英雄伝説 時幻の軌跡   作:にこにこみ

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4話 実技テスト

 

 

4月21日ーー

 

この日のサラ教官が担当する授業、特科クラス《Ⅶ組》は学院のグラウンドに集められていた。かねてよりサラから告げられていた《実技テスト》を実施する為である。

 

「それじゃあ、これから《実技テスト》を始めるわよ」

 

サラ教官から説明されたのは、これから行うのは単純な戦闘力を測るものではなく、『各々が状況に応じた適切な行動』が出来るか否かを見るためのものらしい。 その意味で、何の工夫もしなかったらいくら個人で相手を圧倒しようが評点は辛くなる。結果ではなく、過程を重視するという事だ。

 

「ふむ、なるほど……」

 

「アークスの戦術リンク……これが鍵になるようだね」

 

「ふふーーそれではこれより、4月の《実技テスト》を開始する」

 

手を軽く上げ、サラ教官は指を鳴らすの……どこからともなく傀儡のような機械の人形を召喚した。

 

「これは……」

 

「魔獣なの!?」

 

「いや……この人形からは命の息吹を感じない」

 

(人形兵器………いや、どこか違う?)

 

「こいつは作り物の"動くカカシ"みたいなもんよ。 そこそこ強いけど、アークスの戦術リンクを活用すれば決して勝てない相手ではないわ」

 

突然現れた謎の機械に、リィン達は一様に面食らった。 が、レトだけは少し嫌そうな表情を見せるだけだったが。

 

そして手始めとしてリィン、ガイウス、エリオットの3人が呼ばれ、実技テストが開始された。

 

3人は事前に練習している甲斐もあり、戦術リンクを活用して息の合ったコンビネーションで機械人形を撃破した。

 

「うんうん、悪くないわね」

 

結果に満足したサラが嬉しそうな顔で拍手をする。

 

「戦術リンクも使えたし、自由行動日の旧校舎地下での実戦が効いてるんじゃないの?」

 

「ほう……」

 

「むむ、いつの間にそんな対策を……」

 

「へぇ、僕も参加しとけばよかったなぁ」

 

「いや、レトも誘おうとしたんだけど、連絡が取れなくてな」

 

リィンにそう言われ、レトはたった今思い出したようにポンと手を叩いた。

 

「あ、そっか。 そういえばその日、アークスに着信が来たのと同時に壊しちゃったんだよねー。 あはは」

 

「わ、笑い事じゃないような……」

 

「貴重なアークスに良くそんなことをするわね」

 

「ーーはいはい、無駄話は後にしてとっとと次に行くわよ。 アリサ、エマ、マキアス、ユーシス。 前に出なさい!」

 

手を叩いて会話を止めさせ、サラ教官は次のグループが呼んだ。 人数は4人、リィン達の時よりも数は多いが……予想通り、ユーシスがマキアスとの連携を取る事ができず。 リィン達よりも苦戦する結果となってしまった。

 

「う~ん……まあ予想はしてたけど、やっぱりマキアスとユーシスは連携が取れてないわね。 あなた達はそこが課題よ」

 

「ぐっ……!」

 

「チッ……」

 

マキアスは悔しそうに表情を歪め、ユーシスは舌打ちをした。ただでさえ険悪な仲の二人なのだから、こうなっても無理はないだろう。

 

「さて、それじゃあ最後は……レト、ラウラ、フィー! 最後なんだからビシッと締めなさいよ〜」

 

少し煽られている気もするが、3人は特に気にせず前に出る。 軽く得物とアークスの点検、調整をし準備を整えた。

 

「さて、と。 ラウラ、フィー、準備はいい?」

 

「うん、問題ない」

 

「いつでも行ける」

 

ラウラとフィーに目をやり、合図を確認してからレトはサラ教官に視線を戻す。 それを見たサラ教官は一度頷くと、パチンと指を鳴らして再び機会人形を召喚した。

 

「……サラ教官。 なんか、ちょっと変わってません?」

 

「さっきと同じ機体よ?」

 

そうは言うが、見た目同じだがさっきまでの機械人形とはだいぶ雰囲気が違うき気がする。

 

「ハードル上げられたね」

 

「仕方あるまい。 やることは変わらない、このままやるとしよう」

 

「しょうがないか。 ラウラ、“雪”でいいよね?」

 

「うん。 それでいこう」

 

「? 雪?」

 

フィーは首を傾げて2人の会話を不審に思う中、実技テストが始まり3人はそれぞれの武器を取り出し、構え……

 

「ーーそれでは、始め!」

 

サラ教官の合図と共にレトとラウラが飛び出した。 フィーの双銃剣による銃撃で体勢を崩し機械人形との距離を詰め、レトは槍を下から振り抜き……当たらず穂が空振り、反対側の石突きで上にかち上げた。

 

「ラウラ!」

 

「任せるがよい!」

 

