Veronica Ⅱ   作:つな*

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Veronicaの意識

スクアーロside

 

 

「う………」

「スクちゃん!良かった、起きたのね!」

 

体がだるい、動けない、てか痛ぇ……

何でだ…心臓がやけに重い

 

「俺は…何で………」

「覚えてないの?バミューダからボスを庇った時に心臓を貫かれて……」

 

バミューダ…?誰だソイツぁ……

………………あ。

 

俺は急に起き上がる。

 

「ぐあっ」

「ちょっと!何いきなり起き上がってるの!?安静にしてなさいよん!」

「う"…っ…」

 

ルッスーリアにベッドに倒されて俺は痛みのあまり肩で息をする。

痛みがある……体が……

俺の身体が、漸く……っ…

 

「いくら幻術で心臓補ってるって言っても重傷には変わりないんだから!」

 

すると今までのあのへなちょこ野郎の記憶が俺の中に蘇る。

ヴァリアーのクーデター、オッタビオの裏切り、ボンゴレリング、白蘭、シモンファミリーの謀反、代理戦争、バミューダ…そして…ザンザス……

 

「おい…ボス…は……」

「まだ治療中で意識は戻ってないわよ」

 

ザンザス…いや、確か……ヴェロニカ…だったか……

ボスの未来の娘……

 

俺は横目でルッスーリアの方を見る。

 

「あなたも重傷なんだから今はただ寝て回復しなさい」

「るせぇオカマ野郎」

「んまぁ!スクちゃんまでベルみたいに口悪くなっちゃって!」

 

ルッスーリアはショックを受けたように泣き真似をするが、俺はそれを無視して横になる。

 

ちくしょう、ボスの容態も確認してぇがまず動かせるくらい回復しねぇと。

体が欲している睡眠のまま俺は瞼を閉じた。

 

 

 

 

 

気付けば俺は真っ白な空間にいた。

 

「どこだぁ、ここは…」

 

自分の身体を見れば傷一つなくなっていて、首を傾げる。

するといきなり手首を掴まれた俺は驚いて一歩下がる。

 

「僕だよ、、スクアーロ!」

「あ!てめぇへなちょこ野郎!」

「へ、へなちょこって言わないでくれよ」

 

俺の手首を掴んだのは何年も俺の身体を乗っ取ってやがったへなちょこ野郎だった。

 

「てめぇ長い間よくも俺の身体乗っとってくれやがったなぁ!」

「ひぃ!ちょ、ちょっと待ってくれ!君には沢山謝らないといけないのは分かってるけど今はそんな余裕ないんだよ!」

「あ"?どういうことだぁ"」

「えっと、僕の記憶は全部引き継いだよね?」

「記憶?ああ、あれか」

「その様子だと全部知ってるね」

「…」

「漸く君に主導権を移せたわけなんだけど…それと同時に君と繋がりが切れちゃったから元の世界に飛ばされそうなんだ」

「つーか早く飛ばされちまえ」

「本題はこれからなんだって!ザンザスとヴェロニカちゃんのことだ」

「ボスの…?」

 

へなちょこ野郎は俺に真剣な面で喋り始める。

 

「うん、主導権を反転…いわばこの世界との繋がりを切っちゃえば元の世界には戻れるんだけどヴェロニカちゃんはそれをまだ知らないんだ…だからヴェロニカちゃんが目を覚ましたらザンザスとの繋がりを切ったら帰れることを教えて欲しい」

「ん?おう、つかどうやって繋がり?って奴を切ったんだぁ"?」

「僕もあまり理解してないんだ、ただ死んだなと思ったら君との繋がりがプツンって切れて…今に至るっていうか」

「はぁ"?」

「僕と君の間には確かに何かが繋がっていたハズだ…でも今はないだろう、僕らは他人だ」

「確かに…なんか足りねー気がするぜぇ」

「その違和感も直ぐに無くなるさ、それよりもその繋がりを彼ら自身で見つけて切るように教えてくれないか?」

「分かった、それだけでいいのか」

「あ、うん…あとその…出来るだけ君の性格を真似して過ごしていたけど、周りからの印象が変わっちゃってたらすまない!」

「はぁ!?」

「じゃあザンザスとヴェロニカちゃんによろしく、今まで支えてくれてありがとう!」

 

言いたいことだけ言い切って消えていった目の前のへなちょこ野郎に俺は唖然とした。

 

「………っち、調子狂うぜ」

 

俺は頭を掻く。

 

「入江…だったか………まぁ、逃げ腰な奴だったがおめーの剣は確かに見てたぜぇ」

 

