Veronica Ⅱ   作:つな*

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Veronicaの哀愁

「あ」

「あ"?」

「夢か」

 

ヴェロニカです。

現在、私は執務室にいて目の前には若いザンザスがいます。

多分これは未来で見た夢と同じものだろうと思いながらザンザスに声をかける。

 

「久しぶり」

「てめぇか…おい、いつまで俺の体を使う気だ」

「さぁ…」

「カッ消してぇ」

「ねぇ、ザンザスはずっとここにいるの?」

「やることねぇしな」

「一人でずっとここにいるの?」

「……」

 

急に黙る彼に、おや?と首を傾げていた時、背後の扉が開く。

 

「う"ぉおおおいボス!聞いてくれよ!また俺が情けねぇ顔――――」

 

スクアーロが何かを愚痴りながら入ってくるが、ヴェロニカの姿を見ると静かになった。

 

「あ"?おめーボスさんに憑りついてるやつじゃねぇか」

「え?」

「つーかてめーらいつまで俺らの体乗っ取ってんだよ」

「??もしかして入江じゃなくて、本物の方のスクアーロ?」

「お"う」

「あなた達同じ空間にいたの?」

「誰も俺らに気付かねぇけどなあ"!」

「へぇ、ごめんね…私も返したいんだけど、どうすればいいか分からないんだ」

「ッチ、今ここで三枚に卸してやろうかあ"」

「それあなたが負けるわよ」

「あ"あ"!?てめぇ今ザンザスじゃねぇだろ!ただの女に俺が負けるわけ―――――」

「その女だけど、パラレルワールドのザンザスの娘でヴァリアーのボスしてるのよ?」

「はあ”あ”あ”あああ!?ザンザスの娘だとお”お”お!?」

「あなた達一緒の空間いるのにザンザスから聞いてなかったのね…」

「つーか俺を乗っ取ってるあの入江とかいうひょろっこ!どうにか出来ねえのか!」

「入江が何かしてんの?」

「毎度毎度、任務帰りのあのしけた面を俺の顔でやんだぞ!情けねぇったらありゃしねぇ!」

「ああー……それは、まぁ……彼はヘタレだし、というかあなた達って私たちの会話とか把握してるわけ?」

「あ”?いや、まぁたまに声が聞こえてくるぐれぇだなあ”」

「そう……うーんじゃあ入江が死にそうな時とかに声が聞こえたって言ってたのはあなたの声だったのかもね」

「死にかけ?ああ、あれか…あんな雑魚にやられるとか俺のプライドが許さなかったからなあ”…喝を入れてやったんだあ”!」

「それで入江は助かったんだ、ありがとう」

「けっ、俺は自分を助けただけだあ”!」

「もしかして私たちが未来にいったこととかも知ってるの?」

「あ”?どいつもこいつもいきなり様変わりしてやがると思ってたら未来だったのかあ”」

 

どうやら場面は見えても声は相当なことがない限り聞こえないようだ。

詳しく聞けば、行動範囲が自身の身体の半径10mほどで、本人たちは私たちから離れることは出来ず、抵抗しても引き摺られるらしい。

うわぁこれはザンザスから見ると相当ご立腹だと思うが、何故かそこまで怒っている様子はない。

多分こんなに年月が過ぎたから怒りよりも諦めが上回ったのだろうか。

 

「なぁおめー剣使ってるが、師は誰だぁ”…」

「元の世界のスクアーロよ」

「やっぱりかぁ、俺の剣技に似てると思ったぜえ”」

「にしてもあなた達、二人で8年間もこの空間にいたの?」

「まぁなあ”…退屈で死にそうだぜえ”」

「ご、ごめんなさい」

 

バン

 

急に大きな音とともに扉が開く。

 

「ヴェロニカちゃ―――――」

 

一気に老けた入江が入ってきて、ヴェロニカは心底驚く。

 

「入江?」

「ああ!よかった!君には僕が見えるのか…って何でスクアーロがここに?それにザンザスも…」

「う”ぉぉおおおい!俺の体返せぇぇぇえええ!」

「うわあああああ!」

 

久しぶりに見た本来の年齢に戻った入江に、首を傾げる。

 

「にしても何故入江までここに?」

「え?あ!そうだ、誰も僕が見えてなくて…っていうか元の姿に戻ってるじゃないか!」

「ああ…そうだが」

 

