英雄伝説 時幻の軌跡   作:にこにこみ

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2話 特別オリエンテーリング

 

「ほっ……と……」

 

「……ふぅ」

 

トールズ士官学院、入学式の日からサラ教官に特別オリエンテーリングなるものに強制的に参加させられる事になり。 落とし穴に嵌められ……他の7人に遅れ、レトとラウラ、銀髪の少女が地下に降り立った。

 

「ラウラ、大丈夫?」

 

「う、うん。 私は大したことはないが……その……離してはもらえぬか?」

 

「え……」

 

レトは落下の途中でラウラを引き寄せ、横抱きにして着地していた。 その際、ラウラを抱えるレトの手は……ラウラの胸を鷲掴みにしていた。

 

「うわっ!? ご、ごめん……!」

 

「き、気にするでな、ない……」

 

「動揺している?」

 

「してない!」

 

銀髪の少女の横槍に身体を抱きしめながら否定する。 そして顔を赤らめながら咳払いし……だが、と言い続け。 ラウラは隣にいる銀髪の少女に視線を向ける。 その視線に気付いた少女はあからさまに反対方向を向いた。

 

「気にしてないよ。 ああなっちゃ邪魔なのも分かるし」

 

「しかし……」

 

「僕が気にしてないんだからそれでいいじゃないか。 君もその方がいいよね?」

 

「………ん。 ありがと」

 

腰を曲げて少女と視線を合わせ聞いて見ると、少女は軽く頷いてお礼を言った。

 

パン!

 

不意に、乾いた音が鳴り響いた。 どうやら金髪の女子が黒髪の男子に頰にビンタしたようだった。

 

「何かあったの?」

 

「それはね……」

 

「言 わ な く て い い」

 

視線を合わせたままだったのでそのまま質問しようとしたところ……ラウラが怒気迫る勢いでそれ以上言わせぬように遮った。

 

レトは疑問に思いながらも姿勢を戻し、辺りを見回す。 どうやら広間のようで、周りに様々な大きさの包みと、その前に共通して小さな小箱があった。

 

「へえ、結構夜目が効くんだ?」

 

「まあね。 そう言う君こそ」

 

「慣れてるから」

 

「同じく」

 

『気が合うね』

 

言葉が重なり。 何を思ったのか2人は言い合わせもせず、隣に並んだ状態で拳を合わせた時……不意にその場から通信音が鳴り響いた。 どうやら全員のポケットから聞こえてくるようだ。

 

「戦術オーブメントから……?」

 

「携帯用の導力器ではなかったのだな」

 

『ーーそれは特注の戦術オーブメントよ』

 

導力器からサラの声が流れる。 通信機能付きの戦術オーブメント……どうやら思っていたよりかなり最新式のようだ。

 

「ま、まさかこれって……!」

 

『ええ、エプスタイン財団とラインフォルト社が共同で開発した次世代型戦術オーブメントの1つ。 第五世代戦術オーブメント、《ARCUS(アークス)》よ』

 

「アークス……」

 

「戦術オーブメント……魔法(アーツ)が使えるという特別な導力器のことですね」

 

『そう。 戦術オーブメントは、結晶回路(クオーツ)をセットすることで魔法が使えるようになるわ。 というわけで、各自受け取りなさい』

 

言い終わると同時に部屋の照明に明かりがついた。 周囲には先程見た通り、それぞれが持ってきた包みやケース、その前に小さな箱と共に並べておいてあった。

 

『君たちから預かっていた武具と特別なクオーツを用意したわ。 さ、受け取りなさい』

 

しばしの無言の後、それぞれの場所へ全員が向かっていった。

 

「僕のは……あれか」

 

「私はその隣みたいだな」

 

レトとラウラも自分の包みを目印に向かい、箱の前に先に包みを確認をする。 何も変わってない事を確認すると、続いて小箱を開ける。 中には通常のクオーツより大きく、黒い球体に猫の絵が描かれたマスタークオーツ……カッツェが入っていた。

 

『それは《マスタークオーツ》よ。 アークスの中心に嵌めればアーツが使えるようになるわ』

 

「ふむ……よくは分からぬが、使う機会は早々ないだろう」

 

「補助か回復くらいは使うんじゃないのかな?」

 

