Veronica Ⅱ   作:つな*

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Veronicaの訣別

「ボンゴレの血は流れていない」

 

 

誰も気付かず、誰にも聞こえぬその空間に閉じ込められた俺に押し付けられた事実は無情なものだった。

 

 

 

 

始まりは何の前触れもなく訪れた。

いつものように眠り、起きるといつの間にか珍妙な空間に閉じ込められたのだ。

周りには誰もいない、誰の気配もない、イタリアのヴァリアー本部執務室という奇妙な空間。

目を凝らせば奇妙な空間に薄く透き通った景色が見えた。

目の前には自身の身体が動いている…だが、それは己の意思で動いているのではなかった。

自分ではない誰かが俺の身体に入り込み、自身の精神だけが身体の外に追いやられたような、そんな感覚であり、それはあながち間違いではなかった。

何度も自分の身体に手を伸ばしても、触ることは叶わず苛立ちが募るばかりだった。

炎を出したところで今の自身に物理的な干渉は一切出来ないことを嫌というほど理解し、行き場のない感情を持て余していたところに、スクアーロが現れる。

よく見れば、スクアーロの後ろにもう一人スクアーロが見え俺は目を見開く。

先方も同じであり、俺をその視界に捉えると目を見開き大声で叫んで来やがった。

 

「おいザンザス!お前もかよ!これどうなってんだ!?」

「うるせえ、俺が知るか」

「ちくしょう!俺の身体でそんな震えてんじゃねぇよ、このへなちょこ野郎ぉぉぉおおお!」

 

スクアーロに入っている奴は余程の小心者で、先ほどからスクアーロらしかぬ態度で挙動不審になっている。

スクアーロとザンザスの身体が二人きりになると、互いに正体を理解し合い、状況の把握に勤しんでいた。

なるほど、あいつらは意図的に入った訳ではなく、元に戻す方法も分からないのか。

 

「おい!聞こえるように喋れこの野郎!」

 

さきほどからスクアーロが奴自身…小心者の方に向かって殴りかかろうとしているが、奴の拳はすり抜けて宙を空ぶる。

俺は慣れたその光景を見ながら、スクアーロの言葉に疑問を抱く。

 

「くっそ、コイツらの声も聞こえねぇ上に俺らの声も伝わんねぇ、見えねぇ、最悪だ‼」

 

その言葉でスクアーロには奴等の声が聞こえていないことが分かった。

だが何故か俺には、自分の声だけが聞こえていた。

イリエ、とスクアーロの外見をした奴をそう呼んでいる様子から、スクアーロに入ったのはイリエという奴らしい。

声だけに耳を傾けていれば、自ずとコイツらがどこのどいつだか分かってくる。

過去だの並行世界だの、イリエという奴のせいで飛ばされたこと、己が並行世界では父親になっていること、そして己にボンゴレの血が流れていないこと。

 

それはまさに、己の根本が足元から崩れ去るような焦燥と、驚愕と、虚無と……憤怒を(たぎ)らせるに十分だった。

老いぼれの裏切りをこのような形で知ってしまった自身に、何ができると言うのだ。

何も出来ない自分が憎く、ここまで屈辱に思うことがあるだろうか。

俺の中に入っている女共々老いぼれも殺してやろうと、何度考えたことだろう。

そんな苛立ちを助長するかのように、あの事件が起こった。

 

 

「どうするもこうするも……上手く嵌めやがってくれたな……オッタビオ」

 

 

この時からか。

俺の耳には、己の身体の声以外にも周りの声が聞こえだした。

それはまるで、自身の身体に戻ったかのように、懐かしさを覚える憤怒が我が身に蘇ったような気さえする。

この身体に入り込んでいた女の怒りが俺の怒りと重なり合うような、奇妙な感覚に陥った。

老いぼれの炎が俺に向かって放たれ、傷が増え、血が流れ、滾る憤怒が腹底に溜まる。

 

 

 

「ザンザス…私はお前を本当の息子だと思っている……」

 

 

