9/12
ハワイからルブランへ帰ってくると、マスターが心底ホッとしたような顔で俺達を出迎えてくれた。双葉がハワイに着いた後、全然連絡を寄越して来なかったらしい。今後もそういったことがないようにと、もう一度マスターの携帯に俺の電話番号を登録するように頼み込んでみたのだが、しばらく間があった後、「いや、俺は携帯に、男の電話番号は入れない主義なんだ」という定型文を頂いた。
前に聞いた時は即座に断られてしまったから、今回は迷っている素振りがあった分、前回に比べたら十分すぎる進歩だと言えるだろう。マスターが俺の電話番号を入手する日も近いということを確信した。
因みに、ルブランの扉を開けて開口一番、「アローハ!」と言ってみたくなってしまった理由は、ベッドに横たわってこの日記を書いている今でも分からない。あと、モルガナのご機嫌が悪い気がするのは、気のせいであって欲しいと思う。
9/13
モルガナが家出した。
9/15
モルガナに再会した。そしてまた、怪盗団の女性の割合が増えてしまいそうな予感があった。
双葉が、なんだか最近、暗い表情をしている時が増えた気がする。どうした、と双葉に聞いても、「な、なんでもない」と、とても動揺した声で返されるだけで、一向に埒が明かない。俺の思いすぎだといいんだけど。竜司曰く『そりゃ……お前、「アレ」だろ』と言われてしまったが、多分違うと思う。
9/17
増えた。そして、モルガナが何やら恥ずかしいことを言っていた。最近は少し、世間からの目に動揺して、俺達が……空中分解とまではいかないけれど、バラバラになってしまいそうな危うさがあった。でも、そんなモルガナの恥ずかしい告白で、俺達チームとしての結束が改めて強くなった気がする。やっぱり、恥ずかしいことは、高校生である今の内に言っておくべきなのだと思う。うん。
あと、双葉が春に『ナシつけとく』と言っていたんだけど、あれは一体どういう意味なんだろう……? 梨?
9/19
連日でパレスを攻略するのは少し疲れるかも、という春の意見で、今日は一日中オフとなり、俺は休憩中に冷蔵庫にあった濡れカツサンドを齧りながら、マスターの手伝いをした。すると、ルブランに陽気な初老男性……もとい、きな臭い怪しいおじさんがやってきた。彼はマスターと会ってなにやら嬉しそうだったが、しかしマスターはとても嫌そうな顔をしていた。彼が誰なのかを聞き出そうとしたが、美味いカレーの作り方を教えると言われ、有耶無耶にされてしまった。
双葉の口数が、例えば一緒にご飯を食べる時、例えば適当に互いの部屋を行き来する時に、ほんのちょっぴり、減っているような気がする。もしや愛想を尽かされたのでは……と、夜も眠れなかったが、竜司に「それはない」と言われた。
9/22
一二三が将棋で八百長をしている。そんな下らない噂が、下らない週刊誌やネットでよく見かけると、双葉が言っていた。一二三も当然小耳には挟んでいるはずだが、宮殿に侵入している時にも、双葉とLINE通話で目隠し将棋している時にも、全くその話題を口にすることはなかった。もしかしたら、攻略途中で気掛かりなことをなるべく減らそうと、俺達に気を遣ってくれているのかもしれない。ならば俺達は、できるだけ早急にルートを確保しなくてはならない。
くたくたの身体で帰ってくると、マスターが例のおじさんに言い寄られていた。話を聞く限り、マスターに金をせびっているらしい。ここは機転を利かせて、なんとかマスターを助けてあげたいと思った俺だったが、アドリブ力のない俺は、ただ澄ました顔を顔面に張り付けて、その様子をじっと見ていることしかできなかった。
が、ちょっと前に、マスターの携帯に自分の電話番号を入れてはどうかと提案していたことを不意に思い出した。そして、逆にマスターの携帯に電話を入れ、おじさんの気を逸らしてやろうというアイデアが降りて来るに至った。俺が着信を入れたことに気付いてくれたマスターは、口八丁でおじさんを退散させた後、珍しく機転が利いた俺を褒めてくれた。アドレスは登録してくれなかった。
9/24
攻略完了。あとは待つだけだ。その間に、一二三の噂が広まった原因、マスターとおじさんの関係、そして、双葉が最近元気のない理由を知ることを、目標にしたい。