元を辿れば俺の剣技だがな。

 

 

 

 

俺はゆっくりと瞼を開いた。

そこは病室の天井だった。

起き上がれば先ほどのけだるさはあったが疲労感はそこまで酷くはなかった。

大方ルッスーリアが治癒したのか。

ベッドから起き上がり、周りを見るが誰もおらず俺は病室を出る。

病院の窓から見る外は暗く、夜中だと分かる。

俺はそのまま病室が出て辺りを探っていると、何やら気配が集まっているところがあり、そちらに向かう。

病室の中から感じる気配の懐かしさにドアを思い切り開ける。

 

「スクちゃん!?」

「スクアーロ!」

 

ルッスーリアとマーモンが一斉に振り返るが、俺の視線はベッドの上へと固定されていた。

そこには呼吸器を付けているザンザスの姿があった。

 

「おいボスの容態はどうなってんだぁ」

「もう峠は過ぎた…明日には意識は戻ってると思うよ」

「そうかぁ"…」

「スクアーロ、心臓の調子はどうだい」

「別に問題ねぇ」

「ならもう僕は寝るよ…眠くてしょうがないんだ…」

 

マーモンはフラフラと病室を出ると、それを心配して追いかけたルッスーリアが出ていく。

ッチ、余計な気なんか利かせてんじゃねぇよ。

ザンザスの姿は俺自身の記憶よりも少しだけ大きくなっていた。

顔面には火傷の傷跡があり、それは腕にまで広がっていた。

確かこれはクーデターの…と思いながら記憶を整理していると、視界の端でザンザスの指が僅かに動く。

そしてうっすらと瞼が開かれ、真っ赤な瞳が見えた。

俺は直ぐにボス、と言おうとして口を噤んだ。

こいつは…ザンザスじゃ、ないんだ………

 

「…………あ"-………」

 

なんて言えば!?

呼び方に迷っていると、視線がぶつかる。

 

「……お前…スクアーロ、だな……」

「!」

 

俺は直ぐに悟った。

こいつはザンザスじゃないと。

ザンザスほど刺々しさのないその瞳に、どこかむず痒さを覚える。

 

「ヴェロニカ…だったか…」

「……ああ」

「入江はもう俺の中にいねぇ…おめーも早くボスに主導権返して元の世界に戻れ」

「そうか……入江は、行ったか………」

「ああ、あとザンザスとの繋がりって奴をおめー自身で探して切って来いだとよ」

「それなんだが、スクアーロ…私とザンザスの間にある縁は切れない」

「はぁ"!?どういうことだ!」

「憑依を解く方法自体は数日前に、六道骸から聞き出していた…………それからザンザスとの間の縁を探していたが…」

 

声を出すのが辛いのか眉を顰めているそいつの一言一句を聞き逃さずに注意していた。

 

「見つけた縁があまりにも深く強すぎた……私とザンザスは同じ血が流れている…それが原因だろうな」

「ッチ、面倒なことになったぜ…」

 

確かに俺と入江は全くと言っていい程赤の他人だ。

だがこいつとザンザスは並行世界といえど親子だ、切れないほど強い繋がりがあったっておかしくねぇ。

 

「六道骸に…外から切るよう頼んでくれ……」

「は?何であいつに…」

「あいつはこの道に詳しい、他人に憑依が出来ればその逆も出来るハズだ……」

「くそ、今からでも探し出して連れてくるぞお"!」

「出来るだけ……早く………切って……れ…」

 

段々と口調が遅くなり、瞼を閉じたザンザスに俺は焦りを覚えた。

ッチ、漸く表に出て来られたと思ったら今度はザンザスの方があぶねー状況たぁ運がねぇぜ…

病室の外で待機していたルッスーリアに声を掛け、六道骸の居場所を知らないか問いただす。

 

「何でそんなこと聞いてくるのよ?」

 

もっともな質問だが、説明は後だと言い、とにかく居場所だけ教えてもらい、まだ万全ではない体で六道骸の病室へと向かう。

奴の病室へと辿り着き、ドアを引こうとすると中から声が掛かる。

 

「ノックもせず入ってくるつもりですか?」

 

その言葉に奴が俺の存在に気付いていることを知り、そのまま扉を引く。

病室には、六道骸が一人ベッドの上でこちらを見ていた。

六の数字を宿した瞳が僅かに開き、俺をじろじろと眺めて、納得したかのように頷く。

 

「どうやら憑依は解けたようですね…しかし何故僕のもとへ?」

「あ"?お前俺が憑依されてること知ってたのか?」

「ええ、一つの身体に二つの魂など珍しいですからね…」

 

