながら……

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

その後、手配魔獣の討伐の為、街を出て東ケルディック街道に向かった。

 

「あれが手配魔獣……つ、強そうだね」

 

「ふむ……斬れぬわけでもなさそうだし、これなら問題なさそうだな」

 

その街道の外れにある高台、そこで巨大な蜥蜴型のような魔獣……スケイリーダイナを発見つけた。 蜥蜴と言うがどう見たって恐竜一歩手前な外見をしており、討伐はおろか近付くことすら躊躇しかねない。

 

「ラウラ、僕達だけで倒したら実習の意味がないよ。 僕とラウラは前衛で注意を引きつけるから、後はリィン達が積極的に攻撃する……それでいいかな?」

 

彼らはスケイリーダイナの様子を草陰に身を潜めながら観察しつつ作戦を考えていた。

 

「ああいうタイプは動きは鈍い。 当たらなければ平気だよ」

 

逆に言えば掠れでもすれば吹き飛ばされ、一撃を喰らえば大きなダメージになるということになる。

 

「ラウラとレトの実力は分かってるし、皆もそれで構わないな?」

 

「う、うん。 もしダメージを受けても僕が回復させればいいだし……!」

 

「私もそれで構わないわ」

 

「ーーさて、なら始めようか」

 

そう言って立ち上がり、スケイリーダイナに向かって歩きながらレトが取り出したのは……

 

「え……」

 

「ブーメラン?」

 

くの字型をした投擲武器、ブーメランだった。

 

「僕が持っている冒険7つの道具の一つ。 敵の注意を引きつけられる事もできれば頭に直撃させて気絶もさせられ、やりようには物を引き寄せるのにも使える万能武器」

 

そう説明した後、レトは直ぐにブーメランを投げた。 ブーメランはスケイリーダイナに向かって飛来、眼前を通り抜けレトに向かって戻って行く。 その過程でスケイリーダイナの視線はブーメランに、次にレトに入り。 スケイリーダイナは咆哮を上げ地面を踏み鳴らしながら襲いかかって来た。

 

「来た……!」

 

「誘導する。 ラウラ、お願い!」

 

「心得た!」

 

「敵ユニットの傾向を解析……」

 

「エリオット、解析が終わり次第指示を出してくれ」

 

「うん!」

 

レトが囮として残りのメンバーがいる木陰から離れ、その間にリィンとエリオット、アリサとラウラがそれぞれリンクを繋いだ。 そして解析を進めるエリオット以外スケイリーダイナに向かって走り出した。

 

「燃え尽きなさい!」

 

「そこだ!」

 

「鉄砕刃っ!!」

 

一気に無防備な背後に攻撃を仕掛け奇襲が成功した。

 

閃駆刃(せんくじん)!」

 

スケイリーダイナがリィン達、背後を向いた瞬間……レトが一瞬で逆に進行方向を転換。 疾走しながら、槍を構え……振り抜かずスケイリーダイナの横を通り抜け脇腹の硬い鱗、硬い皮膚を斬り裂いた。

 

「おっと……」

 

痛みを耐えられぬように、レトは噛み付いてきたスケイリーダイナを避け、そのままガムシャラに暴れ始めた。

 

「怒り狂ったか」

 

「その方がやり易い……皆、一気に決めるぞ!」

 

「ーー解析完了! 水に弱いみたい!」

 

「了解!」

 

言うや否やエリオットはアークスの駆動を開始した。 スケイリーダイナはレト達に向かってタックルを仕掛け、素早く避けるが……

 

「リィン!」

 

「っ!」

 

エリオットの警告と同時にその場で飛び上がった。 次の瞬間、その場所に尻尾が鞭のように振り下ろされ地面を砕いた。

 

「エリオット!」

 

「行くよ!」

 

アリサが矢を射て動きを止め、間を置かずエリオットのアーツが発動。 スケイリーダイナの周囲に複数の氷の刃……フロストエッジが発動、弱点を突いて容易く切り刻んだ。 その際に部分的に凍結し、動きを封じた。

 

「……よし、ちょっと本気を出そうかな?」

 

「やるのか?」

 

「うん。 ……天月(あまつき)の槍、見せてあげる……!」

 

