7月21日ーー
レト達は今月の実技テストに挑むためグラウンドに集まっていた。
「それじゃ、皆お待ちかねの実技テストの時間よ。 と、その前にリィン、見学しなくてもいいのね?」
「いえ、3日経って体調も完全に戻りました。 逆に調子がいいくらいです」
「それは結構……なら先鋒を務めてもらおうかしら」
3日前の出来事でリィンは体調を崩しており、サラ教官は一応確認し。 その後実技テストの説明を始めた。
「さて、今回はいつもと趣向を変えてタッグを組んで皆には戦ってもらうわ。 リィンの相方は……レト、あなたにお願いするわね」
「はい。 よろしくね、リィン」
「ああ、よろしくお願いな」
レトとリィンは武装とアークスの準備を整えて前に出て、それを確認したサラ教官は頷く。
「対戦相手はラウラとフィー、君達2人が務めなさい」
「承知……!」
「ん」
2人は選ばれた事よりもパートナーが、という部分で驚きつつも前に出た。 アリサ達はサラ教官の考えが見え見えで少し心配した。
前に出た2人はお互いを無言でチラ見し、意識しつつもレト達と向かい合った。
「それでは双方、構え」
サラ教官の指示で4人が武装し構える。 今回、レトは銃剣を選び、ホルスターから抜くのと同時に剣に変形させ肩に担ぐ。 そして両者、戦術リンクを組み……
「ーー始め!」
瞬間、フィーとラウラが一直線に突っ込んでくる。 リィンとレトは事前に示し合わせていた通り……リィンは後退してアークスを駆動させ、レトが2人の前に立ち塞がった。
本来なら2人揃って立ち向かうと思ったのか、ラウラとフィーの勢いが少し落ちその隙に……レトの姿が少しブレ、2人となったレトが一種で距離を詰めた。
「…………!」
「分け身か!」
「ラ・フォルテ!」
2人の振り抜かれた刃を受け止め、鍔迫り合いとなったと同時にリィンから支援を受け取り。 筋力が増してラウラを押し返し、フィーは弾き上げ、もう1人のレトはラウラの元に向かう。
「来るかっ……!」
リンクのおかげでもう1人のレトの接近に気付き、地を踏みしめて踏ん張って押し返した後後退した、が……突然ラウラとフィーの戦術リンクが切れてしまった。
「……ッ!」
「ーーせいやっ!」
フィーは閃光弾を取り出し、ピンを抜いてラウラとレトの間に向かって投げようとしたが……飛来して来た斬撃が閃光弾を打ち上げ、頭上を照らすだけで不発に終わる。
「くっ……はあああっ!!」
地裂斬を放ち、お互いに距離を取らせて不利な状況を脱し仕切り直させようとするも……レトとリィンは戦術リンクを活用して避け、距離を取らせないよう接近する。
フィーも双銃剣を構えて2人の足元に銃弾を撃つも、レトとリィンは左右に分かれて回避する。
「リィン!」
「ああ!」
戦術リンクのおかげで呼び合うだけで次の手を実行する。 ラウラとフィーは警戒するが……それは背後からやってきた。
「はっ!」
「うわ……!?」
「なっ……!?」
乱戦から消えていた分け身のレトが後ろからフィーを右手首を掴んで捻り、足を浮かせてラウラに向かって投げた。
とっさにラウラはフィーを受け止めるが、体勢を崩ししまい、転倒してしまった。 そして、2人を取り囲むようにレト達とリィンが立っていた。
「そこまで! 勝者ーーリィンチーム!」
そこでサラ教官の宣言によって勝敗が決した。 レトは分け身を解き、一息ついた。
「ふふ、君達もなかなかやるようになったじゃない」
「ありがとうございます」
「まあ、それほどでも」
「ラウラとフィーは……ま、言わなくても判ってるか」
「………………はい」
「……………(コクン)」
お互いを責めることはないが、2人共目に見えて気落ちしている。 だがそのまま考え込む訳にもいかず、次のテストをするため武器をしまいすぐに場所を空けた。