にしてもリアルな夢だなぁ…

起きたら入江にこのこと話してみるか。

スクアーロが入江の襟を何度も上下に振り回し、それに入江が解放されると四人は無言で佇む。

 

「い、一体何がどうなって…これは夢じゃ…」

「まぁ起きればわかることだ…それよりもスクアーロにお礼でも言っておけ入江」

「え!?」

「お前が任務中に死にかけた時声を掛けたのはそこのスクアーロらしいぞ」

「なっ……あ、ありがとう…」

「ッケ、あんな雑魚にやられるなんざどういう神経してんだ、このカス!」

「ひえぇぇええ…し、仕方ないじゃないかぁ!」

 

元の姿に戻ったからか怯え腰に戻っている入江から視線を外し、先ほどから何も喋らないザンザスにヴェロニカは近づいていく。

スクアーロと入江に聞こえないくらい小さな声で声を掛けた。

 

「パ…ザンザス、あなた…8年間の記憶あるの?」

「………ねぇ」

「そ…っか………ごめんね…」

「あれは、本当か…」

「あれ?」

「ジジイのことだ」

「あ………」

 

まっさかのここでそれくるかー…

血縁関係まだバレてないときに憑依されちゃったもんなぁ

言いにくい、本人…それも精神年齢推定16歳のザンザスに。

何で夢でここまで気まずい思いしなきゃいけないんだろ。

 

「うん、本当……本当だよ」

 

ザンザスは黙り込み、窓の外に視線を移すとそれ以降こちらを見ることはなかった。

何か慰めの一言でも口にしようものならぶち切れそうなので何も喋らず、自身の手を見ては細い腕を抓む。

あーーー、何だろ久々に自分の体を見たから不思議な気分だ。

でも、この、少しムカムカするような…

軽いホームシックだろうか。

………パパに会いたい…

元の世界じゃ私はどうなってるんだろう。

このまま時間が同時に進んでたら、8年もあちらにいないことになるし、意識のないまま眠ってるか…最悪死んでるか…

パパも不健康な生活してたからそこまで寿命長いわけじゃないだろうし

死んでたらどうしよ

パパの死に目にも会えなかったらどうしよう

会いたい

 

パパに会いたいなぁ……

 

寂しい―――――――

 

 

 

 

 

 

気付くとそこは執務室だった。

ヴェロニカは頬杖をつきながら書類を片手に眠っていたのだと分かった。

未来から帰って来たばかりで疲労が溜まっているのだろうと思い、背伸びをする。

今日中に終わらせるものに再び目を通そうとすると、スクアーロが扉を開けて入って来た。

スクアーロは片手に報告書を持っていて、提出する為に来たのだと分かるとまた視線を書類に戻す。

 

「ヴェロニカちゃん」

「何だ」

「夢を見た……」

 

入江の言葉に引っ掛かり、視線をあげる。

 

「ザンザスとスクアーロとヴェロニカちゃんと……僕がいた……何か身に覚えはないかい?」

「……同じ…夢を見た…」

「「……」」

 

ここまで来るとただの夢ではないと自覚する。

であればあれは何だというのだ。

 

「入江……まさかあれは…」

「恐らく、僕らの精神的世界か何かだ……そしてこの体の本当の持ち主たちを閉じ込めていた場所かもしれない」

「……」

「まぁ、ここまでくると流石の僕でも専門外だ……それに携わる者に聞くのが一番じゃないだろうか」

「六道……骸か…?」

「そうしたいが彼は今復讐者の牢獄だ」

「そうだな…今度クローム髑髏を通してコンタクトを取ってみよう」

「そうだね…なんだかなぁ……改めてこの体は僕のものではないことを突きつけられたよ」

「………」

「早く戻れるようやれるだけはやろう」

「ああ」

 

入江はそれだけ言うと、執務室を出ていく。

ヴェロニカは自身の手のひらを見つめる。

先ほどの夢とは違い、逞しい大きな手のひらを。

 

「ムカムカする…」

 

とてもとても小さな声が零れた。

ああ、一度思うと深みに嵌まっていく奴だこれは…

ホームシックだ。

ヴェロニカは深くため息を吐き、そのまま仕事を片付ける。

 

 

