汚い餓鬼を拾ったので虐待することにした   作:クーネル・アソーブ

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最終話のつもりです。
幼稚かもしれませんが皆さんの妄想力でカバーしていただけるとありがたいです。

私はすでにネタバレをしています。


汚い餓鬼を拾ったので元の所に戻そうとした

まるでアニメみたいだ。

大規模な特異災害にあって、生き残ったらみんなから嫌われ逃げ出して。

逃げ出した先で死にかけたら助けてくれる人がいて、傷つけたくないと思ってまた逃げたら変質者に襲われて。

そして今―

「よお、よくもこいつに傷つけてくれたな。このカリは高くつくぜ?」

また私は助けてもらってる。顔を見なくても声を聴くだけで判るほどお姉さんは怒っている。

何も言わず、何も返せないまま逃げ出した恩知らずな私が傷つけられたことに怒ってくれている。

そのことがとても嬉しい。まだ危機は去っていないけれど強張っていた体がほどけているのがわかる。

(昔迷子になっていた時お母さんたちに見つけてもらったときみたいだ。体がポカポカする)

「いきなり突っ込んできて、いい度胸だなこのアマ!」

男が顔を押さえながらナイフをお姉さんに突きつけて怒鳴る。

バイクで突っ込まれたのにたいした怪我を負っていないようで驚く。

「あんた頑丈なんだな」

お姉さんも予想外だったのか驚いている。

「俺は楽しむために苦労は惜しまない。必要ならオリンピックで優勝してやる」

そういって、男は近くの空き缶を握りつぶしてクシャクシャに丸めてしまう。丸められた空き缶は私の片手に収まりそうなほど小さくなってしまった。

凄いけど、努力の向ける方向が違うと思う…。

「その努力をもっと別のことに向けろよ…」

お姉さんも同意見のようで呆れている。でもついさっきとは違う。お姉さんの声は少し緊張を含んでいる。

もしあんな力で掴まれたら…。

くの字に曲げられる姿が描かれてゾッとする。

「ふん、今更恐れても逃がしはしないぞ!俺の邪魔をしたことを後悔させてやる」

男はお姉さんの緊張している声を聴いて上機嫌でナイフを構えて近づいてくる。

お姉さんを見ると危ないとわかっているはずなのにお姉さんはバイクにまたがったまま近づいてくる男を見ている。

「それにしてもあんたは変な奴だな。そんな餓鬼を庇うなんてよお!」

諦めたのだと思ったのかニヤニヤ笑いながら話してくる

「その餓鬼はよぉ、今世間を賑わせているあの事件の生き残りのガキなんだぜ?殺しても問題ないだろぉが!」

…耳が痛い。確かに私が世間で悪く言われているのは本当のことだ。私が無実をいくら主張しても誰も聞いてくれなかった。生き残ったことが悪いことだと私を責め立てた。以前なら耳を塞いで蹲っていた。

でも、今はその事を言われても以前ほどきつくはない。

だって私は知っていた。私を責めた人にも色んな人がいたことを。大事な人が死んでしまって悲しい人も、無責任は正義感で糾弾してくる人、ただ周囲に合わせる人。

私は怖くてただ逃げ出すことしかしてなかった。

今だからわかる、私も同じだと。責めてくる人全員を同じ扱いをしていた。そうやって最初から目を背けていた。

そんな私にも味方になってくれる人はいた。未来は最後まで私を心配してくれた。お母さんたちも限界を迎える日までは私に心配かけさせないように振舞ってくれた。

そして今、目の前で立つお姉さんのように頼りにしても大丈夫な人がいる。

「いくつかあんたに言いたいことがある」

「あん?何だ命乞いか?いいぜ聞いてやるよ」

男は面白そうに離れたところで嗤いながらナイフを弄んでいる

「一つ。マスコミが言うこと全てが正しいわけじゃない。確かに自分が生き残るために他の人を押しのけたやつはいるだろう。だが、全員がそうじゃない。中には不当な扱いを受けている奴もいる」

此奴みたいにな、と指でこちらを指しながら男に告げると、男は先を促す。

「二つ。死んでいい人間なんて存在しない。特にお前のような自分の欲望のために人を殺すようなことはあってはならない」

「言うねぇ、この状況でよく吠えたものだ」

男は怒気を発して睨みつけてくる。

後ろにいる私でも男の怒気は感じるのにお姉さんは淡々としている。

「最後に」

そう言って手に持つヘルメットを上に放り投げる。男はつられるように上を向くと――

「後方注意だ馬鹿野郎」

 

バチィ!!

