英雄伝説 時幻の軌跡   作:にこにこみ

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次々と新しい閃4の情報が出る中……主人公はまだいない。


第5章
39話 編入生


8月18日ーー

 

先月にテロが起きたが……それよりも心配だったのはレトの素性。 この帝国を統べる皇族アルノール家の一員であること、リィン達はこの事実に驚愕したが……特別実習が終わってトリスタに帰った後も以前と変わらずにレトに接し、そのおかげでレトはいつものように、気の向くままに学院生活を過ごせていた。

 

そして8月の中旬……士官学院は軍と同じく年末年始以外の長期休暇は本来は存在しない。しかし、貴族生徒に限っては将来の領地運営の勉強などの名目で故郷への帰省が認められており、この時期になるとI組、II組の生徒達のほぼ全員がトリスタから離れていた。そして残ったIIIからV組までの生徒は彼らを羨みながらも勉学を修練に励み、VII組のメンバーも全員がトリスタに留まっていた。

 

「あっついね〜」

 

「言うな、余計に熱くなる」

 

「当の本人はまるで汗かいてないけどね……」

 

そろそろHRが始まりそうになる頃、レト達は雑談がてら集まっていた。

 

「ーーっていうか、レトはなんでルーシェを連れて来たのよ」

 

「仕方ないでしょう、勝手に付いて来たんだから」

 

先月の帝都からの帰りに、ルーシェはいつの間にかレトの荷物の中に紛れ込んでおり、そのままトリスタまで着いて(連れて?)きてしまったのだ。

 

すぐに帰そうとしたが……事情を聞いた学院長がアッサリと許可を出してしまい、当然飼い主のレトが面倒を見るという事で第3学生寮に留まっているのだった。

 

「なんていうか……あの子ってなんか賢すぎるよね、僕達の言葉も理解しているみたいだし」

 

「大きさは子猫より少し大きいくらいだが歳は幾つくらいなんだ?」

 

「うーん、聞くところによると10は軽く超えてるみたい。 正確な歳は僕も知らないんだ」

 

「10歳……普通の猫ならもうかなりのご高齢のはずですよね?」

 

「……かなり元気だったけど」

 

「……………………」

 

疑問に思いながらも今もレトのベットの上で寝ているルーシェを思い浮かべるリィン達。

 

「……でも正直、だるいかも」

 

「わざわざ言わないでよ……はあ、氷でも何でもいいから冷たいものが欲しいわね……」

 

「それなら寒くなるような話をすればいいんじゃないか?」

 

「あ、それならいいのがあるよ! 題して……亀の呪い!」

 

「ーーあ、落ちが見えたからいいわ」

 

アッサリ断られ、レトはガックリと項垂れる。 決して亀の呪い(鈍い)……というオチではなかったりは、しない。

 

「ふむ……確かにこちらの方は故郷(レグラム)よりも暑さが厳しいな。 これも修行と思えば気にならぬが」

 

「バリアハートは同じくらいだがこの時期、峡谷から風が吹くからな。 まだ過ごしやすいかもしれん」

 

「俺の故郷は山間にあるから、この時期でも涼しいくらいだな」

 

「この時期は宮殿じゃなくてカレル離宮に居るからね。 そこまで暑くはならないかな」

 

と、そこでエリオットは貴族であるリィン達が帰省をしなかった事を思い出した。

 

「そういえば……リィン達、貴族生徒なのに結局帰省しなかったんだよね」

 

「一応、3人とも許可は出ていたんでしょう?」

 

「はは……クラス全体が休みになるなら考えたけど。 妹とも会ったばかりだし、今年の夏は止めておいたんだ」

 

「ーー元より修行中の身。 自分なりの手応えが得られるまで中途半端に帰るつもりはないな」

 

「フン……わざわざ居心地の悪い実家に帰る阿呆がいるか。 この暑さを我慢した方が千倍はマシというものだ」

 

「そ、そんなに嫌なんだ」

 

「……あ、レトはどうなんだ? そこの所は?」

 

貴族ではないが、一応皇族であるレト。 マキアスはふと思った疑問を口にした。

 

