アルトリアは精いっぱいやって来たと思う。苦しい事も哀しい事も在るにも拘らず、理想の王として獅子奮迅の働きを続けてきた。
エクスカリバーの鞘のお蔭でなまじ無茶した事が出来るからと、無理に無理を重ねてきた。
ああ、世界よ、そんなに彼女の事が嫌いか。
彼女に
小さな視点で彼女に味方する振りをして、大きな視点では彼女を嘲笑ってそんなにも楽しいか。
ああ、愉しい、きっと貴様は愉しい筈だ。私だって邪悪の端くれ。その感情は大いに理解できる。
公明正大なお題目の為に理不尽な暴力を振りかざす事は真に気持ちが良い。
それを理解できる。他でもない私は『 』だからだ。
良いだろう。世界よ、貴様がブリテンから目を逸らさずにはいられない様にしてやろう。
私を見るがよい。ブリテンなど視界にも収める余裕無い程強大で恐怖たる私の姿を。
―――――――――――窮極形態『其は世界を食み侵す者』解放
誰もが恐怖する宇宙的恐怖。抗えない絶望の象徴。全ての本能に拒絶を告げるもの。
悪を敷く者。世界の怨敵。星の宿敵。永久を過ごす悪夢。それは―――――――――
本来世界を通さずに繋がれるチャンネルを持って、以前滅ぼしたヴォーティガーンの肉体の持ち主を含む精神体と、
世界の裏側ですらない外側の接続を承認。
本来単体では持ち得ない群体としての力を私一点に集中させる。蜘蛛にも遊星にも全てに対峙出来る究極にして窮極の力。
これを以って、私は位階を駆け上がり、一つの世界となる。
真の姿を解放した私は、何よりも悍ましく、何よりも恐ろしい姿であったはずだ。
キャメロットからなるべく遠くへとやって来た私を追ってきた少女にもそう映っているはずだ。
悲しいという『彼女』がくれた感情が行動にブレーキをかけようとするが、
それ以上に『彼女』が与えてくれた愛故に、この行動を止める術は無い。
「カリバーン、貴方はっ!!」
追ってきた我が愛しい仔が叫ぶ。
その声を打ち消す様に私は言う。
「愛しき仔よ、私は選定の剣の精ではありません。
この星を侵す旧き支配者です。貴方達の宿敵です」
「――――そんなこと、解っていました」
…そうだったか。解っていて尚、私の仔で居てくれたというのか。
そんな彼女だからこそ、私は進まなければならない。
「そうですか。ありがとう、アルトリア。
だが、それでも私は止まれない。
――――――――世界よ、私は此処にいるっ!!!!」
私の世界を揺るがす咆哮と共に溢れだした、邪悪で、何より世界に害悪な存在感に反応した、
全ての世界の守護システムが私に指向される。
ブリテンへの破滅が停止した。私との星の聖剣とのリンクが次いで切れた。
いよいよだ。私が、私だけが世界の憎まれ者となってブリテンの、
アルトリアの努力の結晶の崩壊を逸らす。
これが、これが私の結論だ。
我が名は『
世界よ、誓うがよい。アルトリアに救いを求める事を…。そして彼女に協力する事を。
……沈黙か? いや、違うな。守護システムの端末どもか。小賢しい。
貴様ら等羽虫にも劣る有象無象よ、消え失せろっ!!
様々な、それこそ見覚えすらある剣の群を視線で殺し、
私の体の魔力的構造をぐしゃぐしゃにする私には無意味な攻撃を敢えて咆哮で消し飛ばした。
ありとあらゆる守護システムの端末の果てに、7騎の端末が私の前に出てきた。
今までの端末共とは格と言うものが違う。
だが、貴様たちに負けては世界がアルトリアに縋るという目的が達成されない。
其れでは宜しくない。故に滅ぼすしかない。
1騎が私に死を付与した。
私は死すら超越する存在。刹那の間に永劫の眠りを飛ばす事でそれを否定。
1騎が私の行動を予測して固定した。
私はその思考を奪い取り正気を負の数値まで引き落として発狂させた。
1騎が私を切り裂いた。
私は星と繋げた神経を代償としてカウンターを与えた。
1騎が私の心臓を射抜いた。
私は世界と成り果てた。故に全ての細胞が脳細胞であり心臓の細胞であり、神経細胞であり、それ以外の細胞である。無駄だった。
1騎が極限の貫通を施した。
私はそのエネルギーを咀嚼した。
1騎が力の限り拳を振り抜いた。
私はそれに力で押し勝った。
1騎は世界を乗り物として激突してきた。
私はそれをひっくり返して沈めた。
故に――――全滅。
さあ、さあ、さあ、世界よ。アルトリアに救いを乞うのだ。
そしてその恩義に報いて存在してゆくがよい。ははははははは。
私のその願いに応える様に、我が愛しき仔は私と決別した星の聖剣を持ち、光を讃えるそれを構える。
そうか、世界が屈したか。ああ、それは良い。
この後で、アルトリアに手のひらを返す恥知らずなものでなければ尚の事良い。
そう願う私に彼女は告げる。
「……こうするしかなかったのですか?」
「こうするしかなかったのです……。」
言葉はそれで十分だった。
「エクス……カリバーッッ!!!!」
彼女の泣きそうな声であげられる咆哮を聞きながら、私はその役目を終えた。
これにて『彼女』と子孫たちを愛した蟲のお話は終わりです。
後愛読ありがとうございました。