その言葉に触発し怒り狂った俺からは憤怒が溢れ出て、咆哮(ほうこう)と共に目の前が真っ赤に燃え上がる。

その瞬間俺の中に溢れ出た憤怒とは別の何かに意識が逸れる。

抑制するような……まるで何かを恐れているような感情と共に、俺の耳につんざくような悲鳴が聞こえた。

 

 

 

「あああぁぁぁあああああああ」

 

 

まるで、それは悲しみに暮れる慟哭(どうこく)のようだった。

 

 

       ❝ヴェロニカ❞

 

 

どこからともなく聞こえた低い声と共に、一瞬だけ俺の心臓に冷たさが刺し込み、気付けば凍った我が身が目の前にあった。

 

 

 

 

身体が氷の中に閉じ込められて身動きの取れない俺は、くだらぬ記憶の欠片を見せつけられていた。

顔の見えぬ男と、ガキの会話を…

 

「あのときね、凄く…パパの手冷たかったの……」

「それが怖くて…寂しくて…悲しかった…」

「当時の私はまだ小さかったから、どうしてこんなに心臓が苦しいのか分かんなかったけどね」

「だからパパの手が冷たいと怖くて…」

「でも…今はちゃんと生きてるんだなって…感じれるから……とても安心するわ」

 

 

ああ、くだらない

くだらない記憶を俺は延々と見せられ続けているんだ。

 

「ねぇパパ、今暖かいでしょ」

 

俺の手が熱をもつような錯覚に、眉を顰める。

くだらない、ともう一度呟けば今度は幻聴があちらこちらから聞こえだす。

 

 

寒い 冷たい 苦しい

 

それは女の声で、静かで小さくその場に木霊(こだま)す。

 

 

怖い  恐い…

 

暗闇の中、泣きじゃくるガキが見えた。

煩わしい声に殺意を抱くなら分かるが、俺の中に湧き上がるのは言い様のない焦燥だけで、困惑する。

視界に映った透き通る涙でその感情がさらに湧き上がる。

一体己は何を考えている?

ありえない、こんなガキ一人に靡くなど、それこそありえない。

 

 

ここは寒い 冷たい 苦しい

 

 

悲痛な声が、煩わしい。

それでいて言いようのない恐怖のような何かに襲われる。

 

 

助けて――――――――………

 

 

そのか細い声に、思わず俺は口を開き、胸からせり上がる言葉を吐き出した。

 

 

「ヴェロニカ」

 

 

途端、世界に光が差し込んだ。

そして己が抱いたこの感情を理解し…否、理解してしまい、疎ましく思った。

 

ああ、分からなければ良かった…と。

 

そんな感情を己に向けてくるガキが嫌いだった。

ずっと「パパ」とやらを通して俺を見るあのガキが嫌いでならなかった。

遥か昔に捨てた感情が、今の俺を(むしば)んでいく。

それを振り払った俺は目に映る光を拒み、瞼を閉じた。

 

 

 

ボンゴレリングを巡る争奪戦、という茶番を見せつけられた俺は、休む暇もなく自身の身体に引き摺られ未来に飛ばされた。

そこではボンゴレが壊滅一歩手前まで追いつめられている未来で、実質な戦力はヴァリアーのみとなっていた。

敵組織であるミルフィオーレの本処を叩き潰す為に日本ではボス候補と守護者候補が動いている状況で、女はイタリアでの殲滅を終えて日本へと向かう。

日本で合流したそいつらとの会話に、剣使いのガキの指導…大層なご身分になったもんだと鼻で笑ったところで虚しく部屋に響くだけだった。

いい加減何年も閉じ込められている俺はストレスが溜まりに溜まっていた。

 

そんな時、日本にいるにも関わらずイタリアの執務室に俺はいた。

そして、初めて女がこの閉じ込められた可笑しな空間へと姿を現す。

 

 

「パパ」

 

 

開口一番で出されたソレに苛立ち、相手を睨む。

 

「お前か…俺の体を乗っ取ってたのは」

「え」

 

黒い髪に特徴的な眉と、赤い瞳……似通い過ぎた顔に舌打ちする。

 

「ッチ」

「え、え…見えるの?」

「あ"?つかてめぇ誰だ」

「え、あ……私は…ヴェロニカ……」

 