「こっちもそんな予定はないよ。 ここにいるのは平民の、ただのレト・イルビスだからね」

 

「そうですか……やはり大変なのですね」

 

「……まあ、何にせよ暑さに関係なく色々慌しくはなっているしな。 関係者にとったら暑さどころじゃないだろう」

 

「……確かに」

 

「クロスベルで行われるという西ゼムリア通商会議か」

 

西ゼムリア大陸諸国……エレボニア帝国と、敵対するカルバート共和国、リベール王国、レミフィリア公国、そして開催地であるクロスベルを含めた最高地位に属する者達によって行われる国際会議が、クロスベルの市長であるディーター・クロイス氏の提案によって開催される。

 

帝国からは皇帝陛下の名代としてオリヴァルトが、そしてオズボーン宰相が出席される予定となっている。 ただしオリヴァルト曰く、陛下の名代と言っても自分は確実にお飾りになるかもしれないとのこと。

 

「しかし……鉄血宰相、ギリアス・オズボーンか。何というか……とんでもない存在感だったな」

 

「何でも呑み込みそうな怪物って感じ」

 

「僕もそう思う。 アレは人としての括りを抜け出しているような人だから……」

 

何度も会ったレトだからこそ、彼の化物ぶりは身に染みていた。 自身を遊戯版の指し手でありながら王という駒ですらあり、彼が犠牲になろうともそれは戦力の内、王がいなくともゲームは終わらない……

 

「エレボニア帝国政府代表……軍部出身の政治家で、11年前、皇帝に信任されて宰相となった人物。 今や帝国正規軍の7割を掌握すると聞く」

 

「帝都を中心に、全土に鉄道網を整備した人物としても有名ですよね。 それと、周辺にある幾つかの小国や自治州を併合したとも聞きます……あくまで平和的、みたいですが」

 

「フン、どうだかな……あの男が宰相となってから軍事費が増大したのは間違いない。 巨大な帝都や、併合した地域からの莫大な税収を足がかりにしてな」

 

「それは……」

 

宰相閣下はいつか帝国を戦乱の世に貶める……レトはそう思えてならなかった。

 

「……実際、クロスベル方面の二門の列車砲を発注したのも元はといえばあの人なのよね……それによって、共和国との間で大規模な戦争が起きる所だったし」

 

「その時は、リベールという国の提唱で戦争を回避できたと聞いたが……確か不戦条約だったか?」

 

「ああ……だがその緊張は未だに尾を引いているらしい。 だから、今回の通商会議ではそのあたりが話されると思うが……」

 

結局の所、不戦条約と言えば聞こえはいいが……この戦争が起こらない時期は戦争の準備をしているとも言える。

 

「それに加えて、クロスベルの領土問題もある。 ここ最近クロスベルで大きな事件があったそうでね。 解決には至ったけど……その事件で警備隊の存在意義が完全に否定されてしまった。 両国がその事を口実にクロスベルを袋叩きにするだろうね」

 

「それもありましたか……」

 

「クロスベルが帝国、共和国による自治州である以上、かなり深刻な問題だろう。 そして宰相閣下も……その事実を知った上で領土権を主張するだろう」

 

「クロスベルか……ノルドの領土問題と似たような問題を抱えていると聞いたが」

 

クロスベルの問題も他人事のようには思えず、その原因が宰相にあると分かると頭を悩ませてしまう。

 

「うーん……帝都じゃ凄く人気がある人なんだけどなぁ。 でも……実際には、あんな連中に思いっきり狙われているみたいだし」

 

「帝国解放戦線……『静かなる怒りの焔をたたえ、度し難き独裁者に鉄槌を下す』か」

 

帝都の地下道で出会ったテロリスト達を思い出す。 彼等から感じられた執念に近い感情は、実際に戦ったレト達にもよく伝わっていた。

 

「どうやら宰相殿に対して憎悪の炎を燃やしているようだな。 それも尋常の怒りではあるまい」

 

「確かに、それだけの恨みを買いまくっていそうな感じ」

 

