Veronica Ⅱ   作:つな*

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Veronicaの覚醒

寒い  

 

ここはどこだ

 

冷たい……

 

いつからここにいるんだろう

 

寂しい

 

いつまでここにいなければいけないんだろう

 

 

 

この冷たさを私はどこかで感じたような気がする…

 

ずっと昔に―――――…

 

 

 

 

 

 

「何してやがる」

「おはよ…夜だけど……」

 

任務から帰ってきたヴェロニカは椅子の上で眠っていたザンザスの手を触っていた。

手の感触でザンザスが起きる。

 

「任務終わったよ」

「そうか」

「報告書置いといた」

 

ヴェロニカはそれだけ言うと、またザンザスの手を触り始める。

 

「おい触んな」

「パパってさ普段は体温冷たいよね」

「…」

「炎とか手の平から出すから、てっきり暖かいと思ってた」

 

一向に離す気がないヴェロニカにザンザスは諦めて再び眠る体勢に入る。

 

「何でこんなに冷たいんだろう…」

「知るか」

「私はこんなに冷たくないのに」

 

何も言わないザンザスにヴェロニカはお構いなしに話を続ける。

 

「過去を変える前、パパが死ぬ直前に私の頭を撫でた話したでしょ?」

 

「あのときね、凄く…パパの手冷たかったの……」

 

「それが怖くて…寂しくて…悲しかった…」

 

「当時の私はまだ小さかったから、どうしてこんなに心臓が苦しいのか分かんなかったけどね」

 

「だからパパの手が冷たいと怖くて…」

 

「でも…今はちゃんと生きてるんだなって…感じれるから……とても安心するわ」

 

「ねぇパパ、今暖かいでしょ」

 

 

 

 

 

寒い 冷たい 苦しい

 

ここはどこ…

 

暗くて  足場もなくて

 

手を伸ばしても何も分からないの

 

さっきまであった体温がどこにもないの…

 

 

怖い  恐い…

 

 

ここは寒い 冷たい 苦しい

 

 

助けて――――――――………

 

 

…………ピキ……

 

 

助けて……

 

 

……パキ……ピシッ……

 

 

   ❝ヴェロニカ❞

 

 

 

一瞬だけ手の平に温もりが宿ったような気がした

 

 

 

パリィィィィン

 

 

 

 

「…げほっ……」

 

 

ドサリと自身の身体が地面に転がり、手に伝わる感触は固い床だった。

 

「はっ……はぁ……ふっ……」

 

次に息苦しさと、胸と腕に鋭い痛みが走る。

 

「ぅぐっ……」

 

ガシャン、と氷が砕ける音と共に、痛みでまともに動かない体を無理やり動かせ床を這いずる。

口から滑った液体が零れ落ちるのも気にせず、壁際まで這いずっていく。

そして体を起こし壁に背中を預け、頭の中を整理しようと目を閉じる。

 

そうだ…今、パパの体にいて……

 

オッタビオが………それで九代目と…

 

……凍らされたんだ……

 

「けほっ……ごほっ…ごふ…」

 

口から血を吐き、痛む箇所を探る。

 

くそ、体内で炎を回した時に、中を少し焼いてしまったのか…

どうしてあの時、あんなに怒りが溢れていたんだろう…

自分でも分からないくらい怒ってて、何に怒っていたかも今じゃ思い出せない

ただあれは私だけの怒りじゃなかった

あれは……パパの怒りだ

自分の感情が制御出来なくて、ただ悲しくて、虚しくて、辛くて…

全てが怒りとなっていくのが止められなかった

目の前の全てを焼き払うことしか頭の中になかった

早くこの苦しい感情から逃げたくて、ただただ解放されたくて怒っていた

パパの原点を見たような気がした

ああ、あれは苦しい

凍らされている間も、寒くて冷たくて…寂しかった

 

パパはこんな苦しかったの?

8年という月日を…ずっとあんな冷たい場所で…眠らされてたの?

