Veronica Ⅱ   作:つな*

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Veronicaの憂鬱

「ザンザス様、九代目が訪問しておられます」

「っ、ジジイが?」

「はい」

 

オッタビオの言葉に内心動揺しまくるヴェロニカ。

取り合えず、部屋まで通せとだけ言うとオッタビオは部屋を出ていく。

この世界に飛ばされて早一週間が経った。

入江は一応最低限に鍛えて、一番楽な単独任務を与えた。

あいつ絶対敵見て情けない声出しながらやってるに違いない。

ヴェロニカは今から来るであろう九代目に関して考え出した。

超直感が働いても、ザンザスの中身が別の人間であることまでは分からないだろう。

何年パパの隣でパパ見たと思ってんだよ、多分中身が違うこと見破れるとしたらスクアーロくらいだ。

まぁ当のスクアーロは入江に憑依されてしまったわけだが。

にしてもこの時代のパパって九代目にどんな態度だったのかなぁ

だってまだ真実知らないわけでしょ?

元々性格がいいとは言えないパパが本格的に性格ねじ曲がったのって九代目の嘘が原因なわけで。

グレる以前の性格がいまいち分からない上に、九代目に対しての口調なんてもっと分からない。

一応それとなく話してはみるが、マジでほんと超直感働くな。

ヴェロニカの考えを他所に、執務室の扉が開く。

 

「久しぶりだねザンザス」

「…ああ」

「どうだい最近の調子は…」

「別に…それより何の用で来たんだ」

 

穏やかに入ってくる九代目の言葉をバッサリ切っていくヴェロニカに、九代目は苦笑いをして、ソファに座る。

 

「剣を作るよう聞いたが、何故だい?」

「あ?」

「お前には七代目の二挺拳銃があるだろう…あの剣の使い道が気になってね」

「…ただの気まぐれだ」

「なるほど、では本題へ入ろうか」

 

九代目は仕事の話を出すと、真剣な目になり敵対組織について喋り出す。

そして、今回の相手は少しばかり手強いらしくヴァリアーに回されてきたとのことだった。

 

「何故これほど被害が出ていたにも関わらず今までこっちに回さなかった?」

「その被害に気付くまでに時間がかかった……恐らくそれも相手の実力ということだろう」

「請け負った、他に要件がないなら俺はもう戻る」

「ふむ、ではそうしようかな」

 

九代目は腰を上げ、部屋の扉に手を掛ける。

 

「ザンザス」

「…」

「今度の式典には参加しなさい」

 

九代目はそれだけ言うと出て行った。

式典?ああ、そういえば書類にそれらしい奴が入ってたような?

いつも式典は後回しにしてて、ルッスーリアから言われないと覚えていなかったな。

もう一度確認するか…

ザンザスが机の上に置かれている書類に目を通していると、オッタビオが入ってくる。

 

「ザンザス様」

「何だ」

「明後日の式典の付き添いはどうなされますか?」

「…お前でいい」

「分かりました」

「要件はそれだけか?」

「いえ、先ほどスクアーロが任務から帰ってきたのですが…その報告書を持ってきました」

「置いておけ、それとカス鮫を呼べ」

「分かりました、失礼します」

 

あーあー式典やだなー

仕方ないか、一応参加だけはしておこう。

ヴェロニカは一通り急用の書類や報告書だけ目を通し、背伸びをしていた。

すると、部屋の外から足音が聞こえ扉が勢いよく開かれた。

 

「ボス!任務終わったぜえ!」

「扉は閉めろ、あと鍵も掛けろ」

 

ヴェロニカの言葉にスクアーロは扉を閉めると、鍵を掛ける。

そして鍵を掛けた瞬間、足から崩れ落ちた。

 

「ああああ足が、震えて……立てない…」

「……はぁ…」

 

お前のような剣帝がいるものか…。

ヴェロニカは溜め息を吐き、スクアーロ…の姿をした入江に手を差し出し、どうにか立たせる。

ソファに座らせると、入江は涙目で初任務を語った。

 

