英雄伝説 時幻の軌跡   作:にこにこみ

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13話 白亜の旧都セントアーク

 

 

5月29日ーー

 

2度目の特別実習当日。 早朝からレトは目を覚ましており、身支度を整えて昨日準備していた荷物を持っていた。

 

「導力カメラよし、予備の記憶結晶(メモリクオーツ)よし、古文書よし、槍とアークスもよし。 後は……」

 

荷物を指差し確認で1つずつ確認して行き、最後に部屋の隅に置いてあったトランクを指差した。

 

「んー、ちゃんと両方から許可を得られていればいいんだけど……」

 

そうボヤきつつもトランクを手に取り、部屋を出た。

 

「おっはよ〜」

 

「あ、おはようレト」

 

レトの部屋は1階なのでドアを開けるだけで集合場所に着く事ができ、レトは欠伸交じりでおはようと言う。

 

1階にはエリオット、ガイウス、アリサ、ラウラがおり。 レトを含めてこれでB班が揃ったわけだ。

 

「A班はまだみたいだね」

 

「とりあえず先に行くとしよう。 リィンに任せっきりにするのは、少々心苦しいが……」

 

「大丈夫だよ。 リィンなら」

 

VII組B班は寮を出て真っ直ぐトリスタ駅に向かった。 2度目ということもあり、受付の人も確認を取るだけでスムーズに乗車券を購入した。

 

と、そこへリィン達A班が駅内に入って来た。 そこはかとなく、すでにリィンが気疲れしているように見える……

 

(……やっぱり険悪そうね)

 

(分かっているなら言わないでくれ……)

 

(で、でもリィンなら大丈夫だよ……! きっと大丈夫!)

 

(エリオット、大丈夫以外の言葉を使おうよ)

 

レト達は小声で後ろの2人に聞こえないようにリィンを応援し、しばらくすると……帝都方面の列車が到着するというアナウンスが流れた。 レト達はA班にしばしの別れを告げてホーム内に入り……列車に乗って帝都に向かった。

 

「……任せっきりにしたみたいだけど、大丈夫かなぁ……」

 

「あれほど大丈夫大丈夫って言ってたのに、今更そんな心配しても仕方ないよ」

 

「うん、彼らの今更心配しても仕方なかろう」

 

「……リィンなら、俺の代わりに2人の仲を取り持つ事はできるだろう。 先月の実習では何も出来なかったが……」

 

「ええ、リィンならもしかしたら……」

 

A班の心配をしながらあっという間に30分後、列車は帝都ヘイムダルに到着した。

 

「なんだかあっという間だったわね」

 

「事実30分くらいだからね。 トリスタから帝都に仕事で通う人も何人かいるわけだし」

 

「ああ、寮前の家に住んでいる夫婦の男性がそうであったな」

 

ちなみにその夫婦、かなりラブラブだったりする。 レト達は学院に通学するときその光景を度々目撃していた。

 

「さて、次はサザーランド本線からセントアークに直行だね」

 

「えっと、セントアーク行きのホームは……」

 

「ーーサザーランド本線、セントアーク行きは4番ホームですよ」

 

掲示板で確認しようとした時、横から凛とした声が聞こえ……

 

「1ヶ月ぶりでしょうか、お久しぶりですね」

 

「クレア大尉!」

 

レト達は横を向くと……そこには灰色の軍服を着た女性、クレア・リーヴェルト大尉が立っていた。

 

「彼女が、先月レト達があったと言う……」

 

「あなたは初対面ですね? 初めまして、鉄道憲兵隊所属、クレア・リーヴェルトです」

 

「ご丁寧に。 ガイウス・ウォーゼルと言う」

 

「それでクレア大尉、もしかして憲兵隊のお仕事で?」

 

アリサはそう質問すると、クレア大尉は頷いて肯定する。

 

「ヘイムダル中央駅は鉄道憲兵隊の拠点ですから。 基本はここから各方面へ鉄道経由で急行します」

 

「なるほど、合理的だな」

 

「とはいえ、今は別の要件があって、後でそこにお伺いするのですけどね」

 

「え、じゃあここには何をしにーー」

 

「ーーあ、すみません、そろそろ4番ホームに列車が到着します。 これを乗り過ごすと次は30分後です」

 

クレア大尉は視線を上げ、備え付けられていれ時計を見た。 掲示板と見比べると……後5分で列車は到着するそうだ。

 

「え! あ、本当だ!」

 

「急がないと!」

 

「それではクレア大尉、我らはこれで失礼する」

 

「はい。 特別実習の成功を祈っています」

 

クレア大尉は駆け出す彼らを見送り……走り出さず、その場にとどまっていたレトの方を向いた。

 

「お待たせしました……レトさん」

 

「いえ、こんな時間を指定しまった自分のせいですから。 それで、例の物は?」

 

「こちらです」

 