女は挙動不審になりながらも自身の名を名乗った。

何度か、どこからともなく聞こえたその名前がこの女の名前であることは薄々と気付いていた。

一応、といったように女に目的を聞いても事故だったと言われる。

 

あろうことか奴はザンザスの娘だと(のたま)った。

 

奴等の会話を聞いていて分かっていたつもりだったが、如何せん俺はそんなものの身に覚えがないのだ。

面倒な存在を認める認めない以前に、この女と俺の仲は血の繋がった他人のようなものだった。

この女が俺に向ける態度も、眼差しも、何もかもが気に食わない。

 

まるで、そちらの俺が…………お前を認めているかのようで

 

まるで、ザンザスが ■ を知っているかのようで

 

 

気に食わなかったんだ。

 

 

女は何かを呟けばふらりと消えていき、そこには元から何もなかったかのように何もない空間があるだけだった。

瞬きをすれば景色は再び日本へと移り変わる。

先ほどのあれは何だったのか、考えても理解することは出来ず俺は再び己の身体を眺める。

一体いつになれば俺はこの奇妙な茶番から解放されるのだろうか。

 

苛立ちはある、怒りはある、殺意はある

 

だが未来に来てからだろうか、段々とそういう感情が薄らいでいくのが分かった。

その事実に理解出来ず自身の感情に困惑する。

決して許したとか、絆されているとかではないのだ。

ただ、女へ向けていた感情が段々と霞んでいく感覚だけが俺の頭に残っていた。

 

 

女は白蘭が消え去る姿を眺めていた。

ただこの光景に何か思うところがあったのか、関係のない記憶ばかりが女の脳裏を過ぎり、俺の思考にまで干渉してきた。

僅かな頭痛に眉間に皺を寄せながら、脳内を掻きまわす映像に溜息が零れる。

 

 

剣を握り未来の俺に矛先を向け炎を浴びせる場面や、ルッスーリアやベルとの対峙、小さいガキの声と少し低くなった俺の声。

 

『いつからだ…』

『え?』

『炎を宿したのは…いつからだ……』

『ぁ………よ、4歳…くらい』

『何故黙っていた』

『ご、めんなさい』

 

嫌だ、嫌だ、嫌われるのは嫌だ…

 

 

『どうしてっ…私の名前を呼んだのよ‼』

 

『パパのバカ!』

 

 

 

誰の声かなんて薄々気づいていた。

だがそれを認めるのが癪で、脳裏を暴れる映像を記憶から消そうと試みるがそれは叶わず、ただ無情にも女の記憶を見せつけられていた。

 

 

「ああ、うぜえ!消えろくそったれが!」

 

大声で怒鳴った声と共に記憶の濁流が途切れ、俺は訳も分からず辺りに手あたり次第炎を放つ。

俺の中に侵入してくる何かに、違和感すらも抱かぬ自身に苛立った。

これ以上俺の中に入ってくるなと、形の分からぬ心地いいソレを拒み続ける。

 

俺は俺だ‼

 

 

 

気付けば既に女は未来から戻り、元の時間軸へと帰っていた。

再び女は閉じ込められたこちら側に姿を現した。

スクアーロに憑依したイリエも共に現れ、奴等はスクアーロと会話し始める。

 

俺は、怒鳴り散らし、今までの鬱憤をまき散らして、奴等を殺していても可笑しくないほど怒っていたハズだ。

それなのに、今目の前にいる奴等に対してその怒りがどうしても向けられなかった。

手を伸ばして、顔を掴んで、炎を灯すだけなのに……手が指が身体が動かなかった。

 

まるで、自分自身の感情が消えていくような――――…

 

 

「パ…ザンザス、あなた…8年間の記憶あるの?」

 

頭上から降って来た声に我に返り、そちらを見れば女がいた。

8年間……俺の身体が凍らされていた間、俺はひたすら我が身を眺めているだけだった。

指が冷めきり、臓腑が冷えていく感覚の中、訳の分からぬ記憶の欠片と、幻聴と、凍らされた己。

怒りを(くす)ぶらせるには十分な年月を、あの氷牢で俺は無慈悲に過ごしていた。

 