「ああ、もう怖かったぁあああ」

「ちゃんと渡せたか?」

「う、うん……相手がとっても厳つい奴で腰が抜けそうだったよ」

「まぁなんだ…初任務お疲れ」

「何だろう、胸に沁みる言葉なのにザンザスの声だと違和感しかない」

「んじゃあ本人のように蹴ってやろうか?」

「ごめんなさい」

 

今回入江に課した任務は、武器と金の取引である。

一応任務内容中で一番簡単なものを選んできたので、出来るのは分かっていたが、ヴェロニカが気にしていたのはマフィア相手への態度だった。

 

「怯えたりはしなかったか?」

「し、してないよ!出来るだけスクアーロをイメージして動いたし……」

「まぁさっきの部屋への入り方スクアーロだったな」

「はぁ、ほんと肩凝るな…」

「一週間前より断然スクアーロに似てきているが、油断はするな…幹部の中でもマーモンは勘がいいぞ」

「分かってる、明日も僕は任務かい?」

「ああ、一応な…だが戦闘経験はもう少し基礎を固めてからだ」

「そうしてもらえると助かるよ…」

 

入江は水を飲みながら思い出したようにヴェロニカに聞く。

 

「そういえば…」

「何だ」

「あの金髪眼鏡の人の名前何だったんだい?」

「知らん」

「ええ!?もう一週間経ってるよ!?」

「あいつが名前を呼ばれているところを見ていないんだ」

「ええ…書類にもないの?」

「探したが見当たらなかった…くそあのピスタチオめ」

「ごめん今何て?」

「何でもない、それよりも私は明後日式典に出る予定があるから本部にはいないぞ」

「そうなの?じゃあ明後日は訓練無しかい?」

「んなわけあるか、自主練だ」

「う、だよね…」

「死ぬ気の炎は出せたか?」

「い、一応……でもなんか雨の炎だから慣れないなぁ」

「確かお前は晴だったな」

「そうだよ…それに左手の感覚がないってのもまだ慣れないよ」

「……」

「別に弱音ってわけじゃないよ…あと少しでコツを掴めそうなんだ」

「そうか、頑張れよ」

 

入江はスクアーロの顔で、困ったように笑い部屋を出ていった。

基本無表情なヴェロニカはザンザスの真似というのは容易く、口調と態度を少し変えるだけだった。

元々憤怒の炎を使い、ザンザスに習って二挺拳銃をメインとしてただけあって、未だ誰にも不審がられていない。

ザンザスの仕事も、未来ではヴァリアーのボスの座にいるヴェロニカには容易いことだった。

だがそんなヴェロニカにも一つだけ悩みがあった。

それは、性別の違いである。

ぶっちゃけトイレとか目を逸らさねばやっていけないと思った。

ヴァリアーのボスであるヴェロニカ、それでいて男女の交際は一切なかった。

というのは、仕事が忙しすぎて惚れる暇など全くなかったし、元々公私はきちんとしていたため仕事場で恋愛という甘酸っぱいものは何もなく、プライベートは父ザンザスと過ごす日々である。

前世含め、初めて男の裸を見たヴェロニカはげんなりしていた。

初めて見た男性の裸が父親って悲しくないですかね。

ツライ。

涙目のヴェロニカは朝と風呂上がりの着替えが一日の一番気が滅入る時間帯である。

まだ火傷の跡がないザンザスの顔は新鮮でよく鏡で眺めているが、傍から見れば完全にナルシストである。

早く気付けヴェロニカ。

因みに、髪はよく下ろすようにしている。

未来のザンザスのハゲ予防だ。

 

二日後、ヴェロニカは式典用の正装を着ていて、前髪をワックスで少しだけ固めて準備を終わらせた。

パパってこういった場所ではどう対応してんだ?

