Veronica Ⅱ   作:つな*

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Veronicaの驚愕

ヴェロニカです。

現在フランスの山奥に来ています。

この時代のフランの勧誘に向かってる最中です。

フランは別に勧誘出来たらいいなーと思ってたぐらいだったんだが、これからのことを考えると必要になってきたので本腰あげて勧誘することになりました。

本当は私まで勧誘に行く予定はさらっさらなかったし、他の奴等で事足りると思っていた。

だが、スクアーロが幹部全員連れて行くと言い出したので、理由を問いただしたところ他の組織もフランを狙っているとのこと。

んで、その組織に六道骸とかいるのでは?と予想した私は、六道骸に会えれば儲けものな感覚で一緒に行くことになった。

ぶっちゃけこの憑依状態をどうにかしてほしい。

幹部達は物凄く驚いていたけれど、今ではピクニックというかプチ旅行のような雰囲気になってしまっている。

おいフランスに遊びに来てんじゃねぇんだぞ、本場のシュークリーム美味しいですチクショウ。

早1時間、山を登っていると、滝がありそこを一気に駆け上がっていく。

 

「あいつこーゆー所で遊んでたんだ」

「確かに悪くない自然の道具だが、普通のガキならぜってー来れねぇな」

「やっぱフランは普通じゃなくてアホってことだろ?」

「まったくだびょん」

 

ベルとスクアーロの会話にヴァリアー以外の第三者の声が降って来た。

 

「なっ」

「んあ!?」

 

声のした方へ全員が視線を向けると、そこには六道骸の一味がいた。

予想が当たったぜヤッホーイ

内心そんなことを思いながら数歩下がって六道骸とヴァリアーの会話を眺めていた。

するとベルが川の方を指差すので、その場に居た者が視線を移す。

 

「相変わらずおばあちゃんの弁当まずかったなー…何してグレようかなー」

 

巨大なリンゴの被り物をしていた少年の後ろ姿に誰もが呆れる中、その少年が後ろを振り向いた。

 

「やべ、妖精が見える」

 

開口一言目で誰もが唖然としている中、ヴェロニカは暑いのが我慢ならずその場を離れ目の届く範囲内の木の下に移動する。

コートを脱ぎ袖を捲り、木の下にある石に座り込み、六道骸とスクアーロそしてフランの会話を眺め始める。

 

「フラン僕です!わかりますね、お前の師匠です!」

「たまげましたビックリですー、こんな山の中にパイナップルの精が」

「ぶっ」

 

フランの言葉にヴェロニカは思わず吹き出すが距離があったためか誰も気付かなかった。

 

「あ、よく見るとロンゲのあなたは見覚えがありますー、というよりこちら側のみなさんは知ってます、一つの集団ですよね」

「やっと気づいたか」

「虫歯菌だ」

「虫歯菌は妖精でもねぇだろぉが!」

 

そんな会話の途中でマーモンが、ヴェロニカが離れたところに避難していることに気付き近づいてくる。

 

「ボス、僕は少し用事で離れたいんだけど許可をくれるかい?」

「好きにしろ」

「ありがとう」

 

マーモンはそれだけ言うと姿を消す。

そして視線を戻すと、そこには今にもフランに襲い掛かろうとして千種に止められている六道骸と、ナイフを投げ出したベルがいた。

 

「ヘルプミー!前髪切り忘れた頭の悪そうな虫歯菌がいかにもオリジナルって感じのダサダサナイフ投げてきたー!」

「びょんとかいい顔で言えるのはバカだから!きっとバカの精だ触るとバカがうつる」

「なんでだろうこの虫歯菌全然怖くないや、スルーしよっと」

 

ベル、犬、レヴィにそれぞれ毒を吐きながら逃げるフランにスクアーロと千種、六道骸がフランの逃げ道を塞ぐ。

 

「う”お”ぉい!そんなに死にてーのかぁ」

「観念しなさい」

「ヤバイ…妖精をおだてて鎮めないと殺される」

 

次々と的確に相手に毒を吐いていくフランにスクアーロが思案顔で言い放つ。

 

