英雄伝説 時幻の軌跡   作:にこにこみ

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25話 火と緋

手に輝く糸を持ちながら神殿を進むホクホク顔のレト。 その後を乱れた服と髪を整えている少しどんより気味のラウラと、無表情のフィー、苦笑い気味のエリオットと呆れ顔のマキアスがついて行っていた。

 

「いや〜、思わぬ掘り出し物があったね〜♪」

 

「う、嬉しそうだね。 それでその糸はどうするの?」

 

「もちろん、仕立て屋に渡して服にでもするよ。 織物はパルムが1番」

 

「ふう……それよりレト。 我らは今この神殿の最奥に向かっているのだな?」

 

乱れた服装を整え終わったラウラがレトに質問し、レトは糸をしまいながら神殿の通路の先を見た。

 

「うん。 盗賊達に聞きそびれたけど、恐らくここにある結界がいじられたせいで火山が活動を開始し、地震が起きたんだと思う」

 

「……結界? なんの結界なの?」

 

「バルフレイム宮の最下層にある……って、これ言っちゃダメだっけ……」

 

フィーの質問にレトは答えたが、口がすべったようで思わず口元を手で押さえた。

 

「?」

 

「とにかく、最奥に行かない限り解決しないって事」

 

「……なんだかはぐらかされた気もするけど……一応分かった」

 

「………………」

 

多少説明をぼかしながらもレト達は罠や魔獣に注意しながら先に進み、しばらくして最奥に続く階段を登った。 登り切ると、そこは……

 

「うわぁ……!」

 

「こ、これは……」

 

開けた空間の半分の地面が溶岩で埋まっており、溶岩の中にY字型の石の台座があり、その台座の上には赤い逆三角形型の宝石が浮いていた。

 

だがその赤い宝石の輝きは弱々しく点滅していた。

 

「火の結界が……あの盗賊、宝石欲しさに無暗に手を出して……」

 

「……どうなっているの?」

 

「さっき話した通り、結界の要が異常をきたしている。 これをどうにかしない限りは地震は治らないし……最悪海底火山が噴火して僕達もお陀仏になる事も……」

 

「物騒な事は言わないでくれ!」

 

「それでレト。 どうにかなるのか?」

 

「うん。 ーーこういうのは専門外」

 

キッパリと、レトは腕を組みながら悩む事なくアッサリと匙を投げた。

 

「おい!! ここまで来ておいてそれはないだろう!!」

 

「だ、だったらどうするの!? このままだと……」

 

「大丈夫大丈夫。 こういう時に()()()が来るから」

 

「……あの人」

 

「ね?」

 

「…………ーーやれやれ。 地脈が騒がしいと思って来てみれば……」

 

エリオット達が首を傾げる中、レトが入り口に向かって声をかけると……地面に着きそうな程長い髪をした小柄な少女……みたいな見た目の女性、ローゼリアが出てきた。

 

「お主は行く先々でとらぶるを起こしおって。 本当に、誰に似たのやら」

 

「ヤッホー、ローゼリアの婆様。 グットタイミング」

 

「何がぐっとたいみんぐじゃ馬鹿者」

 

ローゼリアは腰に手を回し、そこから1本の装飾が施された杖を取り出した。

 

「しばし待て」

 

それだけを言うと、ローゼリアは杖を構え……足元に赤い幾何学的な文字で構成された陣が現れた。

 

「え、え〜っと……なんでローゼリアさんがここに……?」

 

「な、何が何だかサッパリなんだが……」

 

「……レト、あの人が前の実習で会ったって言う?」

 

「うん。 こんな状況になってしまったからもしかしたら……って思ってたけど、予想通り来てたみたいだね」

 

「危機的状況に都合よく現れる頼れる方だが……あいも変わらず神出鬼没なお方だ」

 

そうこうしている間にローゼリアは終わったのか杖を下ろした。 すると……ゆっくりと、宝石を残して台座は沈んでいった。

 

「………………?」

 

