英雄伝説 時幻の軌跡   作:にこにこみ

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47話 劫炎

演習場に到着すると……演習場には最新の戦車と旧式の戦車が向かい合っており、軍用飛行艇も配備されていた。

 

「——よくぞ参った」

 

「あ……!」

 

歩いてきたのは軍服を着たエリオットと同じ髪色をした男性……

 

「あれがエリオットの……」

 

「……ぜんぜん似てない」

 

「あはは、髪の色はソックリみたいだけど」

 

厳としてガッシリとした身体付きの男性に対してエリオットは細々しく、髪色以外似てはいなかった。 サラ教官とナイトハルト少佐は彼に敬礼をする。

 

「お疲れ様です、中将」

 

「ナイトハルト、ご苦労。 バレスタイン教官だったか。 お初にお目にかかる」

 

「お目にかかれて光栄です。 クレイグ中将閣下。 本日は、士官学院のカリキュラムに協力して頂き、感謝いたします」

 

「なに、将来我が軍に来るやもしれぬ若者達だ。 それにヴァンダイク元帥にはお世話になっているからな。 して、そちらが……」

 

中将は視線を移し、鋭い眼光を放ちながらリィン達を見回す。

 

(っ……)

 

(何という眼力……)

 

(さすがは猛将と名高い紅毛のクレイグか……)

 

(………………?)

 

(えーっと……)

 

「よ〜く来たなぁ、エ〜リオット!!」

 

「へ……」

 

「!?」

 

鋭い眼光が一瞬で綻び、笑顔でエリオットに駆け寄り抱きしめた。 困惑するエリオット……紅毛のクレイグとはかなりイメージとかけ離れていた。 ナイトハルト少佐はこの自体を知り予想通りだったのか、額に手を当てた。

 

「ふふ、楽しい上官をお持ちのようですね?」

 

「…………言葉もない」

 

「もう、いい加減にしてってば! フィオナ姉さんに言いつけるよ!?」

 

「ハッ……」

 

エリオットの脅し気味の言葉で正気に戻り、エリオットから離れると咳払いをして顔を引き締め直した。

 

「えー……それはともかく。 帝国軍・第四機甲師団司令、オーラフ・クレイグ中将だ。 本日の合同軍事演習の総指揮を任されている。 以後、見知りおき願おう」

 

「こ、こちらこそ……」

 

「よ、宜しくお願いします……」

 

(これじゃあ総指揮じゃなくて、葬式になりそうだね……)

 

そんな事がありながらも定刻通りに合同軍事演習は行われ、レト達は用意された席に座って見学をした。

 

結果として……最新鋭の戦車や飛行船を用いて旧式の戦車を瞬く間に殲滅した。 大砲から砲弾が放たれる時に発生する振動や音を身体全体で感じながら……レト達は戦慄を感じた。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

軍事演習は終了し、第四機甲師団は要塞ではなく近くの野営地に引き上げ……ガレリア要塞に戻ったレト達はナイトハルト少佐から今回の演習の成果について説明を受けるのだった。

 

そしてそれが終わる頃には夜になり……レト達は遅めの夕食を頂いていた。 昼とは違い、今回はマトモな食事でハヤシライスだった。 だが……それを前に出されて喜ぶ者はいなく、リィン達は意気消沈だった。 唯一通常通りなのはレトとミリアムとクロウの3人だけだった。

 

「ああもう! 皆暗すぎるってばー!」

 

「やれやれ。 ちとナイーブすぎねぇか?」

 

「あんまり気にしなくてもいいのに」

 

「……仕方ないだろう。 士官学院で教わっているものを全て否定された気分だ」

 

あの演習を見て、リィン達は色々と考えさせているようだ。

 

「教養、学力、武術……実際の戦争にそんなものは何の役にも立たないんですね」

 

「……まあ、そうだね。 単に戦争をやるだけならそんなものは必要ない」

 

「重要なのは、純粋な兵力と最新兵器と総合的な火力……それらを活かせる戦術と効果的に運用できる戦略か」

 

これは戦争という括りで話しているだけだが……一回の演出でこの4ヶ月で学んで来た事を無碍にしてしまう力があった。

 

「……アハツェンにしても想像以上だったわね。 2年前、母様が正規軍に自信満々に売り込んでいたのは覚えているけど……」

 

「分かってはいたが……正直私も気落ちしている。 あの軍勢を前に、剣1つでどうなるとは思えぬからな」

 

(出来る人は出来るけど……)