 

ヴェロニカは自身の手を見つめる。

 

パパの手の温度は…ここが原点だ

 

心臓が冷えていく感覚が

臓腑が筋肉が神経が凍らされていくあの感覚が

体温が下がっていく感覚が

 

とても怖かった

 

 

「パパ………」

 

少し経つと痛みが若干引いていき、力の入らなかった足にやっと感覚が戻ってきた。

そりゃ凍らされて仮死状態にされてたんだ…

筋肉が戻るのは時間がかかりそうだ

ていうかここどこだ

どっかの地下牢のようなところだろうか

窓もないし、光もないから全く見えない

 

ヴェロニカは怪我をしていない方の手で炎を灯す。

するとそこは何もない、ただの広い部屋だった。

周りをみると、奥の方に扉のようなものを見つける。

 

未だ歩けるほど回復してないし、もう少し休むか

つーかほんと原作通りになっちゃったなー

パパが16歳の頃にクーデターを起こした…ってあったし

待て、私もしかして8年眠ってたっぽい?

え、でも誰もこの氷溶かしてなくね?

死ぬ気の炎を冷却した氷は、死ぬ気の炎でしか溶けないハズだ

なら誰かが溶かしたハズだ…なのに目覚めた時は一人だった

一体誰がザンザスを起こしたんだ?

元の世界に戻ったらパパに聞いてみよう

ていうか中身が私である以上、同じ可能性は高いわけじゃない

今回凍らされて閉じ込められた場所が原作でもここだったというわけでもないし

 

 

にしてもどうしようかな

これ起きたのバレたら九代目来るよな

原作じゃ、そのままゴーラモスカんとこ行って何かして、ボンゴレリング争奪戦って流れだったけど。

ん?九代目を襲撃してゴーラモスカの中に入れるのはいつだろう。

いやいや何考えてんだ、私は別に九代目に仕返ししようなんて思ってないし

少し根に持ってるけど…つーかこれ冤罪じゃん!

オッタビオ許すまじ…ここ出たらすぐ殺す

入江無事かな…

ああああ、あの後一体ヴァリアーどうなってんだろ

原作とは違って、ヴァリアーはクーデターを画策していない

オッタビオに嵌められた…けれど…それを知っているのはスクアーロのみ…

いや確かルッスーリアにも連絡した時教えてたかな?

じゃあ仮に幹部に伝わっているとして、何故私が未だ氷に閉じ込められていたのか

あ、アカンこれ入江が口止めで殺されてそうな気がするけど…パパの直感が生きてるって言ってくれてる…

ってことはオッタビオ死んでるのかな?

オッタビオ殺したから無実の証明が難しくなって、そのままクーデター企ててたことになっちゃった感じかな…

うっそーん、じゃあこれからどうすんのさ

沢田綱吉んとこ殺しに行く?

ていうか行かないとボンゴレリング諸々どうすんだろうか…

このリング争奪戦がないと、あいつ零地点突破を会得出来ずに未来編行くってことでしょ?

んでもってそれなかったら未来のGOHSTで詰むんじゃね?

私の体内コントロールは、GOHSTの吸収から逃れる方法であって倒す方法じゃないし

これは…沢田綱吉襲撃せねば未来で詰むのか

必要的かませ犬じゃん……

正直これ今の私が行けば、絶対沢田綱吉に勝てるわ

あいつが零地点突破使っても、こちとら九代目の対決で対策が有効だと言うことが判明したわけですから

うわあ…行きたくない

でも行かないと沢田綱吉は強くなんないし、いっそ白蘭を今の時代で殺そうかなと思うが居場所分かんないし

これは入江と相談事項だな

少し考え事してたら、痛み引いてきたな…パパの体って本当に丈夫だよね

 

