あいあむあいあんまん ~ISにIMをぶつけてみたら?~ 作:あるすとろめりあ改
「駄目か…………」
携帯の表示は相変わらず圏外のまま。
閉じ込められた15人の電話を持ち寄ってみたが、日本における主要3社の電話事業者、総ての機種が不通だった。
厚い岩盤は電波どころか声をも遮断し、外との連絡手段は皆無だ。
幸いな事に停電は回復し、ライトアップはされたが…………気休めにしかならないだろう。
「うぁぁぁ……お母さーんっ!!」
女子の一人が、泣き出してしまう。
母親を呼ぶというベタな叫び声だったが、それだけ追い込まれていると言う事だろうか。
既に閉じ込められてから3時間が経過しており、生徒達の疲労も困憊している。
更に、この洞窟探検が終了した後に昼食の予定だった為、皆が空腹と喉の渇きに苦しんでいた。
「…………」
「うん、君が何時も通りなのは、正直安心したよ」
相も変わらず、彼女は不機嫌そうに腕を組んで岩盤を睨み付けていた。
ヴィジョンじゃあるまいし、睨みつけてもレーザー光線が出ることは無いだろうが。
「さて、このまま待つか、それとも脱出を試みるか…………」
ハッキリ言って、最適解は紛れもなく前者だろう。
脱出を試みて外とのすれ違いで事故になったり、失敗して更なる落盤によって生き埋めになる可能性だってあるのだ。
だったら、じっとしていれば…………
「…………少し、息苦しい?」
小さな異変。
だが、それは大きな危機の前触れだった。
「はぁ……はぁ…………」
「…………ふぅ」
「うぁぁあああ……ひゅーっ、ひゅーっ……」
周りを見渡してみると、何人かが運動した後みたいに息切れしている様子が見て取れた。
特に、泣き叫んだり助けを呼ぼうと大声を出した者達は顕著だ。
「酸素濃度計なんて無いが……ヤバいな、空気穴さえ無いか?」
この洞窟に空気を供給するシステムを設けられているのかは不明だが、少なくとも僕達の周囲の空気は徐々に薄くなっているようだ。
「15人もいて…………無理だろ」
この洞窟に残された空気がどれだけあって、あとどれくらいの間まで保つのかなんて分かりはしない。
しかし、人間は呼吸出来なくなれば早くて2,3分、遅くとも15分で窒息死してしまうのは知っている。
それに、この限定された空間には子供とは言え15人もいるのだから、空気が消費されてしまうのも早いだろう。
「何か、無いか…………!」
慌ててリュックサックの中身を漁る。
もどかしくなり、逆さまにして一気に地面に落として広げた。
中から飛び出したのは、麦茶から水に入れ替えた水筒と
「あー、そう言えば持ってきてたな……」
完成して、そのまま剥き出しのまま机の上に置いていくのも名残惜しかったので思わずリュックサックの奥に押し込んでいたのを思い出す。
だが、今のこの状況で発電機があったところで掘削する為のドリルも何も無いので無用の長物でしか無い。
(ああ、こんな時にアイアンマンのスーツが完成していれば…………特にMk.5とかさ)
アイアンマンがあったなら、その強化された腕力で岩如き容易く破る事が出来ただろう。
僕が実装するかは解らないが、他にもミサイルやリパルサー・レイと言った武装も豊富で、様々な手段が選び放題だが、無い物ねだりでしか無い。
ああ、そうそう……リパルサー・レイと混同されがちだが、胸のアークリアクターから放出されるユニビームはまた別種の武装で…………
「…………ユニビーム?」
ユニビームとは、手の平から発射されるリパルサー・レイの様に出力を調整した光線では無く、アークリアクターの生み出す莫大なエネルギーをそのまま放出する、超強力な一撃…………と、僕は解釈している。
と言うのも、明確にリパルサー・レイとユニビームの相違について語られた訳でも無いし、何かそう言う設定について読んだ覚えも聞き及んだ記憶も無いからだ。
ただ、まあ……態々別の名称を与えられているのだから、全く同じ物では無いと思われる…………
って、いかんいかん。
今はそんな妄想に耽っている場合では無いのだ。
「熱可塑性レンズは…………そうだ、そのままにしてある筈だ」
このアークリアクター、記憶にある最後の最期に作ったものとほぼ同じ設計で作られている。
材質や機材依存の加工技術の相違から些かエネルギー変換効率は落ちているが、それ以外は全く同じ物。
そして、その設計は映画で見たアークリアクターの描写を再現出来るようなギミックを色々と盛り込んでいて…………
つまり、ユニビームも勿論再現できる様にしてある。
「いや、でも単体じゃ1ワットも産み出せないただの鉄の塊…………あっ」
絶望しかけた、当にその刻。
僕の頭には、マイティ・ソーの電撃が落とされた様に閃きが突如として湧き上がった。
「こんなにバッテリーがあるじゃないか……それに、制御するシステムだってUMPCがあるんだから…………!」
配線用のコードは、アークリアクターを詰め込む時に面倒くさくて接続されたまま道連れにされている。
今回は、それが功を奏した。
「返して貰うよ!」
「あ、ちょっと……!」
こんな状況にあっても未だに僕のUMPCを弄っていた彼女、所有者は僕なのだから当然返してもらう。
引ったくる様に取り返したUMPCを直ぐ様に再起動、立ち上がった瞬間にエディタを起動する。
プログラムするのは、今用意出来るだけの電力を総て取り込み、レーザーへと変換して撃ち出すシステム。
その骨子は、閃いた時点で頭の中で組み上がっていたので後は殆どデバッグだけである。
殆ど時間を懸けずに、単純だが、だからこそ信頼性のあるコードが紡がれていた。
「いきなり何────ははぁ」
苛立ちを隠そうともせず、僕の組み上げたコードを覗き見た彼女はどうやら一瞬で内容を把握してしまったらしい。
…………僕みたいにズルしてない筈なのに、この子の頭の中はどうなっているんだろうか?
