その日の夜、嵐の決戦が終わる頃にヴェロニカに連絡が入った。
沢田家光がイタリアに着いた、と。
流石早いな家光……もう少し焦らすべきだったか
ヴェロニカの考えを他所にベルが傷を負いながら帰ってきた。
なんてこったい、嵐の守護者対決は獄寺が勝利してしまっただと?
あれれ?ベルが勝つんじゃなかったん?
これ勝ち越されるとヴァリアー側の負けになっちゃうんだけど…。
明日入江が勝っても、霧と雲で負けるから……あれれ…負け戦じゃねぇか!
いやまぁ今回の目的は沢田綱吉の零地点突破の会得だから別に負けてもいいんだけどさぁ。
悩むヴェロニカの横でスクアーロが簡易的な措置をして、ベルを休ませる。
次の日は朝から本を読んで時間を潰していたが、いきなりコンビニのスイーツが食べたくなりスクアーロに買いに行かせた。
何故かスクアーロが神妙な顔をしながら、コンビニに売られてあるスイーツを買ってくる。
久々に食べるコンビニのスイーツは美味しかった。
レヴィやベルが横で、庶民のスイーツを食べているザンザスに心底驚いていたのは無視しよう。
因みにスクアーロが帰路の途中で買って来た駄菓子も頂いた。
スクアーロは駄菓子なんぞ買わないぞ入江め……
そして夜になると雨の守護者の決戦があり、会場に足を向ける。
確か原作でも山本が即興で作ったオリジナルの型を使ったことで勝利したが、入江には通じないと思った。
なんせ入江はミルフェオーレに潜伏していた頃、ボンゴレファミリーを徹底的に調べていて山本の時雨蒼燕流も調べ尽くしているはずだ。
今日新しく作られる九の型も入江の中には情報として入ってるはずだ。
「雨の守護者の対決を始めます」
チェルベッロの声に意識を戻し、スクリーンを見る。
さぁ…見せてみろ入江…お前の8年間を――――――
スクアーロside
それはヴェロニカちゃんと同じ部屋で、ゴーラモスカの資料を見ていた時だった。
「…コンビニ行きたい」
最初は幻聴かと思い、再び手元の資料を見る。
視界の隅で、ヴェロニカちゃんがごそごそと動いていて、椅子を立ち上がって扉に向かっていく。
「待て待て、待って!」
「なに」
「いや何じゃないよ!どこ行く気だい!?」
「コンビニ」
「幻聴じゃなかった!」
「スイーツ食べたい」
「何で!?ここのルームサービスで事足りるだろう!?」
「いやコンビニのスイーツが食べたくなったから買いに行く」
「待って、ホテルの方が美味しいに決まってるじゃないか!ていうか君コンビニなんて行ったことないでしょ!?」
「失敬な、過去に行ったときに何度か行ってるから問題ない」
「問題ありだよ!ザンザスがコンビニだなんて!」
「ならお前が買ってこい」
「何で僕!?」
財布を持って出ようとするヴェロニカちゃんを押しとどめ、仕方なく僕がスイーツを買いに行った。
一応日本出身なだけあって、学生時代はよく利用していたコンビニだが、イタリアに移住して以来一度も行っていなかった。
コンビニの変わらない様に懐かしさを覚えながら入店する。
店員の声を耳にスイーツの場所へ向かう。
モンブランやショートケーキ、その他諸々カゴの中に入れていき、どうせならとアイスに飲み物も買っていく。
学生時代を思い出し、どれが好きだったか、どれをよく買っていたかを思い出すとついつい手が出てしまい、最終的に結構な量を購入してしまう。
まぁこれ経費で落とせるよね…多分
数千円の買い物をすると、帰り道に並盛を懐かしみながら歩いていた。
ああ、そういえば僕この時まだ学生かぁ…
目の前の駄菓子屋を見つけて、中でいつも買っていた駄菓子を少しだけ買うとアイスを思い出しホテルへ直帰しようとした。
次の曲がり角でホテルが見えるというところで、人とぶつかる。
「あぁ…悪い」
「「すみませ…あ」」
「あ"?」
そこにいたのは山本君と綱吉君だった。