「う”お”ぉい、一つ聞くぞフラン。お前最近頭強く打った覚えはねぇかぁ!?」

「おばあちゃんによるとチーズの角で頭打ったらしいですけど、ミーは記憶を失ってい覚えていないんですー」

「「「………」」」

 

フランの言葉にその場の誰もが無言になり、三人は考え込み始める。

それを好機と思ったのかフランがすぐさま立ち上がり方向転換し、逃げ始める。

逃げたフランを追おうと周りが反応する。

追いかけっこを見るのに飽きて、視線を外して緑を眺める。

天気が良すぎて日差しが強いが、たまには森の中を散歩するのもいいかもしれないな…

今度本部の隣にある森の中に休暇用の別荘作ろうかな。

ヴェロニカが考え込んでいると、突然背中に小さな衝撃を受ける。

 

「?」

 

内心首を傾げながら後ろを振り向くと、そこにはリンゴの被り物を被っているフランが腕をヴェロニカの腰に巻き付いていた。

ヴェロニカは急なことに目を見開く。

 

「助けて下さーい、いかにも悪党ですって顔の人達に追われて命狙われてますー」

「…」

 

待て、ザンザスの顔もいかにも悪党って顔をしていると思うぞ少年よ。

だって頬とか額に傷残ってるし、ザンザスの眼つきは最高に悪いし。

ヴェロニカの思考を他所にフランの奇行に周りにいた者は全員固まっていた。

 

「おいおい、あれフラン殺されね?勧誘する前に殺されね?」

「うむ、短い人生だったな…あの小僧」

「少し可哀そうだけど、仕方ないわねん」

「ちょっと、あなた達のボスでしょう!?止めなさい!」

「お前師匠だろ!?弟子を助けてやれよ!」

「牢獄から出たばかりなんです!まだリハビリ中なんですよ!」

「う”お”ぉい!取り合えず誰かフラン引き剥がせぇええええ」

「あなたがしなさい!」

 

骸とヴァリアーの幹部の会話がきっちりとこちらまで聞こえているヴェロニカは後で彼らに一発ずつお見舞いしようと思いながらフランを見下ろす。

そしてリンゴの被り物に手を伸ばし、被り物の幻術を調和で解く。

 

「虫歯菌とパイナップルの精から助けて下さい、お姉さーん」

「は?」

 

フランの言葉に今度こそ思考が止まる。

お、お姉さん?

待てこいつは、ザンザスの姿を女と間違えるほど頭イカれていただろうか?

ヴェロニカは自身の胸板を見て、ない、と思い再びフランを見る。

 

「にしてもお姉さん、さっきから姿がぼやけてて怖い人と被って見えますー」

 

今度こそヴェロニカは確信し、フランを脇に担ぎその場を全速力で走りだす。

周りの者はフランの奇行に次ぐザンザスの奇行にまたもや固まっていた。

数分ほど走って誰も周りにいないことを確認すると、肩に乗せていたフランを降ろす。

 

「ありがとうございますーお陰で助かりましたー」

「そんなことどうでもいい、フラン、今お前の目に俺はどう映っている?」

「綺麗な20代のお姉さんに見えますよー眉毛割れてるけど」

 

やはり、フランには私の本当の姿が見えているようだ

何故見えるかは分からないが、これが六道骸の元にいくのは全力で避けたい。

というより変な疑いを持たれたくないので誰にも言わないで欲しい、切実に。

 

