英雄伝説 時幻の軌跡   作:にこにこみ

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ようやく閃の軌跡IVの最新情報が出てきましたね。

そして言おう……主人公は?


32話 皇族

レト達B班の今日の依頼は全て完了し、最後の魔獣の討伐完了の報告をしに来た道を戻って競馬場に向かう途中、レトが……

 

「あ、ここから外に出られる近道があるよ」

 

と、言うので、アリサ達は来た道を外れて機嫌よく進むレトの後をついて行く。 しばらくして行き止まりにぶつかるが、レトは構わず進み……壁にあるレンガの1つを押した。

 

すると小さな地鳴りがし、壁が奥に沈み横にスライドして行くと……隠されていた通路の道が開けた。

 

「これは……隠し扉か」

 

「こんな仕掛けが地下道にあるとはな……」

 

「政府が帝都の地下道を把握してきれない理由の一つだよ。 隠しスイッチがあからさまなのもあれば、思いがけない場所にスイッチがあったりもする」

 

「ですが、レトさんはその全て把握してらっしゃるのですよね?」

 

「まあね。 それじゃあ行こうか。 まあ、この道はちょっと帝都の外に続いているんだけどね」

 

「にゃー」

 

先程より魔獣は少なく、レト達はゆっくりと隠し通路を進んだ。

 

しばらくして奥から陽の光が射し込んで来た。 レト達は階段を登り……落ち始めた陽の光に目を細めながら地下道を出た。

 

「ここは……」

 

「どうやら墓地のようですね」

 

「ここは南オスティア街道の外れにあるヒンメル霊園だよ」

 

帝都から程よい距離にある霊園、この場所にはいくつもの墓が並べられていた。 ちょうど霊園を掃除していた墓守がレト達に気付いたが、レトが手を振ると興味を失い掃除を再開した。

 

「こんな所に続いていたのね」

 

「バリアハートの地下道より、歴史を感じさせますね」

 

目の前に見える帝都を見てエマはしみじみとそう感じる。

 

「さて、競馬場に報告に行ったら、今日はそろそろ帰りましょうか」

 

「夕食も宿泊場所から近場にあればいいのだが」

 

「それならフォレスタという宿酒場があったはずだ」

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

霊園を出て街道を北上して帝都に戻り、導力トラムで競馬場に戻って報告を終える頃には日も沈み夜になってしまった。

 

「ほらほら〜、カサギンだよ〜」

 

「にゃー、にゃー」

 

ヴェスタ通りにある宿酒場フォレスタでB班は夕食を食べる事になり。

 

食事を食べる前にレトはカサギンの尾を掴んでルーシェの前でヒラヒラと揺らし、ルーシェは口をパクパクさせながら後ろ足で立って、ギリギリ届かないカサギンを食べようとするが……レトはカサギンを上下に動かして遊んでいた。

 

「ーーよし、良いよ〜!」

 

「ハグッ!」

 

「あはは、ルーシェが釣れたー!」

 

「何猫で遊んでるのよっ!!」

 

それを見ていたアリサが容赦なくレトの後頭部を叩いた。

 

「え、何々!? イールの方が良かったの!?」

 

「そう言う問題じゃないわよ! 普通に可哀想だとは思わないわけ!?」

 

「うーん、昔からやっている事だから……ねぇ?」

 

「ハグハグ」

 

レトはカサギンに喰らい付いてプラプラと揺れているルーシェに話しかける。 レトはルーシェを下ろしてカサギンを離し、ルーシェはあっという間に平らげるとケプ、っと満足しながら前脚を舐めて毛繕いをする。

 

「よしよし」

 

「にゃあー」

 

「レトさん、夕食の用意が出来たそうですよ」

 

「うん、今行く!」

 

返事をしながらルーシェを抱え、レト達は食卓を囲んで夕食を食べ始める。 地下道でかなり体力を消耗したのかあっという間に平らげるてしまい。 それから宿泊場所のギルド跡に帰り、すぐにレポートを纏めた。

 

「〜〜〜〜♪」

 

「ふみぃ〜〜」

 

すぐにレポートを書き終えたレトは、鼻歌を歌いながら膝の上に乗ったルーシェの背をブラッシングし、ルーシェは気持ち良さそうな声を出す。

 

「ルーシェちゃん、気持ち良さそうですね」

 

「最近はご無沙汰だったけと、昔からやって上げていたからね。 エマもセリーヌにやったりしないの?」

 