マスタークオーツを取りだし、アークスに嵌めると……アークスと自身の胸が一瞬淡い青色の光を放った。 サラ教官が言うにはアークスと装備者が共鳴・同調した証拠らしい。 その他にも面白い機能が隠されているらしいが、現時点では教えてくれる気はなさそうだ。

 

『さ、準備はいいわね? さっそく始めるとしますか』

 

サラ教官が操作しているのか、タイミングよく奥の扉が開いた。

 

(! あの様式は……)

 

『その先のエリアはダンジョン区画になってるわ。 割と広めで、入り組んでいるから少し迷うかもしれないけど……無事、終点まで辿り着ければ旧校舎1階に戻ってこれるわ。 ま、ちょっとした魔獣なんかも徘徊しているんだけどね』

 

それはそれで問題のような気もするが……士官学院に入った以上、魔獣との戦闘は避けては通れない。 四の五の言っている暇はないようだ。

 

『ーーそれではこれより、士官学院・特科クラス《Ⅶ組》の特別オリエンテーリングを開始する。 各自、ダンジョン区画を抜けて旧校舎一階まで戻ってくること。 文句があったらその後に受け付けてあげるわ。 何だったらご褒美にホッペにチューしてあげるわよ♪』

 

どこまで本気なのか最後に冗談を言い、通信が切れた。

 

(確か……この辺りに……)

 

他の面々はどうするべきか悩んでいる中、レトは腰から本を取り出し、ページをめくって全く別の事を考えていた。

 

「ふん……」

 

真っ先に動いたのはユーシスだった。 他の者を気にせずに真っ直ぐにダンジョン区画に進んでいく彼をマキアスが引き留めた。

 

「ま、待ちたまえ!! 1人で勝手に行くつもりか?」

 

「ーー馴れ合うつもりはない」

 

そこから始まる2人の口論……どう止めるか周りが悩んでいる間に、怒りのあまり意地のようなものを見せてマキアスが先にダンジョン区画に入っていった。 そのあとにユーシスが続いた。

 

「……えっと……」

 

「ど、どうしましょう……?」

 

「ーーとにかく、我々も動くしかあるまい」

 

(あった! 扉の形は類似しているけど。 壁の模様は……該当するものはないけど十中八九……)

 

残りのメンバーが話し合っている間、レトは以前1人で考え込むと、いつの間にか話は進んでおり。 ラウラが男女のグループに別れさせ、銀髪の少女が無言で先に進んでいた。

 

「ーーまあいい。 後で声を掛けておくか」

 

「あ……じゃあ、僕も先に行くね」

 

「え……!」

 

「また後で!」

 

止める暇もなく、レトは猛スピードで走っていってしまった。

 

「全く、また悪い癖が出てしまったか……」

 

「悪い癖?」

 

「時期に分かるだろう」

 

ラウラは少し呆れながらも、仕方なしと思いながら微笑んでいた。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

「……ふむふむ、やっぱりそうなのか……」

 

旧校舎地下1階のダンジョン区間、その一角の隅に……壁と向かい合って忙しなく手帳にメモを取っている橙髪の青年……レトがいた。

 

「(パシャ!) ん〜……これ以上の収穫は得られなさそうだなぁー」

 

導力カメラで壁の模様を撮り、少しガッカリしながらもメモを取り続けた。 と、そこに黒髪の青年を先頭に、先ほどの長身と赤毛の2人とマキアス・レーグニッツがやって来た。

 

「あ。 あの人は……」

 

「良かった、君も無事だったんだな」

 

「……なら大陸各地に存在する……いや、リベールの様式とは違うなぁ……(ブツブツ)」

 

「あ、あのちょっと……」

 

「……ここじゃあ決められないなぁ。 1度資料と比較して検証を……(ブツブツ)」

 

「お、おい君……!」

 

「!」

 

マキアスが自分たちの存在を気付かせようとレトの肩に手を置こうとした時……突然レトは右腕で横に出した。

 

次の瞬間、曲がり角から魔獣飛び猫が出て来た。 するとレトの右腕から何かが飛び出し、風を切る音を立てながら飛び猫を貫いた。

 

「飛び猫!?」

 

「早い!」

 

(武器が、見えなかった……!?)