同情してほしいわけではなかったので、女には記憶はなかったと、そう告げた。

女と僅かな会話のみ交わせば、奴等は消えていった。

再び女が現れたのは直ぐだった。

俺の良く座る椅子で堂々と寝ている女に怒鳴りと共に拳をお見舞いする。

少しスッキリしたが、女の腑抜けた顔を見たらイライラが前よりも増していく。

 

「いつになったら私は戻れるのかなー」

「知るか」

「あなたの体でもあるんだからちゃんと考えてよ」

「じゃあてめぇが死ねばいいだろ」

「痛いのはやだ」

 

ソファで寝そべっている女は、天井を覗き込んでいる。

 

「ベルもレヴィもルッスーリアもマーモンもスクアーロも好きだよ…」

 

ああ、まただ。

コイツはまるで■を知ったような口ぶりであちら側の話をする。

あちら側のヴァリアーは腑抜けばかりなのかと思えば、奴の記憶を見る限りこの世界と限りなく近しい。

それが酷く腹立たしいが、女が俺の感情に気付いた様子はない。

 

「ザンザスと話したおかげでもう少し頑張れそうだよ…ありがとね」

 

女の姿が段々と薄らいでいく。

 

「ヴェロニカ」

 

 

無意識に呼んでしまった女の名は、誰の耳にも届かず宙を彷徨(さまよ)った。

 

 

あれから数日経つが、女と現実での感覚を共有することが時々起こることに気付いた。

あの女が食べたものの味、拳銃を触った感触、寝る間際の睡魔…

俺の知らないうちに世界の境目が段々と薄らいでいくようだった。

 

少しすれば代理戦争とやらに駆り出された女は日本へと飛び立った。

そこで最近拾ったガキも連れて行き、一日目、二日目と着実に経過していく。

そんな中三日目になる前に女は珍妙な髪をした六道骸を探していた。

 

『この身体の…憑依の解き方を教えろ』

『おや、あなた自ら望んで憑いているわけではないと?』

『下手な探りはやめろカッ消すぞ、憑依の解き方だけ教えろ』

 

女は六道骸から憑依を解く方法を聞き出すと、その場を去った。

 

 

『あなたとその体の持ち主の精神との繋がり…いわば縁を切ればいいんですよ』

『縁?それは目に見えるものか』

『さて、人それぞれですよ』

 

 

六道骸の言葉通りなら俺と女の間には縁とやらがあるハズだが、ハッキリとこれだというものが分からない。

 

『ただあなたの場合、縁が(いささ)か深いようですね、あまり時間はありませんよ』

『あなたがあなたで…そして彼が彼でなくなってしまうまで……そう時間は掛からない』

 

胸の内側から指先まで通う血液のように、最近になって明確に感じ取れたこの体温が繋がりというならば、切ることが出来るのか。

糸のような細いものではなく、複雑に絡み合った神経のような…それでいて姿形を持たないコレが、あの女との縁なのか。

女も薄々気づいている。

 

 

俺達が、徐々に浸透するように()けて混ざりあっていることを。

 

 

俺の感情が表に出たり、女の感情が俺に感じ取れたり、まるで徐々に表側に戻っていくような感覚があった。

俺の刺々しく禍々しい激情が急激になくなっていったのは、この女との同化による弊害だろう。

 

俺が俺でなくなる、そんな事実があってたまるかと俺ならば怒り狂うだろう、理解してもなおその憤怒が女に向かないのは、女を自身の一部と認識し始めている証拠だ。

 

 

現実世界では、バミューダというアルコバレーノとの最終決戦に挑もうとしていた。

既に復讐者との対峙では、俺は第三者視点で見てはいなかった。

自身の視界は女とリンクしているが、感覚は全てシャットアウトされているような奇妙な感覚だ。

ただ何度も背筋に駆け上がる死を感じる。

漸く女がイェーガーとやらを倒したところで、女の感情が俺の中で手に取るように伝わってきた。

 

その時だった。

 