何で彼らがここに!?……いやここ並盛だから別におかしいことじゃないか
「あわわわわ」
山本君は怯える綱吉君を庇いながら、こちらを見てくる。
今の僕はスクアーロだから、やっぱり怖いのかなぁ…
でも今の僕と綱吉君達は言葉を交わしたこともないんだよなぁ
やっぱ眼つき悪いもんね、スクアーロって
そのまま二人を無視しして、ホテルに戻ろうとすると、それが意外だったのか山本が声を掛ける。
「なぁあんた」
「あ"?」
「あんたヴァリアーの…雨の守護者…スクアーロだっけか?」
「そうだが…」
「いや何か…ヴァリアーの奴等って攻撃的かと思ってたけど、あんたは別にそんな感じしないんだな」
相変わらずの能天気っぽさに入江すら呆れ、隣の沢田も愕然としている。
「わざわざ決闘の場を設けられてんだぁ"…この場で争うメリットなんてねぇだろぉ"」
本来のスクアーロじゃ考えられないほど落ち着いた言葉だとは思うが、対面していきなり喧嘩吹っ掛けるような手間を掛けることが面倒だったので、嫌々ながら返事をした。
色々と昔の僕じゃ考えられない思考回路になってきているけれど、ヴァリアーにいて8年だから仕方ないのかな…
僕の言葉が意外だったのか沢田綱吉も目を丸くしている。
「昨日ディーノって人が、あんたのことを鮫みたいに突進してくる奴って言ってたから…なんかイメージと結構かけ離れてるのな」
「や、山本っ…」
「あいつと最後に言葉を交わしたのは何年前だと思ってんだか……」
「それに何かあんたは他の奴等と違って話し合えそうな雰囲気だしな!」
「おめーの目腐ってんじゃねぇかぁ"?」
先ほどから隣の綱吉君涙目だけど、無視なのかい?
そりゃ僕はヘタレなところもあるし、基本穏健な性格だと思っている。
他のヴァリアーの面子と比べれば話合える……のかなー?でも今はスクアーロだし…
「今夜は真剣勝負でよろしくな!」
笑みを作る山本に今度は入江が面食らう。
殺し合いによろしくもくそもないよ…っていうか殺す気はないけど!
綱吉君も呆れ返って顔が引き攣ってるよ…
「てめーの剣技…楽しみにしてんぞぉ"」
僕はそのまま彼らに背を向け、ホテルの方向へ歩いていった。
僕は溜め息を吐いて、コンビニ袋の中身を見る。
ああ、少し溶けてる…
ホテルに戻ると、コンビニ袋をぶら下げている僕にベルが興味津々に袋の中身を覗き始める。
「う"ぉい、食うならアイスだけにしろよぉ"…それ以外はボスのもんだぁ"」
「は?ボスがこんなん食うわけないじゃん」
「いいからおめーはこれでも食ってろぉ"」
そういってベルにはガリガリ君とハーゲンダッツを渡す。
ベルも渋々それをスプーンで食べ始め、僕はヴェロニカちゃんに、スイーツ類の入った袋を渡した。
ヴェロニカちゃんは袋の中身を見ると、モンブランを取り出し食べ始める。
ヴェロニカちゃんは気付いているか知らないけど、後ろでレヴィとベルの顔が凄いことになってるよ…
まぁ女の子だもんね、たまには甘いもの食べたいよね…
うん、でも何でこのタイミングでそれ食べたんだろ
モンブランを食べ終えると、満足だったのか他のスイーツは冷蔵庫に入れろと言われた。
ていうか他のやつも食べる気なのかな?
僕は好きだった駄菓子を食べ始める。
「ねぇスクアーロそれ何」
「これかぁ…途中で気になって買った…ふがしってやつだぁ"」
「美味いの?」
「あー、まぁまぁだな」
嘘です、とっても好きなんですコレ
僕が学生時代よく食べてたので、つい買ったけど凄くベル君がじーっと見つめてます。
仕方なく残りをあげたら、思いのほか気に入ったようで全部食べていた。
よく見たらレヴィやマーモンがタマゴボーロを食べていた。
何故!?と思いレヴィの目線を辿ると、ヴェロニカちゃんが無心にタマゴボーロを食べていた。
ヴェロニカちゃん自重ぉぉぉおおおお!