 

一騎当千出来そうな人物が何人も思い浮かび、レトは軽く苦笑いをした。

 

「うーん、だからといって武術が役に立たない訳じゃないとは思うけど」

 

「だが……俺達は少し勘違いをしていたのかもしれない。 今日、演習場で見たのは混じりけのない“力”だろう。 理念も理想も関係なく……振るわれたら単純に結果だけをもたらすような“力”だ」

 

「確かに……」

 

「剣にしろ、銃にしろ、その意味では延長線上にあるな」

 

「……この要塞に格納されている列車砲なんかもそうね」

 

「力は所詮力……そこに善と悪もない。 あるのは人どう扱うかだけ」

 

「なるほど……結局、力に善悪を決めるのは俺達か」

 

「……そう考えると、今回の演習を僕達に見せた理由が何となく見えてきた気がするな」

 

「フン……随分持って回ったやり方だが」

 

「いや〜、なかなか盛り上がってるみたいね」

 

と、そこにサラ教官が食堂に入ってきた。 リィン達の様子を見てウンウンと頷いている。

 

「サラ教官……」

 

「お話は終わったんですか?」

 

「ええ、クロスベルの通商会議の情報とかも仕入れてきたわ。 それと……テロリストの最新情報もね」

 

「……!」

 

「帝国解放戦線か……」

 

「——明日の予定を伝えるわ。 午前中は、正規軍の行う基礎体力トレーニングに参加。 午後からは、特別講習と合わせて一通りの情報を教えてあげる。 そしてその後は……列車砲の見学許可が出たわ」

 

列車砲……クロスベル方面に向かって設置された二門の巨大な導力砲。 カルバートを牽制するために設置されているが、その気になればクロスベルを2時間で壊滅状態に出来る大量破壊兵器……

 

「……そうですか……」

 

「ちょっと楽しみかも」

 

「いや〜、なかなか盛りだくさんじゃねえか」

 

「ま、せっかく君達をわざわざ連れて来たからね」

 

 

レトは少し冷めてしまった残りのハヤシライスを掻き込んだ。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

8月31日——

 

今日、クロスベルでは通商会議が行われる中……レト達はガレリア要塞に所属している正規軍と一緒に基礎体力トレーニングをこなし。 昼食を取った後、午後に軍事学の特別講義が始まった。

 

そこでサラ教官は昨日までに仕入れたテロリストグループ……帝国解放戦線にいついての情報を話してくれた。

 

(帝国解放戦線がクロスベルに……)

 

サラ教官から語られたのは帝国解放戦線がクロスベル方面に向かっているという情報。 それに加え、共和国方面のテロ組織も潜んでいるそうだった。

 

「対策は取られているらしいが、この件に関しては完全に情報局が取り仕切っている。 正規軍にも“信頼できる協力者がいる”としか伝えられていない」

 

「信頼できる協力者……」

 

「よう、チビすけ。 何か知ってんじゃねえのか?」

 

「んー、知っているけどちょっと話せないかなぁ。 でも、メチャクチャ強い人達ってのは言えるかな?」

 

「メ、メチャクチャ強い人達って……」

 

「幾つか心当たりはあるけど……」

 

「………………」

 

「って、ちょっとレト。 何さっきから導力パソコンを弄ってんのよ」

 

説明している間もレトは耳だけを傾けながら導力パソコンを操作していた。 すると、何かを見つけたのか目を見開かせた。

 

「うわお……」

 

「レト?」

 

「何かあったの?」

 

「なんでも帝国政府が赤い星座を雇ったみたい。 しかも1億ミラ相当の契約で」

 

「なっ!?」

 

1億という金額にリィン達は驚いたが、赤い星座を知る人物はその名に驚愕した。

 

「い、1億ミラ……」

 

「途方も無い金額だが……その赤い星座というのは?」

 

「西風の旅団と並ぶ猟兵団よ。 ただし、金さえ積めば何でもやるようなヤバい連中よ」

 

「くっ、まさか帝国政府が猟兵を運用しているとは……」

 

「……赤い星座……」

 

名目はあれど、帝国が国外で猟兵を運用する事はあまり良い目で見られるものではない。 後々問題も起こりうる可能性もある。

 

「はぁ……その件については後で報告するとして……次は帝国解放戦線というのがかなりの規模だったってこと。 少なくとも最新型の軍用飛行艇を保有しているわ」

 

「本当ですか!?」

 

「飛行艇……ラインフォルト製か?」

 