数日後、ヴァリアー宛に一通の書状が届いた。

それは継承式についてであり、ヴェロニカは首を傾げた。

いくら沢田綱吉が強くなっていたとしても、まだ十代目になることを忌避していたはずだが。

九代目もそれが分からないアホではないし…

いや、元の世界でも沢田綱吉が十代目として周知されたのはこの時期だったって聞いた気がする。

多分本来のザンザスなら絶対に参加しなかったんだろうけどなぁ

ぶっちゃけ私がボンゴレボスの座を狙っているってわけでもないし。

でもたかが継承式で足を運ぶのも…

取り合えず、ヴェロニカは書状の内容をスクアーロに教え、幹部達へ通達させる。

時計の針がそろそろ0時を回る頃に、執務室の扉がゆっくり開きスクアーロが入ってくる。

 

「あ、まだ仕事してたのかい?ならまた後で来るよ」

「いや、もう終わる…待っていろ」

「…うん」

 

入江を部屋の中に留め、残り少ない書類を全て処理すると、コーヒーを片手に入江に話しかける。

 

「それで要件は?」

「あ、えっと…今日報告があった継承式なんだけど」

「?」

「僕もあまり覚えてはいないんだけど、この継承式でひと悶着あったと聞いたことがあったんだ」

「それは、元の世界の沢田にか?」

「うん、確かシモンファミリーだったかな…反逆?みたいで。シモンファミリーって聞いたことある?」

「確かシモンファミリーは私が産まれた時代には既に同盟ファミリーとして連なっていた者達だ…」

「そうか……彼らが何かするのは分かるんだけど、僕が君に言っておきたかったことはこれだけじゃないんだ」

「まだ何かあるのか?」

「虹の呪いを解く機会が近いうちにあると思うんだ、こっちが本命だ」

「アルコバレーノの呪いを?」

「ああ、とても壮絶な話になるけど聞いてくれ」

 

入江は虹の代理戦争のことを事細かく教えてくれた。

正直聞いている途中で頭が痛くなってきた。

 

「待て、じゃあ何だ…このままだと私は腕一本と両足を斬られて重症になるってこと?」

「後遺症はなかったけれど、一時は危ない状態だったとか……」

「頭痛い…何でそんな強い奴が出てくるかな…」

「はは……スクアーロなんて心臓破壊されてたから、僕の方が死亡率高いんだけど」

「……待って少し…整理するから」

 

虹の代理戦争…こんな大きな出来事あったなんて…

しかもアルコバレーノ同士のバトルロワイヤルの上に最終的には共闘して復讐者と対決みたいなことになってるし。

ていうかトゥリニテッセってそんなややこしいものだったのか。

それに、トゥリニテッセの維持装置を開発したことで代理戦争の意味を成さないし。

だが入江が詳細を知ってることから最低限の対策は立てられそうなことが唯一の救いだろうか。

まず入江の話だと、イエーガーっていう奴が無茶苦茶強くて太刀打ちできないとか言ってることから、今の時点で勝つことよりも致命傷を回避することに重きを置きながら対策を練らないといけないということが分かった。

とりあえず入江はその戦闘じゃただの足手纏いになりそうだから、別のことしてもらうか。

それとウォッチを持っていない復讐者が闇討ちに来るだろうから、それを迎え撃つか、やり過ごすかも考える必要があるな。

 

「分かった…取り合えず対策を練ろう…少しでも死亡率を下げないことにはどうにもならん」

「ああ、そ、そうだね……」

 

それから入江と共に代理戦争へ向けて準備が始まった。

数日後、ヴェロニカは継承式に参加せずにイタリアに残ることにした。

幹部達には日本に向かってもらい、入江の通信機越しに状況を把握していた。

山本が不在であることも、継承式の途中でシモンファミリーが襲撃してきたことも、そして沢田達がシモンファミリーを追っていったこと。

どうやら彼らの勝負の決着がつくまでヴァリアーは動けないようだ。

これなら入江を継承式行かせるんじゃなかったなぁ…

 

ヴェロニカは空腹を訴え、シェフを呼ぼうと思ったが現時刻を思い出す。

イタリアではまだ夜中だった為、夜食の為だけに起こすのも悪いなと思い、仕方なく自身で作ることにした。

ヴェロニカはお菓子限定でポイズンクッキングなだけで、料理の腕は基本的にまともである。

絶対にヴァリアーでは出ないであろう、和風パスタを作る。

作り終えると、いつも座って食べていた場所に移動しようとして、一瞬止まる。

すると方向転換し、誰も使っていない椅子に座る。

そこは、元の世界でのヴェロニカの定位置だった場所である。

誰もいない部屋で一人、もくもくとパスタを腹に入れていく。

 