普通に…あれ?パパの普通って何だろう。

ヴェロニカが首を捻っていると金髪眼鏡の声が聞こえ、ヴェロニカはそのまま部屋を出る。

それと金髪眼鏡の名前がようやく分かった。

ルッスーリアと話しているところを入江が聞いたらしい。

オッタビオか……全くピスタチオじゃねぇじゃん。

逆に何でピスタチオ?

あ、入江にこいつが裏切ること教えてない。

っていうか何で裏切ったんだ?こいつ

ダメだ、そこんとこ全く知らん。

取り合えず使える時まで使いまくって捨てるか。

ヴェロニカの考えを知らないオッタビオは運転席のバックミラーでザンザスを見る。

 

「ザンザス様、今日の式典では同盟ファミリーの方々が例年よりも多く来るハズです」

「フン」

「閉会は10時となりますが――」

「オッタビオ…黙れ」

「……申し訳ありません」

 

考え事をしているヴェロニカは気が付かなかった。

ハンドルを握るオッタビオの手が僅かに震えていることを。

 

式典に着くと、人で溢れていた。

ザンザスと同じであまり人混みを好まないヴェロニカは眉を顰めるも、冷静に対応していく。

ザンザスに声を掛ける多くは、同盟ファミリーのボスとその令嬢だった。

令嬢の女性達は皆頬を染め、ザンザスに声を掛けてくる。

だがザンザスの中身は女のヴェロニカである。

ヴェロニカは父の顔が整っていることを自覚しているので、女性から寄せられる好意を理解するが、納得はしない。

何が悲しくて女性に欲情されなきゃならないんだ……

こちとら男性器に触れるだけでも精一杯だってのに。

それも父親の、と付け加えるならばヴェロニカの心的ショックは計り知れない。

どこのセクハラだよくっそ。

香水の匂いと寄せられる好意、そして極めつけはこの体を狙う彼女らの目がヴェロニカのストレスを大きく積み上げていく。

パパ助けて……

ヴェロニカ28歳、転生してから初めて父親に助けを求めた瞬間である。

ヴェロニカの機嫌が下がっていくのが分かったのかオッタビオが偶に女性たちとの距離を遠ざけてくれる。

オッタビオ!お前初対面で殺そうとしてごめん!

途中で九代目に会い、そのまま九代目は他の者にザンザスを紹介する。

愚息、愚息行ってるけど、それじゃない?パパと拗れた原因。

息子カッコいいでしょーしたいのは分かるけどさ、血繋がってないじゃん!

つーか最初にそういうのは言っとけよぉ!

パパの(強化)ガラスのハートにクリティカルヒットだよ。

ザンザスの対面だけでも守ろうと、飽き飽きしてくるこの場で無理やり表情を作る。

何人かに紹介を終え、これで役目は終わっただろうと思い人混みから少し外れる。

すると直ぐにオッタビオがこちらに向かって来て、カクテルを渡してくる。

 

「ザンザス様、喉が御乾きだと思って…」

 

ヴェロニカは一瞬それを受取ろうとしたが、元の世界での出来事を思い出す。

本来のヴェロニカは酒がとても弱く、直ぐに酔っぱらっては部下に暴力を振るいまくるのだ。

それは二代目ザンザスと呼ばれるほどだが本人は知らない。

この体はパパの体だから酔わないとは思うけど、少し怖いな…

 

「いい」

「ザンザス様?」

「帰るぞ」

 

オッタビオの静止を無視し、ヴェロニカは会場を出る。

駐車場に行くと、オッタビオが慌てて車のドアを開ける。

ヴェロニカは車に乗り込むと、足を組み出す。

オッタビオは少し九代目に連絡をしてきますと言って、車から離れていった。

少しすると戻ってきて、車を出す。

 

「ご気分でも優れませんでしたか?」

 

無視。

多分パパは7割がた無視すると思うんだよね。

まぁ機嫌悪いとでも勘違いしてもらいたい。

オッタビオは何も言わなくなり、ヴァリアー本部に着くとヴェロニカは自室に直行した。

途中でルッスーリアやベルに会うが、それも無視する。

自室についたヴェロニカは部屋の鍵をかけるとネクタイを脱いで、ベッドにダイブする。

疲れた……

未だシャツに付着する香水の匂いに顔を顰める。

ダメだ、眠る前に書類に目を通してそれから……それから…

 

