大地に巣食う蟲   作:蕎麦饂飩

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種族全体としての大まかなグラフィックイメージは、トライガンに出てくる砂蟲(ワムズ)です。


うばわれたもの と かえってきたもの

私達はこの星に旧くから住まうものだった。

それこそ猿が二足歩行の毛無し猿に至るよりも旧くからだ。

 

多分に触手の生えた外甲を着込んだミミズ。

敢えて他の動物を起点に私の姿を示すのならそう示すのが良いだろう。

 

砂地を好むが、岩壁であっても問題は無い。

私達が触れた岩は瞬く間に砂になる。少々進行速度が遅くなるのが欠点だ。

陸上の生き物が足が着く水中で移動する感覚に近い。

以前、動物に触手を呑み込ませて寄生された端末化した時の感覚では、その感触が酷似していた。

 

私達は、他の生き物に体の一部を忍び込ませて寄生する事が出来る。

寄生する事でその生物の本能に近い行動形式を理解・模倣できる。

 

私の仲間達とは、互いに触手の一部を受け渡し合う事で、

離れた場所に居ても常に意思の疎通が可能な群体として、

また、有性生殖を行う際の道具としても使用できる。

 

私達の遺伝子は急速に変化する性質を持っており、翼が生えた私達や、四肢を持った私達も存在する。

二足歩行の毛無し猿達は、私達の事をワームだとかグラボイドだとかドラゴンだとか呼称した。

 

 

そんな私達の仲間だったが、急速に数を減らしてきた。

エイユウと呼称される強化型の二足歩行の毛無し猿達による強襲であったり、

世界の裏側に引き込まれていくものであったりした。

 

それは、何処か不快な事だった。

 

 

 

私の個体としての特徴は純白である事。

個体を登録番号以外で呼ぶ必要がある時には『白いの』と呼ばれていた。

 

まあ、それはどうでも良い。

私はとある丘を縄張りとすることにした。

元々、種族的な特長としてこの星の内部を縦横無尽に、それこそ星の灼熱する血液を含めて食い破り、

星全域の地形情報を把握して仲間内で共有化して、星の全てを解き明かす事を目的としていた。

故に、留まる事も休む事も無かったはずだった。

 

だが、ある時リンクが意味をなさなくなった。

それを以って、私達の種族が私を除いてこの星からいなくなったのではないかと私は理解した。

故に、私は種族としての私達の責務を放棄した。

周辺の地形から、魔力密度が高い場所を探し、其処を縄張りとすることにした。

 

ある丘の遥か深みをねぐらとして長き時を過ごすつもりだった。

だが、ある時雌性の二足歩行の毛無し猿が私のねぐらへと逃げ込んできた。

 

私はそれを喰らっても良かった。

基本的には魔力に満ちた鉱物の方が主食であるが、時に星では無く、星が生んだ(生物)を喰らうのも娯楽であった。

 

 

幼い雌性の二足歩行の毛無し猿は私を視認して停止した。

その後ろから雄性の二足歩行の毛無し猿達がやって来た。

 

私はそこで娯楽を思いついた。

幼い雌性の二足歩行の毛無し猿を匿う事で、何処まで雄性の二足歩行の毛無し猿達がこのねぐらへと入ってくるかを確認したくなった。

 

結論からすると、それはとどまる事を知らなかった。

幼い雌性の二足歩行の毛無し猿は、配偶する対象へ群れのボスとなる権利を与える特別な個体だった。

 

 

その特権を巡って、雄性の二足歩行の毛無し猿達が太陽と月が何度入れ替わる時にも諦めずにやってくるのだった。

幼い雌性の二足歩行の毛無し猿は自分の事を『オヒメサマ』と呼称した。

 

雌性の二足歩行の毛無し猿は『ニンゲン』または『ヒト』等と呼称すると私に一方的に話しかけていた。

『オヒメサマ』は私が高い知能と、時折やってくる雄性の『ニンゲン』に端末を忍び込ませ、

その端末に脳を喰らわせた後に、端末を捕食する事で知識を増す事を理解していなかったようで、

一方的に私に話しかけていた。私から返答があるなどと想像もしていなかったようだった。

 

 

私が生きてきた中で一番、不思議であり、心地の良い時が流れていくのを感じた。

彼女を大切な個体として認識していく自分に、脳の構造さえ変化したことを感じた。

流石に私の種族は変化が早い。自画自賛してしまうのも仕方がないと言えた。

 

