それが《傲慢の罪/このわたし》   作:GENZITUTOUHI人

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どうも、GENZITUTOUHI人です。
久々に現実逃避したい案件が発生し、ダンまちの方の小説も良い文章が浮かばず……。待ってくれている方はすみません。

気晴らしにSAO劇場版や最近の七つの大罪を見た思いつきで書きました。
続くかどうかは未定です。


第1話

「おめでとうございま――す!! あなたは転生者に選ばれました! さぁ何でも一つ、特典を授けましょう!!」

 

 

「いりません」

 

 

 

 

 

 

 

「(´・ω・)…?」←今ココ

 

 

 

 *

  

 

 

 …まぁもう、そろそろだろうとは思っていた。

 

 

 先天性の病気で、生まれつき体が弱かった。

 

 それでも小学校に上がるくらいまでの小さい頃は症状も割と穏やかで、外で遊び回ることもできる程の状態だったのだが、小学校の入学と同時にそれも段々厳しくなり、高学年のときにさらに病状が悪化。

 中学はほとんど病院のベッドで寝たきり生活で、本来の高校に上がろうかという年にとうとうお迎えが来てしまった。

 

 

 最後に覚えているのは、バイタルチェックの心音計が鳴る音と、身体の力がだんだん抜けていく感覚。一番印象的だったのは、最後に目を閉じかけた瞬間に病室に飛び込んで来た家族の顔だった……。

 

 

 

 

 

 ……というわけで、死んだ。

 

 次に目を覚ました瞬間、自分は死んだんだ、と自覚する。

 ()()()()()()()()()()()()()()()、なんて状況の不思議さが疑問として浮かび上がってくる前に――

 

 

 

 

「貴方はつい先程、不幸にもお亡くなりになられました。大変お悔やみ申し上げます」

 

 

 

 ……幼女である。

 

 目の前に幼女がいた。

 

 

 

 ちょっとなにを言ってるか(ry

 

 

 

「と、言うわけでぇ~、――おめでとうございまーーす!! あなたは転生者に選ばれました! さぁ何でも一つ、特典を授けましょう!!」

 

 

 テンション差の激しい幼女様だな…と思いつつ。

 

 

「いりません」

 

「(´・ω・)…?」←困惑顔の可愛い幼女

 

 

 というのが現在の状況である。

 

 

 :::

 

 

「な、なぜですかっ!? 神様転生ですよ!! 特典がいらないとっ!?」

 

 

「と、いうか異世界への転生自体いりません」

 

 

「(´・ω・`)??」←可愛い

 

 

 もっと自分の死に対して思う所はないのかー、とか、目の前の幼女が神であることに疑問を持たないのかー、とか、そんなの場の雰囲気と流れである。そこら辺のくだりを引っぱることなんて誰も望んでいない。誰がとは言わないが。はいはいテンプレ乙乙である。

 

 

「本当になぜですか? あなたはその人生がら、自分の生に満足していない。こういうものにも憧れはあるでしょう?」

 

 確かに。……自分は自身の人生に満足してるとは言えない。体が弱いながらも男に生まれた身として小さい頃しかできなかった外遊びは好きだったし、長い病院生活での暇つぶしに院内に置いてあった漫画やアニメなどのサブカルチャーにも触れている。異世界転生・神様転生モノの小説も読んだりした。

 憧れているか憧れていないかで言ったら憧れているし、興味津々である。

 

 だが、それとこれとは話が別なのだ。

 

 

「俺にその異世界転生と特典を貰う権利があるなら、それを返上する代わりに病気を治して元の人生を送れるようにしてください」

 

 確かに興奮し、胸躍るシチュエーションだろう。

 

 だがそんなもの(感情)、自分が生きた人生の中で受けた家族への恩に比べればミジンコ以下だ。

 

 自分の体が弱いせいで長期の入院費や治療費を稼ぐために、仕事がキツイだろうにもかかわらず嫌な顔一つせず笑って気遣ってくれた父と母。

 自分は何もしてやれないのに、ほぼ毎日病院に通ってはその日あった学校や日常生活での出来事を天真爛漫に語ってくれた3歳下の妹。

 