 

彼らは突然の飛び猫の登場、そして退場に驚くが。 それよりも武器も見せずに倒すレトの技量に驚愕していた。 レトは一息吐き膝に付いた砂を払って立ち上がると……

 

「ふう……って、うわ!? いつの間にいたの!?」

 

「気付いてなかったのか!?」

 

彼らがいることに今気がつき飛び上がるように驚いた。 両者驚きを露わにするが、黒髪の青年が苦笑いしながら話を切り出した。

 

「まあとにかく、戦闘になる前に倒してくれてありがとう」

 

「大したことはしてないよ。 こういう場所にいると敵意に敏感になるだけだから」

 

「なるほど、だから僕達にはまるで気がつかなかったんだな」

 

「そうゆうこと」

 

レトは手帳を懐にしまい、改めて彼らに向き直った。

 

「ーー自己紹介がまだだったね。 初めまして、僕はレト・イルビス。 どうかよろしく」

 

「リィン・シュバルツァー。 こちらこそよろしく」

 

「エリオット・クレイグだよ」

 

「ガイウス・ウォーゼル。 先ほどは見事な手並みだった」

 

「ありがとう」

 

褒められて照れ臭いのか、微笑しながらレトは頰をかいた。 と、そこで後方にいたマキアスに目がいった。

 

「どうやら頭は冷えたみたいだね?」

 

「あ、ああ……迷惑をかけて済まなかった」

 

負い目を感じながマキアスは謝罪した。 その後少し目を閉じて考え込み……重い口を開いた。

 

「つかぬことを聞くが……君はその、貴族か?」

 

「……うーん、君の事情は分からないから深くは聞かないけど、相当根強いみたいだね」

 

「す、済まないとは思っている」

 

「いいよ、気にしてない。 僕が貴族か否かだね……僕は貴族ではないよ。 結構自由奔放としてたし」

 

「そうか……」

 

それで納得したのか、マキアスは緊張が解けたように息を吐いた。 と、そこでリィンがレトの持っていた導力カメラに目がいった。

 

「そういえば写真を撮った時にも気になっていたけど……それはもしかして最新式の導力カメラなのか?」

 

「うん? ああ、そうだよ。 これはエプスタインの最新モデル。 導力ネットワークとリンクすることが可能でね。 感光クオーツや暗室が必要ないのとか、撮った写真をその場で確認できるとか、旧式より色々便利になっているんだよ」

 

証明するように失礼と言いながら素早くカメラを構え、4人を撮影した。 すぐにレトはカメラを操作し、今しがた取られた写真を彼らに見せる。 4人は驚きながら感心するような反応を見せる。

 

「すごいねぇ……」

 

「見事だ」

 

「そうだな……そうだ、これからどうする?」

 

「せっかくだし、このまま一緒に同行しないか?」

 

「うーん、ありがたいけど、まだまだ調べるものがあるから遠慮しておくよ」

 

「調べるもの?」

 

エリオットが質問すると……レトの表情は一転し、目を輝かせながら両手を広げた。

 

「そう! この地下建造物を!! 一件すればただの地下だけど壁や床に使われている石材は通常とは異なっていて帝国各地に点在する遺跡と酷似しているんだ! いやー、帝都近郊にこんな場所があったなんてねー。 灯台下暗しってやつだね」

 

「そ、そうか……」

 

そのレトの行動で彼らは気が付いた。 先程ラウラが言っていた悪い癖はこの事だと。

 

「と、いうわけで。 僕の事は心配しなくていいから。 こう見えても強いんだよ?」

 

「……わ、分かった。 でも気を付けてな」

 

「ありがと、リィン」

 

軽く手を上げてお礼を言いながら先へ進んだ。 しばらく変わり映えしない風景にかなりガッカリしていた時……進行方向から戦闘音が聞こえてきた。 レトは急いでその場所に向かうと……

 

「はあっ!」

 

「何よこれ!? 多過ぎよ!」

 

「囲まれてしまいました……!」

 

少し開けた空間の中心にラウラ達のグループが魔獣に囲まれていた。 ラウラ程の実力者が苦戦するような魔獣ではないが……今日初めて組む相手、それに加えて眼鏡と金髪の女子2人は戦い慣れていないように見え、ラウラはそのフォローもして苦戦を強いられていた。

 

「きゃあ!」

 

「エマ! 邪魔だ……!」

 

眼鏡の女子が飛び猫の攻撃に体勢を崩して尻餅をついてしまう。 ラウラが助けに向かおうとするが行く手を他の魔獣が塞ぐ。

 