「リィン、レト、お疲れさま」
「ありがとう。 でも……あの2人もそろそろ何とかしてあげたいかな」
「ああ、どうやらお互い嫌っているわけじゃなさそうだ。 きっかけさえあればと思うんだが……」
「うーん……確かに僕とラウラもとあるきっかけで仲良くなれたし……」
レトは腕を組んで何かを思い出しながらうんうんと頷いた。
「……それにしても体調はすっかり良いみたいだね?」
「ああ、完全に本調子だ。 あんまり引き摺ったら妹が気に病みそうだしな」
2日前……あの旧校舎から翌日、リィン達がエリゼを見送るときに彼女は色々とリィンの身を心配していた。 それだけなら良かったのだが、今回の件でサラ教官が旧校舎の探索を中止すると言い出した。
だが、リィン達VII組の強い反対を受け、今はサラ教官が何とかすると打診していた。
「うーん、でもリィンってかなりシスコンだったんだね。 エリゼちゃんの方はブラコン以上って感じだったけど」
「うーん、そうか? 別に甘えてくるわけでもないし、俺に対してキツイ所もあるし。 まあ、仲は悪くないと思うけど」
(……うわぁ、自覚ないんだ)
「でもいいよねぇ、エリゼちゃんが妹で。 僕の妹なんか会う度にからかってくるし、研究に没頭して放っておいていると脳天に分厚い本を落としてくるし」
「そ、それは……」
(うわぁ、こっちも自覚がない)
ラウラとフィーどうにかしようと話していたのにいつの間にかエリゼの話に変わっており……その間にも実技テストは進み、全員が終わった所でサラ教官が手を叩いた。
「ーー実技テストは以上! それじゃあ、今週末に行ってもらう実習地を発表するわよ」
「フン……来たか」
「むむっ、今月は……」
実習地先がどこになるのか想像する中、サラ教官から実習先と班分けが書かれた紙を受け取り、目を落としてその内容に目を通した。
【7月特別実習】
A班:リィン、ラウラ、フィー、マキアス、エリオット
(実習地:帝都ヘイムダル)
B班:レト、アリサ、エマ、ユーシス、ガイウス
(実習地:帝都ヘイムダル)
(この時期に帝都かぁ……)
帝都は獅子戦役の関係で地方より夏至祭が1ヶ月遅れて開催される。 レトはこの前の実習でオルディスの夏至祭を見ていたため、これで2度目の夏至祭となる。
だが、A班は実習先よりも班の構成に目が行っていた。
「班の構成はともかく、まさか帝都が実習先とは……」
「僕とマキアス、レトにとってはホームグラウンドではあるよね。 でもそっか……夏至祭の時に帝都にいられるんだ」
「そういえば、レト達はオルディスの夏至祭をもう見たのよね?」
「宿に泊まる前に少し回ったけくらいだけどね。 まあ、それよりも……」
レトは隣を向き、目を閉じて考え込んでいるリィンを見た。 恐らくレトと同じ事を思っているのだろう。
「ーーサラ教官」
「何かしら、リィン君?」
「君付けはやめてください。 実習先と班分けには別に不満とかはないんですが……先々月の班分けといい、なんかダシに使われてませんか?」
「そういえば……」
「先月の班分けから僕とリィンだけが入れ替わるパターンだね」
問題が起きた次の実習には必ずこのようなパターンとなっている。 その結果、リィンが間をとりもつ事でマキアスとユーシスの関係は緩和されたが……恐らくサラ教官の意図はそれと同じだろう。
「~~~♪~~~……」
リィンの疑問に、サラ教官は誤魔化すように頭に手を組んで明後日の方向見ながら口笛を吹いた。 全員が呆れ顔になるが、リィン問答無用に問い詰める。
「ーー口笛吹いて誤魔化さないでください」
今回はちょっと短めです。 まあ、本番は次の実習からですから。