「アルトリア、私の製作した洗浄剤で湯浴みを推奨――…希望します。
髪にも身体にも使える材料を選定した。御揃いの匂いになれます」
「…ちょっと恐いですね。
まあ、良いでしょう。今日は汗をかきましたから」
私がアルトリアと共に男性の吸って吐いた空気の穢れを落とし、
匂いを共有する極めて価値の高い行動を行おうとした時だった。
「浴場の話をしよう」
羽虫が来た。
思わず分解したくなってしまった。
この羽虫がしたいのは
〇ま●ー○り●ん○
あっさりと今日も袖にされた僕は、愛しのカリバーン(…まあ本名かどうかは解らないけれど、
彼女がそう自称する以上僕も仮にそう呼んでおく。)に今日も振られた。
彼女に振られるのが何回目かは数えていない。
これでも彼女に恋を学ばせて貰う以前は、彼女を排除すべき危険だと認識していた。
彼女は、世界の怨敵。星の宿敵。――旧き支配者だった。
滅せなければ世界に未来は無い。生きていれば世界に巻き添えを喰わされる。
生きた危険そのものだった。
だが、何故かは判らないが警戒し、危険視するうちに恋に落ちていた。
その具体的な理由は解らない。特に理由が無いのが恋なのだろうと今なら解かるけどね。
敢えてよい所を述べるなら声、そして匂いだ。
フワフワと気が付けば引き寄せられる僕を彼女は何時も羽虫と呼ぶ。言い得て妙だとは思う。
さて、僕は今から征まなければならない。
同志、トリスタン、ランスロット。
男として為さねばならぬ難問に、汝、神の摂理に挑む者か?
「貫き通すのがジャスティスです」
「…男ですから」
再度彼らに命を賭ける危険について説く。しかし彼らは揺るがない。
「切なる叫びはこの胸に」
「我らは明日への路を拓く」
愚問だったよ。心に無垢なる翼を生やした者に失礼な問いだった。
では、いざ往かん目の奥に理想郷を焼き付ける為に。
慎重に慎重を重ね、此処に至るまでに積み上げた魔術と体術を駆使して音も無く、浴場へ向かう。
そこにある美しいものをみたい。そんな純粋な希望を胸に。
浴場の話をしよう。
この王宮の浴場には隣接する部屋が数か所ある。
そしてそのうちの一つは物置小屋の予備となっており、誰も住んでおらず、鍵もかかっていない。
つまりはそういう事だ。
少々、穴をあけておいても問題は無い。
そうだろう?
「マーリン、貴方は天才だ」
「違いない」
僕達はその部屋に入って美しいものを眺める事を試みた。
だが、その穴の先に見えたのは『目』だった。
トラウマになりそうな光景だとも思うが、僕はその目を美しいと思った。
うん、完全に現実逃避をしていた。
壁が砂のように崩れた。
アルトリアが用意させていたのか、彼女が用意したのかはわからないが御揃いの布を身に纏っていた。
獅子の絵をあしらった布の上からでもはっきりわかる、身体のラインも美しい…。
僕はその瞬間を忘れないと心に誓った。
どれだけ頭を殴打されても決して忘れないと。