いや買って来たのは僕だけど!
ザンザス絶対そんなの食べないから!違和感だらけだよ!?
やばい、ヴァリアーで駄菓子が流行りそう…
僕の心配を他所に、夜になり僕は並盛中学校へ向かった。
会場へ着くと、そこは浸水している校内だった。
チェルベッロの説明に耳を傾けながら、辺りを見回して足場を確認していた。
一定の水位に達すると獰猛な生物が解き放たれますって言ってるけど、これ鮫?
試合開始の声と共に、小手調べで山本君に切りかかる。
いや一応10年後の山本武のデータは覚えてるから、小手調べに意味はないけれど体面的にやっておかねばと思いどんどん切り掛かっていく。
山本も焦りながらスクアーロの攻撃を躱したりしていて、忙しなく動く。
山本が両手で刀を持つと、このあと繰り広げる技の詳細を入江は脳内データーで素早く処理していく。
「時雨蒼燕流、一の型…車軸の雨」
攻式を繰り出す彼に、剣で軌道を逸らし胴体を思い切り蹴り上げた。
剣に仕込んだ爆弾を彼に向けて投げつけ爆破させるが、それも守式で切り抜けられる。
確か元の世界で山本君から聞いた話じゃ、この頃はまだ時雨蒼燕流を覚えたてで八の型までしかなく、逆境時に九の型を編み出したハズだ。
ならば編み出す前に倒さないと!
正直、8年も頑張ったからこんなとこで負けたくない。
漸く山本に隙が出来、入江の攻撃が肩に入った。
痛みで顔を歪める山本に畳みかける様に、斬り掛かり、足、脇に軽傷を負わせる。
どこから見ても逆転出来るような状況じゃなくなるが、入江の警戒は上がっていく。
山本が二の型を使い、水を巻き上げこちらに飛ばしてくる。
目隠しのつもりだろうか、それを次々と切りつける。
彼の影が見えた時に、それに切りかかろうとした瞬間
ガコッ
『水が一定量の水位に到達したため獰猛な生物を解き放ちます』
チェルベッロの声と共に、四方から2体の気配を感知し、すぐさまその場を離れる。
山本もこの場は危ないと感じ、直ぐに瓦礫の上に退避する。
鮫が出たことで遥かに戦いずらくなった戦場で、双方睨み合いながら相手の動向を探っている。
剣に仕込んだ爆薬を彼に放つと、彼の足場は崩れ、彼はその場から飛び移る。
そこを狙って斬り掛かるが、水を巻き上げられ姿を失った。
だが視界の端で巻き上げられた水の中に影が移り、それが九の型に移行する為のフェイクだと分かると敢えてその影を切りつけた。
瞬間、背後から来る気配に体を傾け、視界の横を通る刃先と山本君を見やる。
奇襲が成功したと思っていたようで、攻撃を避けられたその顔は驚愕を表していた。
彼の攻撃を避けたまま、彼の腹部をこれでもかというくらいの力で蹴り上げた。
すると山本君は突き抜けていた二階の足場まで飛ばされていった。
もちろん鮫のことを考えると、一階は危ないので二階に避難させただけである。
彼の安全面を考えているばかりで、僕は自身に向かう鮫の気配に気付かなかった。
バシャァア
「!」
背後から水飛沫とともに鮫が口を開けて突っ込んできた。
咄嗟に義手の方を手前に出してしまい、鮫に腕を噛みつかれ水に落とされる。
鮫の泳ぐ速さは速くどれだけ鮫の胴体を蹴り上げてもびくともしなかった。
生命の危機に若干焦るも、直ぐに冷静になり鮫の生態を思い出し、鮫の鼻を抑える。
すると鮫は嫌がるかのように離れて行った。
もう一匹の場所を確認すると、直ぐに水から出て足場のある所へ移る。
山本君を飛ばした場所を見ると、姿は消えていてどこかに隠れただろうと思い、二階へ移動する。
二階へ飛び移った瞬間、後ろから山本君が斬り掛かってくるが、剣でガードし反撃をし出す。
先ほどから
