もしも、下宿初日に佐倉双葉と出会ったら   作:菓子子

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日記1 4/9-4/20

4/9

佐倉双葉と出会った。

惣治郎さんの携帯の着信を偶々見てしまった時、苗字が同じだったから惣治郎さんの娘かあるいは孫かと思っていた……のだけれど、惣治郎さんの様子を見る限りどうやら複雑な事情があるようだった。

 そんなプライベートな事をほぼ初対面の人に聞くわけにもいかないし、前科持ちに家庭の事情を明け透け話す人なんていないだろうし。

 これからの高校生活も課題が山積みだが、もし……双彼女の事を聞くためには、やはり惣治郎さんの信頼を得なければならないようだ。

 頑張ろう。

 結局UFOは食べることはできなかった。お腹すいた。

 

4/11

朝:

惣治郎さんが朝食にとカレーをご馳走してくれた。

カレーと言えば普通は夕食に食べるものだと勝手に思っていて、かつカレーに対して少し重たいイメージがあったから、朝からガツガツと食べるのは少しだけ躊躇った。

しかしこれも惣治郎さんの信頼奪取のため。背に腹は代えられない。

と意気込んで挑戦してみると、これがなかなかどうして美味しかった。というかめっちゃウマかった。

余計に舌にヒリつかず、かつカレーの深みを増幅させているスパイスが良い。おかげで、寝不足気味の頭と目が一気に覚めた心地がした。

コーヒーにも合うし。

このレシピを考えた人はきっと、天才に違いない。

そのルブラン特製カレーに舌鼓を打っている途中、惣治郎さんの電話がなって「仕事にプライベートに大忙しだ」なんて言っていたけれど、あの電話は双葉からのものに違いなかった。

時々、惣治郎さんの仕事を手伝う約束をした。

 

夜:

坂本竜司とモルガナに出会った、なんて悠長に言っていられる場合じゃなかった。

 どこかの童話で見たようなお城に、何に使うのか知りたくもない拷問道具、甲冑を来た兵士……な、何を言っているか分からないと思うが……といった感じだ。

 実際俺にもまだ分からない。

 イワクつき転校生からのスタートだから、新生活は目まぐるしくなるという事はある程度覚悟していたけれど、これは目まぐるしいなんていう次元の範疇を超えている気がする。

 ……頑張ろう。

 

4/14

昼:

 渋谷の駅前で、高巻杏という丁度俺の前の席に座っている女子が泣いているのを見かけた。

惣治郎さんから『余計な事に首を突っ込むんじゃねぇって言っただろ』という言葉が今にも聞こえてきそうだったが、やっぱりそのまま見過ごしてしまうのは気掛かりで、声を掛けてしまった。

鴨志田の情報を聞いた。何か俺に出来る事はないだろうか……。

しかし、あまり表立って動くことは得策ではないだろう。先生からもしばらくは警戒されていると思うし。

 また余計な事をして、身を滅ぼすのはごめんだし。……いや、逆に考えれば、今は落ちるところまで落ちてしまっているのだから、これはもうむしろ堂々とするしかないのでは……?

 ……いや、高巻に迷惑を掛けるのは避けたい。やめておこう。

 

夜:

 惣治郎さんの手伝いをする傍ら、コーヒーの淹れ方を教わった。

 一度最初から見よう見まねでやってみた。「豆がないているぞ」と手厳しい評価を頂いた。

 ところで、コーヒーに関して詳しかったり淹れ方が上手かったりすれば、なんと……モテる、らしい。

 一刻も早く精進しなければならない。

 

4/20

 

 夜に惣治郎さんの手伝いをした。

「近々頼みたい事がある、かもしれねえ」と、カレーを仕込みながら言う惣治郎さん。

 確かに最近は元気がないように見えるし、よく見て見れば目の辺りにうっすらと隈ができていた。

 惣治郎さんの信頼を得られるチャンスだろう。

 そういえば、あの少女……佐倉双葉はどうしているのだろう、とUFOを作っている時に思い出す。

彼女が豪快な食べっぷりをしている映像付きで。

俺への頼み事は、もしかしたら――彼女の事なのかもしれない。

 


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