「……あの、ローゼリアの婆様……沈んでますけど……」

 

「うむ。 杖も眷属の手助けもない状態で、アレを直すのは妾でも手間でな。 一からやり直す事にした」

 

「一から、と言うと……」

 

「最初っから……最後の試練からじゃ」

 

溶岩が宝石を包み込み、溶岩がさらにせり上がって天井の高さまで登り……次第に冷えていき、岩石の体を持つ1つ目の巨人が形作られていく。

 

「な、なななななっ!?」

 

「ど、どうなってるの!?」

 

「レイブドス……また対面する事になるとはな」

 

「次に海底の噴火が起きるのはおおよそ20分……それまでに倒すんじゃぞ」

 

ローゼリアからタイムリミットを伝えられ、レト達は巨人を見上げながらそれぞれの得物を取り出し構えた。

 

「ーー状況開始……VII組B班! これより巨人を撃破し、結界を再起動させる。 戦術リンクをフルに使い、20分で決めるよ!」

 

「承知!」

 

「ああっ!」

 

「ヤー」

 

「が、頑張らなくちゃ……!」

 

レトが指示を出し、戦術リンクを組む中……レイブドスは大きく右腕を振りかざし……勢いよく振り下ろしてきた。

 

ラウラ達は腕を振りかぶった時点で回避行動に移っていたが……レトは槍を構えて受け止める気だった。 そして腕がレトに向かって振り下ろされ……

 

「ほっ……!」

 

レトは槍が腕に触れた瞬間力を抜いて横に受け流し、腕はレトの隣に振り下ろされた。

 

「でりゃっ!!」

 

「えいっ!」

 

手の中で槍を回して構え直し、高速の突きの連打を振り下ろされた腕に浴びせ。 エリオットがレイブドスの顔面に泡を飛ばして目眩しをした。

 

「はあああっ!!」

 

その隙にラウラが腕を伝ってレイブドスを駆け上がり、肩の上で飛び上がって大剣を振るい……頭の頂点の外殻を砕いた。 砕けた外殻の中からは質の違う体表が現れ、他の岩石より柔らかそうだった。

 

「あれが奴の弱点だ!」

 

「あそこに攻撃を集中するよ!」

 

「よし!」

 

だが、レイブドスもただではやられてはくれず。 再び腕が振り下ろされだが……

 

「アダマスシールド!!」

 

その前に地のアーツが発動し、それと同時に拳が振り下ろされたが……拳はマキアスの眼前で停止し、そのまま弾かれレイブドスは体勢を崩した。

 

「アークス駆動……」

 

「よし……このまま……!」

 

「…………! 来るよ」

 

順調に事が運んでいた時、レイブドスは叫びながら両手を組んで頭上に掲げ……轟音を立てながら地面に振り落とした。

 

レト達は難なく回避したが、地面が揺れて足を取られ、さらに天井が崩落し落石が襲いかかった。

 

「うわあぁっ!」

 

「皆、無事か!?」

 

マキアスはエリオットに近寄ってアダマスシールドで落石から凌ぎ、残りのレト達は走って回避した。

 

しかし、フィーの前にレイブドスの右手が現れ……その巨大な手がフィーを掴み、顔の高さまで持ち上げた。

 

「フィー!!」

 

「……油断した」

 

フィーはとっさに腕を上げて腕は自由に動かせるが、自力で脱出できる方法がなく。 抵抗してレイブドスの1つ目に銃弾を撃つが……その前に頭の上までさらに上げられてしまう。 このままではフィーは地面に叩きつけられてしまう。

 

「くっ……どうしたら……」

 

「…………! そうだ!」

 

レトは何か閃くと、腰のポーチから鉤爪ロープを取り出した。

 

「やっ!」

 

頭上で鉤爪を振り回して力を溜め……レイブドスから見て右側にある柱に投げて引っ掛け。 さらにレトがそのまま反対側に移動して固定し、空間の間にロープを張った。

 

次の瞬間、レイブドスはボールを投げるようにフィーを地面に投げた。

 