コンコン

 

「ぅ"おい、ボス…鍵あけろお」

 

ヴェロニカは脱ぎかけのシャツを再び着て、鍵を開ける。

スクアーロはゆっくりと扉を開け、中に入ると鍵を閉めた。

 

「ッハ、ようやくカス鮫みたいになってきたじゃねーか」

「二人きりの時くらいザンザスの真似はやめてくれ、心臓に悪いよ…」

「……そう」

 

ヴェロニカと入江はソファーに座り、元々あった酒を開ける。

 

「何で来た」

「君が…機嫌が悪そうだと、オッタビオから聞いて…」

「それで?」

「もしかして、女性の人達に言い寄られたからかなって思って…」

「ご名答、ま、お前じゃなかったら分からないだろうな」

「ヴェロニカちゃん、ザンザスの姿してるけど女の子だからね…」

「父はいつもあんな香水臭いところにいたのか…」

「ヴェロニカちゃんからしたら気が滅入る場所だね」

「父も人混みは嫌いだ」

「そっか、ところでザンザスって酒豪だったのかい?」

「ウワバミよ…私と違って酔ってるところ見たことないし…」

「え、ヴェロニカちゃん酒弱いの?」

「直ぐに記憶が飛んじゃって、その間父のように暴君になるらしいけど…」

「え」

「この体だと、多分酔いはしないと思うけど、確認したいから飲むの」

「待って、僕避難していいかい?」

「何言ってんの?私を一人で飲ませる気?」

「すみません、付き合います」

 

涙目の入江と、酒を煽るヴェロニカ。

一時間が経過するが、ヴェロニカの思考はハッキリとあった。

 

「ふーん、酒が水みたいね」

「もうのめまひぇんん」

「ちょっと、ここで寝ないで自室に帰れ」

「たてまひぇん」

「ッチ」

 

ヴェロニカは舌打ちをして、オッタビオを呼ぼうと思ったが、今のスクアーロを見る。

 

「ぼくだってぇ…たたかえるんだぞぉ!ひっく」

 

入江正一全開である。

仕方なく入江をソファーに横にして、ヴェロニカは部屋を出る。

誰かと同じ部屋で寝ると、気が散って眠れないので仕方なく入江が寝てから誰かに運ばせようと考えた。

 

「あ、ボスじゃん…先輩は?」

「潰れた」

「は?飲んでたの?」

 

いつもの癖でキッチンへ寄ってしまい、そこでベルと鉢合わせた。

 

「つーかボスがここに来るとか珍しいね、最近は何か機嫌悪そうだったからさー」

「別になんともねぇが」

「え?そうなの?すごくピリピリしてる感じで近寄れなかったんだよね」

 

マジですか。

やっぱこの時期のパパってもう少しソフトな感じでしたか。

もう少しオッタビオを無視する回数減らそう。

 

「別に怒ってねぇ」

「そうだったんだ、あとさー最近先輩と一緒に何してんの?」

「あ?」

「や、何かよく先輩ってボスの部屋行くなーと思って」

「前からそうだっただろ」

「まぁ確かに……あれ?俺の気のせいかな…あ、マーモン。お前も何で来てんの?」

「眠れないからホットミルクを飲もうと思ってね、やぁボス」

 

マーモンがキッチンへ入ってくる。

ホットミルクって…子供か。いや子供だった。

ヴェロニカは椅子に座ろうとするが、一瞬足を止める。

奥に上質な大きい椅子が見えたので、その椅子に座った。

 

「マーモン、ボス怒ってないらしいよ?」

「そうだったのかい?僕はてっきりスクアーロの奇行に苛ついてると思ってたよ」

「奇行?」

「ほら、最近すっごいうるさいって思わないでしょ」

「あ、確かに、何か叫んでること少なくなったよね先輩」

「同時期にボスがピリピリしてたからね」

「だってさボス」

 

これは無視してもいいやつだよね?