ヴェロニカは凝り固まっている筋肉を少し動かし、手のひらを開いては閉じて感覚を確認する。

氷の残骸へ足を向け、氷を憤怒の炎で溶かして銃と剣を回収する。

そして、奥にある扉を開こうとするが鍵がかかっていてビクともしなかった。

扉の隙間を見ると、鎖で封鎖されているのが分かった。

炎を細く糸状にして、隙間から外に出し鎖を焼き切る。

ジャラン、と鎖が床に落ちる音と共にギィィと扉が錆びれた音を出しながら開いていく。

出たところは閉じ込められていた部屋よりは明かりがあり、段々と目が慣れて行った。

長い廊下を進むと、階段がありそこを登ると大きな扉がありここも外から鎖と鍵がかけられていた。

本当は憤怒の炎でカッ消したいが、バレても面倒なので音をなるべく出さぬようゆっくりと鍵を糸状の炎で溶かしていく。

ガシャン、と外の方で鍵が落ちる音と鎖が解かれた音を確認して扉をゆっくり開いた。

まず最初に光だった。

蛍光灯の光に当てられ、手で目を覆った。

直ぐに明かりに慣れると、周りを見回す。

 

知らない場所…でも天井や壁、窓の作りがボンゴレ本部のものに似てる

窓の外が全部森だ…ボンゴレ本部にもヴァリアー本部にも直ぐ近くに森があるから判断出来ないな…

ここをボンゴレ本部と仮定して動くか

ヴェロニカは音を出さずに出口を探していた。

すると、声が聞こえてきて曲がり角の柱に隠れる。

 

「――――――で、―――――が…あはは、それで――」

 

携帯を片手に持った男が過ぎ去り、ヴェロニカはその男が出て行った扉へ忍び寄る。

そして車のエンジン音が遠くなったのを確認し、扉を開けると辺り一面の森があった。

周囲にはご丁寧に幻術が張り巡らされていて、普通ならば誰にもこの場所に建物があるこ

とすら分からないだろう。

術者にバレないよう幻術を解かずに、敷地を出るのは苦労したが、なんとか脱出出来た。

 

「どこだ……ここは…」

 

直ぐ手前の木に登り、上から辺りを見回すと、ボンゴレ本部が直ぐ隣にあった。

あ、ボンゴレ本部の別棟か

ああ、いつも本部の玄関から見える建物ってここのことだったんだ…なるほど

ヴェロニカはボンゴレ本部の位置が分かったので、ヴァリアー本部へ向かうことにした。

途中誰にも見つからないように細心の注意を払い、人のいない道を歩く。

流石に起きたばかりで走ることは出来ず、ヴァリアー本部に着くのに数時間かかった。

はぁ…起きたばかりにあの距離歩くの結構疲れるな…

肺の近くを火傷している状態で歩くのは、思っていた以上にきつかったようだ。

ヴェロニカは銃を地面に向け炎を噴射し、炎の推進力でザンザスの執務室があるであろう場所の窓から侵入する。

すると中にはピンクの髪に、仮面を被る女性が二人佇んでいた。

ヴェロニカは一瞬構えるも、彼女たちが何者であるか理解し銃を収める。

 

「お待ちしておりました、ザンザス様」

「チェルベッロか…」

「な、我々のことをどこで」

「要件を言え」

「………我々はあなた様にボンゴレリングの存在についてお話に参りました」

「話せ」

 

チェルベッロがボンゴレリングの存在について長々と話している間、ヴェロニカは別のことを考えていた。

まず、このチェルベッロ達の正体である。

ハッキリ言ってこいつら九代目直属とか言ってるけど、沢田綱吉が10代目だった時代でもこいつらの存在を知らなかった。

ってことは九代目から彼女たちの正体を教えてもらっていないということだ。

しかもだ、未来編では白蘭の手下になってたし、ぶっちゃけ九代目の直属の者達とか怪しすぎる…つか不気味。

だけれど、こいつらは原作でも正体は謎のままだったし、多分原作の矛盾を埋める役割でもしてるのかなーとか昔は思ってた。

今もそうだ、私が脱走…つうか起きたことは誰も知らないハズなのにこいつら知っていたかのようにそこにいた。

九代目も知らないのに、だ。

多分………こいつらは原作の流れに沿って、行動しているだけ。

分岐点関係なく、そうなるようにするための存在…チェルベッロ。

んでもって今行動している目的は、私にボンゴレリング争奪戦をさせるためだろうな。

ここでこいつら無視してもいいがそれを判断するには少し情報と時間が足りない。

 