「フィー! ロープを使って!」

 

「ッ……!!」

 

投げられたフィーは何とか体勢を整え、張られていたロープを踏みつけた。 ロープはフィーの落下速度を落としながら勢いよく伸び、地面ギリギリで完全に停止した。

 

そして、ロープは弾性を持っているため……ロープが元に戻る勢いでフィーは飛び上がり、レイブドスを飛び越えた。

 

フィーは双銃剣を逆手にし、落下しながら脳天に突き立て……

 

「喰らえ」

 

引き金を弾き、レイブドスは叫びを上げる。

 

「ふうぅ……せいっ!!」

 

そしてレイブドスの視線がフィーに向かい上を向いている隙にラウラが懐に入り、無防備な胴体を薙ぎ払った。

 

上と下の同時攻撃でレイブドスは体勢を崩し、上半身がレト達のいる足場に倒れた。

 

「おおおおおっ!!」

 

フィーが頭から離れると同時にマキアスが脳天にショットガンを乱射し、無数の小さな亀裂を作り……

 

「スパークアロー!」

 

エリオットが放った風のアーツが風穴を作り……

 

「解け、童子切!!」

 

レトの突進の如き突きが風穴を突き刺し、ヒビが大きく走り額にまで及び……レイブドスは右手を天に上げながら断末魔をあげ、その身体は徐々に黒く染まっていき……消滅して霧散し、中から赤い逆三角形の宝石が出てきた。

 

すると、溶岩の中からあの台座がせり出てきた。 よく見ると台座の下には歯車のような機構があり、それが回転すると左右から突起が出て、そして宝石が台座に収まり……宝石は目が眩む程の輝きを放った。

 

「結界が再び張られた……これで地震も収まるはずだよ」

 

「よ、良かった〜……」

 

「……これにて一件落着」

 

「何とかなったか……」

 

(ーーふむ……帝都にあるアレに変わった様子はなさそうじゃな)

 

レト達が息を吐きながら勝利に浸る中、ローゼリアはレト達のいる反対側……帝都方面を見ていた。

 

(何の因果じゃろうな。 あやつの息子がアレの起動者になるとは……)

 

「ーー婆様? どうかしましたか?」

 

「いや、なんでもない」

 

「?」

 

「さて……ひと段落した事じゃ。 お主らを地上に帰すとするかの」

 

「え……」

 

ローゼリアはレト達に向かって杖を振るうと……いきなりレト達は光に包まれ始めた。

 

「……これって……」

 

「じゃあの」

 

「うわあっ!?」

 

突然の事に驚く中、ローゼリアはレト達に手を振り。 そしてレト達は地上に転移されたが……

 

「え……」

 

「な……」

 

「……ん?」

 

「あれ……」

 

「はあっ!?」

 

出てきたのは島のすぐ側、だが海の上……驚く間も無くレト達は海に落下した。その際、レトはほぼ反射的に本や糸を島の浜辺に投げた。

 

そして海に落下し、近くであった事もありすぐに島の浜辺に上陸した。

 

「ケホッケホッ! 海水をいっぱい飲んじゃったよ〜……」

 

「全く。 これじゃあ有りがた迷惑だ」

 

「……疲れた」

 

「お腹も空いたし……食べ物を探しながら小屋に帰ろう……」

 

「ーーおおーい!!」

 

と、そこにレト達をこの島に連れて来た男性がやってきた。

 

「ふう、地震があったから心配で来てみたが……服を着たまま海水浴できる元気はあるようだな」

 

「……そんなんじゃないから」

 

「地震は一回だけでしたが、オルディスには津波などはありませんでしたか?」

 

「ちょっと海が荒れただけで被害はほぼ無いに等しい。 せいぜい皿が何枚も割れたくらいだ。 明日にはこの街にある店の皿は売り切れになるだろうな」

 

「それだけの被害で済んだのが不幸中の幸いだな……」

 

「それはそうと、小屋の前に男2人がいびきかいて寝ていたんだが……何か知ってるか? 何しても全く起きなくてな」

 