「さっきいた銀髪のロンゲの奴は姿がぶれてたりしてたか?」

「いいえー?あなただけですー」

「フラン、お前が見ている姿と他の人が見ている姿は別物だ…他の人には男に見えている…それも結構な強面の」

「え」

「このことは誰にも言うな、分かったな?」

「ていうか本当はどっちなんですかー?」

「さぁな、少し複雑なんだ…男でもあり女でもある、他の者には男にしか見えないから、男と思ってくれていい」

「そうですかー…大人は複雑ですねー」

「で、だ。お前に提案がある」

「なんですかー?」

「お前を俺の部下としてスカウトしたい、こんな山奥でひっそりと暮らすよりは刺激があって楽しいと思う」

「部下ですかー?給料でますかー?」

「最初は候補だからな、そこまで給料は出ないが…まぁ一年あれば普通に働くよりは倍以上出る」

「おおーでも何かきな臭いですねー、お仕事なんですかー?」

「マフィアだ」

「えーお断りしてもいいですかー?」

「俺の話を断るのは自由だ、だが先ほどの銀髪ロンゲとナッポーヘアの奴らはお前を裏の世界へ引き込むつもりだ」

「なるほど、お姉さんは銀髪ロンゲの方の仲間なんですか?」

「あいつらの上司だ」

「パイナップルの精はどんな人ですかー?」

「さぁな、あまり奴のことは知らんが…僕と契約しましょうだクフフだ永遠のサンバだのとのたまう奴であることは知っている」

「お姉さんの方について行きますー」

「じゃあ早速イタリアに連れて行く、家族に教えてこい」

「はーい」

「マフィアの部分は濁して伝えろよ」

「分かってまーす、あ」

「?」

「お姉さんの名前は何ですかー?」

「ザンザスだ…」

「それは男の方のですよね、女の方は何ですか?」

「何故それを聞く」

「ミーにはお姉さんにしか見えないんですーだから違和感すごくてー」

「教えてやってもいいが、誰にも言わないと約束出来るか?」

「破ったらどうなりますかー?」

「聞きたいか?」

「嫌な予感がしたのでやっぱいいですー、でも名前は教えて下さーい」

「……………ヴェロニカ…」

「じゃあヴェロニカお姉さんですねー」

「人前では間違っても口を滑らせるなよ」

「はーい、じゃあ荷物纏めて来ますねー」

「ああ、一時間後また先ほどの川へ来い」

「分かりましたー」

 

フランは走りながら森の中に消えていき、ヴェロニカは溜め息を吐き先ほどの川へ戻る。

ヴェロニカが川の方に出た瞬間ヴァリアーと骸の一味が一斉にこちらを振り向いた。

 

「ボボボボボス…もももしかして殺しちゃったの?」

「あーあ、折角来たのに無駄足だったね」

「ちょっと!人の弟子を勝手に殺さないでくださいよ!」

 

一旦ぶっ飛ばしていいかな?

ヴェロニカは一体に炎をまき散らし、取り合えず全員に一発ずつお見舞いする。

そして火傷を負いながらも復活する幹部共と六道骸に言い放つ。

 

「おい、カス…あのガキはヴァリアーで預かる」

「え」

「う”お”ぉい!ボス!あのガキは記憶がなくてだなぁ!」

 

スクアーロの言葉を無視して、木陰の方で寝る体勢で瞼を閉じた。

少しすると、まだ声変わりのしていない子供の声が聞こえ瞼を開ける。

体を起こすと、そこにはヴァリアーの面々とフランがいた。

どうやら六道の一味は既に去ったらしい。

あ、そういえば六道骸に憑依のこと聞きに来たのにフランの言葉が衝撃的過ぎてスッカリ忘れてた。

しかたない、今度聞くか。

フランはヴェロニカが起きたことに気付き、近寄ってくる。

 

「ボスーおばあちゃんに話して来ましたー」

「そうか」

 

ヴェロニカは立ち上がり、背伸びをするとスクアーロに声を掛ける。

 

「おいカス鮫帰んぞ」

「了解…」

「ボスーあの銀髪ロンゲってカス鮫って名前何ですかー?」

「そうだ」

「う”お”ぉい!嘘教えてんじゃねぇ!俺はスペルビ・スクアーロだあ”!」

「私はルッスーリアよぉん」

「シシッ、俺ベル、間違ったらお前ハリセンボンな」

「俺の名前はレヴィ・アー「あ、そっちのおっさんは別にいいですー、じゃあよろしくお願いしますねー虫歯菌の皆さん」」

「「「「誰が虫歯菌だ/よ!」」」

「わー虫歯菌が怒ったので匿ってくださーいボスー」

「…はぁ」

 

途中でマーモンと合流し、イタリアに帰るまでフランはヴェロニカの隣に居座り、離れようとはしなかった。

その日は、何故かとても懐かれてしまっていることに戸惑いを隠せないヴェロニカと、ヴェロニカに大胆な行動を取るフランと、それをハラハラしながら眺める幹部達の姿が見られた。