 どれだけ申し訳なく思っても足りない。……そして、どれだけ感謝してもし足りない。

 

 最期に病室に飛び込んで来た家族の顔が今も頭から離れない。こんな不出来な息子兄でも、父母妹は最後まで快復を祈ってくれていた。

 何もできずただ悲しませたまま終わりたくない。ここまで大切にしてくれた家族のために病気を完治して、生きて恩を返したい。

 

 

 ――だから、どうか。

 

「……申し訳ありません。天界の規定により、死者が元の世へ蘇ることは禁止されています。また、あなたの転生の件も、もう決定されていることです」

 

 そうか……。

 ならばせめて、一目だけでも。今までの謝罪と感謝を家族へ伝えたい。

 

「う~ん、それくらい、なら、まぁ……。

 ―――分かりました。家族の方々の夢に出るというカタチで、ギリギリ取り計らいましょう」

 

 ……感謝する。

 

「いえいえ♪ では、そこに立ち上がってくださいっ」

 

 

 言われた通りに立ち上がってみると、光が体とその周囲を包み込み、体が軽くなっていく。そしてついに、足が地から離れだした。

 

「このままご家族方へ会っていただき、そのまま来世への転生となります。特典はご家族の件を含めてしまい、お渡しすることはできませんが……」

 

 まったくもってかまわない。本当にありがとう、女神様。

 

「ふふっ、もう心の中でみたいに幼女、って呼ばないんですね♪」

 

 その言葉に苦笑いしながら、体が昇って行く。そうして体を包む光が徐々に明るさを増していき、目も眩むような光度に達した瞬間、自分は次の人生への一歩を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふふっ♪ 久しぶりのいい子でしたね」

 

 いま次の生へ向かうために昇って行った少年の方を見上げながら、良い気持ちになって微笑む。

 離れていく彼に向かって、指先を一度だけクルッと回し。

 

「ほんのちょっぴりズルですけど、次の人生はお元気でっ! 自分で良いと思える人生を送ってくださいね♪」

 

 

 

 

 ▲   ↘☀ ▲

 

 

 

 あれから無事転生して大分月日が流れ、現在の自分の歳は16才。前世の自分の歳を超えた。

 前世のように病気や身体的障害を患うこともなく、元気にこの歳まで生きることができている。――というか、少し元気が良過ぎて病気どころか風邪の一つもロクに引いたことがない。

 やはり健康って素晴らしい。

 

 ……いや、本当に。

 

 健康な身体があるってことは本当に素晴らしい。

 一人で歩ける頃になってから初めて家の庭先で遊び回り、疲れるまで走り回ることが出来た時は感動だった。動き過ぎて疲れ果て、立つこともできず大の字に倒れた直後にすぐ襲って来た初めて体感する全身への強烈な筋肉痛には思わず笑ってしまった程である。

 走る。跳ぶ。打つ。握る。投げる。ただそれだけのことがひたすら楽しい。荒れた息で吸い込む空気一つ一つが生きているという実感を与えてくれる。

 

 そうやって生活してきたからか。程良く体も鍛えられ、運動もとても得意となった。

 

 

 最初の頃は異世界転生と言うことで、そのことも視野に入れて特典も何もないなりに自分を鍛えようと思ってしていたのだが、特に何も必要がないと暫くして気づいた。というのも、転生した先が自分が生きていた時代よりも少し未来のなんの変哲も無い日本だったのである。

 

 科学技術が少し発達してるかな? という程度の、いたって普通の日本。

 

 幼いながらに周囲を観察したり、親の目を盗みネットを使って調べたりしたが何もない。魔法や異能が発達しているわけでも、人間が異なる種族と共存しているわけでも、パオズ山や冬木市なんて言う架空の地名もなかった。文明を滅ぼそうとする怪物との戦いも通常の戦争もない。いたって普通で平和の世界だ。

 

 

 事実をそう結論づけた時少し力が抜けるような気分を味わったものだが、まぁこれはこれで良かったと思う。運動や体を鍛えることは9割方趣味でやっていたことだし、今の生活も十分以上に気に入っている。

 いろいろなスポーツや武道にも手を出し、今年で高1になって特定の部活に所属していない代わりに、いろんな部の友人に助っ人で呼ばれて好きに参加したりしている。前世でほとんどまともに学べなかった学校の勉強の成績もそこそこだ。