そして傷が痛んだのか一瞬、山本の足が止まったのを見て一気に決着を付けようと僕は走りだす。
剣で山本君の日本刀を上に弾き飛ばし、そのまま致命傷になりにくい部分を刺そうとするが、紙一重で躱される。
追撃しようとしたら、腹部に衝撃が走った。
「三の型……
息も絶え絶えになっている山本君の足には、先ほど飛ばした刀の頭部分が足の平に乗せられていて、刀の先端は僕の腹部に刺し込まれていた。
一瞬鋭い痛みに襲われるも、入江はそのまま山本の肩を斬り付け、窓の外に放り投げた。
まさかあれで動かれるとは思っていなかったのか、それとも既に躱す体力がなかったのか、山本君はあっさりと窓ガラスを破り外に投げ出されていった。
腹部に刺さったままの日本刀を抜き、窓ガラスから下を覗くと、山本君が意識を失いながら地面に倒れていた。
チェルベッロが山本君に近づき、意識の有無を確認すると、宣言した。
「雨の守護者の対決はスペルビ・スクアーロの勝利とします」
あー、痛い…。
あまり深く刺さっていないけど、痛いもんは痛い。
包帯で止血しておけば明日にでも動けるようにはなるかなと思いながらザンザスの方へ向かう。
チェルベッロから雨のハーフリングを貰うと、そのまま合体させてホテルへ帰っていった。
山本君大丈夫だろうか…一応全部急所は外してるから死なないけど……
ホテルに帰ると、他の者は直ぐに眠り出したが、僕はヴェロニカちゃんの部屋に向かった。
ノックをして入ると、ヴェロニカちゃんが眠るところだったのかベッドの中に入っていた。
「あ、寝るとこだったんだ……」
「ああ、それより山本武に勝利するとは強くなったな…」
「まぁ8年間の経験と意地と約30年分のデータが僕にはあったからね」
「少し有利だったが、勝ったことに違いはない…傷はどうだ」
「ん、浅いから明日には動けるよ…桔梗にやられたやつに比べればこれくらい…」
「大空戦ではデスヒーターの毒を打たれるんだが」
「え」
「途中助けてやるから心配するな」
「いや、まぁ…それならいいけど……」
「ところで何で来たんだ?」
「僕は強くなったかなーって聞きに来ただけだったんだけど、先に言われてしまったよ」
「そうか」
「じゃあ僕も休むから、おやすみ」
「ああ」
僕はそのまま自分の部屋に入ると、疲れの溜まった体を一刻でも早く休ませたくて直ぐにベッドに潜り込んで眠りについた。
山本side
ツナと一緒に今夜行われる雨の守護者の対決について話しながら並盛を歩いていた。
曲がり角でツナと俺は人にぶつかり、謝ろうとしたら相手の顔を見て固まる。
そこにいたのは今夜戦う相手側の雨の守護者だった。
確かスクアーロとかいうやつで、ディーノからそいつは危険だと忠告された。
俺はツナを背中に庇い、相手の動向を見ていたらそいつは何事もなかったように俺たちを通り過ごしていこうとした。
その行動が意外で俺は声をかけた。
「なぁあんた」
「あ"?」
「あんたヴァリアーの…雨の守護者…スクアーロだっけか?」
「そうだが…」
「いや何か…ヴァリアーの奴等って攻撃的かと思ってたけど、あんたは別にそんな感じしないんだな」
他の奴等からは殺気だけしか感じなかったのに、こいつだけからは何も感じなかった。
今も、面と向かって喋っているが、本人は害意のがの字もなさそうな雰囲気を纏っていた。
しかも手にはコンビニ袋をぶら下げていて、若干中身が見えたがアイスやスイーツしか入っていなかった。
一見一般人だとすら思えるような物腰に他の奴等とは何かが決定的に違い、俺は内心首を傾げる。
「わざわざ決闘の場を設けられてんだぁ"…この場で争うメリットなんてねぇだろぉ"」
公私をきっちり分けているのか?