 

そんなある日、彼女(・・)は言った。

 

「私、怪物さんのお嫁さんにならなっても良い」

 

それは、人間の最大限の好意(行為)であるという事だと私は理解した。

その行為に値する存在を子孫を共に残す対象とするという機構であると私は理解した。

 

「私が、雄性だと何時決めた?」

 

私が初めて人間の声を分析して造り出した音に彼女は大層驚いた。

私はこの時、彼女が意味を持つ記号として認識できる音を、上手く発せていないのだと思想していた。

だが、そうでは無かったようだった。

 

 

「……喋れたの?」

 

そもそもの認識の前提が違っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある時、私は『世界』というべき網に囚われた。

私は私達本来の認識符号を無理矢理音声化した咆哮を上げて叫んだ。

力の限り叫んだ。

だが、私は網に囚われたままだった。

このまま世界に引き摺られてなるものか、私は世界を食み貫く者『    』だ。

 

私は個体情報と力の一部を古い殻と共に脱ぎ捨て、それを囮にした。

それでも、世界は私を逃がさなかった。

私が呑み込んできた鉱物と立場が入れ替わったように、星が、世界が私を喰らおうとしてきた。

脱皮した直後で柔らかくなった身体では強い衝撃には堪えられないと思った私は必死に逃亡した。

 

私はある方向に逃げればその追跡が軽くなるのを感じた。

それは体感的なものでしかなかったかもしれないが、あの時私は確かにそう感じた。

 

その進む先に私のねぐらがあった。彼女がいた。

私は彼女が私を救ってくれたと思った。

 

私は其処に『感謝』という理念を理解した気がした。

 

だが、彼女は雄性の二足歩行の毛無し猿に無理矢理攫われていくところだった。

 

私は自身が世界に食い殺されそうになった時以上に、理解できない衝動に襲われた。

最早意味を持った記号にならない咆哮で彼女を呼んだ。

彼女を此処にかえせ。彼女の認めた王としての叫びだった。

返せ、還せ、反せ。今すぐ彼女を此処に。

ああ、『   』貴方が私のねぐらだったというのに。

 

しかし、そこで私に何かが刺さり、それを以って私の意識は閉ざされた。

これが消滅だと思った。だが、それ以上に、それ以上に私は彼女を――――――――――――

 

 

 

 

 

 

それからどれだけの時が経ったのかはわからない。

私に刺さった何かが抜かれると同時に、私の意識は浮上した。

動くことなく周囲を気配だけで探索する。

 

其処には二足歩行の毛無し猿達がいた。

私は憎しみの余りそれらを消滅させてしまおうと思った。

彼女から貰った感情の発露を、彼女と同じ種族だとは認められない雄性の二足歩行の毛無し猿共に向けようと思った。

だが、私はそれを行う事は無かった。

私は抜身の鋭利な針の様なものであったにも関わらす。

 

 

 

 

 

 

 

 

私は運命というものに出会った。

私を大地から解放したその存在こそが、彼女に何処か近しい気配を宿していると知ったからだ。

理解できたからだ。認識を超えてそうだと在ったからだ。

 

ああ、『  』。あなたはそこに居たのだ。

あの後、失われたのではなく、代を重ねてこうして私に逢いに来たのだ。

 

 

私は抑えきれない衝動に耐えきれず身を起こした。

それは巨体であっただろう。人という種族にとっては。

幼い、彼女と事を為した事は無いがそれでも我が子の様な存在が、

私を封じ込めた棘を手に恐怖心と敵愾心を露わにしていた。

 

彼女の子孫を怯えさせたくは無い。だからこそ、私は彼女を原型とした端末を精製し、

其れに自身の全てを移した。

 

 

そこで、私は彼女が私に語って聞かせた不可思議な話と、目の前にいる彼女に似た者が叫ぶ記号―――言語を総合的に組み合わせ、

誤情報を与える事にした。

 

 

「私は、この剣の精として宿る竜『カリバーン』。剣を抜いた貴方を我が友と認め、仔と認めよう。

愛しき血脈よ。貴方が貴女である限り、私が私である限りその祝を誓う事を此処に。

問おう、貴方の名は――――――――――――――」


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