そういえばリング争奪戦でそんなこと言われたような…入江の記憶がまだ整理されておらず自身の記憶があやふやだ。

 

「じゃねぇ、そんなことよりザンザスの憑依を解いてくれ」

「彼の…?ああ、そういうことか……」

「どういうことだよ…?」

 

勝手に一人で納得している六道骸にイラつきながら、説明を促す。

 

「代理戦争中に復讐者の奇襲があった日、彼は僕の下に現れ、憑依の解き方を聞きに来ましてね」

「ああ、あいつお前のところに行ってたのか」

「おや?憑依中の記憶がおありで?」

「まだ整理してないが、一応憑依解ける前に記憶だけ引き継いだ…それで何があったんだよ?」

「あの日、彼を一目見て…手遅れになる一歩手前であることに気付きましてね…彼自身にもそう伝えましたし、彼もソレに薄々気づいてましたよ」

「手遅れ…?」

「彼の身体に誰が憑依しているか分かりませんが、血縁者ですね?それもかなり近縁だ…憑依すると当事者同士の縁が強ければ強いほど縁はさらに強まり、魂同士が融合するんです」

「はぁ"!?」

「うるさいですよ」

 

眉を顰める六道骸を他所に、俺は先ほどの奴の言葉が思考を支配する。

確かに、ヴェロニカの野郎が縁が強すぎて切れなかったとは言っていたが、融合していくなんて誰が気付くってんだよ!

くそったれ!

 

「おい、それは外から切れねーのか!?」

「ふむ……切ることは出来ませんが当人たちが切りやすくする補助は出来ますよ……それも時間の問題ですが」

「時間の問題?」

「ええ、完全に融合してしまえば何をやったところで切れませんから、直ぐにでも切った方がいいのでは?」

「なら早くやれ!」

「おやおや、誰に命令しているんですか?巡らせますよ?」

 

コイツ、三枚に下ろしてぇ…!

いや、まて堪えろ俺!ザンザスの為だ、堪えろ……

怒りを抑え、深呼吸をしていると六道骸はベッドから起き上がる。

 

「まぁ…僕も復讐者から助けてもらった借りがあるので、今回のでチャラにしてあげますよ」

 

鼻で笑う仕草を見せつけながら病室を出る六道骸の後をついて行き、ザンザスの病室へと向かう。

病室へ入るなり、六道骸の息を呑む音が聞こえ俺は眉を寄せた。

 

「おい、どうしたんだよ…」

「一体何があったらここまで融合が進行するんです!? ッチ、本当に面倒事を残していく憑依者に苛立ちますね」

「はあ?っつーかそんなにヤベーのか?ザンザスの奴…」

「今からでも始めるので、誰も入ってこないよう見張ってて下さいよ…全く、まだ僕自身完治していないというのに…」

 

不満をぶつぶつ呟く六道骸は、槍をザンザスに向け霧属性の炎が辺りに散らばる。

そしてその炎が一気にザンザス体の中へ入っていく、と思っていたその時だった。

俺は病室の外の気配に気付き、病室に侵入したソレを引き留めようと手を伸ばすが、心臓の部分に鋭い痛みが走り伸ばされた手が空ぶる。

視界の端を横切ったソレは六道骸へと向かい、次に俺が見たのはザンザスへ入り込む炎が宙へと霧散した時だった。

 

「お、まえ……」

 

 

 

 

 

 

 

フランside

 

 

「ボス!ボス!」

 

意識のないお姉さんが運ばれていくのを見てミーはただ縋るように声を掛けるしか出来なかった。

邪魔だから、と離されたミーは涙でひりひりする頬と目尻を拭い、鼻水をすする。

 

「だ、大丈夫…?」

 

隣からクロームお姉さんがこっちを気に掛ける声が聞こえたけど、返事をする気力もなくて、ミーはただヴェロニカお姉さんの連れていかれた後を見るだけしか出来なかった。

背後では誰かの喜ぶ声が聞こえる。

何があったか分からないけど、あの死神達を負かしたみたいだった。

ミーも喜ぶべきなのに、ヴェロニカお姉さんが気になってずっとぐずっていて、それをクロームお姉さんが抱き上げては背中を摩ってくる。

いつになっても鳴らない時計に段々と周りが困惑し始める。

 

「なぁ、バミューダを倒したのにウォッチが鳴らない…」

「制限時間が来るまで待たなきゃなんねーのか?」

 

そんな会話を耳にしながら、ミーは自分のウォッチを見る。

幻術で隠された、本当のボスウォッチを。

 

 

 