 

 

 閑話休題。

 

 

 ……と、散々自身がアウトドア趣味であることを主張していたのが、現在。自宅の自室のベッドに座る自身の両手には、一つのゲーム機が収まっている。

 ゲーム機と言っても画面に向かい、手元のコントローラーをピコピコして操作するようなやつではない。

 

 

 ――『ナーヴギア』。

 フルダイブと呼ばれる、コンピューターによって確立された仮想の空間へ人間の五感を投射し、その世界を現実のように体験させることのできるヘッドギア型の家庭用次世代型ゲーム機。

 

 早い話、ゲームの中に入れるのだ。

 

 これを初めて目にした時は、人類科学の進歩ってすげー、なんて思ったりもしたものだが、それだけでは単価12万円もするこのゲーム機を買う気にはなれなかった。

 

 

 現在手の中にあるゲーム機――ナーヴギア――に挿入されているソフトの名前は『Sword Art Online』。

 フルダイブ技術の基礎設計者であり、今世紀最大の天才である量子物理学者、茅場晶彦が自らデザインした世界初のVRMMORPG(仮想現実大規模多人数オンラインロールプレイングゲーム)である。

 

 今世では体を動かすことが好きなことや前世でインドア趣味を半ばやりきった(それしかできなかったとも言う)感もあってか、ゲームにはそこまで興味を持たなかった訳だが……このゲームは即決だった。

 たまたま学校の帰りに商店街の家電量販店の傍を通った時、そこの店頭に並ぶTVがちょうどソードアート・オンラインのPVCMを流していたのだが、一目見て「ナニこれ超面白そう」と、心なしか早足で家に帰ってパソコンを開き、別のPVや情報を漁っていけばもう買わないという選択肢はなかった。

 

 

 そういう経緯で発売前には前世で言う所のド〇クエ以上の社会現象となり大々的にニュースにとりあげられる程の人気を博した、初期ロット1万本という人気に対して圧倒的に数の少ないゲームソフトをどうにか苦労した末に手に入れ、2022年11月6日休日の今日、正式サービスが開始されるこのゲームを今から始めよう――というわけである。

 

 

 かなり楽しみだ……、とそうこう考えてる内に時計を見ればサービス開始時間の午後1時に時間が到達していた。

 手の中のヘッドギアを頭に被りベッドに体を完全に預ける。電源やその他周りの環境に不注意なところがないかもう一度確認し憂いを断てば、ゆっくりと両の目を瞑った。

 

 確かに感じる興奮を隠しながら、おのれが仮想世界へ飛び込むためのボイス・コマンドを口にする。

 

 

「――リンク・スタート」

 

 

 

 ▲   ↘☀ ▲

 

 

 

 虹色の光を抜け、キャラメイキングを済ませた後に降り立ったのは、完全な異世界だった。

 

 

「ほぉ……」

 

 目を開けた瞬間、軽く周囲から注目されるのを傍目に感じながら、おそらくここに降り立った誰もがおそらく抱いたであろう感動を感じていた。

 中世のヨーロッパのような街並みが沢山の人の活気と共に視界に広がっている。簡易テントの露店の店主や売り子、石畳の大通りを往来する幾人かはNPCだろうか。

 圧倒的リアリティ。頬をくすぐる空気の流れや背後に鎮座する噴水の水が撥ねる音、そこらの物体の精巧さ一つを取っても想像以上だ。仮想()()と謳うだけはある。

 

 

 ここまでの感動はこの世に生を受けたとき以来だ。

 

 

 このゲームにログインする前の当初はこの《はじまりの街》をパッと見てから、フィールドに出てすぐ戦闘をしようと思っていたのだが……、

 

「少し勿体無いかもしれんな……」

 

 そう思って予定を変更し、周りを見渡すようにしながらこのはじまりの街の見物に繰り出した。

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 一時間ほど街を見物した後、ようやくモンスターとの戦闘を行うために街外れの草原フィールドに出てきた。

 武器は見物の最中に見つけた路地裏のような場所にあった店で購入した。あるかどうか不安だったのだが……

 