「ああ、出所は不明だが高速タイプのものであるらしい。 正規軍で主流の重装甲タイプとは別系統のシリーズだな」

 

「……RF26シリーズ。 何バージョンか出ているけど……」

 

テロリストが使う飛行艇が、自分の身内から出ている事にアリサは複雑な心境だった。

 

そして帝国解放戦線が飛行艇を有している以上、これで奴らがどこから現れてもおかしく無くなってしまった。

 

「……心配ですね。 皇子殿下も出席していますし」

 

「それに……トワ会長もクロスベルに行っているのよね」

 

「ああ……」

 

「ま、確かにちと心配だな」

 

「兄さんに関しては…………あんまり心配しなくてもいいかもね。 恐らく昨日は勝手にクロスベルをほっつき歩いていたと思うし」

 

「それはそれで問題のような……」

 

実際、オリヴァルト……もといオリヴィエはリュート片手にどこにでもほっつき歩く。 しかもオリヴィエになると阿保が加速するオプションまで付いてくる始末……が、それは置いておき。

 

次に、帝国解放戦線の幹部について判明した事があり、導力プロジェクターで映像が後ろのホワイトボードに投影された。 最初に写し出されたのは眼鏡をかけた男性……G、ギデオンだった。

 

「レトが知っていたお陰で簡単に洗い出せたそうよ。 本名、ミヒャエル・ギデオン。 帝都にある帝國学術院で教鞭を取っていた元助教授よ」

 

「子どもの頃、教授の政治哲学の講義は何度か受けた事があるよ。 とても分かりやすくて。 でも、今思えばどことなく危うい感じもしていた……サラ教官、動機は?」

 

「3年前、オズボーン宰相の強硬的な路線を激しく批判して、それで学術院から罷免されたそうよ」

 

「そうですか……」

 

講義を受けた身としては複雑なレト。 そして残りの幹部であるS、V、Cの映像が投影された。

 

「……この3人については特定しきれてないみたいね。 このうちVについては元猟兵じゃないかって推測されているみたいだけど」

 

「元猟兵……」

 

「た、確かに凄そうな機関銃を持ってたけど……」

 

「フィー、心当たりは?」

 

「……んー。 ちょっと分からない」

 

猟兵団と言っても中小も入れればかなりの数がいる。 流石に全ての猟兵団を把握していないフィーは頭を捻った。

 

「Sについては該当しそうな人物は絞り込めているらしいわ。 今はアルテリア法国の関係者方面で調べているわ」

 

「アルテリア法国の……?」

 

「彼女が使っていた武器は法剣(テンプルソード)って言って、七耀教会の騎士が主流として使っている武器なんだ」

 

「教会の……騎士? なんだか意味がわからないぞ……」

 

「まあ、教会にも色々いるのよ。 それよりも問題はこのCっていうリーダーね」

 

「あの仮面の男か……」

 

全身真っ黒のテロリストのリーダー。 声を変えているが大凡男性であるのと、かなりの達人という事以外は何もわかっていない謎の人物……

 

「何でも、リィンとラウラとフィーの攻撃を凌いだそうだな? 他の2人も相当な手練れと聞いている」

 

「少し遅れを取っちゃったけどね」

 

「正直ちょっと信じられないんだけど……」

 

「いや、それが出来る人間は帝国でもそれなりにいるだろう。 父上は当然として……サラ教官に、ナインハルト少佐も出来そうですね?」

 

(他は、え〜っと……鋼に神速、剛毅に魔弓、劫炎と痩せ狼と殲滅天使、道化師と幻惑の鈴も出来そうかな? 後変態紳士、それにカシウスさんとこの前会ったシャーリィって子も出来そうかも)

 

過去に出会った人物の名を上げるとキリがなく……そうこうしているうちに特別講義の時間は過ぎて行き……講義が終わると列車砲を見学しに行くことになった。 次々と会議室を出る中、レトは静かにサラ教官に近寄った。

 

(サラ教官。 先ほどは皆がいたから伝えませんでしたが……帝国政府は皇子殿下を守るという名目で、赤い星座にテロリストの処刑を命じています)

 

「なっ!?」

 

思わず声を上げ、サラ教官は誰かに聞かれていないか辺りを見回した後、レトを連れて部屋の物陰に寄せた。

 

(それは本当なの!?)