『お前に頼みがある』

『ふぁい…』

『いいか、今から私の身代わりの幻術を作ってそれを誰にも気付かれないようにしろ』

『え?』

『それと、私は少しの間いない上にボスウォッチをお前のウォッチと交換する、いいな?』

『何でですか?』

『保険だ…お前はそのボスウォッチをずっと幻術で隠せ』

『すぐ、帰ってきますか?』

『ああ、ちゃんと帰ってくる』

 

 

 

 

ミーの頭を撫でる手を思い出して、頭に手を伸ばす。

そんなときウォッチがジリリリって鳴って、背後から誰かの声がした。

 

「おい、マーモンのチームが生き残ってんぞ!コラ!」

「何で!?」

 

その後直ぐにマーモン先輩が現れて、ミーがボスウォッチを持っていることがバレる。

ミーが渋々ウォッチをマーモン先輩に渡して、何やら知らない人が現れては何か訳の分からない言い争いをしていた。

何を喋っているのか分からず、全ての話し合いが終わったのかベル先輩がボスの連れていかれた病院へと向かうと言ったから、ミーもそれについていく。

手術が終わったけど危ない状態だからあんま近づくなよ、ってベル先輩が言ってきたけど、その忠告を無視して直ぐにヴェロニカお姉さんの病室に入る。

直ぐに外に連れていかれたけど、チラリと見えた包帯塗れの腕にまた泣き出した。

いつになったらヴェロニカお姉さんは起きるんだろう、ってずっと待ってたら先にカス鮫先輩が起きた。

直ぐに寝たけどまた起きた時にパイナップルの精を探しに行ってて、ミーはそれについていく。

パイナップルの精とカス鮫先輩の会話を病室の外で聞いていた。

 

「ええ、完全に融合してしまえば何をやったところで切れませんから、直ぐにでも切った方がいいのでは?」

「なら早くやれ!」

 

そんな声が聞こえて、ミーはその場から離れて直ぐに隣の病室に隠れる。

 

「あれ?君、フラン君だっけ?」

 

背後からの声にギクリと肩を揺らし、後ろを振り向けば白いマシュマロを食べてる人がいた。

 

「マシュマロの精ですかー?」

「あれ?君未来の記憶ないのかい?」

「チーズの角に頭ぶつけて覚えてないですー」

「あはは、君やっぱ面白いね、未来ではしてやられちゃったけど」

「なんのことですかー?…じゃない、ミーは今忙しいのでもう行きますねー」

「君から来ておいてかい?その様子じゃ誰かから隠れてるみたいだね」

「企業秘密ですー」

「ふぅん?」

 

なんかこのマシュマロの精はあまり好きになれないみたいです、そう思いながらミーはその病室を抜け出して、パイナップルの精とカス鮫先輩を追いかける。

二人がヴェロニカお姉さんの病室に入っていったのを確認して、扉に耳を当てて中の会話に聞き耳を立てる。

 

「一体何があったらここまで融合が進行するんです!? ッチ、本当に面倒事を残していく憑依者に苛立ちますね」

「はあ?っつーかそんなにヤベーのか?ザンザスの奴…」

「今からでも始めるので、誰も入ってこないよう見張ってて下さいよ…全く、まだ僕自身完治していないというのに…」

 

その言葉に、ミーは何でか分からないけど不安になった。

もう二度と、ヴェロニカお姉さんに会えないかもしれない、とそう思ったからだ。

直ぐに病室のドアを開け、カス鮫先輩の伸ばしてきた手を避けて、パイナップルの精に体当たりした。

 

「うぐっ」

「ボスに何する気ですかー」

「な、おチビ!? 何故ここに…いやそれよりも離しなさい!」

 

パイナップルの精の腰にしがみ付き、なんとおかヴェロニカお姉さんから離そうとしたけど、すぐに振りほどかれた。

 

「おいフラン、お前何でここにいんだ」

「……」

 

カス鮫先輩の言葉に対して返答に困っていると、パイナップルの精が手を顎に置きミーを覗き込んだ。

 

「おチビ、あなたザンザスに別人が憑依していること、知っているでしょう」

「はあ"!?おい本当かガキ!」

「フランですーカス鮫先輩………ボスに何するつもりだったんですかー」

「やはりそうでしたか…いいですか、今から僕はこの身体の本来の魂と憑依者の魂を引きはがさなければなりません、邪魔なのでどっか行ってなさい」

「それってヴェロニカお姉さんは戻ってこないってことですか?」

「おや、憑依者と交流があったので?ふむ、女性が憑依していたのか…」

「つーかお前ヴェロニカのこと知ってたのかよ!あいつ俺に何も言ってなかったぞ」

 