ていうか怒ってように見えたのか…

やっぱマーモンは観察力あるなぁ…未来でも重要な任務を任せるだけあるや。

これは入江に言っておかないとな…にしてもスクアーロって常時シャウト状態だったっけ?

若いからかな?

 

「ねぇボス、ポーカーしようぜ」

 

ベルが無邪気な笑顔でカードを持ってくる。

この時のベルっていくつだ、8歳か。

うっわ、この年でもう人殺してるのか、何か壮絶だなぁ

まぁ本人が楽しんでいるなら何も言うまい…

 

「付き合ってやる」

「え?マジ!?」

 

ベルはザンザスが遊んでくれるのがとても意外だったようで、驚いている。

だが直ぐにカードを切り始めた。

というかもう遅いけど子供は寝なくていいのかな?

あ、パパもまだ子供か。

ベルはカードを切り終えて、ヴェロニカに渡してきた。

 

数分後…

 

「フルハウス」

「もっかい!」

 

数十分後…

 

「フォア・カード」

「うっそ、もっかい!」

 

一時間後…

 

「ストレート・フラッシュ」

「待って、ボス…ラスト!今度でラストだから!」

 

数時間後…

 

「………ロイヤルストレートフラッシュ」

「…………」

 

ベルは驚愕通り越して、机に突っ伏している。

いやこれは私も驚いている。

パパの幸運って最高値なのかな?

これは元の世界に戻った時にパパに福引やらせよう。

 

気付けば日の出が窓から見えた。

 

 

 

 

ベルフェゴールside

 

 

ボスが最近とてもイライラしてる。

そんな雰囲気を皆気付いてて誰もボスに率先して近寄ってはいなかった。

俺はそのうちもとに戻るだろうと思ってた。

ある日、ボスが何かの式典に出る為本部の中は少しだけ空気が軽くなっていた。

だが夜の10時頃、最高に機嫌が悪そうなボスが帰ってきた。

ボスは自室に直行すると、俺たちの集まっていた部屋にオッタビオが入ってきた。

 

「あらお疲れさま、っていうかボスどうしちゃたのよん」

「分かりませんが、式典の途中でご様子が優れないように見えましたね」

「あら、風邪かしらぁ?」

「ボスはこの頃ずっと機嫌悪いじゃないか」

「うむ、一体何がボスを煩わせているんだ」

「お前の顔じゃね?」

「なにをぉ!」

「ほらあんた達喧嘩しないの!ボスは?」

「部屋に籠って鍵をお掛けになってて……今日はもうそのまま何もしない方がいいと思いますよ」

「そう……んもうスクちゃん、あなた最近ボスが機嫌悪いの何でか知ってるかしら?」

「あ"?」

 

ルッスーリアが先輩に声を掛けるまで、俺は先輩がこの部屋にいることに気付かなかった。

あれ?いつもなら存在感丸出しでうるさい先輩なのに…

 

「あいつ機嫌悪いのかあ"?」

「あら、あなた分からないの?最近ボスずっとぴりぴりしてるじゃないの」

「そうかあ"……?」

 

先輩は数秒考え込むと、椅子から立ち上がり部屋の扉に手を掛ける。

 

「おめーらは近寄んじゃねーぞお"」

 

それだけ言うと先輩はそのままボスの部屋に向かっていった。

数十分しても帰ってこない先輩を心配する者はいなくて、一時間経つ頃には部屋には俺だけになっていた。

俺はキッチンの方に移り、ただ眠気が来ないのでお菓子を食べながらナイフで遊んでいた。

そしたら足音が部屋の入口で聞こえ、そちらに顔を向けた。

そこにはボスがいて俺は一瞬固まるが、直ぐに声を掛けた。

 

「あ、ボスじゃん……先輩は?」

「潰れた」

「は?飲んでたの?」

 