「危ない!」

 

「ーーはっ!」

 

コインビートルが眼鏡の女子に襲いかかろうとした時……両者の間に影が降りてきた。 するとコインビートルは何かに吹き飛ばされ、壁にぶつかると消滅した。

 

「ラウラ、助太刀するよ!」

 

「レト! 感謝する!」

 

2人はお互いに背中を合わせ、魔獣どもと対面し合う。 それからすぐに決着は付いた。 レトが見えない攻撃で魔獣を減らしつつ、ラウラが攻撃し易い位置に移動させ……ラウラはピンポイントに来た魔獣に全力で剣を振り下ろし一刀両断。 それを数回繰り返して魔獣は全滅、辺りにはセピスが散らばった。

 

「こんなもんかな……大丈夫、ラウラ?」

 

「すまぬ、助かった」

 

「そう、君も大丈夫? 立てる?」

 

「は、はい……ありがとうございます」

 

レトは未だ呆けて地べたに座っている眼鏡の女子に手を貸して立ち上がらせる。

 

「相変わらず見事な闇突きだ。 あれからさらに磨きがかかっている」

 

「ラウラがそう言うなら頑張った甲斐があったよ。 教えを請う師がいないから主観的な評価しか出来なかったし」

 

「やれやれ、武術書の内容を読むだけで強くなれるとは……羨ましい才能だな」

 

「勉強とおんなじだよ。 先生がいないからあっているかどうかも分からないし」

 

「えっと……」

 

「ああ、すまぬ。 話が逸れてしまったな」

 

レトとラウラは楽しそうに会話をするが、その輪に入ってこられない女子2人。 眼鏡の女子が痺れを切らして話しかけてようやく止まり、そのまま自己紹介に入った。

 

「助けていただいてありがとうございます。 私はエマといいます。 エマ・ミルスティン」

 

「大した事はしてないよ。 僕はレト・イルビス。 よろしくね。 それで君は?」

 

「え、ええ……アリサ・Rよ。 よろしくお願いするわ」

 

「うん。 よろしくね、アリサ」

 

伏せ字が気になったが、彼女自身が聞いて欲しくなさそうな雰囲気だったのでレトは深く追求しなかった。

 

「お二方はお知り合いなのですか?」

 

「うん。 ラウラとはここに来る前からの友達なんだ」

 

「…………………」

 

「? ラウラ?」

 

「何でもない」

 

突然、何故か不機嫌になるラウラにレトは首を傾げるだけだった。 その反応にエマは苦笑いし、アリサは顎に手をやって少しニヤついた。

 

「ふう……時にレト。 やはりここは例のアレか?」

 

「そうだよ。 トラップやギミックの類いは今の所見当たらないけど……十中八九地精(グノーム)の手による建造物だね」

 

「!」

 

「そうなると、行き着くのは……」

 

「そこはまだ断定できないね」

 

「あなた達、何を話しているのかしら……?」

 

またもや会話の輪から外れている事にアリサは少し腹を立てながら横槍をいれる。 その時、エマが2人の会話の一部分に過敏に反応したが……誰もそれには気が付かなかった。

 

「レトは考古学者なのだ。 ここのような古き建造物を見ると勝手気儘になってしまう」

 

「探究心を追求すると言ってほしいな」

 

「そなたの探究心は度が過ぎてる」

 

「と、とにかく……レトさんはこの後どうしますか? このまま私達共に行動を?」

 

「うーん、どうしようかなぁ? まだ何か残っている気がするんだよねぇ……」

 

「なら行くといい。 先ほどは遅れを取ったが、今度はそうは行かない」

 

「……うん。 そうするよ。 それじゃあまた後でね」

 

ラウラが問題ないと言うと、レトは納得してしまいさっさと先に進んでしまった。

 

「……彼の扱いに慣れているわね?」

 

「まあ、それなりの付き合いであるからな。 レトに引っ張り回されるのには慣れてしまった」

 

「あ、あはは……」

 

アリサの言葉に対してラウラの答えに、エマは苦笑するしかなかった。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

ラウラ達と別れたレトは壁や床、天井を流し見しながら先へ進んでいた。 明らかに注意力がないように見えるが、魔獣が彼に近付いた瞬間セピスに変えられていた。

 

