これが、――――これが怒りか。
羽虫男に覗かれた時も、羽虫男が今から寝ようとするときに話しかけた時も、羽虫男に厠にまでついてこられた時も、
激怒はしたが、ここまで怒りを持った事は無かった。
この感情は『彼女』を連れ去られた時以来だ。
ペリノアという個体がアルトリアに嫌われる様な事を行い、
激昂したアルトリアに背後から切られた男がいた。
背後から切りつける卑怯とされる行為により、騎士の剣であるカリバーンは誓約により砕ける事を宿命づけられた。
長く『カリバーン』の名を騙り過ぎた為か、永くあの剣が身に刺さっていた為か私自身にも切り付けられたような痛みが発生したが、
それに耐える事は出来た。また、私が制約の代償を肩代わりしたために、選定剣カリバーンはヒビが入るに留まった。
私がカリバーンの制御をこれからの時を過ごしながら奪っていけば解決の糸口があると思っていたが、
私とカリバーンの繋がりを見抜いた
マーリンは選定剣カリバーンを、湖の乙女の所に持ち寄りEXカリバーン――エクスカリバーとして再生する事を試みた。
再生したエクスカリバーは過分に星の側に寄った性質を持っていた。
その存在自体が星の怨敵たる私にとっては毒のような存在であったが、それは充分に耐えられる嫌悪感の様なものであった。
そもそも我が兄弟と呼んでも大きく外れでは無い個体が、
選定剣カリバーンの元となった原初の魔剣から派生した幾つもの武器によって竜として討たれたのだ。
第一、私だって選定剣カリバーンに封印されていた存在だった。
まあ、私はそんな程度の事でここまで怒るものではない。
星の聖剣となった勝利の剣は、繋がりを持つ私に、ある事を教えてくれた。
世界にとっての怨敵にブリテンがなり得ているという事実を。
それは、アルトリアの努力を嘲笑うような吐き気を催す邪悪に私は感じられた。
ブリテンを蝕む世界の意志を理解できた。
そうか。世界が私を相手にしなくなったのはそう言う事か。
……いいだろう、覚悟しておけ。
私は『彼女』の系譜を守護する者。
来たるべき
それまではただ彼女の元に侍り、彼女と共に戦う無垢なる剣の現身としてあろう。
魔でありながら聖を騙る魔を断つ剣としてあろう。
誓約は此処に。私は最後に残された偉大なる種族。其は星を食み、世界を侵すもの。
そして彼女を守護し、彼女の守護するものを守護する純粋な力。
私の名はカリバーン。絶対の勝利と栄光を『彼女』の系譜に齎す守護の竜為り。
ところで、私が生存している事で良い事はあった。
守護竜カリバーンが生存している事で逆説的に騎士の王はカリバーンの制約を完全に裏切った訳では無いと認められた。
少なくとも、民衆にそう知られている事はアルトリアの救いになれたのではないかと思う。
ペリノアという個体にとっては、斬られた上に、それが騎士道から完全に外れたものでは無いとされるのでは不本意だろうが。
また、繋がった剣がエクスカリバーとなった私には肉体の変化もできた。
何故か哺乳動物を象徴する胸部が大きくなった。勿論姿など直ぐに戻せるので問題は無いが、
エクスカリバーの性質がアルトリアの成長を阻害するので、永久に若い彼女を抱きしめるのに悪くない姿だとは思う。
だが、それを目当てに羽虫の様な雄性たちが増えたのは実に面倒だが。