 

(ええ、委任状も用意され自治州法でも認めざる得ません。 予想が当たっていれば——)

 

(それ以上はいいわ。 でも、かなりキナ臭くなって来たわね……)

 

確実に何かが起こる……そう予感してはいらなかった。 そして格納エリアへ移動を開始しようとしたその矢先……ナイトハルト少佐のアークスに通信が入ってきた。

 

「こちら、ナイトハルト……」

 

どうやら相手は今もオリヴァルトを護衛している同門のミュラー・ヴァンダールのようで、次第にナイトハルト少佐の表情が険しくなっていく。 通信を終えると、尋常ではない事態を予想しながらサラ教官が声をかける。

 

「……クロスベルで異変が?」

 

「ああ、その通りだ。 つい先ほど会議開かれているオルキスタワーを帝国解放戦線が襲撃した」

 

先ほどの講義で予想はしていたが……本当に来るとは思わずリィン達は驚きを露わにする。

 

「襲撃には飛行艇が使用……幸い、何とか撃退してオリヴァルト殿下や宰相も全員無事だったそうだ。 しかし予断は許さない状況が未だに続いているらしい」

 

「クッ、本当に襲ったのか……」

 

「……愚かな……」

 

と、そこでサラ教官は通話で他に不審な点を見つけ、そこを指摘した。

 

「テロリスト達が“導力ネット”を不正に操作して隔壁をコントロールした。 その上で機械の魔獣を繰り出したらしい」

 

「機械の魔獣……!」

 

「それって、リィン達がレグラムで遭遇した……?」

 

「結社の人形兵器。 データ収集を名目にすればテロリストにも売るでしょうね。 それと導力ネットか……ナインハルト少佐、昨日見学した所、導力ネットは導力戦車の格納庫にありましたよね?」

 

「ああ、現時点では整備班などの備品管理に限定されているが……」

 

「レト?」

 

つまりここにも導力ネットが引いてある。 ラウラ達は深く考え込むレトを見つめていた、その時……

 

——ドオオオオオンッ!!

 

「な、なに……!?」

 

「今の爆発音は……!?」

 

「真下からだわ……!」

 

「真下……格納庫か!」

 

クロスベルのオルキスタワーに続いて緊急事態がこのガレリア要塞でも発生、レト達は急いで格納庫に向かうと……格納庫は黒煙が充満しており、昨日の最新型導力戦車、アハツェンが破壊された隔壁から外に出ようとしていた。

 

「な、なんだ!?」

 

「アハツェンが……!?」

 

「う……」

 

「! おい、何があった!?」

 

呻き声が聞こえ、ナイトハルト少佐が倒れていた整備士に歩み寄り、容体を見ながら状況を確認しようとする。

 

「……か、勝手に……誰も乗っていない筈なのに戦車が動き出して……」

 

「Cユニットの暴走……そんなのありえない……」

 

「Cユニットというのは!?」

 

「軍事演習の標的に使われる自動操縦ユニットだ……! だが……それがなぜ最新鋭の主力戦車に取り付けられている!?」

 

レトは辺りを見回し……近くにあった導力パソコンに駆け寄り、素早い手付きで操作した。

 

「…………! 昨日の夜に司令部から導力メールが……送信先は巧妙に隠されて今すぐには……内容は“今日、追加演出をするため20台のアハツェンにCユニットを取り付ける事”」

 

「なんだと!?」

 

そんな命令、どうやら司令部が出した覚えがないようでナイトハルト少佐は驚愕した。

 

「Cユニットの在庫はそんなに無かった筈だ!」

 

「夕方の貨物便で同じく20個のCユニットが届いています。 この導力メールといい……どうやら嵌められたようですね」

 

「くっ……」

 

悔やむ暇もなく外から砲撃音と共に爆発音が轟いて来る。 どうやら要塞内を暴れているようだ。 様子を見るべくナイトハルト少佐は走り出し、その後にリィン達が続いたが……

 

「——ッ(カタカタ!)」

 

画面を睨んで集中していたレトはその場を動かず、導力ネットと格闘していた。

 

「! クロスベルの地下、ジオフロントから送信されている……でもそれ以上は——って、誰もいないし」

 

仕方なしと納得したレトは導力パソコンから離れて救助活動に参加した。 レトは分け身を使い、格納庫を隈なく捜索し要救助者を集めた。

 

「負傷者はこれで全員です」

 

「ああ、ありがとう」

 

「このまま彼らを連れて外に出る。 ここではまともな治療は出来ない」

 

動ける導力車を使い格納庫を脱出し、レトもその後に続こうとした時……

 

「————!!」

 

何かに気付いてバッと振り返り、鎮火と救助活動をしていた軍士官に向かって飛び出した。 軍士官は反応できずレトに頭を掴まれて残っていた戦車の陰に隠れ……

 

ドカアアアアッ!!