そして翌日からフランの幻術指導が始まった。

だが、その日の昼にマーモンがそわそわしながらヴェロニカの執務室に入ってくる。

 

「誰だ」

「僕…マーモン」

「何だ?」

「ボスに聞いてほしい頼みがあるんだ…」

 

きた、これか…

 

「虹がらみだな」

「…うん」

「内容次第だ」

 

マーモンが今回の代理戦争のことを教え始める。

元々参加しようとは思っていたので、即了承するとマーモンがあからさまに安堵していた。

 

「だが条件がある」

「え……な、なんだい……」

 

いきなりの発言に表情が強張るマーモン。

心配するな、難しい話じゃないんだから。

 

「フランの幻術レベルを急ピッチで上げろ」

「え?あ、それくらいお安い御用さ!」

「そうか、ならその代理戦争までにだ」

「ああ!じゃあ今から特訓を付けてくるよ!」

 

マーモンがそう意気込んみながら出ていく。

すまんなフラン、暫しの辛抱だ。

出来るだけ計画を成功させる確率を上げたいからな。

夜になり、やることもなくなったヴェロニカはトレーニング室へ行く。

いつも使っているトレーニング室の隣が使用中になっており、中を見てみるとマーモンの幻術の攻撃をフランがひたすら避けていた。

あれじゃいくらやったって上がらないのでは、とすら思っているとマーモンがヴェロニカの存在に気付き攻撃の手を止める。

 

「ボスじゃないか、どうしたんだい」

「いや偶々目に入っただけだ」

「ボスー助けてくださーい、マーモンって人がー、ミーを殺そうとしますー」

「君はボスに頼り過ぎだよ!早く君には強くなってもらわなきゃいけないんだからね」

「ボスー」

 

フランのやる気を削ぐのは避けたいし、特訓を詰めすぎるのは返って逆効果でもある。

特にフランの様な性格の者ならば強制的にやらせるのは悪手だ。

 

「マーモン、今日はもういい」

「ボス!?」

「わーい流石ボスー」

「その代わりに、フラン、てめぇは明日のこの時間までに有幻覚を自由に操れるようにしておけ」

「分かりましたー」

「何か分からないことがあればマーモンに聞け」

 

昨日のりんごの被り物の幻覚の精度からして有幻覚を自分のものにするのはそこまで難しくないだろうし、当面は攻撃の幅と技術を伸ばしてもらおう。

ヴェロニカはそれだけ言うと、隣のトレーニングルームに向かう。

仮想空間で仮想敵と戦えるように設定して、トレーニングルームへ入る。

そしてそこから数時間程体を動かして、息が上がってきたところで時刻を確認する。

そろそろ日付が変わる時間だったのでそのまま切り上げて、シャワーを浴びて自室へ戻る。

部屋に戻ると机の上に資料の束が置いてあり、それを一枚ずつ読み出す。

そこには並盛の地図と近場の広い場所や廃墟、また今回の代理戦争中の相手チームの名前と行動が大雑把ながら記されていた。

地形などは入江が記憶を絞り出して書いたのだろうと思い、再び資料すべてに目を通す。

全て読み終える頃には夜中の1時になっていて、流石に眠ろうと思いベッドに横になる。

明日には日本へ飛ばねければならないと思うと、気が重くなる。

もう少しだけ時間があればなぁ

 

 

 

 

 

フランside

 

ミーはフランスに住んでいて、家族はおばあちゃんだけで、いつも自覚のないマズい弁当をミーにあげます。

ミーは人とは少しだけ違うところがあった。

それはないものが作れたり、まるでそこに本当にあるかのような現象を作り出したりと魔法使いのようなことが出来ること。

それを皆が怖がって近寄らないのもあったけど、ミーはあまり気にしていなかった。

お母さんもお父さんもミーが怖くて逃げだしたのを知っているから、尚更他人が離れていくことが当然のように思っていた。

なのにおばあちゃんだけがミーを引き取ってくれた。

だけどミーは、おばあちゃんもミーを怖がっているのを知っている。

それから誰の前でもこの力を使うことはしなくなって、誰も登れない滝の上で時間を潰していた。

初めて力を使って作ったリンゴを、被り物の大きさにして被っている。

誰もいないこの川で力を使って時間を潰していた。

最近頭をぶつけて前後の記憶がなくなったけれど、どのみち同じ毎日だと思いなんとも思わなかった。

本当に寂しくも悲しくもなかったけれど、つまらなかった。

 