「あってよかったな……片手斧」

 

 このソードアート・オンラインの舞台となる〈浮遊城アインクラッド〉には、全部で軽く百を超える数の武器種が存在するとされているが、その全てが最初から使用可能であるというわけではない。

 発売前のPVで最初から使用できる基本武器の中に両手斧はあっても、片手斧はなかった。ホームページ以外に回っていたβテスト時の情報もちらほらあったが、やはりそこはベータ版。信憑性と言う意味では、少々物足りない。あってくれて何よりだ。

 購入した片手斧――固有名は《ライトハンドアクス》。実にシンプルである。

 

「しかしまた……えらく頼りない手応えというか、見た目ですね」

 

 この体格だとなおさら――

 

 

 このゲームはアバターが自由に作成できる。しかもRPGと銘打っているのだから、せっかくならロールプレイングしてみたいともあらかじめ思っていた。

 そこで真っ先に浮かんだのは前世の創作物であった二次元キャラ。その内特に好きだったうちの二候補。

 

 一つは某型月のギリシャ最強の大英雄。もう一つは某大罪騎士団の昼間において圧倒的な闘級と傲慢さを誇る聖騎士。どちらもその作品においてはチート級の強さを誇る最強格キャラである。

 超強靭な肉体から繰り出される武力で敵や戦場を圧倒・粉砕するバトルスタイルは前世の自分は体が弱いことも相まってかかなりかっこよく映り、同時に憧れたものだ。

 

 その二候補でかなり悩んだのだが、最終的に後者を選んだ。理由は、まぁ……、前者はアバターでの再現ができなかったのである。

 主にバーサーカークラスで出典していたあのキャラの厳つい顔を構成するパーツは、アバター作成時に顔の各パーツが数十種類もの選択が可能であったこのゲームにも流石に存在していなかった。外伝作品で、人相を再現できそうなアーチャー/アヴェンジャークラスで召喚された時もあったが、あれは肝心の顔が頭から掛かる長布に隠されて見えなかった。物語が進めば素顔が明かされたのかもしれないが、文庫本の続きがでる前に自分は既にご臨終チーンの南無阿弥陀仏。

 

 もし両方アバター再現できたのであれば、もう一時間くらいは悩んでいた自信がある。

 

 

 

 ――そういうわけで……決定した。

 

 身長はアバター作成画面に設定されていた最高上限の250cm。七三分けに自然な感じで刈り上げたような金髪の髪型に、雄大さと余裕さを醸す目と彫りのある顔立ち。口元の上に乗った風格を感じさせるチョビヒゲ。筋肉はもちろんモリモリのムッキムキ。

 アルファベットでプレイヤーネームは【Escanor】。

 

 『七つの大罪』――〈傲慢の罪(ライオン・シン)〉エスカノール、完成である。

 

 完璧だ。作り終わったアバターの姿を全身ミラーで見たときはもうその時点で軽く達成感を覚えてしまった程で、憧れのキャラが近くにいる(というか自分)というのはそれだけで感動モノであった。

 

 

 そうしてとても満足はしているのだが……、いざ戦闘となると問題となる点が幾つかある。

 武器を用いての近接戦において、『間合い』はかなり重要なファクターだ。だが、この250cmという身長は慣れ親しんだ現実の感覚とそこら辺かなりの差異がある。目線の高さやリーチの違い……。今世の自分の身長は同年代と比べてかなり高い方だが、身長250cmなんていう世界を探しても一握りしかいないであろう人間の括りには、流石に入っていない。

 そしてもう一つ。体が大きいということはそれだけ攻撃を受ける的の面積が増えるということだ。プレイヤーのステータスは、アバターの身長や体格には左右せれるわけでもないので、敵の攻撃を掻い潜ったりする回避行動や小回りを生かした戦い方は小さいアバターより難しくなるだろう。まぁ、大きいには大きいなりの利点があるが……。

 

「慣らしていくしかあるまい……」

 

 軽く口調を意識しながら、鼻でフーッと息をして右肩に斧を担ぐ。

 この片手斧も、銘にライトと入っているからか思ったより手応えが軽く、ただでさえ少し頼りなく感じてしまうであろう初期装備がこのマッチョボディのせいで、もはや少し造りの良いおもちゃに見えてきそうだ。

