7/9
朝、何気なく怪盗チャンネルを開き、スレがとんでもなく賑わっているのを見てベッドから転げ落ちた。その時に巻き込んだらしい、「潰れるかと思ったわ!」と憤るモルガナを宥めながら、一階に降りてテレビを付けた。ニュース番組だった。その画面には、金城が、見せたことすらないような沈痛な面持ちを讃えながら、警察に搬送されている様子が映し出されていた。どうやら、作戦は成功したようだった。
放課後に皆と集まって、真が引き続き怪盗団の仲間となる事を再確認した。俺は、彼女は当面の目的を果たす事ができたから、怪盗団から離脱してしまう事を危惧していたのだけれど、その心配は杞憂に終わった。寧ろ、「居場所、見つかったから」と迎合すらしてくれた。
そういえば、俺達は総じてはみ出し者というか、どこか一般の人とはズレてしまった厄介者ばかりだ。それは冴えないカーストの生徒たちが、仲間を見つけて肩を寄せ合うそれと重なって見えてしまう時もある。案外、居心地は悪くない。
7/10
今日は渋谷のファミレスへ行って、テスト勉強に励もうかと意気込んでいると、竜司から連絡が入った。まさか竜司まで俺の勉強時間を削りに来たのかもしれないと、内心怖がりながらLINEを開くと、一人では勉強できないからルブランでしたいという事だった。それにホッとして、『わかった』と打つと、ノータイムで人が店内に押し寄せてきた。それも四人。竜司、杏、祐介……そして真。
こうして急遽、勉強会が開かれた。
「あ〝――! ムリムリ、公式暗記とか絶対ムリ……」
「ちょっと、竜司うっさい」
「少しくらい静かにしろ、竜司」
「わぁーったよ……。てか、なんでここにユースケがいるわけ? お前、テスト期間じゃねーじゃん!」
「偶には『サユリ』に顔を出そうと思ってな。あとは…そうだな、久しぶりにマスターのコーヒーでもいただこうかと――」
「またあのにっげぇヤツ飲むのか? 意味わかんねぇ…」
「だからうっさいバカ竜司!」
「……少し、休憩にしましょうか……」
真がヤレヤレとこめかみを抑える。
真が、ちゃんと仲間として馴染んでいる事をしみじみと感じながら、俺もペンをノートに置いた。
「あー、そうだ、打ち上げどうすっべ? またビュッフェ? それともシースー?」
「ビュッフェ、だと……?」
「だから、寿司行くお金ないから。けど、またビュッフェってのもマンネリかな」
「夏祭りどうかしら? 最近のだと――そうね、十八日にあるそうよ」
「いーじゃん!! それにしようぜ! よっしゃ、目的できたら俄然、やる気出て来たわ」
「やっぱリュージは単純だな!」
「ああ? なんだこの化け猫!」
「だからワガハイは猫じゃねぇ!」
「ま、まあまあ……けど、夏祭り行くってのは案外いいアイデアかも。祐介もそれでいい?」
「ああ。ビュッフェも捨てがたいが、夏の美を俺は取る」
「浴衣か? 浴衣だな?」
「リーダーも、それでいいかしら?」
……夏祭りか。もうそんな季節になっているという事自体が驚きだけれど……しかし、久しぶりに友人と連れ立って夏祭りに行くというのも悪くない。ぶっちゃけ楽しそうだ。
そして特に断る理由もなかったから、俺は皆に返事を――。
突然スマホが鳴る。誰からだろう――双葉だ。
目を向ける皆に少し詫びを入れて、文面を見た。
『まつなつり一緒にいかないあk』
……何て?
謎の怪文書に首を捻っていると、追って『夏祭り』『一緒に』『行かないか』と立て続けに送られてきた。
夏祭り、一緒に、行かないか?
……もしかしなくても、誘われている?
ふと、一週間前に見たサイトの文面を思い出した。
顔が少し、熱くなったような気がした。
周りが俺を、不思議な様子で見ている。
双葉が、画面の向こう側から、俺を見ている、ような気がする。
……どうしよう。