そんな時に、いつもの川で暇潰ししようとしていたら知らない人たちが現れた。

片方はパイナップルの精で、もう片方は虫歯菌だった。

そいつらはミーを追いかけて殺そうとしたので、取り合えず人通りのある場所に逃げようかと思っていた。

流石に人前で殺しはしないだろうと思って逃げようとしたけど、先回りされたことに驚いて尻もちをつく。

何やら変なことを言いながら銀髪ロンゲの質問に答えると急に静かになり出したので逃げようと再び走り出した。

すると視界の端にセミロングのお姉さんが木陰の下で大きめの石に座っていたので、助けを求めようとそこに走りだす。

そして勢いよく走っていたお陰で止まらずそのままお姉さんにしがみつく。

 

「虫歯菌とパイナップルの精から助けて下さい、お姉さーん」

「は?」

 

ミーの言葉でお姉さんが固まる。

そんなお姉さんを眺めていると、なんだかお姉さんの体がぶれ始める。

首を傾げながら目を細めると、頬に傷のある男の人が一瞬だけ重なって見えて驚く。

 

「にしてもお姉さん、さっきから姿がぼやけてて怖い人と被って見えますー」

 

それを教えると、今度こそお姉さんは目を見開きミーを担ぎ上げてその場から離れた。

遠くまできたところでお姉さんがミーを下ろす。

お礼を言うが、お姉さんはそれどころじゃないらしく、あれやこれやと質問を投げかけてくる。

素直に答えていくと、お姉さんはまさかのニューハーフみたいな人だった。

お姉さんはミーをマフィアにスカウトしに来たみたいで丁寧に断ろうと思ったけど、お姉さんの言葉に先ほどのナッポーとロンゲを思い出す。

どのみち怖い場所に引き込まれるなら待遇のいい方を選ぼうかなと思って質問をする。

 

「なるほど、お姉さんは銀髪ロンゲの方の仲間なんですか?」

「あいつらの上司だ」

「パイナップルの精はどんな人ですかー?」

「さぁな、あまり奴のことは知らんが…僕と契約しましょうだクフフだ永遠のサンバだのとのたまう奴であることは知っている」

「お姉さんの方について行きますー」

 

やはりあのナッポーは変人だったのかと納得して、常識人そうなお姉さんの言う通りにおばあちゃんに一言断ってからこの街を出ようと思った。

お姉さんと別れる際にお姉さんの名前を聞きだした。

 

「………ヴェロニカ」

「じゃあヴェロニカお姉さんですねー」

 

多分さっきあんなに誰にも言うなって言ってたから、誰もお姉さんの名前を知らないんだと思う。

少しだけ優越感に浸りながら家に帰る。

家に帰ると、少ない私物を鞄に詰めてキッチンにいるであろうおばあちゃんに声を掛ける。

 

「おばあちゃん、ミーはこの街を出ます」

「ああそうかい……って、え?」

「なのでミーはもう戻ってこないと思います、おばあちゃんはそろそろ楽して生きて下さーい」

「ちょっとお待ち、また…何でだい?誰かに嫌なこと言われたかい?」

「自分の居場所を探しに行こうと思ってますー」

「…そうかい……気を付けて行ってくるんだよ…」

「はい、今までありがとうございましたー」

 

少し心配そうにしてくるおばあちゃんに簡素な礼だけを述べて家を出る。

ミーを本気で嫌ってはいなかったけれど、恐怖は抱かれていたので、おばあちゃんのストレスにはなってたと思った。

軽い足取りで、先ほどの滝を登った所の川へ行くと、お姉さんはすよすよと眠っていて、他のオカマや前髪やロンゲ、おっさんの視線が一斉にこちらに向く。

 