「あ……石柱だ」

 

レトは床と天井を繋ぐ石柱を見つけ、導力カメラを取り出して2、3枚写真を撮った。

 

「こんなものかな……それで、何かよう?」

 

「……ふぅん。 結構鋭いんだ」

 

導力カメラをしまい。 先ほど撮った石柱に向かって声をかけると……その陰から銀髪の少女が出てきた。

 

「やあ、どうやら無事みたいだね」

 

「ん。 それほどでも」

 

褒めていないと思うが、レトはそれを気にするほどでもなかった。

 

「フィー・クラウゼル。 フィーでいいよ」

 

「レト・イルビス。 僕もレトで構わないよ」

 

「じゃあレト。 お願いがあるんだけど」

 

「うん? 何かな?」

 

「ーー得物、見せてくれる?」

 

次の瞬間、フィーは双剣銃を取り出し、レトに向かって撃ってきた。 レトは突然の出来事にギョッとなるも地面を蹴り上げて銃弾を避けた。

 

「それお願いじゃなくて脅迫じゃない!?」

 

「さっきの戦闘を見てた。 私の目でも追えない速度で放つなんて……興味が湧いてきた」

 

「うわおっ!?」

 

フィーは嬉々として斬りかかってきた。 それを紙一重で避け続けるレト。

 

「隙あり」

 

軽い跳躍でレトの頭上に飛び上がり背後を取り、そのまま斬りかかろうとすると……風切る音が2つ鳴り、双銃剣が弾かれフィーは衝撃で両手を広げるように押し戻された。

 

「っ……後ろ向きでも出来るんだ」

 

「ねえ、ちゃんと見せるからもう辞めにしない?」

 

「やだ」

 

レトの提案をバッサリと切り捨てられ、フィーは考え込み始めた。

 

「前の戦闘とさっき弾かれた距離からして長物……風を切る音、銃剣の傷から刃はある」

 

「おーい」

 

「でも、なんで見えないだろう? 剣を振って見えなくなることはあるけど最初から見えないのはなんで?」

 

(話を聞いてくれない……ラウラがいつも僕に言ってた人の話を聞かないってこんな感じなのかなぁ……? 次からなるべく自重しとこ)

 

遅ればせながらも心の中でレトはラウラに謝罪した。

 

「うん。 やっぱり槍かな?」

 

「ーーはい、その通り! 槍だからもうやめて!」

 

降伏するように取り出したのは……身長を超える程の柄の長さ、けら首のある鏡のような穂、口金と石突きの付け根部分が鮮やかな緑色に着色された和槍だった。

 

「そんな長いのどこに隠し持っていたの?」

 

「この槍はそれなりに伸縮できるのに加えて、正面から見えないように自分の体で隠していたんだよ」

 

「ふぅん?」

 

「ーー何やら騒がしいと来てみれば……何をしているんだ?」

 

納得したのかそれとも理解出来ないのか、フィーが首を捻っていた時……上の吹き抜けとなっている通路にユーシス・アルバレアが立っていた。

 

「確か君はユーシス……でいいんだよね?」

 

「ああ。 お前達2人だけか?」

 

「ん、そだよ。 他の人達とは会ったの?」

 

「今しがたな。 お前達ものんびりしてないで早く出口に向かうことだな」

 

「そうする」

 

ユーシスの言葉にフィーは頷くと……突然壁に向かって走り出して跳躍、壁を蹴ってさらに跳躍してユーシスの元に降り立った。

 

「!」

 

「来たよ」

 

「へえ、やるねぇ。 なら僕も……」

 

対抗意識が出たのか、レトは槍を振り回し。 石突きを前にして走り出した。

 

「はっ!」

 

石突きを地面に突き立て、棒高跳びのように上がり……壁を乗り越えた。

 

「やるね」

 

「フィーこそ」

 

「……やれやれ、とんだクラスに入れられたものだな」

 

ユーシスは驚きを誤魔化すように呆れながら肩をすくめた。

 

「ユーシス・アルバレアだ。 先程はゴタついていたからな。 改めて名乗らせてもらおう」

 

「……フィー・クラウゼル」

 

「レト・イルビス。 どうもよろしく、ユーシス」

 

「……フン」

 

素直じゃないのか、握手をしようと差し出された手をユーシスはソッポを向いた。 それにレトは苦笑し、次に奥へ続く通路を見据える。

 