「手伝うよ。直列で良いの?」
「いや、並列で頼む」
直列と並列の違いは小学生で習うが、文系タイプだとコロっと忘れてしまっている人もいる。
端折ってとても簡単に言ってしまえば、直列は出力アップ、並列は容量アップだ。
今回は、アークリアクターの200万パーセントという馬鹿みたいな変換効率を利用するのでバッテリーの出力はいらない。
さて、では頭を空っぽにして単純計算してみよう。
僕の持ってきた18650型バッテリーは3.7V×3000mAh=11.1Whの容量がある。
そして出力は5V×2Aだから10W。
減衰を一切合切考えなければ大凡一時間と6分6秒間は10Wで出力できる計算だ。
さて、10Wを200万パーセント……2万倍すれば、単純に20万Wの出力になる。
金属を切断する工業レーザーの出力が1000Wで充分な事を考えれば、岩盤を溶かすなんて容易だと直感で解る筈だ。
更に並列で接続することで持続時間は向上する……!
勿論、様々な物理現象の影響があるので、本当にそのまま発射出来る訳では無いが、カタログスペック的な計算でもかなり過剰なので十分以上の勝算がある。
「よし、出来た!」
「ん、こっちも配線出来たよ」
道具も無いのに雑誌の附録みたいに綺麗に配線されたバッテリーを見て内心で驚愕しながら、アークリアクターとバッテリー、そしてUMPCを接続する。
即興で組み上げたプログラムだったが、簡易にチェックする限りでは問題なさそうだ。
「みんな、下がっ…………て?」
生徒達に注意を呼び掛けようとしたが、どういう訳か周囲に誰もいなかった。
どうしてだろうと、彼女の顔を見つめると
「ああ、さっき誰だかが奥の方が空気があるとか言って連れてってたよ」
僕たちにも声を掛けたそうだが、集中していて聞く耳を持たなかったので放置されたと言う。
「ま、まあ好都合か……」
置いてけぼりを喰らった事に軽くショックを受けながら、アークリアクターの設置を完了させる。
カメラのセルフタイマーの如く、発射時間を30秒後にセットして僕達も出来るだけの洞窟の奥に走り出す。
「5,4,3……発射、今!」
ピッタリと設置から30秒後、背後から眩い閃光と唸るような轟音が響き渡った。
その衝撃で転倒してしまいそうになりながらも、何とか踏みとどまって振り返る事に成功する。
「どう…………だ?」
ゆっくりと、発射地点まで戻る為に歩き出す。
ゴムが焼けた様な、噎せる刺激臭に鼻を摘まみながらも更に進めば、モクモクと上がる煙の向こうに人工的な光が見えた。
洞窟の天井で灯るLED電球ではない。
もっと光量のある、爛々として輝く大きな白熱電球の光だ。
その光が、指向性を持って洞窟の中を照らす様に設置されている。
漸く煙が晴れてきて、目を凝らしてもっと良く見てみればパトカーと救急車、消防車の赤色灯も宵闇を彩るように瞬く。
そこに、コントラストみたいに茶々を入れるカメラのフラッシュ…………
外の世界が、そこには広がっていた。
「は、はは……やった!」
アークリアクターとUMPCが配置してあった場所を見たが、そこには熱々と赤銅色に溶け出した鉄くずと、砕けた金属片が散らばっているだけだった。
どうやら、ユニビームによって生み出された高熱と余波による衝撃波、それに岩盤の破片で散々に破壊され尽くしてしまったらしい。
チタニウム等の合金で構成されたアイアンマンの装甲があれば、例えユニビームを発射したとしても熱も衝撃も逸らしてくれただろう。
だが、野晒しな上に無茶苦茶で杜撰な設定によって発射されたユニビームを防ぐ手段など、どこにも無かったのだ。
「いや、まあ……証拠隠滅の手間が省けたから結果オーライ、かな」
このあと、警察による現場検証が必ず行われるだろう。
そこで半永久機関なんて見つかってしまえば、どうなることやら…………想像もつかない。