「おいマジで生きてやがった」

「う”お”ぉい、ガキ!よくボスから生き延びたなあ!」

「シシッ、そのまま死んでも良かったんだぜ」

「前髪伸ばして前見えない人の方が死ぬ確率高そうですけどねー」

「お前ほんと生意気」

 

前髪の人が怒り出し、その人から逃げているとお姉さんが起き出したので、そちらに駆け寄る。

お姉さんの後ろに隠れると、前髪だけじゃなく皆が狼狽えている。

お姉さんは帰るとだけ言って歩き出すその速度に合わせて隣を歩きながら、前髪の人と言い合いをする。

どうやらお姉さんは怖い人を演じているようなので、これを利用して危なくなったらお姉さんの後ろに隠れようと思う。

その日はイタリアに向かい新しい部屋を与えられた。

そして自身の持っている力が幻術であるということを赤ん坊に教わった。

正直赤ん坊に教わるのはどうかと思い、ちょくちょく力を使って抵抗したが、ものの数秒で抑えられて説明を続けられた。

不満たらたらでその説明を聞くと、ミーが使っていた力を使う者はこの世に数百人以上もいると言われた。

マフィアがどういったものか知らないけど興味が沸いた。

 

翌日から赤ん坊に幻術を教わることになった。

朝からずっとトレーニングトレーニングしか言わない赤ん坊を鷲掴む。

 

「おいマーモン先輩とやらよぉ、さっきから同じことばっかりやらせやがってノイローゼになるわ」

「は、離せ!僕だって君みたいなガキのお守は嫌なんだよ!」

「あ?誰がガキだよこの野郎、てめーの方が年下だろ」

「少なくとも僕は君より年上だよ!ったく」

「嘘つくとこのツーフィンガーがお前の目を突き破って前頭葉とコンニチワですよ」

 

指二本のピースサインをマーモンの目に向けて伸ばすと、痺れを切らしたマーモンが幻術を使ってきてミーの足元を崩しだす。

ミーはその場を飛ぶと、目の間のマーモンは宙に浮かんでいた。

 

「わーそれ何の手品ですかー?ミーもやりたーい」

「これだから子供は!何でボスもこのガキを僕に任せたのやら…ほらさっきの練習をもう一度しな!」

 

不服だけど幻術の腕は少しだけマーモン先輩の方が上のようなので、指示には従う。

数時間すると、時間は夜でミーはとても眠くて幻術どころじゃなくなった頃にマーモンが叱る。

 

「明後日までに君を僕レベルの術師に仕立て上げるんだ!寝る暇なんてないよ!」

「横暴だー、いじめだー」

 

嫌々と態度に表していると、マーモンの幻術が止まる。

それに首を傾げながらマーモンの視線を追うと、ヴェロニカお姉さんがいた。

直ぐにお姉さんに縋りつくと、お姉さんは暫し考える。

 

「マーモン、今日はもういい」

「ボス!?」

「わーい流石ボスー」

「その代わりに、フラン、てめぇは明日のこの時間までに有幻覚を自由に操れるようにしておけ」

「分かりましたー」

「何か分からないことがあればマーモンに聞け」

 

宿題がでたが、今日の修行が終わったことに喜ぶ。

そしてお姉さんが隣のトレーニングルームに入っていくと、ミーはマーモンに声を掛ける。

 

「全くボスは何でこのガキに甘いんだい…」

「で、有幻覚って何ですか?」

「それも分からないのかい?仕方ないから見せてあげるよ」

 

それから数分マーモンから有幻覚を教わり、その日の修行を終えて自分の部屋に戻る。

早くこの有幻覚を覚えて、お姉さんに褒めてもらおう。

フランはただひたすらベッドの中で有幻覚のリンゴを作り出す。

直ぐに本格的に眠くなり、瞼を閉じる。

 

 

木陰で石の上に座るお姉さんの姿が、一瞬だけお母さんに見えたのは誰にも教えないミーだけの秘密です。

 

 

 

 

 

 




お馴染みブラックホース、フラン君。

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