槍を頭上に構え、飛び出す。 スケイリーダイナの目の前に行くと……瞬間消えてしまい、次の瞬間無数の斬撃がスケイリーダイナを襲った。 そして、頭上に現れ……

 

「ーー結べ……連羽(れんは)朧切(おぼろぎり)!!」

 

一直線に振り下ろされた槍がスケイリーダイナを切り裂き、消滅と同時にセピスと変えた。

 

「や、やった……!」

 

「ふう……これで一通り実習課題は終わったか」

 

手応えのある勝利にエリオットは小さく拳を握り、リィンは太刀を一振りし静かに鞘に収めた。

 

「エリオット、さっきは助かったよ」

 

「ううん、僕は何も。 ただ危ないって叫んだだけだけど……やっぱり戦術リンクはすごいね」

 

「かなり実戦的な仕様だからね。 ……サラ教官の言う通り革命的な物だね」

 

アークス……量産化されれば戦いにおいて有利になる。 だが、それは戦争をする準備に違いない。 自分達は実験のため……そう考えた所でレトは雑念を振り払うように頭を振った。

 

「……………………」

 

その時、ラウラがリィンの事をジッと見ていた。

 

「? ラウラ、どうしたんだ?」

 

「いや……なんでもない。行くとしようか」

 

「ああ……?」

 

「……………………」

 

恐らくはレトも気付き、疑問に思っていると思うが……その事は後にしその場を離れた。その後一同は依頼を出した農家に向かい、報告を終えた。

 

「ーーさて、これで課題はこれで終わりかな」

 

「少ないと思ったけど、一通りこなすと結構時間かかったね」

 

「ええ、ケルディック中歩き回ったからもうクタクタよ……」

 

「それにしても特別実習にしてはどこか拍子抜けだったよね。 お手伝いさんっていうか何でも屋というか……」

 

レトはどうしてもある職業と比較してしまうが……確信を得ず、リィン達には話さなかった。

 

「そういえば、レトの流派……天月流と言ったか。 聞いた感じ東方の流派だと思うんだが……」

 

「うーん、聞いてもあんまり意味ないと思うよ? 僕の槍は父さんから貰った武術書を呼んで、その通りに鍛えているだけだから」

 

「それであの強さなんだ……」

 

「前にラウラにも言ったけど、勉強と同じだよ。 分からなければたまに人に聞いて指導してもらってたし」

 

「うーん、分からなくもないけど……納得も出来ないかなぁ」

 

そういうものかな? と、レトは呟き。 サラ教官に報告がてら明日の事や特別実習についての話を聞くため、町へ向かった。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

「……ふざ……な……ッ!」

 

レト達はケルディックに戻り、真っ直ぐ宿に向かおうと大市を通り過ぎようとした時……その大市からここまで届くような怒声が聞こえてきた。 どうやら2人の男性が口喧嘩をしているようだった。

 

「なんだ……?」

 

「大市の方からだけど……」

 

「ふむ、何やら諍いめいた響きだな」

 

「……恐らく、そうじゃないかな?」

 

「気になるわね……ちょっと行ってみる?」

 

「ああ、そうだな」

 

レト達は騒動が気になり、大市に入ると……正面の屋台の前に2人の商人と思われる男性が言い争っていた。 どうやら店を開く場所を巡り合ってのトラブルのようだ。

 

「ふむ、妙だな。 こういった市での出店許可は領主がしているはずだが……」

 

(………近日に中に起きた自然公園管理者の突然の解任。 ずさんな出店許可。 そして……領邦軍が出てこない……偶然なのかな?)

 

「あ……!」

 

アリサの思わず出た驚きの声にレトは思考を止め前を見ると……2人の男性が殴り合いに発展しそうなくらい胸ぐらを掴み合っていた。

 

「あ……」

 

レトはそれに気付くと……一瞬で2人の前に出て槍を構え。 眼前に槍を突き出し、文字通り横槍を入れた。

 

「なっ!?」

 

「ひっ……!?」

 

「ーーそこまでです。 双方、落ち着いてください」

 

突然の事に2人は怒りの矛先をレトに向けたが……レトは瞳を鋭くし、気配を強く発した。 その武人としての圧に2人はたじろぎ、冷静になっていく。 それを確認し、レトは槍を納める。