 

 

 ……そうこう考え事を巡らしていると、軽やかなサウンドエフェクトと共に五メートルくらい先のフィールドで青いイノシシのようなモンスターがポップした。

 

「ふむ」

 

 目線をイノシシに合わせると、赤よりピンク色に近いカーソルと一本のHPバーが表示される。

 近づいてよりイノシシを注視すれば名前も浮かんできた。英語表記でおそらく読みは《フレンジーボア》。

 

「やはり非攻撃型(ノンアクティブ)モンスターですか……」

 

 ノンアクティブモンスターとは、自発的にプレイヤーを先制して攻撃しないモンスター、またはプレイヤーを感知する知覚範囲が極端に狭いモンスターのことである。

 このフレンジーボアはまさにソレのようだ。その証拠に歩いて近づき、もう間合いが二メートルを切ったが、いまだにこれといった反応がない。

 

「いくらポリゴンにより生成されたデータの塊――本物の生き物ではないとはいえ、こうも無防備な姿に武器を振り下ろすというのは、モンスターといえども気が進みませんね」

 

 とは言え、そんなことをいちいち気にしていたら一生戦闘なんて始められない。

 力を込めず半ば自由落下に任せるように斧を振り落として当て、4、5歩下がって距離を取る。そんなグダグダな感じでこの世界の初戦闘が始まった。

 

「ブォ……!」

 

 ボアがようやくこちらを認識し、前足で何度か地面を擦るように蹴って力を溜めるようなモーションを見せる。そうして次の瞬間、突進してきた。

 

「……」

 

 とりあえず突進が当たりそうな直前にスッ、と一歩ステップを踏み避けてみる。するといきなりびっくりするような方向転換でこちらに攻撃――するようなこともなく、三メートルほど過ぎて直進し止まった。

 およそ服一枚差の紙一重で避けてみたが、余波のようなアタリ判定でダメージを貰ってHPが減るということもないようである。

 

 初手の様子見は終了。さて、次は攻撃だ。

 

「フン!」

 

 再度突進してきたモンスターの横っ面をブッ叩くように右から薙ぐ。フレンジーボアのHPの減りは一割いくかいかないかという所。

 

「さて《ソードスキル》、でしたね……」

 

 先程と違い突進を終えた後のフレンジーボアを、後ろから斧特有の遠心力を利用し連続で斬りつける。

 

 そうしている内に振り返って反撃しようとしてきたイノシシを……右手を掲げて待ち構える。

 規定された構えをシステムが正確に認識し、掲げた斧の刃が紫色に輝いてサウンドエフェクトを響き渡らせる。

 

 だがそれを何とも思っていないかのように敵イノシシが、その牙を使って攻撃しようとした、直前。

 

 

「おこがましい」

 

 

 その鼻っ面が重厚な衝撃音と共に打ち抜かれた。強烈な一撃によって頭部が減り込むように地面に沈み、半分以上残っていたHPゲージがかなりの勢いで一気に減少して――

 

「プギィ…」

 

 情けない鳴き声を残して、ポリゴン片となって砕け散った。

 爆散したポリゴン片が肌と髪が軽く煽り、討伐の余韻を感じさせる。武器を振り下ろした体勢からゆっくりと上体を起こし、ゴキゴキと首の骨を鳴らす仕草をしてみれば、少し力んでいた体の力が程良い心地で抜けていくのが伝わって来た。

 この仮想世界に降りてからもう何度目かの感慨を、薄く目を閉じて噛み締める。

 

 

「ふぅ……………」

 

 

 ……正直に言おう。ヤバイ、めぇっっちゃ楽しい。気分が乗ってキメ台詞まで口走ってしまったが、これはハマる。この本物のような手応えと、まるで本当に自分が最強になってしまったかのような感じが爽快で堪らない。

 ニヤけてしまいそうな表情筋を必死に抑えつける。そんなことすればエスカノールのキャラ崩壊だ。どうやって笑うにせよ、戦闘でのエスカノールの笑みはどんな相手をまえにしても変わらない圧倒的余裕と傲慢さから来るプライドの笑みだ。弱っちい雑魚を倒して悦に入ってするような気持ち悪いニヤけ面では断じてない。