 

格納庫内が砲撃を受け、爆発した。 後数秒遅れていたら爆炎に巻き込まれていただろう。

 

「今の角度……上空から、飛空挺からの砲撃!」

 

爆発音がもう1つ聞こえたことからもう片方の格納庫も砲撃を受けたとレトは推測する。

 

「帝国解放戦線の狙いは二門の列車砲……それを使い阻止された宰相閣下を亡き者にするつもりのようですね」

 

「そ、そんな事をしたらオルキスタワーどころかクロスベルが……!」

 

「! この駆動音……!」

 

今度は上から、人形兵器が次々と階段を降りて現れた。

 

「でやっ!」

 

だがその瞬間、レトは飛び出すと同時に剣を振り抜き……上階まで斬撃を飛ばして人形兵器を斬り裂き、続いて天井と壁を斬り裂いて通路を塞いだ。

 

「結社の人形兵器……相当数が要塞内にばら撒かれたか……」

 

踵を返し、炎が上がっている格納庫に出入り口に向かい……

 

「フッ!」

 

剣を一閃、炎を斬り払った。 それを見た軍士官が感嘆の声を上げる。

 

「あなた達は負傷者を連れて外に! 僕はテロリストの企てを阻止しに行きます!」

 

「し、しかし!」

 

「急げ!! 救える命から手を離すなどそれでも誇り高き帝国軍人か!!」

 

ここでごねていても仕方なく、軍人を説得するように叱咤し、迷った末彼は敬礼した。

 

「……ご武運!」

 

残りの軍士官と負傷者を連れて格納庫を脱出し、レトは別ルートで上階に上がろうとその場を後にした。

 

「皆はテロリストを止めるべく列車砲の元に向かったようだね……」

 

しかし……その行く手をことごとく人形兵器の軍勢が塞いで思うように進めなかった。 この場にいる最後の一機を斬り裂きながらレトはボヤく。

 

「……なんか多過ぎやしない? まるで僕を足止めをしているような……」

 

「——そりゃそうだ。 こいつらはオメェの足止めをするために用意されたんだ」

 

瞬間、レトは背筋に悪寒を感じがらも尋常ではない熱量を全身で感じ取った。 振り返ると……そこには炎のような赤いコートを着た、眼鏡を掛けている気だるそうな男が立っていた。

 

「え、ええ〜……なんでここにいるんですか〜?」

 

「ふわああっ……本来、俺が帝国入りするのはもうちょい先だったんだが……ちょいと興が湧いてな。 オメェ、あの鋼の女の実の息子なんだってな?」

 

「!? え、えーっと……」

 

同じ組織に属しているので話す機会はあるだろう。 事実、夏至祭前に帝都に行った時にデュバリィに襲われた時、彼女はその事実を知っていた。

 

「最初はレーヴェの阿呆の後釜っうから興味が湧いて、そんでわざわざ会いに行ったらサッサと逃げられたが……」

 

「いや、逃げるので精一杯でしたから。 比喩抜きで太陽を投げるようなアレが来た時は死ぬかと思いましたから……ケルンバイターで斬り裂いて無ければ死んでましたから!」

 

「今回はちょっとくらいはアツくしてくれよ?」

 

「人の話を聞いて!」

 

無慈悲にもマクバーンの右手に焔が燃え上がり……レトに向かって投げた。

 

「イヤアアアアアアッ!?」

 

すぐさま壁を破壊して外に脱出し、絶叫を上げながら劫炎が頭上を通り過ぎて行く。 レトは頭を抱えてうつ伏せになりながら着地、起き上がると同時にマクバーンを指差した。

 

「殺す気ですか!? 今の避けてなかったら死んでますよ!!」

 

「死んでねぇから気にすんな」

 

死なないのなら何してもいいのか、とはレトは言えなかった。 要塞から帝国方面の外に出され、溶解して穴が空いている場所に立っているマクバーンを見上げながらレトは銃剣を構える。

 

「あん? ケルンバイターは使わねぇのか?」

 

「そういう貴方こそ。 妙にケルンバイターが反応しているから見るに……対になる剣を持っていますね? 貴方が使わないのならお互い様です」

 