「ええっと……セリーヌは結構嫌がるので」

 

「へえ、珍しいね、ブラッシングを嫌うなんて。 猫1匹での毛繕いだと、頭や下顎とか背中とかは舌が届かないのに」

 

「にゃ〜」

 

そのセリーヌは損をしていると言うようにルーシェは鳴く。 しばらくしてフワフワ感が増したルーシェをアリサが抱きながらエマと雑談をし、ガイウスはユーシスに誘われて息抜きにチェスをやっていた。

 

「A班は今何をしているんでしょうね?」

 

「あの2人に何か進展があればいいんだけどね……」

 

「ふむ……これでどうだろうか」

 

「ほう、キャスリングか……味な手を」

 

それぞれが束の間の休息を取る中、レトは1人外に向かい、ルーシェもアリサの手から離れてレトに近寄り……そのまま外に出て正面にあった陸橋まで歩き、手摺に寄りかかり、肩に乗っていたルーシェは手摺に飛び移る。

 

すると1人と1匹は同じ方向を……マーテル公園がある方向をジッと見つめる。

 

「……この闘気……ラウラとフィーだね。 どうやら僕とラウラの時と同じようにぶつかり合ったみたいだね」

 

「にゃ」

 

昔にラウラと剣を交えた出来事を思い出しながら呟き。 同じ考えなのか、ルーシェは頷く。 そしてレトは空を見上げると……

 

「……月はただ……美しく、冷たく……宿命を照らす……」

 

「……………………」

 

「ルーシェ、世界から忘れられるのって……一体どんな気持ちなんだろうね」

 

ルーシェだけに聞こえるように、レトは空を見上げながら呟いた。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

翌日、7月25日ーー

 

朝食を取った後、ギルドのポストに入れられていた依頼の入った封筒を取り……B班の実習は滞りなく進んだ。

 

「ーーはあっ!」

 

そして昼過ぎ……レト達は西オスティア街道で道を塞いでいた大樹を背負った巨大な亀型の魔獣……プロトドスを討伐していた。

 

ガイウスがプロトドスの側面から接近し、十字槍を薙ぐが……硬い甲羅に阻まれて穂が通らなかった。

 

「ああ、もう! 硬すぎよ!!」

 

「アーツの効きも悪いですし……」

 

「ぐっ……だが、一歩も引いてなるものか!」

 

アリサの弓矢も、エマのアーツも、ユーシスの剣もまるで歯が立たず。 かと言ってプロトドスが時折全体に衝撃波に吹き飛ばされ、それによって防戦一方だったりする。

 

「このままだとジリ損だね」

 

「何とか突破口を見つけなければな」

 

「アリサ、動きを止められる?」

 

「何するか分からないけど……任せて!」

 

アリサは片膝を付き、矢をプロトドスの頭上に放ち……

 

「メルトレイン!」

 

矢が閃光を放つと分散し、炎の矢が雨のようにプロトドスに降り注いだ。 もちろんダメージは無いが、動きは止められた。

 

「ふっ……!」

 

するとレトはメルトレインの中を走り抜け、プロトドスの背に乗り大樹を駆け上がり、跳躍して銃を下に向け……

 

「……朱弾……」

 

朱い弾丸を縦と横……剣を振り抜くように十字に撃ち、十字架が甲羅に刻まれ、動きを封じると同時に亀裂を作った。

 

「ガイウス!」

 

「任せろ!」

 

リンクを繋いでいた為、動きが封じられるのとほぼ同時にガイウスは飛び上がり、朱い十字に重ねるようにプロトドスの背に十字槍を突き立てた。

 

「せい、やっ!!」

 

さらに落下して来たレトが十字槍の石突きに踵落としを放ち、杭を打ち付けるように穂がプロトドスの甲羅を貫いた。

 

「お願いします!」

 

「任せろ!」

 

エマが火のアーツ、フォルテの重ねがけでユーシスの力を高め。 ユーシスは剣を前に突き出すと青い導力陣が現れ……剣に纏われる。

 

そして一気にプロトドスの眼前に接近し、プロトドスが半球体に覆われ……

 

「終わりだ……クリスタルセイバー!!」

 

氷を纏った剣が2度、交差するように振られ……最後に横一線で半球体と共にプロトドスを切り裂き砕いた。 これで決まると思った、だが……

 