「さて、せっかくだしこのまま一緒に行く?」

 

「私はそれで構わないよ」

 

「……いいだろう。 付き合ってやる」

 

こうして異色のパーティーが完成。 3人は特に会話もなくダンジョンを進んで行く。

 

「この先に終点の大広間があるよ」

 

「……なんで知ってるの?」

 

「見て来たから」

 

レトの質問にさも当然のように答えるフィー。 しばらくして……終着地点にあたる大広間の方向から、魔獣と思われる咆哮が聞こえてきた。 3人はすぐさまその場に向かうと……他のメンバーが巨大な魔獣と交戦していた。

 

「何だあれは……?」

 

「あ、さっきの石像だ。 なんか動いてる」

 

「ーー古の伝承にある石の守護者(ガーゴイル)……どうやら当たりみたいだね(ボソ)」

 

2人が疑問に思う中、レトがあっさり魔獣の正体を見破った。 その後、小さく聞こえないように言葉が紡がれたが……誤魔化すように槍を取り出して構えた。

 

「ほら、助けに行くよ」

 

「いいだろう。 貴族の義務(ノブリス=オブリージュ)を果たさせてもらう」

 

「まあ、仕方ないか」

 

三者三様、別々の思いを持ちながら3人はそれぞれの武器を握り締め、通路を抜けた。

 

「き、君達は……!」

 

「アークス駆動……」

 

すぐさまユーシスはアークスを駆動し、風属性のアーツ……エアストライクが放たれ、ガーゴイルの胴体に直撃、ガーゴイルを怯ませた。

 

「ひとーつ!」

 

間髪入れず槍を構えたレトが正面に入り込み……横を抜けながら左翼を斬り裂いた。

 

「ふたーつ!」

 

続けて跳躍。 ガーゴイルの頭上を飛び、右翼を斬り裂いた。

 

「ひゅっ……」

 

頭上を飛んで背後を取り、ガーゴイルの足の付け根を斬り裂いた。 それによりガーゴイルは悲鳴の咆哮を上げる。

 

「勝機だ……!」

 

「ああ……!」

 

勝機が見え、それぞれが自身の武器を握り締めた時……この場にいる全員が淡く、優しい青白い光に包まれた。

 

瞬間、マキアス、フィー、アリサ、エマ、エリオットの5人が遠距離から攻撃を放ち、ガーゴイルにダメージを与え圧力をかけると同時に行動を鈍らせ。 続けてユーシスが右前脚、ガイウスが左前脚、レトが後ろの両脚を攻撃して動きを完全に止める。 そしてリィンが走り出し、納刀から放たれた太刀の居合いが胴に一文字を描いた。

 

「今だ……!」

 

「任せるがよい……!」

 

リィンの号令でラウラ以外がガーゴイルから距離を取り……

 

「はあああああっ!!」

 

裂帛の気合いを込め……跳躍と同時に振り上げられた大剣がガーゴイルの首を両断した。 地に落ちる首と、地に倒れふす胴体を前に……レトが導力カメラを構えた。

 

「待って! ちょっと待って! まだ記録に残しないから! まだ消えないで……目線こっちに向けて!!」

 

とんでもない速度でガーゴイルの頭と胴体の周りを駆け回り、カシャカシャと導力カメラのシャッターを押しまくる。

 

「何をしてるのだ……」

 

「落とされた首が目線を向ける訳ないだろ……」

 

「あ、あはは……」

 

ユーシス以外の全員がもう認知しているのか、苦笑しか出なかった。 それから数秒してガーゴイルの色が石像と同色となり……静かに消えていった。

 

「あー、消えちゃった……」

 

「なんでガッカリするんだ」

 

緊張感のないレトに今までの緊迫感がバカらしく思えてしまう。 呆れながらもそれぞれ武器を納め。 広間の中央に輪となって集まった。 レトはホクホク顔で導力カメラを見ていたのでラウラが首根っこ掴んで引き寄せた。

 

「よかった、これで……」

 

「ああ、一安心のようだ」

 

「……あ、これ手ブレしちゃった」

 

「そなたは少し静かにしていろ」

 

「レトはブレてないね」

 

「お、上手いこというね」

 

やはり気が合うレトとフィーの2人に、ラウラは額を抑えて溜息をついた。

 