「ま、別に構わないぜ」

 

マクバーンは軽く前に飛び、3階くらいの高さから飛び降り……両手を付かずポケットに入れたまま着地する。

 

「ふっ!」

 

その瞬間を狙い、レトは一瞬で飛び出し接近する。 マクバーンに向かって神速の横一閃を振るうが、マクバーンから溢れ出た焔によって止められてしまう。

 

「なかなかアツくさせてくれるじゃねえか」

 

右手をポケットから抜き……軽く振って焔の熱風を起こした。 それをレトはバク転して避け……ケルンバイターを投擲した。

 

ケルンバイターは回転しながらブーメランのような軌道を描いてマクバーンの側面から飛来し、マクバーンは見向きもしないで首を曲げて避け、ケルンバイターが通り過ぎると……マクバーンの目の前から一瞬で消えたレトがケルンバイターをキャッチし、背後を取っていた。

 

「せいっ!」

 

「っと……」

 

振り下ろされたケルンバイターを屈む事で避けられたが……空振りして一転、踵落としを放ち、マクバーンの右肩を強打した。

 

「ッ……中々やるじゃねえかっ!」

 

右肩を払いながら両手をポケットから出してマクバーンは本腰を入れ始めた。 両手の平に火球を発生させ、次々と投げる。

 

着弾するたびに爆炎を巻き上げ、レトは無心の想いで避け、時にケルンバイターで道を斬り開いて行く。

 

「おおおおっ!!」

 

「オラオラ! 俺をもっとアツくさせてみろ!」

 

徐々に2人の戦いは勢いを増し、巨大なガレリア要塞を破壊し回っている。 今の所、両者はほぼ互角に戦っていた。 不意に……レトは近くにあった貯水タンクが視界に入ってきた。

 

「でやあああっ!!」

 

「あぁ?」

 

マクバーンを近くまで誘導し、跳躍と同時に貯水タンクの底と支柱を斬り大量の水を落としたが……浴びせようとした水が当たる前に纏っていた焔により蒸発して行く。

 

「たっく……温い手を使いやがって……」

 

水は水蒸気に変わり、マクバーンの視界を白く埋め尽くす。 眼鏡が曇るのに苛立ちながらマクバーンは一瞬焔を強く放出、蒸気を吹き飛ばす。 その前に……背後からレトが迫ってきた。

 

「温いんだよ!」

 

苛つきをぶつけるようにマクバーンを中心に焔が燃え上がり、レトを焼き尽くす。 しかし……燃え尽きたのはレトの分け身だった。

 

『はあっ!』

 

「ッ!」

 

その隙に真下から潜り込むように3人のレトが接近、真下から蹴り上げてマクバーンを宙に飛ばし、本体のレトがケルンバイターを構えて飛び上がり……

 

「——燃え盛る業火であろうと砕け散らす!」

 

右手をマクバーンに向け、周囲の温度が急激に下がり……マクバーンを焔ごと凍らせた。

 

「絶技・冥皇剣……滅ッ!!」

 

そしてケルンバイターで氷を砕き、そのままマクバーンを斬りつけた。 重力に従って落下したが……受け身をとってスクッと立ち上がった。 ダメージはあるもののケロッとしていた。

 

「チッ……まだレーヴェの跡を追っかけているだけか……まともにやり合うにはもうちょいかかりそうだな」

 

「ッ……」

 

まだ戦う気かとレトは警戒するが、マクバーンは飽きたような表情をして背を向けた。

 

「今日はこのくらいにしといてやる。 次に会う時はもっと楽しませてくれよ?」

 

すると焔がマクバーンを燃やすような燃え上がり……まるで転移するように消えて行った。 今まで感じていた圧力がなくなり、レトはヨロヨロと後退、壁に寄りかかり大きく息を吐きながら地面に座り込んだ。

 

「はあああああぁ…………死ぬかと思った」

 

全身が焔で炙られて制服は黒焦げの穴だらけ、息も絶え絶えで大量の汗をかき……ここまで命の危機にあったのは久しぶりだろう。

 

「……他の皆は大丈夫かな? 帝国解放戦線を止められたといいんだけど」

 

身体中がチリチリと痛むのを耐え、レトは立ち上がり。 溶解している地面を超えてガレリア要塞に戻っていった。

 

——結果から見れば列車砲は食い止められ、テロリストの撃退にも成功した。 が、レト達はこの帝国の裏で何かが蠢き始めていることをその身で実感するのだった。

 


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