「うーん、父の盟友を悪く言いたくはないんだが……」

 

「怨まれても仕方ないよ。 宰相が領土や鉄道を広げた事に比例して……恨みも買っているんだから」

 

レトの言葉にリィン達は納得してしまう。 鉄道を敷く時に当たって民家を壊した事もあれば、国を併合する時もあまり目にも入れたくない方法が使われた事もあった。

 

と、そこで完全に会話が詰まり、全員が沈黙する。 だが……そんな中でエマはある事に気付く。

 

「そういえば……サラ教官、遅いですね? もうHRの時間ですけど」

 

「そういえば……10分も過ぎているな」

 

「全くあの人は……まさか寮で寝坊してたりとかしてないわよね?」

 

「いかにもありそう」

 

「うーん、否定出来ないのがちょっと厳しいけど」

 

「コラコラ、()()()違うわよ」

 

「………………」

 

丁度いいタイミングで教室に入って来たサラ教官。 レト達はどうにも“今日は”、という言葉に引っかかりを覚える。 “今日も”の間違いだろうと……

 

「サラ教官」

 

「おはようございます」

 

「おはよ、皆」

 

が、いつもの事なので、もうそれを指摘する事はなく。 レト達は自分の席に着いた。

 

「で、遅れたのにはちゃんと訳があってね。 今日は皆に新しい仲間を紹介するわ」

 

「え……!」

 

「編入生……」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

別に教育機関であるのでVII組にも編入生が来てもおかしくはないが……この時期、あの帝都での事件の後であるのでレト達は少し緊張したが……

 

「それじゃ、入ってきて」

 

「うーっす」

 

その緊張に反して軽そうな返事と共に入って来たのは……銀色の髪にバンダナを巻いた、緑色の制服を着たその青年……その姿を見てリィン達は驚愕する。 そこにいたのは、自分達もよく知る人物、2年生のクロウ・アームブラストだったのだ。

 

「……え」

 

「あれ……?」

 

「2年のアームブラスト先輩……?」

 

「ーークロウ・アームブラストです。 今日から皆さんと同じVII組に参加させてもらいます……てな訳で、宜しく頼むわ」

 

最初の方は真剣だったが……最後まで持たなかったようで。 左手を腰に当て、右の親指を立てながら自分を指差し、明るくフランクに自己紹介する。

 

「ええっ!?」

 

「ど、どういう事ですか?」

 

「いや〜、これには非常に深刻かつデリケートな事情があってだな」

 

「はあ、よく言うわよ。 コイツ、一年時の単位をサボって幾つか落とててね。 このままじゃ卒業できいって泣きついてきただけよ。それで特例で3ヶ月ほどVII組に参加する事になったわけ」

 

それを聞き、レト達は呆れ果てた。 完全に自業自得であるのに何とも図々しい事か……

 

「……なんだそれは……」

 

「お、思いっきりどうしようもない理由じゃないですか……」

 

「知ってるかもしれないけど去年、ARCUSの試験導入に参加した実績もあるからね。 その点に関しては、君達のいいお手本になるかと判断したの」

 

「ここに来てしまった時点でお手本も何もないと思いまーす」

 

「ちょっ、惨すぎね!?」

 

「……否定できないのが何とも」

 

「後ギャンブルの才能もない。 運とツキも読めない博打じゃ、いつか爆散するよ?」

 

「こ、怖えこと言うなよぉ〜……」

 

薄ら笑うレトにクロウは恐怖を覚える。

 

「まあクロウが爆死云々はともかく『ヒッデェ!?』 特別実習にも参加してもらうからそのつもりでいてちょうだい」

 

「くっ……結局一通り説明されちまったか。ゴホン、そういう訳でよろしくな? 同じクラスになったからには先輩後輩、抜きで行くとしようぜ」

 

「は、はあ……」

 

「はい。 よろしくお願いしますね、苦労さん」

 

「……なんか、発音違くね?」

 

「なかなかそういう訳にはいかぬと思うが……」

 

「ぶっちゃけ軽すぎ」

 

クロウの軽口に呆れてしまう。 と、そこでリィンとガイウスが開いたままの扉に気付いた。

 