それとも無駄な労力を使いたくないだけか?
なんだかディーノが教えてた人物像とはとてもかけ離れていると思った。
「昨日ディーノって人が、あんたのことを鮫みたいに突進してくる奴って言ってたから…なんかイメージと結構かけ離れてるのな」
「や、山本っ…」
「あいつと最後に言葉を交わしたのは何年前だと思ってんだか……」
「それに何かあんたは他の奴等と違って話し合えそうな雰囲気だしな!」
「おめーの目腐ってんじゃねぇかぁ"?」
本気に不思議そうに、そして呆れられたような顔で俺を見るスクアーロに俺は笑みを作る。
「今夜は真剣勝負でよろしくな!」
スクアーロは一瞬目を見開くと、また元のダルそうな顔に戻り、今度こそ俺たちを通り越す。
俺もそのまま帰ろうと足を動かそうとしたら背後からスクアーロが声を出す。
「てめーの剣技…楽しみにしてんぞぉ"」
ああやっぱり、あいつは他の奴等とは何かが違う。
一瞬だけ振り向いてスクアーロの背中を見た。
そこには暗殺部隊だなんて物騒な肩書を持っている男の背中には見えなかった。
そしてその夜、俺は雨の守護者の対戦でスクアーロと対峙していた。
昼間とは違い、鋭くこちらを射抜く表情に武者震いする。
剣の切っ先を俺に向け、俺の一挙一動を警戒していた。
あまりにも、他の者達と違う戦い方だがそれは俺を警戒するに値する男だと認めてくれたのか?
俺は守式攻式を使い分けながらスクアーロに立ち向かうが、容易く躱される。
スクアーロの速い特攻に俺が防戦一方の状態が続き、隙を突かれた俺は肩に重めの一撃を喰らう。
痛みに体が硬直している暇もない程、スクアーロが畳みかけてきてそれを凌ぐだけでいっぱいいっぱいだった。
スクアーロに貰った傷で、足と脇の方は浅かったが、水に浸かっているせいで出血量が倍ほど出ていた。
途中途中、何かの違和感を感じるがそれも分からず俺はスクアーロの隙を必死に探す。
だが俺が傷つくごとにスクアーロの警戒度は高くなっていき、隙が中々見つからない。
俺がオリジナルの技を使おうとすると、アナウンスが流れた。
『水が一定量の水位に到達したため獰猛な生物を解き放ちます』
何か檻のようなものが開く音と共に水面に浮かぶ二つの背びれに猛獣の正体が分かった。
目の前にいたスクアーロは危険を察知し、いち早く高めの足場に飛び移る。
俺も今の足場は危ないと感じ、高い場所へ飛び移った。
若干スクアーロとの距離が開き、冷静になる。
お互い相手の挙動を警戒しながら睨み合っていると、スクアーロが爆弾を撃ち込んできた。
それを避け隣の足場に立つと、水をいくつか巻き上げスクアーロの視界を塞ぐ。
そして俺の作り出したオリジナルの型を構え、スクアーロに向けて走り出す。
目の前にはスクアーロの背中で、奴は俺の影が映る水流を斬り付けていた。
隙をついた俺の攻撃はスクアーロの腹に入った、と思った瞬間にスクアーロの体がズレ、刃先が宙を切った。
躱された事実に驚愕している間にスクアーロは体勢を変え俺を蹴り飛ばした。
重い一撃に息が詰まり、俺は二階の足場まで飛ばされる。
また違和感が頭を過ぎるが、痛みと苦しさで直ぐに消えて行った。
「ごほっ…ぐぅ……」
脇腹が折れているのか、鈍痛が走る。
ここまで圧倒的な力を見せつけられるが、俺にはツナを守るという信念があり、意地があった。
何とか立ち上がり下を覗くと、スクアーロが鮫に左腕を噛まれて水の中に引き摺られていく瞬間だった。