「いつ……帰れるんだろう……」

 

無意識に零れた言葉に我に返る。

ヴェロニカはパスタを食べ終え、執務室に戻ると酒を飲み始める。

 

 

ああ、ムカムカする

 

 

一時でもいいと、今までにないくらいの量を煽る。

酔いつぶれる様子のないザンザスの身体に呆れながら、ヴェロニカは机の上に何本も転がる酒瓶を眺める。

なんとなく、何で悲しくなったのかも曖昧になってきて、ヴェロニカはそのまま椅子に凭れながら瞼を瞑った。

 

 

❝ヴェロニカ❞

 

 

低く イラついたような 懐かしい声

 

 

「おい、起きろ…――――――…」

 

やめて 呼ばないで

 

 

「起きろっつってんだろ!ドカス!」

 

その怒鳴り声と共に、頭に衝撃が走る。

 

「は!?」

 

ヴェロニカは驚き、顔をあげると目の前にはザンザスが立っていた。

酔いが吹っ飛び、怒り気味のザンザスに戸惑う。

 

「え?」

「そこ退け」

 

ザンザスの言葉にヴェロニカは周りを見る。

いつもの執務室に、いつもの椅子、そして本来の自身の体。

ああ、これは……またあの精神世界だろうか。

ヴェロニカはそう判断し、取り合えず椅子から立ち上がりザンザスに譲る。

そして自分はソファの方に行き横になる。

 

「いつになったら私は戻れるのかなー」

「知るか」

「あなたの体でもあるんだからちゃんと考えてよ」

「じゃあてめぇが死ねばいいだろ」

「痛いのはやだ」

 

今回スクアーロはいないらしく、ザンザスと会話する。

この世界だと話し相手がいなくて退屈だったのか、きちんと話し相手になってくれる彼にヴェロニカは苦笑する。

 

「パパに会いたい……ちゃんと生きてるかが凄く心配…」

「このファザコンが」

「別にいいじゃん、パパ好きだし」

「…」

「ベルもレヴィもルッスーリアもマーモンもスクアーロも好きだよ…この世界の彼らじゃないけど」

「ふん」

「……」

「しけた面しやがって、てめー俺の顔でその面してみろ、カッ消すからな」

「はいはい」

 

段々と遠くなっていく意識の中でヴェロニカはくつくつ笑いながら呟く。

 

「ザンザスと話したおかげでもう少し頑張れそうだよ…ありがとね」

 

仰向けになりながらザンザスの顔を覗く。

口を開いて何かを呟いているも、彼の声が耳に届くことはなかった。

そしてヴェロニカは瞼を閉じて、再び現実世界へと旅立った。

 

 

「ん…」

 

朝日が顔に差し込み、目を細めながら辺りを見渡す。

転がる酒瓶に現実に帰って来たと分かり、時計を見やる。

あれから数時間も経っていて日本では既に夜になっていた。

入江の報告でも未だ決着はついていないようだ。

ヴェロニカが日課のトレーニングを終え、いつものように書類処理を済ませていると通信機に声が入る。

どうやらシモンファミリーとボンゴレファミリーですれ違いがあったようで、無事仲直りしたらしい。

初代霧の守護者D・スペードが黒幕だったことにはとても驚いたけれどね。

ていうか骸乗っ取られてやんの、ザマァしたかった。

翌日、幹部達がヴァリアー本部に帰還し、消化不良の様子だったのでその日に任務を与えた。

代理戦争まであまり時間があるわけではなく、取り合えずヴェロニカはトレーニング室に籠っている毎日だった。

そんなところにスクアーロがヴェロニカと幹部を全員会議室に集めた。

出遅れたマーモンで全員が集まったと確認するとスクアーロは皆に言い放った。

 

「今日てめーらを集めたのは他でもねぇ、うちの新しい幹部候補生をスカウトするためだぁ」

「なぬう!?」

「まぁ」

「ん?」

「新しい幹部?」

 

 

 

え。

 

 

 




さてさて次回はダークホースの登場。

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