「ーーサラ教官。 扉が開いたままということは……」

 

「まさか……他にも編入者がいるんですか?」

 

「え……?」

 

「それって……」

 

「あら、バレちゃった? というわけで、出てきて挨拶しなさい」

 

「はー。 待ちくたびれちゃったよ〜」

 

廊下から痺れを切らしたかのような少女の声が聞こえる。 そして……水色の髪の少女が軽く走るようにして教室の中に入ってくる。

 

「えへへ」

 

「へ……」

 

「ええっ!?」

 

「なに……!?」

 

どうやらリィン達、ノルド高原で実習したA班は彼女について知っているようだが……知り合いという反応ではなさそうだ。

 

「君は……」

 

「ノルド高原で会った……」

 

「うん、お久しぶりだねー。 初めての人もいるから、改めて自己紹介するねー。 僕はミリアム、ミリアム・オライオンだよ」

 

そして不意にミリアムは右手を上に掲げる。瞬間、彼女の背後で空間が歪んでそこから実技テストで使われる機械人形に似た……しかし巨大な両腕を持つ白く陶磁器のような機械人形が出現した。

 

「こっちがガーちゃん。 正式名称はアガートラム」

 

両腕を曲げて腰にあたる位置になる部位に当て、鳴き声のような機械音を発するアガートラム。

 

既に見た事のあるリィン達はともかく、当時B班でレト達からすれば……話には聞いていたが、実際に見せられると驚いてしまった。

 

「なああああっ……!?」

 

「ええっ……!?」

 

「オーロックス砦で見た……」

 

「すると、ノルド高原でそなた達が会ったという……」

 

「……………………」

 

「あー、そのデッカイのは教室内で出すのは禁止ねー。 下手に壁でも壊されたらあたしが怒られちゃうから」

 

「むう、しょうがないなぁ」

 

渋々と言った様子でミリアムは了承し、先ほどと同じようにアガートラムが消えていった。

 

「えへへ、そんなわけで……よろしくねー!VII組の皆!」

 

元気に振る舞うミリアム。 だが、彼女の所属を考えてしまうと……どうしても素直には受けいられなかった。

 

「……えっと」

 

「冗談、ですよね……?」

 

「んー、あたしもその方が面倒がなくていいんだけどねぇ」

 

「ハハッ、中々面白くなりそうじゃねーの」

 

こうして、クロウとミリアムという新たな仲間を加えてVII組は再び動き出したのだった。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

8月21日ーー

 

ミリアムとクロウがVII組に来てから早3日……クロウは元々学院で接したりしている間柄だったのと本人のフランクさが相まってすぐに馴染んでいた。

 

ミリアムも気さくさで言えばクロウには負けず劣らず。 しかし彼女の素姓が裏で影を引いているせいで妙な怪しさを感じさせずにはいられなかった。

 

とはいえ、この異色すぎる新たなメンバーは何事もなく、あっという間にVII組に馴染んでいった。

 

「〜〜〜〜〜♪」

 

放課後、ミリアムやアガートラムについて多少懸念しながらもレトは写真部の部室で持ってきていた導力ノートパソコンで帝都で撮影した写真を整理していた。

 

「うーん、風景写真ももちろんあるが……相変わらずレト君は魔獣の写真も多いね」

 

「そうですか? ほら、コレなんかいい顔してるじゃないですか」

 

「そんな骨だけの気持ち悪い龍のどこがいい顔してるんだよ!?」

 

画面に映っていた横たわっている骨だけの龍にマックスは指をさしながら声を荒げる。

 

「はあ……本当はコレが動いているところを撮影したかったんだけど……その時既にリィン達に倒されていたからなぁ」

 

「ガッカリするところ、そこなんだね……」

 

「……つうか、前から思ってたけど……魔獣と戦っている時に導力カメラなんか構えられるのか? しかもこんな綺麗に撮ってよ」

 

「出来るよ。 なんせ僕は戦うカメラマンだから。 延いてはこの写真部を戦う写真部にします」

 