「そ、それにしても……最後のあれ、何だったのかな?」

 

「そういえば……何かに包まれたような」

 

「ああ、俺も含めた全員が淡い光に包まれていたぞ」

 

「そうなのか……?」

 

最後の攻撃の時、この場にいる全員があの光に包まれた。 その正体が何なのか疑問に思う中……導力カメラをしまったレトが口を開いた。

 

「あの光はアークスと同調した時のと酷似していたね。 そうなると原因はアークスにあると思うよ?」

 

「アークスに?」

 

「ーーその通りよ」

 

疑問を答えるように、唐突に声をかけられた。 1階へ続く階段にサラ教官がいた。 サラ教官は拍手をして彼らを褒め称え、地下に降りて来た。

 

「これにて入学式の特別オリエンテーリングは全て終了なんだけど……」

 

そこで一旦切り、サラ教官は彼らを見渡した。

 

「なによ君たち。 もっと喜んでもいいんじゃない?」

 

「よ、喜べるわけないでしょう!」

 

「はっきり言って、疑問と不信感しか湧いてこないんですけが……」

 

「あら?」

 

全員が不審な目でサラ教官を見る中、VII組発足の理由として彼女から答えられたのはアークスだった。 アークスを手に持って視線を落としながら伝えられたのは戦術リンク……先ほどの現象の答えとその真価、適正と自分達が身分関係なく選ばれた説明した。

 

「で、貴方達が選ばれた理由も気になるだろうけど、簡単に言えば新入生の中で特に高い適性を叩き出したのが君達だった。 それが身分や出身を超えてVII組へ生徒たちが集められた理由よ。 でも、やる気の無い者や気の進まない者に参加させるほどこちらも余裕は無いの。 それに貴方達が本来加入するはずだったクラスよりもハードなカリキュラムになるはずよ。 それを覚悟した上でVII組に参加するかどうか……改めて聞かせてもらいましょうか?」

 

彼らを見定めるかのような真面目な表情を見せるサラ教官。 その問いかけに、全員が答えるのを戸惑う。 しかし数秒後、目を閉じてリィンの目が開かれ、一歩前に踏み出した。

 

「……リィン・シュバルツァー。 参加させてもらいます」

 

最初にリィンが参加の意思を示した。 リィンに続いてラウラ、ガイウス、エマ、エリオット、アリサも参加を決め、サラに決定を委ねようとしたフィーも自分の意思で参加を決めた。 そして、ユーシスとマキアスも衝突しながら参加することを宣言する。

 

「これで9名……さて、残りはあなただけよ」

 

「そりゃもちろん。 参加させてもらいますよ。 撮り残しが見つかりそうだし♪」

 

「ふっ、相変わらずだな」

 

その発言にラウラは苦笑する。 全員の参加が決まると、サラ教官は満足そう笑みを浮かべて頷いた。

 

「これで10名、全員参加ってことね! それでは、この場を以て特科クラスVII組の発足を宣言するわ。 この1年間、ビシバシ扱いていくから覚悟しなさい!」

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

「これも女神の巡り合わせというものでしょう」

 

「ほう……?」

 

「ひょっとしたら、彼らこそが"光"となるかもしれません。動乱の足音が聞こえる帝国において、対立を乗り越えられる唯一の光にーー」

 

階段の上に、ヴァンダイク学院長と共に生徒たちを見下ろし、オリヴァルト皇子はそう告げる。 まだ何色にも染まっていない彼らがこれからどう成長していくのか。 時に共に戦い、時に助け合い、時に衝突し合う……その果てに一体何を見出すのかを……

 

「彼にも、期待されているのでしょうかな?」

 

「それは勿論ですが……あの子には学院生活を心から楽しんでもらいたい。 本当に……心からそう願いたい」

 

オリヴァルトはレトを見つめながら、後悔するように呟いた。

 

 




レトの和槍の見た目は境界線上のホライゾンの蜻蛉切です。その青い部分を緑に変え。 文字を消した物です。 伸び縮みはしますが、喋りませんし割断(かつだん)もしません。 物理的に結ぶかもしれませんけど……

後、その槍はどこから出したのか聞かないでください。 他の皆さんも太刀やら十字槍やら大剣やら……ねぇ? ホントどこから出したんだろうねぇ?

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