あの状態のアークリアクターを拾っても、只の金属のジャンクにしか見えない筈だ。
もしかしたら、子供の持っていた携帯ゲーム機とバッテリーが火山性ガスに引火して爆発…………その為に岩盤に穴が空いた、なんて都合の良い解釈をしてくれるかもしれない。
「はぁ……ドッと疲れたよ…………」
成功したことで張り詰めていた緊張の糸が解け、腰が抜けてしまい踏ん張ることも出来ずにその場で尻餅を搗いてしまう。
それを見つけた白衣の男…………救急救命士が駆け寄ってくるのが見えたところで、僕は意識を手放した。
○
「…………知らない天井だ」
お約束である。
「点滴に、安っぽいシーツ…………ああ、病院か」
ボーっとして曖昧だった意識も徐々に覚醒し、現在の状況についても段々と察しがついていった。
恐らく気絶してから、救急車で搬送されて最寄りの病院にて治療されただろう。
「あぁ、よく寝た…………ん?」
お腹の辺りに妙な生暖かさと、重みを感じた。
ベッド柵に掛けられていたリモコンを取って、頭の方を電動で持ち上げてみると、僕のお腹には腕と頭が乗っかっている。
つまり、こう……机に突っ伏すみたいに寝ている人がいたんだ。
「……………何でそこで寝てるのかなぁ?」
思わず総ての責任をたっくん
その人影の正体は、いつも僕の隣の席に座ってる人…………篠ノ之束に他なら無かった。
辺りを見渡してみれば、広い6人部屋の他のベッドにもクラスメイト達がグウスカと寝ていた。
隣のベッドも空いているので……恐らく、本来はそこが彼女の居場所なのだろう。
「………………いいや、面倒くさい」
起こして文句の一つでも言ってやろうかと考えないでも無かったが、時計を見れば6時を過ぎたばかりの早朝だった事もあって流石に憚られた。
ならば、だらしのない寝顔でも写真に納めてやろうかとして、今度は携帯が手元に無いことに気が付く。
「はぁ…………寝直すか」
僕は色々と諦めた。
○
その後、皆の帰宅に遅れること18時間余り、来たときとは別のバスがチャーターされ、漸く僕達は帰路に就くことが出来た。
これでホッと一息…………なのだが。
「ねえ、君は配線を手伝ってくれただけで他には何もしてないよね?」
「くー…………」
僕の肩に、嫌みったらしく軽い体重が乗っかる。
篠ノ之束の頭だ。
僕のお腹を枕にして寝たのに飽きたらず、バスが発車するやいなや今度は僕の肩を枕にして眠り始めたのだ。
しかも、何の言葉も無く突然に、止める間も無く。
「まったく…………」
バスに乗る前に配られたペットボトルのお茶を一気飲みするみたいに煽って、この林間学校で何度目になるとも解らぬため息で誤魔化した。
何事も諦めが肝要だと、僕はこの歳にして悟ってしまったのだ。
「…………いいや、僕も寝る!」
もう充分過ぎる程に病院のベッドで寝たのだが、このまま起きててもストレスが溜まるだけの様な気がして、だから無理してでも寝てしまう事にした。
意趣返しに、篠ノ之束の頭を枕に仕返して、頭を乗っけてみる。
予想以上に寝にくい…………が、我慢してこのまま寝てしまう事にした。
ところで、学校に着く頃に起こされて、僕は錆び付いた金属接合部みたいにギシギシと軋んで痛む首と肩を右手で庇うように押さえながら、自分の選択に今更になって後悔する事になるのだが…………それは余談だ。
マーク1を造って脱出すると思った?まだだよ!
アイアンマンって、問題を解決する度にスーツがボロボロになって新調してる気がするんですよね。
ホームカミングに出てきたスーツもコッソリと新調……腰から下の塗装してないのはそのままMark.46の配色のままだとシビルウォーでキャプテンとの喧嘩別れを思い出すからかな?
キャプテンの新しい盾ってブラックパンサーで見られるかな?それともインフィニティ・ウォーまでお預け?
そんな想いの人は、たくさんいると思うの。