ミーの言葉に突っ込んでくるカス鮫先輩に、何かいつもと違うと違和感を覚える。

 

「まぁなにはともあれ一刻を争います、おチビ邪魔をせず見ていなさい」

「ヤですー、ミーはヴェロニカお姉さんに残って欲しいですー」

 

ミーは幻術でパイナップルの精のにパイナップルを投げつける。

片っ端から消していくパイナップルの精が、やめなさい、とイライラしながらミーの襟元を掴んで病室の外に出そうとする。

それに反抗するミーとの奮闘は少し続き、パイナップルの精とカス鮫先輩がキレる一歩手前みたいな顔になり出す。

そんな時、小さな声が病室の奥から聞こえた。

 

「うるせー…ぞ…お前ら……」

 

苦しそうに呟く低い声にその場の三人が固まり、病室の奥を凝視する。

 

「ザンザス……いえ、憑依者ですか」

「ヴェロニカお姉さん!」

 

ミーは二人から離れ、ヴェロニカお姉さんに駆け付ける。

ヴェロニカお姉さんが眉を顰め、ミーを見てきた。

 

「フラン、その名前は…人前で喋るなとあれほど……」

「それよりヴェロニカお姉さん!パイナップルの精とカス鮫先輩がヴェロニカお姉さんのこと切り離すって言ってますよー、クーデターです裏切りですー」

 

呆れたような声のヴェロニカお姉さんにパイナップルの精とカス鮫先輩が企ててる策略を教えてやった。

状況が理解出来たのか手で顔を覆うヴェロニカお姉さんを見て、だから早く逃げましょーって言おうとしたけどヴェロニカお姉さんがそれを遮る。

 

「おい六道骸…スクアーロ、少しだけ外せ……」

「あまり時間がありません、手短にお願いしますよ」

「分かっている…」

 

病室を出た二人に今がチャンス!って思ったミーに、ヴェロニカお姉さんがミーの名前を呼んできた。

 

「フラン…」

「何ですかヴェロニカお姉さん」

「今から言うことをよく聞け、私はもうここには居られない」

「!」

「すまない、だが元々この世界にいるべき存在ではなかった」

「でも、」

「フラン………大丈夫だ、お前は私がいなくてもなんとかやっていける…私が保証する」

 

頭を撫でる腕には包帯が巻かれてて、薬の匂いが鼻の中に広がった。

ミーは駄々こねても、この人を困らせるだけだと分かっているから何も言えず、我慢しようとした涙が溢れた。

もう、いっちゃうんですか?と言っても優しい声で、ああって応えるだけで、もう本当に時間はないって理解する。

 

「フラン、お前なら大丈夫……お前は必ず優秀な術者になる」

「何で分かるんですかー…」

「秘密だ」

 

小さく笑ったヴェロニカお姉さんが最後に、ミーを抱きしめ、背中を人撫でしたら、病室の外で待ってる二人を呼ぶ。

終わりましたか、とパイナップルの精が言えばヴェロニカお姉さんがああ、と答えた。

ミーは最後までヴェロニカお姉さんの手を握りしめ、さよならするまで離さないよう強く握りしめた。

それを見たカス鮫先輩が何故か居心地悪そうに目線逸らしてたけど、やっぱりあの人違和感がありますー。

 

 

 

「……僕もそれなりに補助はしますがあなたが縁を切りやすくさせるだけであって、切るのはあなただ」

「…ああ」

「では、いきますよ」

 

パイナップルの精から出る炎がヴェロニカお姉さんの中に入り、お姉さんが瞼を閉じるとその姿がぼやけ出す。

その光景に握っていた手が強張る。

ブレが酷くなっていく中、ヴェロニカお姉さんの口がゆっくりと小さく開いた。

 

 

「フラン、小さい私をよろしく頼む」

 

 

 

それを最後に、ヴェロニカお姉さんの面影は消えていき、替わりにあの怖い顔の男の人が現れる。

ミーは思わず手を離し、距離を取る。

 

 

あ、もうヴェロニカお姉さんに会えないんだって分かった。

 

 

悲しかったけれど、思ってたよりも苦しくなくて、自分でも首を傾げていると、ふとヴェロニカお姉さんの最後の言葉を思い出した。

あれは何だったんですかね…

 

 

 

 

ミーがその言葉の意味を理解したのはずっとずっと後になってからだった。

 

 

 

 

 




次ザンザス視点。
3/2に間違って25話を一度投稿してしまいました、すみません。
以後気を付けます

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