「――――と、いうわけです。」

「リングは選ばれし者へ継がれることは必然、そこで10代目候補は5人」

「―――――――――に、ザンザス様…そして沢田綱吉」

「沢田綱吉?」

「沢田家光のご子息です。現在日本の並盛に住んでいます」

 

ふむふむ、原作のパパもこいつらにいい様に利用されたんだな…

にしても候補って沢田綱吉とザンザス以外に3人いたのか

うーん、パパのことだから先にそいつらから暗殺しそうだけど

 

「話は終わりだ、消えろ」

「ザンザス様、それではっ」

「消えろ、と言った…三度目はねぇ」

「……ではまた後日、伺いに来ます」

 

それだけ言うと、チェルベッロは去っていく。

チェルベッロが去っていった後の部屋は以前と変わらなかった。

机の位置も、棚も、ソファも、全てそのままだった。

書類はザンザスが凍らされる前の日付のままで置かれていた。

ヴェロニカは執務室の扉を開き、廊下を歩く。

廊下を歩き、変わらない天井を見ていると耳に声が聞こえてきた。

 

「う"ぉぉい――――イカサマ――――ろぉ"」

「――――弱いだけ―――あ、ほら―――カード」

 

懐かしい声に足の速度が速くなる。

カツカツと足音を隠さずに、声のする方へと進み、その部屋の扉を思い切り開いた。

 

「あ"?」

 

懐かしい声と共に、髪を伸ばしたスクアーロが視界に入った。

隣には背が伸びたベルと、変わらぬ姿のマーモンがいた。

ひと時の静寂の末、動いたのはベルだった。

 

「………ボス?」

「…」

 

椅子から立ち上がったベルは勢いよく抱き着いてきた。

本来のザンザスよりも若干刺々しさのないヴェロニカだからこその行動だろうか。

パパならここで剥がすかぶっ飛ばすかするんだろうなぁ…

だが残念今の私にそんなことする体力はない

 

「離れろベル」

「いつ起きたの?ボス」

「ついさっき」

「血出てるけど、どっか怪我してんの?」

「問題ない、いいから離れろ」

「久しぶりボス……僕、皆呼んでくるね……」

 

マーモンは驚きながらも、冷静に他の者達を呼びに行く。

ベルは仕方なくといった風に離れ、ヴェロニカはスクアーロを見る。

スクアーロは目を見開いて固まっている。

 

「おいカス鮫」

 

ヴェロニカの声に我に返ったスクアーロは混乱しながらも立ち上がる。

 

「ヴェ…ヴェロ――――」

 

パリン

 

スクアーロの言葉が言い終える前に、ヴェロニカは無意識に近くにあった酒瓶でスクアーロの頭を殴りつけた。

いきなりの暴挙に油断していたスクアーロはそのまま気絶する。

ベルがうっわー、とか言っているのを聞きながらヴェロニカは内心汗ばむ。

 

あっぶねー、こいつ今驚きすぎて入江出てきてたわ

私の名前言おうとしてたもん

 

「おいベル」

「何、ボス」

「どれくらい経った…」

「8年だよ……ボス……今9月9日…」

「そうか」

 

おおう、やっぱり8年眠ってたのか

寒いとしか分かんなかったからなぁ…

ベルの背が伸びてる…8年て長い

にしても冷凍期間までぴったりとは…何かの修正力が働いてる気がする

 

少しすると、忙しい足音がこちらへ向かって来て、勢いよく扉が開かれた。

 

「あぁ~ん、ボスぅぅぅぅうう!待ってたわよ~!」

「…」

「ボス!お目覚めでなによりです…このレヴィ・ア・タン…次こそは…次こそはボスをお守り致します!」

 

うるさい奴等がきた。

っていうかこいつらオッタビオが裏切ったこと知ってんのか?