バミューダからの攻撃をスクアーロが身を挺して庇ったことに、女が強い怒りを抱いた。

それが俺の憤怒を触発し、俺までその感情に引き摺られる。

そこからはあまり覚えていない。

ただ怒り狂っていた。

今までのストレスやら不満やら、表面に出していないだけで溜まっていた全ての怒りがここで解放されたような爽快さだった。

それと同時軋む身体に我に返り、久しく感じなかった痛みに目を見開いた。

痛みが戻って…待て、何で俺に痛みが…これじゃまるで俺が表に出たような……

ちがう、()が表に出たんじゃない。

()()が融けて、混じって、入り乱れ始めてる。

 

違う……()()()は違う

 

ギリギリで保っていた理性であいつの名前を呼んだ。

ヴェロニカ、と。

 

 

 

パパ…

 

 

 

その声と共に俺の意思ごと暗転した。

 

 

ふと意識が戻った俺の目の前には天井があり、直ぐ横にスクアーロの顔があった。

口を開こうとすれば、勝手に口が開き声を漏らす。

 

「……お前…スクアーロ、だな……」

 

勝手に喋り始める自身の身体に、俺はまだ混じり切っていないことに気付いた。

まるで一つの身体に二つの人格が存在している二重人格のような…現実に近い感覚だった。

女はスクアーロと話すと再び意識を失い、俺も視界が暗くなる。

 

ふと瞼を開き目の前を見れば、女が立っていた。

だがそいつは俺の存在に気付いておらず、胸を抑えて泣いていた。

 

『一つだけ私からお願いがあるの…』

 

どこからともなく聞こえた声に辺りを見渡すも、存在するのは()()()()だけ。

 

『あたまを……なでて…ほしい』

 

瞬きをすれば、女がいた場所にはガキが突っ立って泣きじゃくっていた。

それはあの女をそのまま小さくしたようなガキで、しゃくりをあげ、息を荒げながら俺の足にしがみつき泣きじゃくっていた。

 

 

『非情で、冷酷で、暴君で、極悪人だったけど……』

 

俺とそのガキの間に温度を持った何かが段々と熱を帯びてくる。

 

『それでも私の…血の繋がった…たった一人の父親なんだ……』

 

ガキの泣き喚く声が木霊(こだま)す中、穏やかな声が耳に届く。

 

『生んでくれてありがとう…』

 

 

 

ガキとの間に帯びている熱は  まるで  炎のようだった

 

 

 

「小さい私をよろしく頼む」

 

どこからともなく聞こえたその言葉を皮切りに、ガキとの距離がいきなり引き剥がされたかのように帯びていた熱が冷めていく。

目を見開いた俺は、同様に驚いているガキを見て、間にある不明瞭な何かを漸く理解した。

 

 

 

きっとこれは奴との繋がりだ

 

 

 

「うえぇぇぇ……パパぁぁ………ひっく……」

 

ガキが一際大きく泣き始め、手っ取り早くガキとの繋がりとやらを切ろうと思った。

これさえ断ち切れば……

 

「やだっ………離れちゃやだぁ」

 

 

断ち切れば

 

 

「パパぁぁぁぁぁああああっ」

 

 

 

心臓からせり上がるこの激情が、ふと喉から零れ落ちる。

 

 

「ヴェロニカ」

 

無邪気に泣くガキの目線に合わせて膝を折る。

「パパ」とやらがやったように頭を撫でつければ、ピタリと泣き止んだガキに、俺は言い聞かせるように言葉を紡ぐ。

 

「聞け、お前はこのままここで待ってろ」

「やだぁ…一緒に行く…」

「直ぐ迎えに来る」

「………本当…?」

「…ああ」

 

「もう、ヴェロニカを…置いて逝ったりしない……?約束だよ?」

 

 

涙を零すその瞳に魅入ったのだ

 

俺と同じ、赤い、朱い、紅い……

 

 

 

「……ああ、約束だ」

 

 

 

それはまさに■を垣間見たような―――――――…

 

 

 

 

 

 

 

再び瞼を開けると、視界の端に六道骸とスクアーロがこちらを覗いていて

 

 

俺の頬には濡れた跡だけが残っていた

 

 

 

 




次エピローグです。


よしよしするザンザスが見たかったんだ。
反省はしているが後悔はしていない。

「Sì, è una promessa」
「……ああ、約束だ」を翻訳機に掛けただけなので正しいか分かりません。


【挿絵表示】

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