 

「見た所お二人の許可証は本物です。 ならば何らかの手違いがあった模様……ここは元締めの相談の元、話し合ってはいかがでしょうか?」

 

「むう……」

 

「た、確かに……」

 

レトの冷静かつ現実的な指摘に、2人は渋りながらも頷く。 と、そこへ騒ぎを聞きつけた元締めがやって来た。 話はこのまま元締めが引き継ぎ、レト達は事態が収拾したらお茶をご馳走してもらう約束をした。

 

「ふう……何とかなったかな?」

 

「い、いきなり槍を突きつけるなんて危ないとは思わないの?」

 

「喧嘩や冷静を欠いている相手には非常識な止め方の方が効率的なんだよ。 ま、ほとんどは逆ギレされるんだけどね」

 

「それって、意味あるのかな……?」

 

「あはは、大胆な事をするな」

 

「ふふ、それがレトだ。 皆も早く慣れるといい」

 

元締めに呼ばれるまで少し時間が出来た事もあり。 レト達はしばらくの間大市を見て回る事にした。

 

「へぇ……こうして見るとやっぱり色んな物があるね」

 

「うん。 静かなレグラムもいいが、これはこれで悪くないな」

 

「あ、これは確かクロスベルのマスコットキャラクターじゃないの? 確か名前はみっしぃとか言う」

 

「みっしぃ……ふむ? 妙に心惹かれる造形だな」

 

少し目を光らせて興味津々にみっしぃを見つめる。 それを見たレトは何を思ったのか座っているみっしぃストラップを1つ手に取った。

 

「店主、これを1つ貰えますか?」

 

「ああ、1,000ミラだよ」

 

レトは店主に1,000ミラを渡し、みっしぃストラップを購入した。 手に取ったストラップを見て頷き、そのままラウラに差し出した。

 

「はい、ラウラ」

 

「え……」

 

「気に入ったんでしょ? 本当ならぬいぐるみにしたかったけど、実習中じゃあ荷物にかさばるし、これなら問題ないんじゃないのかな?」

 

「いや、しかし……」

 

本当なら好意に甘えたいが、元来の性分でラウラは受け取るのを躊躇った。

 

「ほほ、お暑いねぇ」

 

「なっ……!?///」

 

「あはは、そうですか?」

 

「っ……!」

 

店主に煽られ、照れを隠すようにラウラはレトの手から奪うようにストラップを手早く受け取った。

 

「う、うん……感謝する」

 

「喜んでもらえてなによりだよ。 あの旅に付き合わせた埋め合わせ……と言っても、それぐらいじゃ足りないと思うけど」

 

「コホン。 そなたの旅に同行しようと思ったのは私の意志だ。 機に病む必要はない。 むしろ己を高められ、見聞を広める事が出来た。 感謝するのはこちらなくらいだ。 父上も私の変わりように関心を受けていた」

 

「はは。 “光の剣匠”にそう言ってもらえるなんてね」

 

その後2人は別れ、レトはフラフラ歩きながら大市の隅の方に本を売っている屋台を見つけた。 真っ直ぐにその屋台に向かい、興味深く本を値踏みしていると……

 

「! これは……」

 

並べられている本の中で、一際異色を放つ本を見つけた。 レトはそれを手に取り、中を見てみると……黒字で、ほぼ解読不可能な内容だった。

 

(古代ゼムリア語で書かれているね。 虫食いの部分も多いけどこれなら……)

 

先ずは一通り流すように目を通し、読みやすい部分を抜き出し音読した。

 

「えっと……“ーー竜ーーれたーによってーーー命をーとし、緋ーーーーは呪われた存ーとなった”って、これって……彼の……!」

 

「ーーレト、そっちに何かあったのか?」

 

「!?」

 

背後からラウラに声をかけられ、レトは咄嗟に本を閉じ気づかれぬように素早く元の場所に戻した。

 

「? どうかしたのか?」

 

「う、ううん。 何でもないよ」

 

「そうか。 どうやら先ほどの話が付いたようだ。 元締め宅に向かうとしよう」

 

「分かった」

 

レトは先ほどの黒い本に少し……いやかなり後ろ髪を引かれたが。 邪念を振り切りラウラの後に続いた。

 

 


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