クレア大尉は持っていた封筒を取り出した。

 

「……………………」

 

「ーードレックノール要塞、第一飛行艦隊司令官、ウルク・スカイウォーカー大佐。 及びハイアームズ侯爵家当主、フェルナン・ハイアームズ閣下両名の直筆サインが署名されている許可書です」

 

そう言い、レトはクレア大尉から封筒を受け取った。 レトはこの中に自分が欲する書簡が入っていると、心の中で思う。

 

「そこへ向かうための鍵は侯爵閣下からお受け取り下さい。 我々に出来るのはここまでです」

 

「いえ、あの人が自分の我儘を聞いてくれただけでも凄く有難いです。 それでは僕もこれで……」

 

礼をし、レトは先に向かったラウラ達を追いかけようと駆け出すと……あのっと、クレア大尉はレトを呼び止めた。

 

「本当に、あの場所に向かわれるおつもりですか?」

 

「…………宰相の元にいるあなたなら知っているでしょう。 2年前、リベールで起きた異変を。 そこで起きた出来事を……レクターさんから聞いているはずです」

 

「……………………」

 

レトの答えに、クレア大尉は無言になる。 レトは持っていたトランクを握る力がこもる……その時、ラウラが慌てて戻って来ていた。

 

「ーーレト! 何をしている!」

 

「あ、ごめん! 今行く! クレア大尉、それでは!」

 

「え、ええ……どうかお気をつけて……」

 

レトはラウラの元に走り、そのまま2人は4番ホームに向かって走る。 クレア大尉はその後ろ姿が見えなくなるまで見送った。

 

(セントアーク、ですか……)

 

少し悲しそうに目を伏せ……首を振って気を取り直し、踵を返して歩いて行った。

 

「一体大尉と何を話していた?」

 

「ちょっとした身内の事でね。 ラウラも知っているでしょう?」

 

「…………そうか……だが急ぐぞ。 もう列車は到着している、1分も待たずに出てしまう」

 

「それは急がないとね!」

 

時刻は既に昼前、通行人が走るレトとラウラを横目で見ながら4番ホームに着くと、停車していた列車の前にエリオットがいた。

 

「あ! レト、ラウラ! 早く早く!」

 

「今行く!」

 

すると出発のアナウンスが流れ、仕方なくまずはレトとラウラは別の車両に乗り、そこからエリオット達のいる車両へ向かう事にした。

 

「っと、その前に……」

 

レトはアークスを取り出しながら振り返り、一瞬アーツを使用する体勢に入り……すぐに終了し、列車内を進んだ。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

帝都ヘイムダル地下道……ここは現在のヘイムダルの街並みの下地になったもので、地下道というよりも地下都市に近い。

 

だが今は魔獣が蔓延る世界になっており、時折壁越しに聞こえる声や足音が、市民達の間に噂になっていたりする。

 

「グルルルル……」

 

そんな中、地下道の一角で寝ていた一体の獣が、何かに反応して閉じていた目を光らせながら開いた。 そして唸り声を上げながら起き上がり……ガシャ、ガシャっと音を立てながらゆっくり前に進み出した。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

レト達は慌ただしくも帝都でサザーランド本線の列車に乗り換え、真っ直ぐセントアークに向かった。 レト達は他のメンバーがいる車両に到着し、遅れてごめんと謝りながらボックス席に座った。

 

「さて……とりあえず、まずは実習先についておさらいをしておこうか?」

 

「ええ、そうね」

 

帝都からセントアークまでは4時間以上、トリスタから帝都までの間の時間では説明できなかったこれから向かう街の説明を、レトが古文書を開き読みながら始めた。

 

「じゃあ大まかに説明するね。 これから向かうセントアークは南部サザーランド州の中心都市。 別名白亜の旧都、人口は約15万……他の四大都市と比べると小さいくらいだね。 特色して名産物などはないけど……かの獅子戦役にも登場し、近代化する帝国の中で1番歴史ある街と言えるね」

 

「暗黒時代に帝都ヘイムダルが暗黒竜の瘴気によって死の都と化し、時の皇帝アストリウスII世が生き残った民を率いて南下しセントアークの地に仮の都を築いたとされている……有名な話だね」

 

レトの説明に納得しながら、エリオットが説明を付け加える。

 

「また、古くから芸術の都としても名高く、中世以前より多くの著名な芸術家を輩出しているんだ。 画家はもちろん、演奏家も何名か出ているね」

 

「へえ……ガイウスとエリオットが興味ありそうな街ね」

 

「確かに、美術部の同期にセントアークに特別実習に向かうと言うと羨ましがられてしまった」

 

「あはは、僕も先輩に羨ましがられたよ」

 

学生の身でありながら、実習という名目で地方に行けるというのはやはり他の学生に取って羨ましいのだろう。 レトもお土産としてどんな写真を撮ろうかなぁ、と考えていた。

 