どうやらローゼリアはあの男達も転移させていたようだった。

 

それからレト達は神殿の件を隠しながら男達がこの島に盗掘に来たと説明した。 あくまで地震は自然現象と言う事にし、男性は疑う事なく納得した。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

日も暮れ、島は再び静寂に包まれているが……小屋のある付近はいつも以上に騒がしかった。

 

地震や盗掘などこの島で起きた事もあり、島には地震の調査隊やオルディスの領邦軍などが上陸していた。

 

それに加えて小屋の導力機器を修理をする技術者も訪れる事でレト達のサバイバル……そして特別実習も終わり、今はちょっとしたキャンプ気分で小屋の前で焚き火を囲んで座っていた。

 

「今回の実習も色々あったね」

 

「毎度毎度こんな目にあっては身が持たないがな」

 

「……A班ももしかしたらトラブルが起きたかもね」

 

「ノルド高原だったよね? あそこは帝国と共和国が領土権を主張する係争地だからね。 あり得るかも……」

 

「滅多な事を言うな。 大体のトラブルはいつもお前が運んでくるのだ、少しは自粛しろ」

 

ジト目で睨んでくるラウラにレトは笑いながら流す。 そんな雑談を交えながらレトは古文書を枕に地面に寝そべり、満点の星空を見上げた。

 

(……灰と銀の実、焔の聖獣によって暗黒を超える世へ……)

 

頭の後ろにある古文書の一節を頭に思い浮かべ、レトは胸に手を当てる。

 

(ついこの間解読出来た一節だけど……焔の聖獣、まさかね……)

 

「ーーあの巨人の腕が振り下ろされた時はもうダメかと思ったよ」

 

「ああ、僕は特にラウラが蜘蛛の巣に捕まった時は肝を冷やした」

 

「……腕とか足とか、顔とかにも糸が絡まってたし、ぶっちゃけエロかったね」

 

「ええい、それを言うでない!!」

 

ラウラは大剣を抜き出しそうな勢いで顔を真っ赤にする。 それから調査隊はこのまま島に残る事になり、領邦軍は盗賊を連れて島を出て……この島の事態は収束した。

 

レト達も地震が起きたことから島を出る事になり、オルディスで一泊してからトリスタに向かう事となった。

 

「はあ〜……これで終わりだと良かったんだけど……帰りも列車に揺られるからね〜……」

 

「……あんまり疲れは取れないかも。 潜伏任務とかで慣れてるからいいけど」

 

「………………」

 

「またか……」

 

再びラウラとフィーによるちょっとした確執が起きながらも身支度を済ませてからボートに乗り込み、レト達はブリオニア島を後にした。

 

そしてレト達は出航してすぐに気付いた。 オルディス方面の灯りがかなり多い事に。 近付くにつれて灯りが強くなり……ボートは無数の篝火の中を通っていた。

 

「うわぁ……!」

 

「これがオルディスの……」

 

「今日は夏至祭の灯籠流しで時間はかかるが……この篝火の中を船で通り抜ける事は滅多にないから楽しんでくれ」

 

「はい!」

 

大量の篝火の中を通り抜ける様は幻想的であり……レト達を乗せた船は篝火の合間を縫ってゆっくりとオルディスに向かった。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

オルディスでは夜でありながらも夏至祭による祭の喧騒があった。 街の人々が夏至祭を楽しむ中……オルディス湾のガーデンテーブルに1人の少女がいた。

 

(ーーあら? ふふっ……所用でしたが、帰郷してみるものですね)

 

少女は紅茶を楽しみながらブリオニア島からボートでオルディスに到着したレト達を蠱惑的な目で見ていた。

 

(トールズ士官学院。 それにあの方は……ふふっ、先輩方に良い土産話が出来ましたね)

 

少女は目線を移し、海に浮かぶ篝火を見ながら夜の暗がりの中、口元を手で軽く当てながら小さく微笑んだ。

 


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