 ロールプレイングしているのだ。せっかく演じているものがあっさり崩れれば自分のテンションも下がるし、どこから他人が見てるかも分からないのだから油断できない。まぁ、さっきのキメ台詞を聞かれてたらそれはそれで恥ずかしい思いをすることになるだろうが……。

 

「さぁ、ここら一帯を狩り尽くすとましょうか」

 

 こんな感じで初戦闘を終え、それから少し心躍らせるように本格的なモンスター狩りへと繰り出した。

 

 

 

 ▲   ↘☀ ▲

 

 

 

 あれから何戦かする内にいくつかの発見もあり、要領もだいたい掴めてきた。

 

 そこら辺に落ちてる石ころをボアにあててタゲ取り→突進してきたところを顔に振り下ろすように一撃、返すように下から脇を切り上げて二撃、最後に尻の部分を追撃するように回転を加えた薙ぎの通常三連攻撃→次に来る突進に合わせて初級片手用斧ソードスキル《ディザスト》で、叩き潰すようにしてチュドン。この流れが一番安定する。

 他にも、使用可能な別のソードスキルを試してみたり、左手に武器を持ち替えて戦ってみたり、わざと戦闘中に別のモンスターのタゲを取って多対一の戦闘を行ったり。 

 

 楽しみながら飽くことなく狩り続け、もう何十体目かも分からないフレンジーボア討伐の後に、表示されるリザルト画面を確認し終えたその時。

 

「そこの大きい人――ごめ―――ん!! そっちにモンスターがいっちゃった―――!!」

 

「…む?」

 

 斧を担いだまま声のした方に目を向けると、確かにこっちに向かってくるフレンジーボアとそれを追いかけるように走ってくるプレイヤーが確認できた。

 それを見て何を言うよりも先に、慣れた要領で担いでいた斧を掲げるようにして構え、システムを呼び起こす。

 狙い澄ました通りのジャストタイミングで、紫色の軌跡を描いた振り下ろしがボアの脳天に直撃してポリゴン片へと爆散させた。

 

「おっと?」

 

 唐突に響いたファンファーレの音。出現したリザルト画面を確認すれば、『 Level up! 1→2 』の文字が。確認してたのでだいたい予測できていたのだが、ちょうど今だったようだ。

 ステ振りへと移行した画面を一旦閉じ、こちらに向かってくるプレイヤー二人の方へと顔を向ける。

 

「ほらユウキっ! あなたが調子に乗ってモンスターを蹴っ飛ばしたりするから、他のプレイヤーの人に迷惑が掛かっちゃったじゃない」

 

「えへへっ、ごめん姉ちゃん……。そこのおっきいおじさんも、ごめんなさいっ!!」

 

「いえいえ、構いませんよ。おかげで丁度レベルアップもできましたし」

 

 元気よく頭を下げてくる少女プレイヤーを微笑ましく思いながら、気にしてないとフォローする。流石にこれくらいで怒るほど狭量ではない。

 

「へへっ、ありがと! ボクの名前はユウキ、よろしくねっ!」

 

「私はランと言います。妹がすみませんでした……」

 

「エスカノールと言います。お二人は姉妹ですか?」

 

「うん! ボクの方が妹で、双子なんだっ♪」

 

「そうでしたか、どうぞよろしくお願いします」

 

 握手を交わしながら軽く挨拶をしていく。元気な様子で腰まで届きそうな長いアメジスト色の髪に赤いヘアバンドをした方がユウキで、同じくらいの長さの水色の髪を小さな白いリボンでサイドの少し低いところを一括りにしてる落ち着いた雰囲気の子の方がランだそうだ。ふたりとも可愛らしい容姿のアバターで、外見年齢は中学生くらいに見える。

 リアルで双子の姉妹だということに少し驚きを覚えたが、これ以上現実の話にツッコむことはネットゲームのマナーとしてタブーなので自重。

 

「ねえねえ、おじさんっ!! よかったらこれからボク達と一緒にフィールド攻略しない?」

 