 

「お前ら今回の詳細知ってんのか?」

「ちゃんとスクちゃんから聞いたわよ、オッタビオの仕業だったって…」

「そのカスはどこだ」

「スクちゃんが8年前に殺したわ」

「そうか」

 

これは意外だった

まさか入江がオッタビオを殺すとは

いや対峙して止む無く殺したのか…

 

「他には」

「えっと…ボスと九代目がやり合った場所がなくなってたり…九代目が重症だったり…?」

「なくなっていた?」

「そうよ~あたしが一番最初にそこに着いたけど、丸く円球に削られたみたいにその場所だけ無くなってたわ」

「…ジジイは」

「良くは知らないけど、かなり重症だったみたいだよ…」

 

どういうことだ?

腕と腹部に氷を刺したが、致命傷になるものじゃあなかったハズだ

最後の…炎の暴走か?

自分でもまともに覚えていない…

 

「これからどうすんの?ボス」

「………九代目を潰す…」

「シシッ、面白そうじゃん」

「誰にも俺が起きたことを言うんじゃねぇぞ」

「「「「了解」」」」

 

それだけ言うと、気絶しているスクアーロを放置しヴェロニカは自室に戻る。

まずは傷を治して体力を戻さないと……

ベッドに横になり目を閉じようとした時、扉が開いた。

スクアーロが無表情で入ってきて、扉の鍵を閉めるとベッドの方まで寄ってくる。

未だ傷と疲労でだるい体を、壁に凭れながら上体を起こした。

 

「……ボ…ス……」

「………よく生き残ったな…入江」

 

スクアーロの仮面がポロポロと剥がれ、目からは止めどなく涙が溢れていた。

 

「ヴェロニカ……ちゃん……」

 

多分、本当の名前を呼ばれるのも8年ぶりだろう

ずっと長い間仮面を被り続けていた入江は称賛に値する

 

「良かった……君がこのまま起きないのではと……怖かったんだ……」

 

鼻を啜る姿はみっともなく、いつもならば殴っていただろう。

 

「待たせてすまない…あの時の状況を聞いてもいいか?」

「え、ああ……待って……」

 

涙と鼻水をティッシュで拭く様子が、本当の姿と重なりそうだった。

ヴェロニカは思わず苦笑する。

ようやく落ち着いた入江は、当時の状況を教えてくれた。

やはりオッタビオはスクアーロが殺してしまい、クーデターを画策していたという虚実に拍車がかかってしまったとのこと。

何故幹部含め、あの日あの場にヴァリアー隊員がいなかったのだと聞くと、オッタビオが人員を動かしていたようだ。

そして入江曰く、オッタビオはスクアーロを憎んでいた、と。

理想からかけ離れたザンザスが許せずスクアーロと共に葬り去りたかったのだと。

呆れた話だ…やはり最初のあの対面で殺しておけばよかった。

一応、私の九代目との対決の詳細を教えはしたが、最後はあまり記憶になかったので言えることはなかった。

その後、ヴァリアーは実質凍結…表面的には存続していたらしい。

それからは、九代目指揮下で任務を遂行していたとのこと。

8年という月日は入江にも大きかったらしく、すっかりヴァリアー幹部の一人で、ボスに次ぐNo2という地位を確立させていた。

生き残ることだけを考えて生きていたら強くなったとのこと。

さきほど号泣していた彼を見て、なんて逞しいヘタレになったのだろうかと感傷深かった。

ヴェロニカは現状報告を聞くと、これからのことを話し始める。

 

「まず…さきほどチェルベッロに会った」

「チェルベッロだって!?」

 

入江には印象深く残っているだろう…なんせミルフィオーレにいた時彼女たちが常に近くにいたのだから。

 

