英雄伝説 時幻の軌跡   作:にこにこみ

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サブタイトルに特に意味はない(キリッ)!


第2章
10話 ニャーっと鳴けば、飛び出すのは猫


 

 

5月22日ーー

 

初めての特別実習から数日が経った。トリスタの一面に咲き誇っていたライノの花が徐々に散り始め、新緑の色が増してきた頃。 武術訓練や高等教育の一般授業が本格化する中、軍事学をはじめとする士官学院ならではの専門科目もスタートしていた。

 

レト達は現在、2限目。 帝国正規軍・第四機甲師団から出向している金髪碧眼の教官、ナイトハルト教官によって軍事学を学んでいた。

 

(……………………)

 

VII組の生徒が真剣な表情で授業を受ける中、レトだけはあまり気分が乗らないような顔をするも、ナイトハルト教官の言葉を書き留めていく。

 

そして時間は過ぎて5限目……貴族クラスのI組との合同で男女別れての授業。 女子は栄養学と調理技術。 男子は導力端末入門を受けていた。

 

本館2階にある端末室。 授業の担任のマカロフ教官は教える事だけを教え、窓際で一服していた。

 

「ふんふふーん♪」

 

ほとんどの生徒が端末に手を触れた事はなく、マキアスやユーシスといった例外もいながら苦戦する中……レトは鼻歌交じりでキーボードを弾いていた。

 

「うわぁ、レト打つの早いね」

 

「以前から端末に手に触れていたのか?」

 

「まあね。 あの導力カメラを使うには導力ネットワークにも精通しなくちゃいけないし、自然とね。 僕がリィンの前の部屋じゃなくて1階にしたのも導力ネットワークを簡単に引くためだし」

 

レトの導力カメラは感光クォーツや暗室などが必要にない分、端末や導力プリンターが必要なこととちょっとした手順が必要などいった過程が必要な全く新しい技術。 ちなみに、レトの部屋には彼個人で所有する導力ノートパソコンとプリンター、写真を画像として保存するために複数の記憶結晶(メモリクオーツ)を持っており、学生の中で1番デジタルな学生だったりする。

 

「ーーこれでよしっと。 って、あれ……リィン、どうしたの?」

 

「あ、ああ。 少しな……」

 

課題を終え、後ろを向くと……リィンとエリオットとガイウスがいたのだが……もう1人、白い制服を着た高慢そうな貴族生徒……パトリック・ハイアームズもいた。

 

「ああ、ハイアームズの。 ふーん……」

 

「……何か言いたいことでも?」

 

「いや、特にないよ。 あるとしたら君の後ろの人だろうね」

 

「なに?」

 

パトリックはレトに言われ振り返ると……ユーシスが立っていた。

 

その後の展開にレトは興味がなく、端末に向き直った。 この導力端末は一般公開されている外部のネットワークとは繋がっていないが……レトは特殊な記憶結晶を端末に刺すと、外部のネットワークと接続した。

 

この記憶結晶は無線でレトの部屋にある導力ノートパソコンに繋げ、そこからネットワークに接続する事が出来るようになっている代物、一般には出回っていない物だ。

 

(やっぱり先進国であるクロスベルの情報が1番濃いね。 帝国や王国、共和国の情報が欲しかったけど……ん?)

 

流れていく情報の中に、気になる記述を見つけそれを表示する。

 

(へぇ。 特務支援課ね)

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

放課後になり、レトは学生会館2階にある写真部の部室にいた。

 

「ーーうん。 良く撮れているし、とてもいいよ」

 

レトは先月の特別実習で撮った写真を写真部部長のフィデリオに見せていた。 彼は貴族生徒だが優しく良識があり、あまり身分に拘らないので平民生徒にも慕われていた。

 

「へ、またそんなつまんねぇもん撮りやがって」

 

レトの写真を軽く罵るのは何故か毎日ニット帽を被っている平民生徒、レトと同じ1年のレックスだった。

 

この写真部は基本風景を撮るという目的だが、彼はどうしてか景色を撮ると手ブレやピンぼけになってしまう。 だが、女子を被写体にすれば話は別だったりする。

 

「ただ……景色も勿論だけど、遺跡や魔獣の写真も多いね……」

 

「まあ、景色よりそちらがメインかもしれませんね」

 

「趣味悪ぃなあ〜」

 

2人はレトが本に挟んでいた他の写真を見てそれぞれ感想を言う。 ルナリア自然公園でのグルノージャや旧校舎地下でのガーゴイル(首だけ)、他にもリベールに生息する魔獣などが写真に収められていた。

 

「それじゃあ、ちょっと僕は文芸部に行くよ。 レト君はいつも通りで撮って構わないけど、レックス君はちゃんと許可を得てから撮ること」

 

「はい」

 

「へーい」

 

「明日は自由行動日だけど、写真部はトリスタの町に出て活動するから覚えておいてくれ」

 

明日の予定を言い、フィデリオは写真部を後にした。 それに続いたレックスも出て行ったが……妙にニヤけている事からフィデリオの忠告は聞いていないようだ。

 

ちなみに、何故フィデリオが文芸部に向かうのかというと……新しく入部したエマを心配しての事だとか。 何でも文芸部の部長の文芸は……腐っているらしい。 しかもそのジャンルがここ最近若い女子の間で広まっているという噂も……

 

「うう……(ブルブル)」

 

そこまで考え、レトは身震いを起こす。

 

()()()がこのジャンルに興味を持たないで欲しいけど……性格が兄さんと近いからなぁ……」

 

もう手遅れかもと自己完結しながら、自分の身内に微かな希望を願って恐怖を振り払い、部室を出ると……

 