目の前の光景に驚愕し、助けようかと体が動かそうとするが激痛が走りとてもじゃないが下の階に降りることが出来なかった。
数秒すると、スクアーロは何事もなかったように水から出てきてた。
俺は生きていることに安堵すると直ぐに思考を切り替え、柱の陰に隠れる。
スクアーロが俺を探しに、二階に登ってきた瞬間を狙い、俺はやつに刃先を向け走りだす。
予想通り、スクアーロは防ぐが俺はそのまま水を巻き上げては視界を潰していく。
今度こそ九の型で決めようと思って刀を振るっていると、脇腹に一際鋭い痛みが走り一瞬手を止めてしまった。
それを目の前のスクアーロは見逃さず、奴は俺の刀を上方に弾き飛ばした。
痛みに握りが緩んだ手から刀が飛び、今度こそ絶体絶命だと思うが最後の悪足搔きでスクアーロの攻撃を首を動かして避け、一歩下がる。
もう動けないなと思った視線の先に、先ほど上方に飛ばされた刀が落ちてくる瞬間を捉えた。
そこからは無意識で、右足をあげ刀の頭につま先を当てていた。
そして足で押し出した刀の刃先が、追撃しようとしていたスクアーロの腹部に静かに入った。
あ、入ったと気付いた時には勝手に声が出ていた。
「三の型……
一瞬の後、俺は肩を斬り付けられ体が浮いた。
肩の痛みを感じるよりも、窓ガラスを割れる音と共に体に衝撃が走り、その直後に浮遊感に襲われる。
既に動ける体力も気力もなく、呆然と夜空を視界に入れると意識はそこで途切れていた。
ツナと獄寺の声と…他にも笹川先輩の声が聞こえて、瞼を開ける。
そこには心配そうに俺を見るツナと焦った顔をしている獄寺と笹川先輩がいた。
そこで俺はようやく状況を理解した。
負けたんだ………俺。
途端胸の奥がずっしりと重くなり、苦しくなった。
「ツナ……わり、負けちまった…」
「ううん、大丈夫だよ!山本が死ななくてよかった!」
やっとの思いで出た声は少しだけ上擦っていた。
ああ、この胸の重みは……何だろ
努力して、確かにスクアーロに一撃入れた時俺の中に何かが湧き出たんだ。
あれは何だ、俺の修行の成果が形を成したことへの高揚感なのか。
だけどその時とは裏腹に今は只々胸が苦しい
「あ」
「え…どうしたの山本…どっか苦しい?今シャマル呼んだから安心して…」
「あはは………そっか…」
「や、山本?」
ツナの困惑した声が耳に入るが、今の俺には返す余裕はなかった。
そうか、これは……
「悔しいなぁ…」
昼間に見たスクアーロの背中を思い出す。
今じゃ記憶の中にあるあいつの背中がとても大きい壁に見えた。
「強ぇな……ぜんっぜん歯が立たなかった……」
「そんなことないよ、山本は最後に一撃入れたじゃないか!」
ツナの言葉が耳に入ることはなく、只々先ほどの一戦を脳内で繰り返す。
気が付くとシャマルが険しい顔で傷を見ていた。
傷の具合を見終えたシャマルは包帯で応急処置をしている最中、俺に言ってきた。
「おめーさん、ほんと運がよかったな…出血が派手なだけで致命傷は一つもねぇんだから、二代目剣帝相手に善戦した方だろ」
それを聞いた瞬間、戦闘中に過ぎった違和感を理解した。
いや、してしまった。
何故あの時斬りつけずに二階へ蹴り上げたのか、何故あの時刺し殺さずに窓の外にぶん投げたのか…
「あー………くっそ……」
これほど悔しいことがあるなんて
「……悔しい…………」
なんとなく、昼間に見た…あいつの纏う雰囲気が本当の姿だと思った。
その頃ヴェロニカ達は…
「入江、褒美だ」
「え、なにこれ」
「コンビニスイーツ」
「見たら分か……買ってきたの!?」
「ああ」
「自重してよ!」