「ボンゴレリングの存在をわざわざ教えてきて、争奪戦に誘導しているみたいだったな」

「君は今回…ボンゴレリング争奪戦を起こすつもりなのかい?」

「考えれば、分かると思うが…それなかったら沢田綱吉が零地点突破を覚えないぞ…」

「あ」

「10年後にボンゴレが負ける可能性が高くなる……起こさないといけないだろう」

「で、でも九代目にバレるんじゃ…」

「まず九代目を口封じで襲う」

「え!?それじゃ本当にクーデターになっちゃうじゃないか!」

「もうクーデターになっている……史実として訂正は出来ないところまで来てしまったのだからやるしかない」

「いいのかい?今度は君の意思で…クーデターを起こすということになるよ…」

「それしかない…それでボンゴレ争奪戦なんだけど…その前に雲の守護者を見つけないと」

「前の世界では誰だったんだい?」

「ゴーラモスカよ…中に九代目を拘束して放り込んでた」

「は!?」

「それを沢田綱吉が破壊して、九代目の仇を名目に父が沢田綱吉を殺すことの正当性を得ようとした」

「なんていうか…下衆いね…ザンザス」

「言うな、私も思った……今回のリング争奪戦もそうしようかと思ったんだけど…」

「あ、九代目襲撃するの?」

「いや……今回、九代目が8年前の対決で重症を負ったみたいだからゴーラモスカに入れちゃうと本気で死んじゃう気がする…直感的に」

「いっそのこと殺しちゃえば…いや後々面倒になるかもしれない…」

「そう、だからほんと今困ってる…それにだ…ぶっちゃけボンゴレリング嵌めたら拒絶されて痛い目見るの私だし」

「あ、そうか血が繋がってないから」

「…だからボンゴレリング嵌めたくない…なら周りになんて言えばいいか……」

「いっその事、九代目と沢田綱吉どっちも殺して俺がドン・ボンゴレになるっていう路線で行けばいいんじゃないかな?」

「……待て、うん……それって沢田綱吉には負けなきゃいけないんだろ?…今の沢田綱吉に勝てる自信しかないんだけどこれわざと負けなきゃいけないのかな…」

「え」

「8年前、九代目と戦って体内に炎を循環させて戦うっていう戦法は有効だと証明されたわけで…二度も同じミスする気はないし………わざと負けるのはプライドが許さない」

「いやそこはプライド捨てちゃおうよ」

「ふざけるな、私はザンザスの娘だぞ」

「待って、その顔で言われても……」

「ああもう…いっそ本当にヴァリアーを完全に独立組織にしてやろうか」

「あ、それいいね」

「え」

「それを名目にしさえすれば、今回のクーデターとか全て上手く辻褄合わせ出来るんじゃないかい?」

「………ボンゴレ欲しかったけど、ボンゴレリング継承出来ないからヴァリアーだけでも貰うという?」

「ボンゴレには興冷めしたから俺だけの組織を作るとか何とか言っちゃえばいいんじゃないかな」

「あー……まぁそれならザンザスっぽいな…じゃあそのスタンスで行くか」

「なんか壮大な目的になったけど…上手く行けるんじゃない?」

「じゃあまずはゴーラモスカの設計図奪いに行くか」

「え、何で」

「雲の守護者いないだろ」

「いやそっちじゃなくて」

「?」

「設計図なんて取りに行かずとも、僕がいるじゃないか」

「………え、設計覚えてるの?あれ確か作ったのスパナでしょ」

「スパナから設計図は何度も見せてもらってたし、元の世界じゃスパナが第三世代のモスカも開発しようとしてて、僕もそれに協力してたから」

「マジか、なら今から作らせて間に合うか?」

「勿論、無人モスカ作れるけどどうしようか」

「いや、九代目入れるから………ああ、でも九代目の体に優しいゴーラモスカ作ってくれ」

「言ってることめちゃくちゃだけど…まぁ善処するよ…研究者としての腕が鳴るね」

「お前今剣士でしょ」

「それ言わないでくれ」

 

3日後、体力と傷ともに回復させたヴェロニカは幹部を集めた。

 

 

「一か月後…九代目を襲撃する」

 

 

 

ヴェロニカのボンゴレリング争奪戦への道が開かれた。

 

 

 

 

 




入江:逞しいヘタレ、若干冷酷…というか甘さを捨てた。今じゃ殲滅戦は必要に応じて自ら赴くレベル。
ヴェロニカ:おじいちゃんに言葉で言い表せない程の複雑な感情を抱いている、取り合えずやられたらやり返す。

ってなわけで無事目を覚ましました。
必要的かませ犬のザンザスをどう演じるんでしょうね。
だってザンザスの「崇高なるボンゴレ~」の台詞爆笑してた人ですよコイツ。

※ギャグ

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