「おやっ、それは嬉しいお誘いですね。今までソロでやっていたので、ランさんもご迷惑でなければ是非ご一緒させて頂きたいと思いますが……」 

 

「ふふっ、はい、私も構いません。よろしくお願いしますね、エスカノールさん」

 

「よろしくお願いします。では、早速行きましょうか」

 

 二人ともほとんど初対面だが、どちらも良い子そうなので悪いようにはならないだろう。他の人間と協力して遊ぶのもネットゲームの醍醐味だ。

 提案をありがたく受け取り、今度はパーティプレイでの探索を楽しむことにする。

 

 

 

 ……なお、ムキムキのオッサンが年端もいかない美少女二人を連れて歩くという犯罪的な絵面については、全力でしらないフリを決め込んだ。

 

 

 

 ▲    ↓☀▲

 

 

 

「んっ、んん~~~! あ~楽しかったっ!! ボク人生で一番楽しかったかも!!」

 

「そうねっ、私も楽しかったわ。エスカノールさんはどうですか?」

 

「ええ、とても楽しめました。これが手軽に毎日遊べるんですから、科学の進歩様々ですね」

 

 あれから変わらず三人でこのゲームを遊び倒し、気づけばすっかり日が赤く焼け夕刻となっていた。この世界の時間周期は現実のソレと同期しているそうなので、ログアウトして現実で部屋の窓を開ければ時差のギャップにそう戸惑うことはないだろう。

 だが、今目の前に広がる夕焼けの景色への感動は、絶対に現実では味わうことはできない。草原フィールドの端を抜けた場所にある丘から目に映る偽物の太陽は、本物以上に胸に響いてくる。

 

 まさしく異世界だ。自身が別世界に転生したんだということを、一番強く実感する出来事がこんな形で訪れるとはまったく思わなかった。

 

「――もうそろそろ五時半ですか……。すみませんエスカノールさん、私たちそろそろログアウトしないといけない時間みたいです」

 

「あーそっか~、ボクもうちょっと遊びたかったなぁ~~」

 

「我が儘言わないの」

 

 この二人と行動するのも楽しかった。ランは曲刀、ユウキは片手用直剣使いで、歩き方や仕草からアバターの中身は本当に女の子だと思うのだが、剣の構えや扱いがなかなかサマになっていた。素人目だが二人ともかなりのセンスを感じ、競争するように行ったモンスター狩りには熱中したものだ。

 相変わらずの姉妹仲の良さを微笑ましく思いながら、また会えることを楽しみにしつつ別れの挨拶をすることにする。

 

「今日はご一緒出来てとても楽しかったです。また機会があれば」

 

「うん!! …あ、そうだっ! またいつでも会えるようにフレンド登録しとこうよ!!」

 

「私もぜひお願いしますっ」

 

「そうですね、こちらこそ」

 

 ここ数時間のことを頭の中で振り返りながら、しみじみ思う。転生して普通に生活してこんな世界に触れて、なんとなく辿った道でこんな未知や興奮、楽しみを味わえることができているのだから人生何が起きるか分からないものだ、と。

 

「じゃあまたねっ、エスカノール! また一緒に冒険しようね!!」

 

「それでは、エスカノールさん。また今度」

 

 順にフレンド登録を済ませ、最後に挨拶してくる二人にまた、とわらい返す。

 

「………あれ、…アレっ?」

 

 そう。本当に予測できなくて、何が起きるのかその時まで分からないのが人生だ。例えば、こんな―――

 

「「「!!」」」

 

 システムウィンドウに向かって戸惑うようにしていたユウキの声を突如、リンゴ―ン、リンゴ―ンという荘厳な鐘の音が覆い隠すように鳴り響く。

 驚きに対してどうこうする間もなく青白い光が、三人を包み、このアインクラッドに存在するプレイヤー全員を包んで行った。

 

 

 ……なんてことはない、人生はいつでも急で――。

 

 アインクラッド全プレイヤーを包む青白い光が全て消失するまで、鳴り響いた鐘の音。――その音は、思わず噛み締めたくなるような幸福を一転、誰もが顔を覆いたくなるような絶望へと叩き落すことを告げる始まりの音色だった。

 

 




紺野姉妹の設定、まだ割とフワフワです。

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