ーーこちらにーー

 

「え……」

 

突然、頭の中に響くような声が聞こえた。 方向は部室を出て正面、オカルト研究会の活動部屋だ。 このオカルト研究会のメンバーはたった1人、しかもどうやって学院に了承を得たのかすらわからない存在そのものがオカルトな研究会だ。 そのたった1人もかなり怪しげな雰囲気に包まれているのだが……

 

「お、おはようございまーす……」

 

オカルト研究会に入ると、正面の窓に黒いカーテンがかけられており。 昼間なのにかなり薄暗い。 そしてその正面に……テーブルの上に色々なものがあるが……特に目を引くのは高価そうな占いに使う水晶。 そしてその奥に緑色の制服を着た、長い黒髪の女子が座っていた。

 

「えっと……さっきのはもしかして君が……?」

 

「ウフフ……さあ、どうかしら? ウフフフフフフ……」

 

何も可笑しい事なんてないのに彼女は顔色一つも変えずに不気味な笑い声を出す。

 

「えっと、ベリル……だよね? 僕に何かよう?」

 

「ウフフ。 そうね、学院の中であなたほど分かりやすくて特異な存在はいないからね……剣は大事に持っているかしら?」

 

「!!」

 

ベリルの言葉に、レトは目付きを鋭くして彼女を睨みながら身構える。

 

「……なぜ……それを……?」

 

「ウフフ……私は全てを見通せるの」

 

「……………………」

 

答えになっていないが……これ以上言わせないために、レトは構えを解いた。 だがその目は依然としてベリルを貫くように見据える。

 

「……あんまり関わらない方がいいよ。 命が惜しくなかったら、ね」

 

「ええ、肝に命じておくわ」

 

それだけを言い残し、レトはオカルト研究会を後にした。 気分も優れず、真っ直ぐ寮に帰り。 自室に入るとカバンを放り投げてベットに倒れ込んだ。

 

「…………はぁ…………」

 

寝返り、ボーッと天井を見上げる。 彼女の言葉がずっと気になりしかたがない……レトは邪念を振り払う為、槍の稽古をする事にした。

 

「ふう……! はっ、やあっ!!」

 

第3学生寮の裏にある広場、そこで一心不乱に槍を振るっていた。 それが1時間、2時間と続き……最後に水が入っているバケツの前に立つ。

 

「……………………」

 

呼吸を整え、一瞬てま水に槍を突き刺す。 すると槍の刃は水を貫いた。 波紋の1つも立てず、普通の動作で槍を抜き振り払うと……槍には水滴すら付いていなかった。

 

グウウゥゥ……

 

「うぐ……」

 

鍛錬を終えるのと同時にお腹が鳴り、空腹を主張した。 既に日は沈んでおり、邪念を振り払うにしてものめり込み過ぎたと反省した。

 

汗を拭きながら部屋に戻り、足の踏み場もないのにスルスルと前に進み、軽く片付けを済ますと……部屋に置いてあったトランクに目がいった。

 

「……………………」

 

何を思ったのか、レトは部屋の隅に置いてあったトランクを目の前に持っていき……厳重な鍵を外して蓋を開けた。

 

「…………ッ…………」

 

開放と同時に肌で感じる力の奔流……それを身で受けながらトランクの中を覗く。 中に入っていたのは一振りの剣。

 

鍔と刀身が一体になっており刀身の半分、そこから峰半分が黒、反対側が線が段々と連なっており、柄頭が刃の方に折れ曲がっている。 剣先が峰側に内側に向かって弧を描き、刀身峰側、鍔に近い両側の部分に宝珠が埋め込まれている。 最低限の装飾も含み独特な形状をしているが……一見して黄金とも見て取れる、魔剣とも言われる一振り。

 

「……僕はまだ……力を……覚悟を、証明できません……」

 

懺悔のように呟きながら、レトは柄を撫でる。 その時……

 

コンコン……

 

「!?」

 

ドアがノックされ、レトは慌てて勢いよくトランクの蓋を閉じ、厳重に鍵をかけた。

 

『レトさん? 今お時間よろしいですか?』

 

訪問してしたのはエマだった。 レトはトランクを元の場所に戻し、ドアを開けた。

 

「えっと、何かよう?」

 

「い、いえ……少し気になることが……」

 

本当に何をしに来たのかと疑問に思った時……エマの足元を縫って黒い毛並みの猫がレトの部屋に入って来た。

 

「ニャー」

 

「え、猫?」

 

「す、すみません! この子が勝手に……!」

 

「大丈夫だよ。 それよりも、この子は委員長が?」

 

「え、ええ……トリスタに来た初日に出会って。 そのままちょっと放し飼いみたいな感じで……」

 

「へぇ……」

 

野良にしては毛並みも綺麗で、尻尾の先に結んだリボンが現在、飼い猫を表しているようだが……猫は例のトランクに目をつけ、近付いて前足を出し、ガリガリと開けたいように爪を立てた。

 

「こら、それは触っちゃダメ」

 

「ニャー」

 

開けて、と言わんばかりに猫は鳴く。 レトは苦笑し、猫の喉元を撫でた。

 

「ゴロゴロゴロ……」

 

「よしよし……いい子だね」

 

「レトさん、手慣れていますね?」

 

「内も……というより、僕が猫を飼っているからね。 この子よりは気難しいけど、可愛い子だよ」

 

「それは一眼見てみたいですね」

 

その後、2人は猫の話題だ盛り上がり、その光景をエマの猫が溜息をついて見守り……あのトランクをジッと見つめていた。 結局、エマは何をしにここに来たのか、レトは聞くことはなかった。

 

 




……難しいですね、サブタイトル考えるのって……

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