それからレト達は雑談やブレードというのカードゲームで盛り上がる事数時間……

 

「花畑か……」

 

「帝国でも温暖な地方だからね。 アネモスの花……もう咲きごろだっけ」

 

「どうやらサザーランド州に入ったみたいね」

 

レト達は流れるように映る花畑を眺め、ふとエリオットが視線を上げると……

 

「な、何あれ……」

 

思わず驚きの声を漏らしてしまう。 この遠く離れた場所でも分かる巨大な城壁が見えてきた。 それを前にして、アリサ達3人は食い入る様に城壁を見る。

 

「ここからでも見えるって事は、かなりの大きさね……」

 

「あれは……」

 

「ーードレックノール要塞。 帝国軍が保有する正規軍の司令部がある拠点だよ。 そしてあれが……」

 

続いて列車の進行方向、その先にドレックノール要塞と匹敵する灰色の城壁が見えてきた。

 

しばらくして列車はセントアークに、そして駅に昼前に到着した。

 

「うーん、やっとついたぁー」

 

「なんとか昼前には着けたわね。 なんだかあの距離を往復したサラ教官の苦労が身に染みるわ」

 

「単純に計算すれば、半日は列車で揺れられていたのだからな。 気苦労もあったであろう」

 

「そうだね。 ーーさて、まずは宿に荷物を置いていこう。 えっと、指定された宿泊施設はっと……」

 

レトは前日、サラ教官から渡されたメモを手に取る。 今回の実習の宿泊場所は聖堂広場にあるホテル・オーガスタと書かれていた。

 

「どうやら貴族向けのホテルのようだな」

 

「その場所なら知っているよ。 駅を出て右曲がったら見えるはずだよ」

 

「私も知っている。 早速向かうとしよう」

 

約5時間で固まっていた身体を伸ばしてほぐし、レト達はセントアーク駅を出た。

 

「ここがセントアークか……前回の実習ではここを通過しただけだったからな」

 

「そういえば、ガイウス達はこの前の実習でこの先にあるパルムに行っていたわよね?」

 

「ああ、白亜の旧都と聞いていたが……少しくすんだ灰色の街並みのようだな」

 

「かつて帝都で災厄があった際、時の皇帝がここに遷都した当時……光り輝くような白い街並みだったらしいけど、今は片鱗しか見えないね」

 

この街の歴史をかい摘みながら左に向かい、大聖堂が見える通りに出た。 そこからすぐに目的地であるホテルが見えた。

 

「お、大きいね……」

 

「こんな所、泊まっていいのかしら?」

 

「そう気負う事はない。 やましい事など何もないのだ、もっと堂々していればよい」

 

「そうそう、それにいくら貴族向けの宿とはいえ、ここは結構いい宿だよ。 エリオット達も気にいると思う」

 

エリオットとアリサが多少気後れしながらも、残りの3人は堂々とホテルの中に入り。 2人は慌てながらも後に続いた。

 

中は高級ホテルだが、芸術の街と言われるだけあって両側面の壁にはいくつもの絵画が飾られてあった。 ガイウスはそれに興味を持ったが、まずはチェックインを済ませるためフロントに向かう。

 

「このホテル・オーガスタの支配人、フォードと言います。 本日は当ホテルのご利用ありがとうございます」

 

「トールズ士官学院、VII組の者です」

 

「お話は聞いております。 どうぞこちらへ」

 

どこかのほほんとした老人、フォード支配人はレト達の事を歓迎してくれた。

 

今回は当然男女別れての部屋割りとなり、レト達は各部屋に荷物を置き。 フロントに集まり、支配人から受け取った活動内容が入っている封筒を開けた。

 

内容は街の中に巣を作っている魔獣の討伐、北セントアーク街道にいる手配魔獣の討伐、貴族から描く絵のモデル探し……など、やはり遊撃士のような活動内容だった。

 

「ふむ、やはりやっている事は遊撃士と同じだな」

 

「基本的に前回と同じ流れで進めて行きましょう」

 

「了解した」

 

「この手配魔獣の討伐の、報告はドレックノール要塞で報告って……もしかしてさっきの?」

 

セントアークからドレックノール要塞、地図を見てもかなりの距離がある。 それなりにハードな実習になると予想される。

 

「そうなるとそれなりの距離を歩く事になるね。 まずは街で活動し、ある程度区切りがついたら街道途中にいる手配魔獣の討伐とドレックノール要塞へ行くのでどうかな?」

 

「それで構わないけど、大変な実習になりそうだわ」

 

「あはは、同感」

 

「それじゃあ、VII組B班……A班に負けないように、程よく頑張って行こー!」

 

「うん、承知した」

 

「お、おー?」

 

「行くとしよう」

 

レトが仕切るように激励を言い、ラウラはスルー、エリオットは無理にこのノリに答え……レト達はセントアークでの特別実習を開始した。

 

 


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