「ーーなっ!?」

 

無傷では無いが、プロトドスはまだ健在だった。 そしてプロトドスは力を溜めていた。

 

「ユーシスさん!」

 

「マズい! あのままだと……!」

 

「ーーさせるか!」

 

プロトドスは力を解放し、大質量の頭突きがユーシスに向かって繰り出され……次の瞬間、間にガイウスが割って入り、頭突きを受け止めたが……余りの威力に2人揃って吹き飛ばされてしまった。

 

「ユーシス、ガイウス!」

 

「全く、無茶をして」

 

咄嗟にレトがガイウスに地のアーツ、アダマスシールドを施し。 ガイウスにダメージは無く、せいぜい吹き飛んで来たガイウスに押し潰されたユーシスがダメージを受けただけに留まった。

 

「良かった……」

 

「さて、一気に決めるしかないけど……(試してみるかな)」

 

2人が大した傷でないことを確認しながらレトは銃剣を納め、槍を抜いた。 そして……

 

「ーー朧溟爪(ろうめいそう)……」

 

流れるように、しかし捉えられない速度で爪のように、3つの軌跡を描きながら槍を薙ぎ払い、あの巨大で信じられないほど大きく地面を引き摺りながら吹き飛ばした。 そして、レトは続けて石突きでプロトドスの側面をかち上げ……

 

「お願いします、アリサさん!」

 

「貫け……ミラージュアロー!」

 

無防備な腹にエマが発動した風のアーツ、ジャッジメントボルトとアリサが射た貫通性のある矢が放たれた。

 

2つの攻撃は腹の一点に直撃し、衝撃が反対側まで貫き……とうとうプロトドスは力尽きた。

 

「ふう、やったわね」

 

「はい!」

 

エマとアリサはハイタッチして勝利を喜び合う。

 

「やれやれ、何とかなったか」

 

「フン、美味い所を持って行きおって」

 

「まあまあ」

 

ガイウスに軽く治療されながらユーシスは軽く悪態をつき、レトは槍を肩に担ぎながらたしなめる。

 

(ふう……槍はもちろん、剣や銃の戦い方も大体まとまって来たかな。 鋼の聖女には到底届かないけど……ま、やっとスタートラインかな)

 

「にゃー」

 

と、そこで離れて見ていたルーシェが側にあった岩を登ってレトに飛び移り、肩の上にに乗った。

 

「それにしても、ルーシェちゃんもまた着いて来てしまいましたね」

 

「っていうか、いつまで連れて行く気? いい加減あなたの家に帰して来なさいよ」

 

「ルーシェはあまり家に居たがらないからね。 基本外にいるから、あんまり無理に帰したくないんだけど……」

 

「まあ、実習の間だけなら問題なかろう」

 

レト達は雑談を交わしながら帝都に戻って行く。 その途中、エマが西オスティア街道から北に分岐している道を見かける。

 

「あの道は……」

 

「ああ、あれね。 あれはカレル離宮に繋がる道だよ。 今の時期なら一般に開放されているから見には行けるね」

 

「うーん、興味はあるけど実習中だからねえ」

 

「風光明媚な場所だが、今は行く必要はなかろう」

 

「それは少し残念だ」

 

アリサとガイウスは興味があったが、他の依頼もあるので今日は断念した。

 

しばらくして帝都に近付くと……レトのアークスが着信音を鳴らした。

 

「なんだ……?」

 

「そういえば帝都ではアークスは繋がりましたね」

 

「でも誰からかしら?」

 

「はい、士官学院VII組、レト・イルビスです」

 

『ハロー。 頑張っているかしらー?』

 

疑問に思いながらも通話に出ると……通信の相手はサラ教官だった。

 

「珍しいですね。 実習中に連絡してくるなんて、何かありましたか?」

 

『うん、君達全員に行って欲しい場所があってね。 実習課題が片付いてからでいいからサンクト地区に行って欲しいのよ』

 

「ーーえ」

 

『事情は後で説明するわ。夕方5時過ぎに聖アストライア女学院正門前まで行ってちょうだい。 A班にも同様に伝えてあるし、知事殿にも許可はもらっているから遠慮なく行って来ていいわよ』

 

「えっと、サラ教官?」

 

『それじゃ、よろしくね〜』

 

そう言い、一方的に通信は切られてしまった。

 

「サラ教官からだったのですか?」

 

「……うん」

 