何それ、ずるい。

何に対してそう思ったのか、あまり覚えていないけれど、漠然と先輩が嫌いになった。

俺はボスと久々に会話をしたので、さっきの話をボスに聞いてみることにした。

 

「つーかボスがここに来るとか珍しいね、最近は何か機嫌悪そうだったからさー」

「別になんともねぇが」

「え?そうなの?すごくピリピリしてる感じで近寄れなかったんだよね」

 

え、怒ってないの?あんなにピリピリしてたのに…

ボスも何言ってんだコイツみたいな顔しないでよ。

 

「別に怒ってねぇ」

「そうだったんだ、あとさー最近先輩と一緒に何してんの?」

「あ?」

「や、何かよく先輩ってボスの部屋行くなーと思って」

「前からそうだっただろ」

「まぁ確かに……あれ?俺の気のせいかな…あ、マーモン。お前も何で来てんの?」

「眠れないからホットミルクを飲もうと思ってね、やぁボス」

 

なんだかボスにはぐらかされたような気もしないではないけど、マーモンがキッチンに入ってきて意識がそちらに逸れた。

そしてマーモンに先ほどのボスの言葉を教える。

 

「マーモン、ボス怒ってないらしいよ?」

「そうだったのかい?僕はてっきりスクアーロの奇行に苛ついてると思ってたよ」

「奇行?」

「ほら、最近すっごいうるさいって思わないでしょ」

「あ、確かに、何か叫んでること少なくなったよね先輩」

「同時期にボスがピリピリしてたからね」

「だってさボス」

 

ボスは無言で俺たちの視線を一蹴し、奥にある大きな椅子に座り出した。

あれ?水飲みに来たんじゃないんだ?

マーモンはホットミルクを作ると、キッチンを出て行った。

俺は久々に会話したボスにカードを持っていき声を掛けた。

 

「ねぇボス、ポーカーしようぜ」

 

まぁ断るだろうけど、会話のきっかけさえ作ればあとはお喋り出来るじゃん、俺天才シシッ

 

「付き合ってやる」

「え?マジで!?」

 

だからボスの返事に心底吃驚した。

ボスとカードゲームなんて今まで一度もやったことなんてない。

さっき先輩と酒飲んでたって言ってたし、酔ってんのかな?

最近会話すらしなかったボスの言葉に俺の機嫌は良くなっていった。

だがカードゲームを始めると、それが地獄の始まりだった。

 

数分後…

 

「フルハウス」

「もっかい!」

 

数十分後…

 

「フォア・カード」

「うっそ、もっかい!」

 

一時間後…

 

「ストレート・フラッシュ」

「待って、ボス…ラスト!今度でラストだから!」

 

数時間後…

 

「………ロイヤルストレートフラッシュ」

「…………」

 

 

あ、ありえねぇ…

ボスなんなの?マジなんなの?運強すぎ…

イカサマするような人じゃないことくらい知っているから余計ボスの運の良さに恐怖する。

俺は机に突っ伏しながら、自身の敗北に耐える。

っく、まぁ相手はボスだし…俺より強いのは当たり前か…

周りに誰か一人でもいたならば、その考えは否定されただろう。

だが誰も指摘する者はおらず、幼いベルの中にはボスは何においても最強なのだという定義が出来上がった瞬間である。

朝日が顔に差し掛かり、ベルは机に突っ伏していたこともあってそのまま眠ってしまった。

眠る直前、一瞬だけ視界に入ったボスの口が少しだけ笑ってたような気がした。

 

 

 

その頃のヴェロニカは…

 

子供の頃のベルってこんなに可愛かったんだなー…

YES!ショタNOタッチだな、うん

 

 

 




8年前のベルはショタ。


どうでもいい4コマ↓

【挿絵表示】


―――つるつるの美脚☆

日本じゃ男で剃ってる人は普通にいると思うけど、イタリアではムダ毛がある方がモテるらしいです。
ふと気になったTSの弊害事情。
また何か思い浮かんだら書こうかな。

どうでもいいんですが、私は剃った後のすべすべ肌で寝るのが一番好きです。

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