 

「グギャッ!!?」

奇声を上げて倒れる。倒れた男は体をピクピク痙攣させている。えぇー…。

「ナイスタイミング」

「何やってるんですか!?」

いきなり現れた声のほうに向くと、ついさっき逃私に声をかけてきた男がバチバチなる警棒を片手に持っていた。

「探している子供について教えたら携帯かけたまま追えっていうし、ようやく見つけて危ない場面だって伝えたら合流せず突っ込むし、もう無茶苦茶じゃないですか!どうするんですかこれ!?」

「がんばれ後輩」

「軽ーーーー!!めっちゃ軽い!この先輩、後輩の扱いが軽い!」

文句を言いながら後輩?の人は取り出した紐で男を拘束している。

「ああ、こいつは私の後輩で何でも屋をしている奴でな。便利なヤツなんだ。」

不思議そうな私に説明しながらお姉さんは切り付けられた足に包帯を巻いてくれる。

「お前を探すのにもこいつに協力してもらってな。許可を貰ってお前の写真を挙げたんだ」

「許可…?誰にですか?」

誰だろう。上げられた画像自体はニュースにも流れたものだから探すことはできるだろうけど、許可ってだれに?

「ああ、それは「響!!」」

「え?」

聞こえるはずがない声だった。だって私達を置いて行った。私のことをあんなに恨めしそうな目で見たんだ。だからいる筈がない。なのに

 

「響、ごめん、ごめんねぇ。あなたが一番辛かったはずなのに、お母さん失格でごめんね!」

「すまない、すまない響!こんな無責任なお父さんで、助けられなくてごめんなぁ…!」

「おかあ…さん?おとうさん?」

 

泣きながら抱き着いてきたのはお父さんとお母さんだった。

もう二度と顔を合わせることができないと思っていたのに、どうして二人がここにいるんだろう。

「お前が何も言わずに出て行った日に後輩が訪ねてきてな。話を聞くとこの人たちが謝りたいとお前を探してたんだ。」

「え?」

それはおかしい。だって悪いのは私なんだよ?私がいたからお母さんもお父さんも酷い目にあったんだよ。

二人は悪くないことを言うと、顔を上げて「違う!」と鳴きながら怒ってくる。

「仕事では失敗した。でもそのことは響には関係ないはずだ。俺が、俺が弱かったから…!俺たちは家族で響の親だったんだ!それなのに、おれはおれは…!」

「私も!あの火事の日、傷ついた顔にしてしまった!本当なら私が慰めなきゃいけなかったのに!」

二人は私に謝りながら泣きついてくる。

信じられなかった。だって私が全部悪いって、私のせいだって本気で思っていたから。だから離れていくんだって思っていたのに。

ヒドイ、ずるいよ。そんな、そんなこと言われたら…!

「わ、私もごめんなさい。迷惑ばかりかけて、何もできなくてごめんなさい~~~!!」

私は泣きながら抱き着いて謝る。そんな私を二人は強く抱きしめて謝る。

顔をぐちゃぐちゃにして私たち抱き合った。

強く強く、痛いぐらいに力を入れる。

その痛さがお互いの存在を確かなものだと教えてくれて、涙の熱が広がって温かく感じた。

 

あの後、捕まえた変質者の人は警察に突き出された。後輩さんは臨時収入だと嬉しそうにしていたのをお姉さんに叩かれていた。

私たちは車を回してもらい、今お父さんたちが住んでいるマンションに向かった。

私に合わせたい人がいるらしい。

「ほら入って入って」

「お邪魔します…」

扉の前で悩んでいるとお母さんに促されて部屋に入る。

一体誰なんだろう、そう思いながらリビングに入ると黒い髪に大きなリボンが特徴のあの子がいた。

「未来…?」

「ひび…き?響ーーーーーー!!」

彼女は、小日向未来は私の名前を言いながら抱き着いてきた。

「響、ひびき、ヒビキ……!」

未来は私の名前を壊れたレコーダーみたいに何度も言いながら強く抱きしめてくる。

「なんで、ここに未来がいるの?」

だって未来は未来のお父さんとお母さんの判断で遠くへ引っ越したのに。

「だって響のお家が火事だって!心配して手紙を送ったら響は行方不明だって聞かされて!心配していたら響きを拾った人がいるって三日前に聞いて!そしたらまたどっかへ行ったって聞いて!心配したんだから~~~!」