レトは多少困惑しながら通信の内容を伝えた。

 

「アストライア女学院ですか……」

 

「確かサンクト地区にある女学院よね? エリゼさんが通っている」

 

「またあの教官は何を考えているんだ。 VII組全員で行けというのはどうにも解せんな」

 

「だが、教官なりに何か考えがあるのだろう」

 

「まあ、何かあるんだとは思うけど……依頼も残り少しだし、早く終わらせて行くとしよう」

 

サラ教官を疑いながらも、残りの課題を終わらせるためにレト達は再び帝都の中に入って行き……

 

(……いい加減、腹を括って向き合わないと行けないのかもね……)

 

レトは胸に手を当てながらある決意を秘めた。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

夕方ーー

 

残りの課題を終わらせ、導力トラムで5分前くらいでサンクト地区に到着した。

 

トラムを待っていた女学院の制服を着た生徒の視線を背中に受けながらもトラムを降りた。

 

「何度かここを通っているけど、こうして見るとトールズと同じくらいの歴史を感じるわね」

 

「創立は同じくらいと聞いています」

 

「さて、正門前で待てばいいのだな?」

 

「少し遅れているし、リィン達ももういるみたいだから早く行こうか」

 

「あの2人を思えば、少し会うのが憂鬱だがな」

 

ユーシスがラウラとフィーのすれ違いに溜息をつきながらも女学院前の坂を登り、正門前に向かうと……

 

「あ、もう来てたのね」

 

レトの言う通りリィン達は先に正門前で待っており、どうやら待つ間雑談をしていたようだ。

 

「ああ、そっちも来たのか」

 

「ふふっ、お疲れ様です」

 

「早いな、そっちは」

 

「うん、ちょうどいい所で課題の方にケリを付けてね」

 

「………………?」

 

ふと、レトはラウラとフィーを見た。 2人が横に並んで立ち、その間の距離が前回より妙に近付いており、あのギスギスした空気も感じられなかった。

 

そして何時ものユーシスとマキアスのやり取りが繰り広げられ、それを見てラウラとフィーが交わした言葉が決定的だった。

 

「あら、あなた達……」

 

「……ひょっとして?」

 

「はは……流石に女子は鋭いな」

 

「コホン……うん。 その、なんだ……そなた達にも心配かけたな」

 

「もう心配無用」

 

「良かったね、ラウラ、フィー」

 

「にゃー」

 

ルーシェも仲良くなった事に喜んだのか、レトの肩から飛んでフィーに飛び込み、腕の中に収まった。

 

「あはは、ルーシェも喜んでいるみたい」

 

「……フワフワ、すっごいフワフワしてる」

 

「フフ、そなたにも心配をかけたな」

 

あまり表情を見せないフィーもルーシェの前で顔を綻ばせ、ラウラもルーシェの頭を撫でる。

 

(また連れて来たんだ?)

 

(ルーシェは賢いとはいえ、宿泊先のギルドに置いて行けなかったからね)

 

(……そういえば、結局レトはどこの街区に住んでいるんだ?)

 

(! え、え〜っと……)

 

リィンとエリオットと小声で会話していると……午後の5時を告げる鐘の音が聞こえてきた。

 

「ヘイムダルの鐘か……」

 

「……荘厳な響きだな」

 

「これが5時の鐘だね」

 

「ああ、そろそろ約束の時間だけど」

 

「ーー兄様……?」

 

と、その時……背後の正門が開かれ、リィンを呼ぶ声がすると……そこには正門を開いたエリゼがいた。

 

「エリゼ、どうして……!」

 

「いや、ここに通っているんだから当然でしょう」

 

「え、ええ……VII組の皆さんもお揃いみたいですけど……」

 

「ふふ、1週間ぶりかしら」

 

「えへへ……ちょっと事情があるんだけど」

 

「……ちょっと待ってください。 兄様達、ひょっとして……5時過ぎにいらっしゃるという10名様のお客様ーーでしょうか?」

 

「ああ、確かにVII組全員でちょうど10名になるけど……」

 

ふと、エリゼは何かに気付き、恐る恐るリィンに質問し。 リィンはそれに答え……途中で話の流れに気付き驚いた。

 

(……やっぱり……)

 

「あの、それでは……私達に用事があるというのはエリゼさんなのでしょうか?」

 

「いえ……わたくしの知り合いです」

 

エリゼは少し溜息をつき、リィン達から顔を背けてブツブツと何か不満を吐き出した。 リィンは心配して声をかけ、少ししてエリゼを姿勢を戻し、咳払いをして表情を引き締めた。

 

「失礼しました。 トールズ士官学院・VII組の皆様。 ようこそ、聖アストライア女学院へ。 それでは案内させていただきます」

 

エリゼはスカートの両側の裾を掴み、軽く持ち上げて礼をし。 リィン達を女の園に招き入れると先導し、その後をついて行く。

 

だが……ここは女学院。 女子はともかく男子が足を踏み入れれば一瞬で注目の的になる。

 

(……ラウラ、人気だね?)

