可愛い我が仔の敵、それは私にとっても敵である事は言うまでもない。
サクソンジン――サクソン人を伴って、ブリテンを我が物としようとする売国奴ヴォーティガーン。
私は彼の者を討伐せんとするアルトリアに付き従い戦場へと出る事にした。
私は単騎で敵の奥深くまで駆けていく。アルトリア達との距離差は約700m。
敵の奥深くにおいて完全に孤立した私を、捕らえて犯さんとした者を引き千切る。――啜ったところ味はまずいが、本能的に心地良い。
その様子に恐怖した兵の1人が私に向かって槍を繰り出したが、避けるにも値しない。
私の目に突き刺さることなく槍は角膜に接触したところで停止。単純な強度の問題だった。
後は、意図的に私が留めていた部分を解放する事で『土質』と認識し、槍先を分解。
私の種族はありとあらゆる鉱物を砂として体感できる。高々金属が触れた程度でどうという事では無い。
単分子単位の擬似神経糸を展開・延長。半径500mの敵性存在を上半身と下半身の分け目で切断。
其々に神経を接続して、操作端末として使用。肉体改変を実行。
上半身には腸の脚を。
下半身には腸の腕を。
更に自らの血肉を掻き出させて肉体を拡張させる。
さあ、逝け、往け、『
同胞の血肉を浴び、自らの身体を補完、成長させるがよい。
矢として骨を放ち、我が意の物と堕ちる毒性と化した血をバラ撒くがよい。
どうせ一昼夜の命に過ぎぬ身で、存分に我が仔の敵同士で滅ぼし合うがよい。
端末に貶めた身であってもこの程度は造作も無い。
私は追いついてきたアルトリア達に、敵を敢えてこの姿にしたことで、
まだ敵対している存在と操っている存在の区別がつく事を説明した。
少々、ベディヴィエール辺りは顔が蒼かったが、それは我慢してもらうしかない。
私の『旧き支配者』としての残忍性が久しぶりに芽吹いてしまったのだ。長らく封じてきたから仕方がない。
対照的に、マーリンは普段と全く変わらない様子で私に、
「服が血で真っ赤なので、お風呂に入らないといけませんね。
その時は私も一緒に―――」
と言っていたので、取り敢えず蹴り倒しておいた。
その後、大地から鉱物を操作して数千本の刃で森を構築したりしながら、サクソン人を屠り、
序に、地中の眠りから地表に起こしあげた鉱物は後で回収するようにトリスタンに命じておいた。
かくして私とアルトリア達はヴォーティガーンを追い詰めた。
ヴォーティガーンは追い詰められたというのに、未だ勝機がある様な態度であった。
その理由はある尖った硬質の剣の様なものだった。其れは間違いなく私には触手だと判断できた。
とある地方で倒された竜の遺骸の一部。仮面のように加工された剣。
それは、私の兄弟足り得る存在の細胞の塊だった。
「おれは人間をやめるぞ!」
ヴォーティガーンはそれを使い、私の兄弟の生前の姿へと再生した。
厳密には肉体としてはヴォーティガーンを喰らった我が兄弟が再生したというのが正しい。
思えば、その個体は再生能力に長けた大柄な個体であったと記憶している。
正直そこまでの再生力があったのなら、もっと早く生き帰ってくれればと思わなくもないが、
今現在、生き帰った結果意識は完全にヴォーティガーンであるところを見るに、
その精神体は既に喪われていたのだろう。私の兄弟の精神体がこんなに柔い筈が無い。
聖剣エクスカリバーの保持者アルトリアやその兄弟剣を持つガウェインを中心に攻撃を仕掛けているが、無駄だ。
私の種族は偉大である故に、ある程度の物理衝撃や熱量には滅法強い。
そうでなければ地中を掘り進み、地球の灼熱の心臓から体液を啜る事は出来ない。
加えて何らかの関係で鉱物粉砕能力は大幅に失われているようだが、その粉砕能力はヴォーティガーンの爪にのみ残り、
全てを切断する刃として機能している。
ヴォーティガーンの肉体が為し得る行動パターンは解析できる。―――そろそろ来るはずだ。
ほら、予想の通りヴォーティガーンの爪が射出された。
ボーっとしている羽虫がその直線状に居たので、大地から私の情報を染み込ませた触手を構築し其れを防ぐ。
同類である私の情報が含まれる構築物に分解能力が作用するものか。
「羽虫らしく、嫌がらせに徹していなさい。
止まれば潰されるという事も理解できないのでは所詮下等な蟲という事に過ぎない。」
一応の助言は出しておく。あれでもアルトリアの端末…もとい部下の一つだ。
正直、端末に全てを移した身では、ヴォーティガーンの様に全力は振るえない。
だが、此方にはアルトリアがいる。我が仔を護る事に執着した偉大なる種族特性を舐める事が許されないのは、
その肉体が一番よく知っているだろう。
さあ、戦闘用に肉体を第2形態でも、第3形態にでも改変して掛かってくるがよい。
その全てを無駄だと断じてやろう。
ヴォーティガーンは私の精神感応による挑発を理解したのか、いきなり第4形態にまで肉体情報を改変した。
もはや、人間がシンワとやらで語る存在へと成り果てた。
だが、肉体改変を終えたばかりの体表殻は脆い。
まだ完全に硬化していない。
変身しても良いとは言ったが、まさか、変身した直後でも此方の最大攻撃力の総和に耐えられるとでも思っていたのか?
だとしたら、私を、いや、私の愛しき仔を愚弄し過ぎだ。
「アルトリア、エクスカリバーを最大展開で薙ぎ払いなさい」
「ですが、このような怪物が相手では…、聖槍に切り替えなければ…」
「剣の霊たる母を信じなさい。その為の力は供給させます。
私は星の弱みは存分に握っているのですから。
後は、貴方が望むだけです。――汝、力を望むか?」
「――望みます」
宜しい。ならば偉大なる種族の直系王族として生まれた特殊個体たる母だけの力を見せよう。
世界よ、私達を舐めるな。
両手を地に着ける。
部分開放、――――――――第7形体解放。
両手の地面に触れた指先だけを改変し、フェムト単位の神経を構築。
土質破砕情報を纏わせて超々高速で降下。――星の心核に到達。
誤情報操作。星の聖剣を使用する者に急激な出力低下と強制認識付与。
情報改変(偽)への反作用で無理矢理出力の上昇を容認。
貫くがよい、引き裂くがよい、焼き尽くすがよい。
我が兄弟の肉体に寄生虫の様に巣食った埋葬に能わぬ精神体諸共葬り去れ。
兄弟よ、安らかに眠るがよい。いずれ私もそこに逝くだろうから。
「討ち放ちなさい」
「はい…。エクスッカリバァッッッーーー!!!!」
窮極にして極限、その先にある閃光がブリテンの空を灼いた。