一息に言って未来は泣きながら強く抱きしめてくる。

仕方ないと思っていたんだ。未来が私を心配するように未来の両親も未来を心配しているはずだから。だから未来の幸せのために離れるのは仕方ないことだと思っていたんだ。

だから泣かせてしまうつもりはなかったのに。

「未来、泣き止んで。未来が泣いていると私も悲しいよ」

「響ぃ……」

未来を慰めるために頭を撫でると未来は涙で潤んだ目で見上げてきて可愛い。

「響……」

「お祖母ちゃん」

顔を上げるとお祖母ちゃんもいた。

「よかった。響が無事でよかった……」

顔を覆いながら私が無事でいたことを喜んでくれる。

何と言えばいいのかわからなくて私はただお祖母ちゃんを見ているだけしかできない。

「響」

そんな私をお姉さん未来ごと背中を押してお祖母ちゃんに近づかせる。

顔を上げたお祖母ちゃんと目が合って恐る恐る手を出すと、お祖母ちゃんは私の手を取って両手で覆う。

お祖母ちゃんの手は温かくてじんわりと熱が伝わってくる。

お祖母ちゃんはいつも家に帰ると優しく迎えてくれた。当り前だと思っていたことがこんなに愛おしい。

「……ただいま」

「……おかえりなさい」

 

「こんな夜中に何してるんだ」

一人ベランダで月を見ているとお姉さんがカップを手に来る。

渡されたそれを受け取りながら月を見ていたと返す。

「正直、まだ信じられません」

「何が?」

何がって、それはもう全てが。

「たった一日で無くしたものすべてが帰ってきました。もう二度と帰ってこないと思っていたのに」

少なくとも私はそのつもりであの日逃げ出した。全てから逃げ出して諦めた。

そしてお姉さんに拾われた

「ありがとうございます」

「お礼を言われるほどじゃないよ」

「それでも、ありがとうございます」

お礼を言うとお姉さんは顔を赤くして自分のカップで顔を隠す。

「そういえば、これからどうしたいんだ」

これから…

「どうしましょう。正直今十分に満足しているんです」

お母さんたちがいて未来がいて、お姉さんも傍に居る。

正直これ以上望むものはないし、望んだら罰が当たりそう。

「欲がないねー。もっと望んでもいいんだぜ」

「そうでしょうか?」

おおよ、とお姉さんは両手を広げて声を挙げる

「上手いものを食べたいとか、おしゃれしたいとかいい所に住みたいとかでもいい。とにかく今より幸せになりたいとかないのか?」

「幸せにですか…」

とても思いつかない。強いて言うなら

「当り前の生活がしたいです」

家族がいて、学校に行って、友達と遊んだり勉強したりするような、ちょっと前まであった当り前の生活がしたい。

「いいじゃんそういうの。そういうのを求めればいいんだよ」

私の願いを聞いて、嬉しそうに笑う。

「お前が幸せになれば、お前を見て幸せな奴らがこの世界には居るんだ。だからもっと貪欲になれよ」

「いいんでしょうか」

これ以上幸せになってもいいのかな

「いいんだよ。なっても」

ポン、とお姉さんが私の頭に手を置いて笑いながら撫でてくれる。この人は本当に、

「お姉さんって、お姉ちゃんって感じですよね」

「なんじゃそりゃ」

笑い飛ばしているけど本当にそう思う。親友でも両親でもない頼れる人で年齢的には姉妹みたいだから。

「夜も遅い。もう寝ろよ」

私も寝る。そう言って部屋に入ろうとするお姉さんの服を掴んで引き留める。

「明日、一緒に買い物に行ってくれませんか」

キョトンとしてけど、お姉さんはイイよと笑っていってくれた。

お姉さんは私が幸せになれと言ってくれた。

だったら幸せになるために頑張ろう。そのためにもお姉さんの電話番号ぐらい知っておこう。

私の幸せの中にはお姉さんもいるのだから。

 

 

 

 

火をつけた棒を目の前に立てる。大勢で餓鬼を囲んで呪文を唱えさらに攻撃する。

今もなお。餓鬼は私の元に来る まだ私の攻撃は続いている……。

 

最近反撃されることが多い気がする。

 




完結です。いままでお付き合いありがとうございました。
数々の誤字脱字を指摘されながらもなんとか書き上げることができました!
皆様の高評価に頭が上がりません。本当にありがとうございました。

xdで「翳り裂く閃光」がリリースされて以来、以前よりくすぶっていた響熱が爆発して書き上げた今作ですが、最初のプロットを途中で変えながら書くというグダグダしながらも、こう評価を頂けたのはやはり元スレと響のすばらしさのおかげでしょう。

響ーーー!幸せになれーーー!

勿論、響以外の子たちの幸せも願っております。
これからも彼女たちの活躍と幸運を祈っております。

いままでありがとうございました!

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