「……確かに戦う事は出来そうだけど……君は写真部をどこに向かわせる気だい?」

 

「あははは」

 

笑い事に聞こえなかったようだが、気にせずレトは笑って誤魔化した。 その後、レトは学院を出ようとすると……そこへ少し疲れているリィンとラウラとユーシスがミリアムを連れながら歩いてきた。

 

「あ、レトだ!」

 

「やあ皆、今から帰り?」

 

「……ああ」

 

「……お疲れのようだね?」

 

あまり元気のない返事に、ニコニコしているミリアムを見ながら同情する。 レトはそのまま同行して、ミリアムを連れて寮に戻ったが……寮に入って先ず見たのは玄関先のテーブルでコーヒーを飲むクロウとシャロンの姿だった。

 

レト達は何故ここにクロウがいるのか疑問に思うが、その前に2人がレト達に気付いた。

 

「よお、お疲れ」

 

「お帰りなさいませ皆様」

 

「ク、クロウ先輩……!?」

 

「何でここに……?」

 

「ああ、VII組に参加するにあたってこっちに引っ越しする事になっちまって」

 

当然と言えば当然かもしれないが、やはり唐突過ぎた。 だが、当の本人もシャロンの淹れてくれたコーヒーを飲んで満足している様子だった。

 

「それにしてもシャロンさんの淹れたコーヒーは絶品ッスねー。 こんなことならさっさと参加しておくんだったぜ」

 

「ふふ、クロウ様ったらお上手ですわね。 よろしければ先程焼き上がったお菓子も持ってまいりましょうか?」

 

「お、それじゃあお願いするッス」

 

早速クロウは気分良く餌付けされていた。

 

「てなわけで、急になっちまったがこれからよろしくな」

 

「……普通に馴染んでるな……」

 

「あはは、じゃあクロウも一緒だね!」

 

「おう……でだ、明日の旧校舎の調査にも付き合おうと思ってるんだがどうだ? アークスの勘も取り戻しておきたいんだが」

 

「? 何それ?」

 

旧校舎の探索、そういえばミリアムはその事を知らなかった事に気付いたリィンは簡潔にだが毎月自分達が旧校舎の探索を行っている事を告げる。そして、それを聞いたミリアムは、面白そうに口元を緩める。

 

「面白そうだね!僕も行ってみたい!」

 

「……はぁ、言うとは思った。あのな……危険な場所だぞ?」

 

「平気平気! 僕にはガーちゃんもいるし!もし連れて行ってくれないなら扉を壊して入っちゃうよ?」

 

今日振り回されたリィンからすれば冗談には聞こえず、渋々了承するしかなかった。

 

その後、第3学生寮に帰ったレト達はシャワー室にいた。

 

「ふう……今日も疲れたね」

 

「ああ、日に日にカリキュラムがハードになっているのを感じるよ」

 

「フン、今日は余計に疲れたがな」

 

「それは仕方ないだろう」

 

今は男子の使用時間で、リィン達が1日の汚れを落としていた。 特にリィンは放課後、ミリアムに振り回された時の汚れと疲れを……

 

「とはいえ、毎日シャワーだと疲れは取れないな。 久々にユミルの温泉にゆっくり浸かりたいな」

 

「温泉かあ……リベールで一度入った事あるけど、また入りたいなぁ……あ、ルーシェ」

 

「にゃー」

 

と、そこでルーシェがシャワールームに入ってきてレトに歩み寄り、レトはルーシェを抱えた。

 

「あ、やっぱりルーシェも洗うんだ」

 

「ああ、そうみたいだな。 ってーー」

 

そこで、リィンは目を疑った。 レトは右手に持っている赤いスポンジで体を洗っていると思ったが……スポンジの正体はなんと泡だらけのルーシェだった。

 

「えええっ!?」

 

「むしろルーシェで体を洗っているのか!?」

 

「あ、使う? 結構泡立つよ」

 

「にゃ」

 

「いるか阿呆」

 

たしかにフワフワしている毛並みだが……平然と、さも当然のように使う、使われる1人と1匹にリィン達は何も言えなかった。

 


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