 

(ふむ……少しこそばゆいな)

 

「ーーあの橙色の髪をした方、ラウラ様とどういったご関係なのかしら?」

 

「もしかして……恋人同士だったりして?」

 

「そんな、まさかっ!?」

 

離れて小声で会話する2人の様子を見て、女学生の生徒は声を抑える事なく会話する。 それを聞いたラウラは少し気持ちが高揚するが……

 

「でも……暖かい見た目とは裏腹に冷たい雰囲気ですわね」

 

「ええ、それになんだが隠しきれない気品が滲み出ているようで……」

 

(ふう……やっぱり居心地は良くないかな。 ラウラは気楽でいいよね)

 

「…………………(ムスッ)」

 

(……分かりやすい)

 

「にゃ」

 

レトが話しかけるも、ラウラはムスッとした表情をしてレトから顔を背ける。 レトはどうしたと疑問に思い、前にいたフィーはルーシェを撫でながら苦笑する。

 

ほぼ全方向から視線を受けながらもエリゼの案内で女学院を進み、薔薇園と書かれた屋内庭園に到着した。

 

「にゃあー」

 

「……あ」

 

「おっと……」

 

エリゼが話している中、フィーの手からルーシェが飛び出し、再びレトの肩に乗るが……レトは気にせずただ薔薇園、その先を見ていた。

 

「ーー姫様。 お客様をお連れしました」

 

『ありがとう。 入っていただいて』

 

「……っ!?」

 

「ま、まさか……」

 

(………やっぱり、か………)

 

(……レト……)

 

庭園内から聞こえてきた少女の声にリィン達が驚く中、レトは独り納得して胸を抑えた。

 

そして中に案内され、リィン達はそこにいた人物を見て納得した。 少女はクスリと笑い、スカートを軽く持ち上げて礼をした。

 

「ようこそ、トールズ士官学院VII組の皆さん。 わたくしは、アルフィン。 アルフィン・ライゼ・アルノールと申します。 どうかよろしくお願いしますね?」

 

少女……アルフィンが自己紹介をする中、リィン達は思いがけない人物が招待してきたと驚き。 アルフィンはVII組全員を見渡し……レトを見つけ、レトに向かって駆け出し……

 

「ーー兄様(あにさま)!!」

 

突進するように抱きしめてきた。 レトは避けずに受け止め、甘んじて受け入れる。

 

「……へ……」

 

「な、何いぃっ!?」

 

「あ、兄様!?」

 

「レトさんが……アルフィン殿下の!?」

 

アルフィンの言葉に、リィン達はレトの正体を予想しながら驚愕する。

 

「グスッ……今までわたくし達を避け続けて、どういう思いで待ち続けたかお分かりですか?」

 

「……分かっている。 けど、仕方ないだろう。 僕はーー」

 

「関係ありません!」

 

「ッ!?」

 

「兄様は、わたくしの兄様は強く、優しく、わたくしだけの最強の兄様なのです! それを罵倒し否定する者がいるのなら……わたくし自らが制裁を加えて差し上げやがりますわ!」

 

「……やれやれ、口調が変になっているよ」

 

レトは涙を浮かべて胸に抱きつくアルフィンの頭を優しく撫でる。

と、そこで一連の流れを見ていたリィン達が声をかける。

 

「えっと……話の流れで分かっちゃったんだけど……」

 

「レトって……まさか……」

 

「うん。 皆の考えている通りだと思うよ」

 

アルフィンを横に寄せ、レトはリィン達と向かい合い……

 

「レト・イルビス改めまして……レミスルト・ライゼ・アルノールです。 騙していて悪いとは思っていたけど……僕の存在は伏せられていてね。 改めてよろしく頼むよ」

 

そう、名乗った。

 


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