すぐ後ろに控えていたラウラが飛び、上を向いた石突きを足場にして跳躍。 空にいた機械人形に大剣を振り下ろし、大剣はしっかりと硬い金属を斬り込みながら機械人形を地面に叩き落とした。

 

「ホイっと」

 

続けてフィーも石突きを足場に跳躍、空中で逆さになり。 双銃剣を真下にいる機械人形に向け銃弾を乱射、銃弾の雨を降らせ装甲にゆっくりと大量に小さな凹みを作っていく。

 

「はあっ!!」

 

そしてフィーを上に上げた後、直ぐに走っていたレトは雨が止むと同時に複数ある凹みの一点を狙って貫いた。

 

「行くよラウラ!」

 

「心得た!」

 

機械人形を振り回し、先ほどの一振りで空に留まっていたラウラに向かって攻撃するように振り抜き……

 

「鉄砕刃!」

 

体を一転して機械人形に大剣を振り下ろした。 巨大な2つの衝突する力が機械人形の間に発生、機械人形はその力に耐えられずバラバラとなり破壊された。

 

「やったね、完全勝利」

 

「フィー、合わせてくれてありがとう。 ラウラもお疲れ様」

 

「そなたの援護、誠に見事だった。 本気が見られなかったのは残念ではあるが……」

 

「それはまたの機会にね」

 

喜んでいるか表情が読めないが、フィーは手でピースを作り。 レトとラウラは拳を作って手の甲で軽く拳を打ち合わせた。

 

「ーーそこまで、って言う必要ないわね。 いや~、お見事としか言いようがないわね。 戦術リンクも上手く繋がっていたし、文句無しの満点評価よ♪」

 

嬉しそうに何度も頷きながら、サラ教官が盛大に拍手を送る。

 

「す、凄かったね……」

 

「ああ、あの人形が反撃する隙を全く与えなかったな」

 

「戦術リンクをしていたのはレトとフィー……それなのに、レトとラウラの連携はすごいな」

 

「確かに」

 

「ふむ……しかしサラ教官、先ほどの傀儡めいた物は一体何だったのだ?」

 

と、武器を収めてからラウラがサラに訊ねた。 彼女の言葉を聞いて、他のメンバーも同意するように頷いた。

 

「機械……? 見たことないかも」

 

「僕も聞きたいですね」

 

「んー、“とある筋”から押し付けられちゃった物でね。あんまり使いたくないんだけど、色々設定ができて便利なのよねー」

 

レトはもっと詳しく聞きたかったが、他の皆が関わりを持つ事を考え、それ以上追求しなかった。

 

(………黒の工房………地精(グノーム)か……)

 

「さて、実技テストはここまでよ。 先日話した通り、ここからはかなり重要な伝達事項があるわ。 ーー君たち《Ⅶ組》ならではの、特別なカリキュラムに関するね」

 

と、その言葉を聞いた瞬間、場の空気が一気に引き締まった。全員が黙ってサラの言葉に耳を傾ける。

 

「君たちに課せられた特別なカリキュラム……それはズバリーー《特別実習》よ!」

 

「……特別、実習……?」

 

随分もったいぶって告げられた割にはいまいちピンと来なかった。 しかし、予想済みの反応だったらしく、サラは構わず説明を続けた。

 

「君達にはA班、B班に分かれて指定した実習先に行ってもらうわ。 そこで期間中、用意された課題をやってもらう事になる。 まさに、特別(スペシャル)な実習ってわけね♪」

 

そう言ってサラは、全員に一枚の紙を配った。それには班分けされたⅦ組メンバーの名前と、彼らが赴く手筈となっている実習先が記されていた。

 

 

【4月特別実習】

 

A班:リィン、レト、アリサ、ラウラ、エリオット

(実習地:交易地ケルディック)

 

B班:エマ、マキアス、ユーシス、フィー、ガイウス

(実習地:紡績町パルム)

 

 

ケルディックは帝国東部・クロイツェン州にある交易が盛んな小さな町で。 パルムは帝国南西部、サザーランド州にあるリベールとの国境に1番近い場所にある紡績で有名な町。 どちらも静かな田舎町というイメージがある。 が、それ以前にこの班分けは決定的な問題があった。

 

「ど、どうして僕がこの男と……!」

 

「……あり得んな」

 

言うまでもなく、マキアスとユーシスの2人である。 ただでさえ仲の悪い彼らを同じ班にするとは、サラ教官もだいぶ性質が悪い。

 

「日時は今週末。実習期間は2日間くらいになるわ。各自、それまでに準備を整えて英気を養っておきなさい」

 

その言葉を最後に実技テストは終了、同時に昼休みの終わりを告げる鐘楼が鳴った。 午後の授業の準備の為に他の者達が教室に戻っていく中、レトは手元のプリント……B班の欄をジッと見た。

 

(パルム……か。 近いうちに……返さないといけないな。 ふざけんなって想いもあるけど、それ以前に僕には荷が重い……いや、重過ぎるし)

 

B班の問題を他人事のように流し。 レトは1人、静かに目を閉じていた。

 

 


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